【セミナーレポート】CARES-Osaka主催「外国人留学生採用促進セミナー」

「外国人留学生採用を始めたい」という企業の声が上がってきていますが、そこにはどんな壁があるのでしょうか。留学生との交流や、吉野家ホールディングスの留学生採用事例を通じて、解決策のヒントを探るプログラムを実施しました。

第三部「吉野家、はなまるが実践する戦略的留学生採用とは?」

株式会社吉野家ホールディングスは、昨年2015年から外国人留学生採用をスタート。2016年の新卒入社者は100名で、そのうち16名が外国人留学生という初年度から非常に高い成果を残すに至りました。その経緯、そして秘訣を、株式会社吉野家SSC本部 関 直道さん、株式会社はなまる管理本部研修人事部 採用担当 永井 美也子さん、吉野家ホールディングス 仁木良一さんにお話しいただきました。

 

吉野家グループのご紹介

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吉野家 関さん(写真):

まず、簡単なグループのご紹介と留学生採用の背景をお話します。今から117年前、個人商店として吉野家は築地市場(現在の日本橋の場所)に誕生しました。法人化は1958年ですので約60年前です。

 

グループ会社は、
吉野家/1,885店舗(うち海外688店舗)
はなまる(はなまるうどん)/421店舗(うち海外26店舗)
京樽/324店舗
アークミール(ステーキのどん・フォルクス)/182店舗(うち海外3店舗)
Green’s Planet/166店舗
カレーうどん千吉/16店舗

の合計2,997店舗(2016年8月時点)ですが、ここからさらに増えまして、先日3,000店舗を超えました。次は3,500店舗を目指しています。

 

この中で「吉野家」と「はなまる」が、海外展開を強化していることにリンクして、外国人留学生の採用を実施しています。

吉野家は1975年、アメリカに海外1号店をオープンしました。これが海外展開のスタートです。現在アメリカは100店舗ほどで、中国が吉野家427店舗・はなまる18店舗と、日本の次に多いですね。そして、東南アジアでの出店を加速させています。タイ、マレーシア、フィリピンなど、お米を食べる文化がある国は、受け入れられやすいですね。昨年の春、マレーシアにはアジア本部の子会社を設立しました。ASEAN地区の出店をタイムリーに進めるという目的で立ち上げまして、出店を促進しています。

今後はインド、アフリカ、ヨーロッパ、南米などへ拡大を考えています。イスラム圏では、ハラル対応の牛丼も出していますので、近い将来様々な国で、吉野家が食べられることになるかもしれません。

 

外国人留学生採用をはじめた背景

吉野家 関さん:

「For the People 〜全ては人々のために〜」というグループの経営理念があります。世界中の人々にとってかけがえのないものになる。日本はどの地域でも水道水が普通に飲めますし、食べ物にも抵抗はないと思いますが、海外に行くと衛生的な問題や、病気の問題があります。そういう地域にも安全で安心な商品をお値打ち価格で提供したい。昨今、牛丼業界はブラックだとか、いろんな噂が立っていますが、弊社はここを貫いて事業活動をしています。

 

これまでの吉野家の海外展開は、現地の資本に依存していたがゆえに、なかなか目が届きにくかった部分がありました。その反省を元に、マレーシアに現地法人を設立。アジア本部として海外事業を統括しました。吉野家の社員自ら、現地の指導に携わることで事業活動をスピードアップさせています。現在マレーシアに16店舗出店していますが、吉野家とはなまるが隣同士で出店するコラボ店舗として、グループメリットを活かした出店を加速させています。

 

こういった環境から、グローバルに活躍できる社員のニーズが高まってまいりました。海外展開をするにあたって日本の社員が現地に行くことが多かったのですが、世界で活躍できる外国人の採用が必要になってきました。外国人が増えると日本人にも刺激があると思います。実際に、今年入社した16名の外国籍の社員は、やはり今までとは違った考え方や価値観を持った社員なので、日本人の社員に良い刺激を与えてくれることを期待しています。しかしここに至るまで、実は数々の問題がありました。

 

「採用してから数年後“在留資格が取れませんでした”では責任ある採用とは言えないよ。きちんと責任を持って採用し、雇用し続け、育てられるならば外国人採用を推進したい」

それが、弊社 代表取締役社長 河村泰貴から課せられた条件でした。

 

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外食産業というと、法務当局から単純労働と見られてしまいます。それではなかなか就労ビザが取得できません。業界を見る目はまだまだ厳しい。しかし弊社の採用は、単純労働ではなくグローバルに活躍する人の採用です。そして最近では、東京オリンピックの影響もあり、外国人労働者に対する国の取り組み自体も変わってきました。今後はさらに変わってくるという予測に基づき、外国人留学生採用に本格的に取り組むことにしたのです。

 

その就労ビザについてですが、留学生の就労ビザ取得に詳しい複数の行政書士に相談しました。実際の店長職は単純作業ではなく、数多くのスタッフを指揮しヒューマンスキルや店舗管理のノウハウが必要であること、5〜6年後のキャリアパスがしっかりしていることなど、申請時は嘘偽りなく、ありのままを書きました。ビザの申請のこともあり、経営学を勉強してきた学生などを中心に採用していく方針を立てて、留学生採用に取り組んでいきました。採用選考を進める際には、学生に成績証明書を見せてもらい、判断が難しい場合は、事前に行政書士に相談していました。結果、16名全員が就労ビザを取得することができたのです。

 

外国人留学生と出会う

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はなまる管理本部研修人事部 採用担当 永井さん(写真):

それではここから、吉野家とはなまるの外国人留学生採用の具体的な活動をお話いたします。

 

まずは、人材会社主催の外国人留学生向けジョブフェアへ出展しました。日本人も外国人留学生も、フードビジネスにはじめから興味を持って集まってくれる人はほとんどいません。ですので自ら出て行きます。別の企業様と合同で学生に対してプレゼンする場を設けたり、ベトナム人学生限定のイベントや、ASEAN限定で学生を集めてもらうなど様々な企画に参加しました。こうしたイベントに、今年入社した新入社員に登壇してもらっています。今就活で悩んでいる学生さんたちの前で、実際に自分が体験した就活から、入社前と入社後のギャップなど、厳しいことも楽しいことも、リアルなぶっちゃけトークをしてもらうのです。学生からも好評ですね。

 

しかしそこから待っているだけでは駄目なので、自社でも採用セミナーを開催しています。まずは合説イベントに参加し、そこで出会った学生にセミナーや懇親会を開催するので来ませんか?と誘います。

 

就活応援セミナーと題して、日経電子版で就活のコラムを書いていらっしゃる、株式会社人材研究所代表の曽和利光さんをお招きし、学生向けに就活に関するお話をしていただきました。セミナーのあとは懇親会を実施します。グループ会社の京樽のお寿司やお酒も出して、飲んで食べてもらって、就活の状況や今悩んでいることなど、ざっくばらんに色々話をします。就活の状況や今悩んでいることなど。そして「ちょっとうち受けてみない?」と選考に誘います。曽和さんのセミナーは学生に好評で、毎回応募する人もいるくらいでした。

 

いよいよ大詰めの段階になると、代表の河村が登壇してお話します。社長に出てもらって、この講演会で決めてもらう。私たちの勝負どころです。

 

はなまるは、多様な価値観を持っている人たちを集めています。それは、様々な人を受容していく風土がないと会社は発展していかないと考えているからです。多様な人を受け入れる土壌、違いを認めて会社を活性化させ、大きくしていこうという考え方がありますので、採用に関しても基本的なルールはあるものの自分たちで考えて活動しています。

 

APUでのオンキャンパスリクルーティングで、外国人留学生の採用に成功

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吉野家ホールディングス 仁木さん(写真):

2017年卒の採用ではOfferBoxを活用して、日本人学生ですが3名の採用に至りました。実はそれだけではなく、大学との関係性作りに繋がったという副産物がありました。日本で一番、多くの国から留学生を受け入れているAPU立命館アジア太平洋大学。いい学校だなと思っていたので、ラブコールをし続けていました。ですが人気大学ですので、何かしらの繋がりがないとなかなかオン・キャンパスリクルーティングをさせてもらえません。2017年卒採用でOfferBoxから日本人のAPUの学生に内定を出すことができたんです。それを理由に訪問して、繋がりを持つことができるようになりました。

 

そこからオンキャンパス・リクルーティング活動ができることになり、留学生に刺さる文言でチラシを作って学内イベントで配布させていただきました。チラシの内容自体は、学内説明会と面接会のお知らせだったのですが、「世界と日本の架け橋に」「世界で指導者に」というような言葉をキーワードに選びました。こういったキーワードに、留学生は反応しますね。もちろんセミナーに来てくれた人には、店舗経営を学んでもらうこと、店長やエリアマネージャーを何年か経験しなければならないことをわかってもらわねばなりません。ですので、甘いことは言いません。現場での仕事ですよ、立ちっぱなしで調理もやりますよ、ということをちゃんと伝えます。ただ、大手なので教育研修やキャリアアップのシステムが充実しているので安心してね、ということも合わせて伝えるようにしています。

 

APUでは、フードビジネスに対して「ブラック」だとか「単純労働」というような偏見を持っていない学生が多く集まってくれたことは、非常に嬉しいことでした。学内セミナーに来てくれたほとんどの学生が選考に参加してくれ、最終的に8名がその場での一次面接に合格。たまたまその二日後に東京で社長の講演会があるので来ないかと、その8名に声をかけたところ、なんと全員来てくれることになりました。一泊二日の宿泊費+東京までの飛行機代を提供したためコストもかかりましたが、社長の話を直に聞くと皆さん感動してくれて、選考に前向きになってくれました。そして再度APUを訪問して最終面接を実施しました。結局4名に内定を出し(日本人も合わせると、APUのオンキャンパスから8名内定)、2名の外国人留学生と3名の日本人学生が承諾してくれるという結果を出すことが出来ました。

 

内定辞退率が下がる、本人も親も納得の入社パンフレット

仁木さん:

入社パンフレットの作成には、かなりこだわりました。入社7年目で、上海はなまるのNo.2まで上り詰めた中国人の「姜勇(ジャンユウ)」をパンフレットの中で写真とともに紹介しました。上海はなまるの副総経理です。アルバイトから入社して、上海万博のときに店長を務めていました。人の3倍働くという熱い人で、抜擢されて上海の責任者に。一人で人脈を作り、20店舗以上の出店を成功させました。本当に頑張っている人が国籍関係なく上に上がることができるチャンスがあるということを伝えたかったのです。

 

マレーシアの本部を立ち上げたのは3人のメンバーなのですが、1年間に16店舗を立ち上げました。その中のひとりであるヨシノヤハナマルマレーシア インストラクターの「山中真一」は、英語がまったく出来ず、日本語しか話せない中マレーシアに飛び込みました。片言の英語で現地スタッフとコミュニケーションが本当に取れているのか、現地の店長に聞いてみたら「まるで家族のように接してくれる」と言っていました。ちゃんと愛情が現地スタッフに伝わっていたんですね。私は取材しながら感動して泣いてしまいました。彼らは、志願して海外に渡っています。こういった人たちが世界で活躍しているのです。

 

パンフレットでは海外で活躍する人以外にも、「店長」にフォーカスしています。我々の仕事は、店長時代を抜きにしては語れません。先輩社員たちの生の声を正しく、そして格好良くまとめた採用パンフレットを制作しました。日本人にも外国人留学生にも等しく、このパンフレットを配布しています。そして外国人留学生には、母国に帰るときに必ず親御さんに見せるように伝えます。例えば、中国ならば吉野家は結構知られていますが、実際どんな仕事をするのかということまではわからない。それも「このパンフレットで説明できた」と本人達にも好評でした。これは内定後の入社承諾を増やすためにプラスになったと実感しています。必ずパンフレットを作った方がいいというよりも、リアリスティックに会社のこと、仕事のことを伝えられているか、つまりRJB(Realistic Job Preview)に基づいているかどうかが大事だと思っています。

 

 外国籍社員に「日本人化を求めない」ことに気をつけた入社後の研修

仁木さん:

外国籍社員の教育で一番気をつけるべきことに位置づけたのは「日本人化を求めない」ことでした。これはなかなか難しいことです。何も対策せずそのまま現場に放り込めば、店長は新入社員に日本人と同じように、日本人の真似をするように求めてしまいます。そうなってほしくて採用したわけではありません。我々は、グローバルに活躍する社員を育てたいわけで、日本人の代わりの人間を雇ったわけではないのです。そこが一番気をつけた点でした。

 

どう伝えればよいか考えて思いついたのが、OSとアプリケーションの関係です。ホスピタリティを含めたフードサービスとしてのOSを入社数年で身につけてもらう。その上で、どこで働くかによって国別のアプリケーションを身に着けます。日本、中国、マレーシア、インドネシア。文化も違えば、メニューも違います。新メニューも現地の判断で出しています。人材教育もそれに従って進める。まず日本で働いてもらう場合は、日本のアプリケーションを身に着けてもらうという考え方です。 そのため実務研修とは別に、外国籍社員向けの研修を用意しました。

 

・異文化コミュニケーション(外国籍社員向け)
・異文化コミュニケーション(日本人の上司向け)
・フォローアップ3回
・日本での勤務にまつわる研修3回

 

異文化コミュニケーションとはどのようなものかというと、日本人と外国人のものの考え方の違いを重点的にやります。「ハイコンテクストとローコンテクスト」というものですが、曖昧な言葉や暗黙の了解、阿吽の呼吸などが当たり前である日本はハイコンテクスト。ローコンテクストは、論理的に話すということです。実際にいろんな国の外国籍社員が参加しましたが、国はあまり関係がなかったですね。ただ、日本は明らかにハイコンテクストな人が多いです。良い悪いではなく、そういう文化なのだということを認識してもらうのが目的です。これを外国籍社員だけでなく、日本人で彼らの上司になる人にも受けてもらいます。

 

最後の「日本での勤務にまつわる研修」ですが、食習慣、宗教観などの日本の特性、「これをやったら日本では犯罪になるから気をつけて」というようなことを知ってもらう研修です。例えば地方出身者は、満員電車に乗ったことがない人もいます。ですので日本で満員電車に乗る際は、女性の近くに立たない、と教えます。日本では当たり前であることも、彼らにとっては当たり前ではない、という意識で実施しています。

 

現在海外で活躍する多くの人が門をくぐった、キャリアオーディション制度

吉野家のキャリアパスは、既に整備されています。まず店長になり、そして上級店長を目指してもらい、その上であるエリアマネージャーや営業部長になっていきます。エリアマネージャーになるのに5〜7年はかかります。しかし留学生の場合は「5年後にはエリアマネージャーになってくれ」と無理難題を押し付けています。社長が言っていた通り、それくらい優秀でないと5年後にビザが更新できないかもしれないということになってしまいますから、それを基準に採用しています。

 

そして、キャリアオーディションという制度があります。自己申告でキャリアを切り拓くことができる制度です。海外赴任、海外留学の希望者の多くが、この門をたたきました。店長職のときから、自分から手を挙げてプレゼンや面接を経て、いろんな部署にチャレンジすることができるのです。外国人留学生は、気になる部分だと思いますので、こういった制度も整っているということを面接でも話すようにしています。

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採用担当者の強い思いと、経営者の覚悟が成し遂げた、吉野家ホールディングス様の外国人留学生採用。その舞台裏を惜しげもなくお話いただき、参加者も大いに刺激を受けたセミナーとなりました。

 

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2016年12月26日公開