向き不向きって何? やってみなけりゃ分からない – OfferBox(オファーボックス) | オファーが届く逆求人型就活サイト

4月に入って、就活も本格的になりました。内々定をもらって胸をなでおろしている人もいれば、まさにこれからピークにさしかかるという人も多いでしょう。私の娘も、4月になった当初は、毎日数社の面接を受けるために駆けずり回っていました。

今回は、会社に入社した後のことを考慮に入れて就活の位置づけを考えてみます。

娘が、まだ大学2年生の頃、「就職したい業界はあるのか?」と私が聞くと、「エンタメ系かな」とぽろっと漏らしました。初めは言葉の意味がよく分からなかったのですが、どうやら映画や演劇などに携わる仕事を頭に描いていたようです。娘は高校、大学を通じて演劇をやっていたので、「好きなことを仕事にしたい」と思っていたのです。

この「好きなことを仕事にしたい」は、村上龍氏の「13歳のハローワーク」で評判になったキーワードです。たしかに子供に、仕事は辛いものだとか、我慢が必要だと教えるよりも、楽しい仕事に出会えることを強調するのは良いと思います。しかし大学生が、「好きな仕事」を求めることで、就活に取り組めるのでしょうか。

 

 

数年前、労働経済を専攻するK大学の教授と話していて、彼が「今の大学生は、自分を確立できている訳ではない。何もわからずに入社して、自分の役割を自覚し、誰かのために働いていると実感する。これが、会社に定着する最も健全な姿だ」と私に語ってくれました。会社に勤める私の立場からも全く同感でした。

私自身を振り返っても、入社して10年を経て、3つの職場を経験した時に、自分が組織に貢献できる方向性を初めて実感できました。「好きな仕事」ではなく、「仕事の向き不向き」を把握したのがなんと10年目だったのです。

人によっても異なるでしょうが、私の周りを見ていると学生から社会人の生活に切り換えるのに3年、そこから自分の役割を自覚して、会社や顧客、一緒に働く仲間に貢献できるようになるまでに10年かかると勝手に思っています。

先日テレビで、職人になるために修行している数人の若者の姿をルポしていました。大工の棟梁や寿司屋の板長がともに、「ある程度一人前になるには10年」と発言したのを聞いて共通しているかもしれないと感じました。

そう考えてくると、就活はあくまでも通過点で、そこがゴールではなさそうです。私の娘も、大学3年生の春頃は、就職先を決めるためには、「10年後、20年後にそこで自分が何をしているか、はっきりとしたビジョンを描くことが必要だ」と思っていたと言います。しかし、実際に就活が始まると、とても無理だと思い直し、「会社は、入ってみなけりゃ分からない」と言っていました。

そういう意味では、第一志望の会社から内々定をもらおうが、あまり気の進まない会社に決まろうが、ほとんど差はなくて社会人としてのスタートはまた横一線からになります。

しかしだからと言って、就活はそれほど重みがないのだと思ってはいけません。それどころか、長い仕事人生を決めるための大切な通過点なのです。どういう就活をしたかがポイントなのです。

目の前にいる社会人の考え方や価値観に触れながら、「自分は社会の中でどんな存在なのか」、「自分にとって会社で働くということはどういうことなのか」、「これからどのような姿勢で仕事に取り組めばいいのか」といった問いと正面から対峙してほしいのです。

現在就活中の人にとっては、目先のことだけで精一杯で、とてもそんなことを考えている余裕はないと思われるかもしれません。

郵便局の現場で働いた後に大学で教鞭をとられている中沢孝夫氏は、「就活のまえに」(ちくまプリマー新書)のなかで「面接で留意されるのは、いうまでもなく『この人物と一緒に働いてみたい』『こいつと一緒だったら楽しいだろうな』『こいつを育ててみたい』と思わせる人間です」と表現されています。やはり「採用は、一緒に働く仲間を探す行為」なのです。

内々定が決まらず不安な気持ちを抱えながらも、自分の生き方を真剣に考えている人と一緒に働きたいという採用担当者は多いと思います。極端にいえば、そういう人を求めていない会社は、たとえ給料が良くてもこちらから願い下げにすればいいとさえ私は思います。

正門から堂々と入って、その会社の社員に話を聞くことができる機会は、社会人になってもそうそうありません。このチャンスを是非とも有効に使ってほしいのです。

就活を通して、飛躍的に成長する学生は少なくありません。その成長は、普段付き合っている範囲外の異質の人と出会う中で、自分の存在を自ら問う姿勢によって生まれるものだと思います。「いい会社」かどうかも、それを問う本人の課題なのです。

現代の日本では、七五三や還暦祝いなどの通過儀礼はまだ残っていますが、「子供から大人への通過儀礼」は過去ほど明確には意識されていないと思います。

私は、就活は子供から大人への通過儀礼(イニシェーション)の1つだとみてもいいのではないかと思っています。

「asahi.com(朝日新聞社)の就活朝日2011」での連載を一部加筆

筆者プロフィール

楠木新(くすのき・あらた)

1954年(昭和29年)、神戸市生まれ。京都大学法学部卒業後、大手企業に勤務し、人事・労務関係を中心に、企画、営業、支社長等を歴任。勤務の傍ら、大学で非常勤講師をつとめている。
朝日新聞be(土曜版)にコラム「こころの定年」を1年あまり連載。07年10月から08年5月までダイヤモンド社のウェブサイトで娘の就職活動をリアルタイムに追ったドキュメント「父と娘の就職日誌」を掲載。
著書に「就職に勝つ! わが子を失敗させない『会社選び』」「就活の勘違い」など。

楠木新さんの主な著書

内定「とれる人」「とれない人」
楠木 新
三笠書房
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就職に勝つ! わが子を失敗させない「会社選び」
楠木 新
ダイヤモンド社
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就活の勘違い 採用責任者の本音を明かす (朝日新書)
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朝日新聞出版
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