【セミナーレポート】2018年卒のファクトから考えるこれからの新卒採用(後編)

企業 ✕ 大学 ✕ メディア。三者で考える、これからの就活

第一部は採用アナリスト・コンサルタントの谷出 正直氏に、18卒採用をここまで事実ベースで振り返り解説していただきました。第二部は谷出氏に加え、立教大学キャリアセンターの林 良知氏にご参加いただき、株式会社i-plug取締役 田中 伸明(たなか のぶあき)をモデレーターにトークセッションを実施。第三部では交流会を催し、活発に意見交換がなされました。

 


第二部 これからの就職活動・採用活動を考えるトークセッション

 

ゲストスピーカー 谷出 正直氏、林 良知氏
モデレーター   田中 伸明

採用アナリスト・コンサルタント 谷出正直

採用アナリスト・コンサルタント
谷出 正直(たにで まさなお)

奈良県出身。筑波大学大学院体育研究科を修了。中学校から大学院まで陸上競技部(短距離)に没頭する。新卒でエン・ジャパンに入社。子会社へ出向を含め、新卒採用支援事業に約11年間携わる。2015年末退職。独立後は、企業への採用コンサルティングや採用アナリストとして活動する。人事・経営者向けの講演、学生向けのキャリア支援、大学関係者との取り組み、メディアへの情報発信などを行う。新卒採用に関する情報、ノウハウの収集や発信、人のつながり作りに強みを持つ。働く目的は「イキイキと働く人が増える社会」を作ること。日々、採用、働き方、生き方、キャリアについて考える。

立教大学 キャリアセンター 林良知

立教大学 キャリアセンター
林 良知(はやし よしとも)

1978年生まれ、兵庫県出身。2001年3月、関西学院大学経済学部卒業。同年4月、日本生命保険相互会社に入社。支社経営計画立案、年金関連新業務の構築と運用、事務職員20名のマネジメントを担当。2008年4月学校法人立教学院立教大学に入職、研究支援部署で外部資金申請、企業・行政等との連携業務の担当を経て、2016年5月、キャリアセンターへ異動。学生とのキャリア面談、就職・キャリアプログラムの企画・立案・実施を行っている。働く目的は「自分の頭で考え、自分で決める」ことができる人材を世の中に輩出すること。

株式会社i-plug 取締役兼CMO 田中伸明

株式会社i-plug 取締役兼CMO
田中 伸明(たなか のぶあき)

関西学院大学卒、グロービス経営大学院大学卒。新卒で外資金融機関に入社後、株式会社グロービスに転職し法人営業に従事。ユニットリーダー、マーケティング業務を経験。グロービス経営大学院の同期とともに2012年に株式会社i-plugを創業し、初期は法人営業の責任者を務めた。三期目より、学生や法人のユーザー拡大を目指しマーケティング部門の立ち上げに着手。その後、広報チームや大学営業チーム、新規事業の立ち上げも担当。年間50回程度の学内講座での講師も務めている。最近第二子が誕生。特技は弁当作り。

 

オワハラをせずに、内定承諾率を上げるには?

>田中

第一部の自己防衛のお話、大変印象に残りましたね。2〜3社内定を手元においてぎりぎりまで引っ張るというのは、学生さんの気持ちもわからなくはないのですが、企業としてはたまったものではないですよね。大学側から見てどう思われますか?

 

>林氏

昨年は、内定式を終えた後もまだ迷っている、という学生が多かったです。迷ったあげく、最後親御さんが出てこられてどうしようか、という相談もありました。今年もこの2週間で20名ほど相談を受けていますが、だいたい半数くらいが内定を持っている学生で(2017年5月下旬時点)、10人中10人が内定をもらったけれど就活を続けると言っています。今の段階で内定をもらっている学生は6月から大手の選考が始まるのでそれまでは決めないだろうと思います。

 

内定承諾書のお話がありましたが、キャリアセンターとしていいか悪いかは別として「法的拘束力はないのだからとりあえず出しておけば」というアドバイスをする場合もあります。この段階で、内定を確実に承諾させるというのは難しいのではないだろうかと感じますね。

 

>谷出氏

学生の心境として、大手を受けたいという気持ちがあると思うので、それを尊重しないと「オワハラ」と言われてしまいます。それは企業としては避けないといけないところです。

 

>田中

オワハラをせずに、内定承諾率を上げたり内定辞退率を下げるために、今からできることはどんなことでしょうか?

 

>谷出氏

大学生の間にしておきたいことの話をするのは良いですね。就活だけではなく海外旅行や、やりたかった研究、あとは茶髪にするとか(笑)学生と本音ベースで話を聞きながら「何をすれば大学生活やりきったと感じられるのか」という話題に持っていくのが良いのではと思います。

就活は、よく結婚に例えられますよね。内定承諾書は、婚姻届を出した状態です。なのに「離婚されるかもしれない、ソワソワ」というような状態でご機嫌伺いをしている状態というのは、変だと思います。結婚したなら「二人で幸せになれるようにどうやってともに時間を過ごしていくのか」を一緒にイメージしながら関わっていくことが重要だと思います。ひとつは学生生活の終了に向けての時間をどう使うかもそうですし、これから40年働いていくとして最初の3年間をどのようなキャリアを創っていけば、学生から社会人へうまくシフトできるのか、というようなことを社会人の目線で話すというのも良いですね。

 

>田中

アクティブトランジションという言葉を聞いた方もいらっしゃると思いますが、立教大学の舘野先生や東京大学の中原先生が必要だと仰っている、能動的に社会人への移行を促すためのサポートをしてあげることによって、就活モードから社会人モードに切り替えて行くというのが良いかもしれないですね。

 

>谷出氏

「他社を受けるな」というようなネガティブアプローチは、個人を信用してもらえていないという不信感に繋がりますし、人と人の関係で考えるとやはり変ですよね。

 

>林氏

横浜国立大学の採用学で有名な服部先生が、昨年の採用を見ていて「納得感の危機」という表現をされていたのですが、企業が学生としっかり接触を持たずに内定を出したために、学生が「自分で本当にいいのか」と不安を抱え込んで迷ってしまう、ということがあったそうです。大企業を志望している学生に対し、選考をまだ残している状態で「うちに来い」というのは逆効果です。ドンと構えていただいて、もう少し落ち着いてからじっくりコミュニケーションをとり、人事だけではなく他の社員に会わせてみるというのはどうでしょうか。学生はそういった機会を喜びますし、お互いをもっと理解することに繋がると思います。そうすれば学生も納得して決めることができるのではないかと、学生と接していて感じます。

 

>田中

昨年、面接実質1回で内定を出した大手企業があったのですが、学生は「本当に大丈夫なのだろうか」と言っていましたね。ちゃんと相互理解の機会を設け、双方納得の上で選考を進めて行くプロセスをしっかり踏んでいるところが内定承諾率も高いですし、辞退もあまりないように感じます。

 

>谷出さん

企業側は面接で学生に対していろいろ質問するのに、企業側が本音で話していないというのはよくあります。自社の強みや特徴を本音ベースで伝えていなければ、学生からすると選べない。売り手市場で学生側が選ぶ側になっているのに、企業側が学生の決断を待っていて「さあ選びなさいよ」と言っても、上手く行かなくなってきています。

 

>田中

学生側の準備も遅れているし、判断軸も明確になっていないまま選考に進んでいるから尚更ですね。

 

2018年卒のファクトから考えるこれからの新卒採用-写真(1)

 

そこまでやる…人気企業の本気採用

>林氏

グローバル企業勉強会というのを立教大学の中でやっているのですが、その中に大手総合商社を目指す学生がいて、総合商社のOBOGからのアプローチがすごいと聞きます。既に10人以上会っている人もいます。学生から絶大な人気を誇る大手総合商社が、ここまでやるのかというくらいアプローチしています。しかも、しっかり学生の話を聞いておられますし、ざっくばらんに「泥臭い仕事だよ」という話もしているようですね。

 

>谷出氏

商社は「商社志望の学生じゃないと定着して活躍してくれない」という前提があるようです。「明日から海外にいけるか」と言われて「はい、行ってきます!」と言えるマインドでないと途中で離脱してしまう。なので、商社は商社同士で採りあいをしているわけです。でも商社志望の学生を採用したい他業界の会社もありますし、トップ企業だけを横並びで受ける学生もいます。17年卒の採用では、そういう学生を軒並み商社に採られてしまったんですね。商社は多くの社員に会わせてくれた、具体的な仕事のイメージができた、社風が理解できたと。そうして、他業界の大手企業が、17卒採用でことごとく辞退されたという痛い経験をしたため、18卒のリクルーター拡大、OB訪問の積極的な実施に繋がっています。

 

しかし今年さらに、三井物産が合宿型の選考をする、三菱商事が交流会をするなど、業界のトップがそこまでするので、中堅以下の企業はバッティングしたときに学生に理解されるような取り組みをしておかないと負けてしまいます。

 

>田中

トップ企業はトップ企業で、熾烈な戦いになっているのですね。ところで、19卒のインターンシップの話がありましたが、立教大学様ではどう受け止めていらっしゃいますか?

 

>林氏

学生が社会に目を向ける有効な方法の1つだと考えていますし、社会のこの流れは止められないだろうと。 ちなみに、インターンシップのガイダンスもやったのですが、昨年比3割増でした。通常のキャリア就職ガイダンスは人数が減ったのですが、インターンシップが増えましたね。先輩から「とりあえずインターンに行っておけば大丈夫」と言われているようで、それで多くなったのではないかと思います。ただ、大学としては目的をしっかり持って行きなさいという話はしています。

 

社会人は、学生の「キャリア選択」の道標に

>田中

インターンシップに行って、就活準備をやった気になり、本選考までそれ以外の準備をしない状態になったら、企業としてはどう対応すべきでしょうか?

 

>谷出氏

これまでの採用は「◯人の学生に会ったら△人採用できる」という確率論的な設計になっていました。それは求人広告がプロモーションの中心になっていたからです。しかしこれから必要なのは、目の前にいる学生がどのようなキャリアを歩んでいくのが幸せか、というような目の前の人を大切にするような接し方だと思います。

 

学生のキャリア選択で「安定して働く」を選ぶ人が増えている話ですが、安定して働くとはどんなことを指しているのか学生に聞くと「9時—5時で働きたい」と言うのですよね。残業はしたくないし、夜の時間は自分の時間にしたいんですと。その結果40歳になったときに、どんな社会人になっているか。人よりも価値を提供できる人になっているのか。できることの中でやり続けても成長はしません。困難な壁を乗り越えたり、できなかったことができるようになった経験が成長ですし、自信に繋がります。そういう経験を自分からしに行けば行くほど自分を成長させてくれるんだったらそういう働き方もありではないか、という話をします。企業に自分の人生を委ねるのではなくて、自分で選択して進んで行けるようになっていれば、そちらの方が安定と言えるかもしれない。ではどのような働き方が良いのか一緒に考えて、社会人としての考え方を学生に伝え、それが実現できる風土がある会社だということが伝われば、もっといいコミュニケーションになると思います。

 

>田中

学生に働き方に関する意識調査をしたところ、6割以上の学生が興味があることがわかりました。会社としての安定なのか、個人として安定できる力を持てるようになるのか、そこをちゃんと学生も考えないといけませんね。

 

>谷出氏

自分の人生を会社に委ねても、倒産することだってあります。そうなったときに自分で立てる力がなくてどうしよう、というのはちょっと寂しい。自分自身のキャラクターとしてどうキャリアを創っていくべきか、その考え方を社会人としてアドバイスしてあげるようなコミュニケーションが、選考の中でも必要かなと思います。

 

>林氏

電通の若者研究所というところが、今は「We」の時代だと、若者は集団を好むと言っているんですが、本当は「I」なんだと思います。自分を見て欲しいという欲求が下に隠れていて、そこをいかに引き出すかが若者とコミュニケーションをとる上で重要だと思います。例えば学生にメールを送るときに「こんな就職プログラムがありますよ」と案内してもほとんど反応がない。個別に「◯◯さん」と送ると、驚くほど反応があります。やはり自分を見て欲しいという気持ちがあるんだろうなと思いますね。

 

>田中

OfferBoxで企業が学生にオファーするときのオファーメールも「◯◯さん」に向けてのコメントがあるかないかでオファー承諾率が全然違います。ひとりひとりの学生とちゃんと向き合うコミュニケーションが採用の本質だと改めて思います。

 

2018年卒のファクトから考えるこれからの新卒採用-写真(2)

 

質疑応答抜粋

Q.内定辞退が増えているので、辞退することを想定して多めにとっているという企業が増えていると思います。もし辞退しなかったら、厳しい内定者研修プログラムを行って自ら辞退させるという話を聞いたことがあるのですが、本当でしょうか?

 

>林氏

そういった経験をした学生がいれば相談に来ると思うのですが、聞いたことないですね。

 

>谷出氏

内定者にどう接するかというのは重要で、雑用的なことをやらせると「なんでこんなことをやらせるんだ」と不満が出ますし、その不満は同期にも後輩の年代にも広がってしまう。それを考えるとリスクが高いですよね。その企業は、相当内定承諾率が低いのかもしれません。内定承諾率、辞退率も、高い会社はより高く、低い会社はより低くなります。ここにも二極化が起こっています。

 

Q.大学側からすると、教養や専門知識を学生にちゃんと身につけてもらってから、自信を持ってすすめられる状態で企業の方には選考で見てもらいたいのですが、採用活動はどんどん早まっています。3年間しっかり勉強に励んで、4年になってから短期間で採用・就職活動をするほうがお互い良いと思うのですが、いかがですか?

 

>林氏

私は1年生から内定を得る子がいてもいいと思います。一口に学生と言っても、人によってかなり発達の度合いが違います。発達の早い学生は、早い段階から働いてもいいと思います。しかし大半の学生がそうではないと思うので、しっかり大学で学びを深めてから3・4年から始めればいい。個人個人の差があると思いますし、採用手法もこれから多様化してくると思うので、そこは柔軟に考えてもよいのではないでしょうか。

 

>谷出氏

参加企業の方、いかがですか?

 

>参加企業

当社は6月からインターンシップを実施していて、1Dayのインターンを何種類か行っています。Aの回に参加して、興味を持ったら次はBに進むというプランです。確かに6月時点ではまだ職業観もないですし、いろんな意味でまだ弱いと思う学生が多いですが、何度か会ううちに成長していく姿が見れるんですよね。「前回会ったときはこの部分が弱かったけれど、よくなったね」という話をすると、学生もやる気が出てきます。いろんな相談を受けたりするようにもなって、先日はバイトの面接になかなか受からないと言っていた学生から、受かったという報告をもらって嬉しかったですね。そういう学生は私達も愛着がわくので、採用したいなという気持ちにどうしてもなりますね。

 

>田中

ちょうど今日、毎日新聞のコラムで、経営共創基盤の冨山さんがコメントされていましたが、いまどきの大学生の多くは、インターンシップがなかった私達の世代よりもよく勉強している。インターンが明確に採用と直結しているアメリカの大学生がよく勉強していることも周知の事実である。もし学業や学位が学生自身の将来によって価値があると実感させることができれば、インターンシップに関係なく、日本の学生もアメリカのように必死に勉強する。今回の結論は、問題のすり替えではないかと。

 

私はアカデミックの学びはとても重要だと思っていますが、学生がその価値に気づけていないところがあると思います。一方で、インターン等を通じて社会人と接することで自分の足りない部分が見えるような経験をするので、もっと学ぼうという意欲が高まるのではないかと思います。両方の学びがあって、促進されていくのではないかと思いますね。

 

おわりに

>林氏

これは企業の方へのお願いなのですが、学生一人一人をじっくりと見ていただきたいなと思います。いまの学生は、承認欲求がとても高まっています。労力をかけるのがなかなか難しいという背景はあると思いますが、内定を得るまでよりも、入社後に定着して活躍するところまでが大事だと思います。そのために学生一人一人と向きあうのは、企業にとってもメリットがあると思います。企業と学生双方が幸せになるような就職の形をこれからも創っていきたいと思いますので、ぜひ企業の方と一緒になって取り組んでいければと思います。

 

>谷出氏

採用を確率論でやっていたときから変化が起こっています。本質的にこの人と働きたい、あなただから一緒に働きたいという、人と人との関係性の中で出来上がるようになってきているなと思います。その積み重ねが、学生が入社を決める理由になり、入社を決めなくても◯◯さんと出会ってよかったと感じたら、後輩にも伝わり、口コミになっていきます。採用に携わる部門は、自分のキャリアを考え、人生を考え、それを伝えていかなければいけないポジションです。だからこそ、真剣に考えて発信をし、一人でも多くの人がキャリアや人生を考える世の中になればと思います。

 

>田中

またこういった、違う立場の方々が集まる場を創っていきたいと思っています。一緒に取り組まないと、今の状況はよくなっていきません。ぜひまたご参加ください。

 

「2018年卒のファクトから考えるこれからの新卒採用」
2017年5月16日・27日 @ポート株式会社

ご参加いただきました皆様、誠にありがとうございました。

2017年7月6日公開