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【セミナーレポート】2018年卒のファクトから考えるこれからの新卒採用(前編)

企業 ✕ 大学 ✕ メディア。三者で考える、これからの就活

18年卒の選考解禁を直前に控えた5月17日と26日、2日程で「企業人事担当者」「大学キャリアセンター」「就活報道に携わるメディア」の三者の皆様にお集まりいただき、18卒ここまでの採用・就職活動を振り返り、これからの就活をみんなで考える勉強会を開催しました。三者それぞれの視点があり、課題意識がありますが、同じ場所で同じ時間を共有し、一緒に考えるという機会はこれまであまりありませんでした。

 

第一部は採用アナリスト・コンサルタントの谷出 正直氏に、18卒採用をここまで事実ベースで振り返り解説していただきました。第二部は谷出氏に加え、立教大学キャリアセンターの林 良知氏にご参加いただき、株式会社i-plug取締役 田中 伸明(たなか のぶあき)をモデレーターにトークセッションを実施。第三部では交流会を催し、活発に意見交換がなされました。

 

企業側で何が起こっているのか、学生側で何が起こっているのか。これからの新卒採用・就職活動はどうなっていくのか。未来へのヒントが詰まった、勉強会の内容を公開いたします。

 


 第一部 2018年卒採用 前半戦の採用マーケットの振り返り

【講師】
採用アナリスト・コンサルタント
谷出 正直(たにで まさなお)

奈良県出身。筑波大学大学院体育研究科を修了。中学校から大学院まで陸上競技部(短距離)に没頭する。新卒でエン・ジャパンに入社。子会社へ出向を含め、新卒採用支援事業に約11年間携わる。2015年末退職。独立後は、企業への採用コンサルティングや採用アナリストとして活動する。人事・経営者向けの講演、学生向けのキャリア支援、大学関係者との取り組み、メディアへの情報発信などを行う。新卒採用に関する情報、ノウハウの収集や発信、人のつながり作りに強みを持つ。働く目的は「イキイキと働く人が増える社会」を作ること。日々、採用、働き方、生き方、キャリアについて考える。

 

はじめまして、谷出と申します。私は奈良県出身で、大学院を出てエン・ジャパンという会社に入社、そこから約11年間、新卒採用に携わってきました。2016年からはフリーで、企業のコンサルティングなどの活動をしています。一方で、企業、大学、学生、メディア、採用支援会社など様々な繋がりがある中で色んな情報を得ながら、これからの採用活動や就職活動を考えています。今日は、2018年卒の採用でどんなことが起きているのか、事実ベースで振り返りながらお話します。そしてディスカッションを通じて、違う立場の考え方を得る素材にして頂ければと思います。

 

18卒採用の変化

18卒の採用活動と前年との変化を考えるとき、いくつかの領域に分けて考えることができます。1つ目は「メディアが伝える情報」です。それによって、求職者である学生は影響を受けます。18卒では「働き方改革」「AI」などのキーワードがよく出ていますが、話題になればなるほど学生は敏感になります。では19年卒の採用は何が影響するでしょうか。まずは景気、採用スケジュール、そしてインターンシップの取り扱い、人口減の中でどのような働き方が必要とされるか、技術革新で世の中がどう変わるか。社会全体の流れを受け、人事はこれからの取り組みを考えていく必要があります。

 

もうひとつ、求職者の変化があります。1990年代から育ってきた時代背景、環境が変化していることで、価値観が大きく変わってきているといわれています。特に、今の学生はスマホネイティブ世代です。職業選択において、親の影響を大きく受ける世代です。国は、女性活躍推進法や若者雇用促進法を施行させています。地方自治体は、UIJターン採用支援を積極的に取り組むなど、変化があります。採用支援会社は、新しく立ち上がり、新しいサービス・商品がどんどん出てきています。そんな変化の多い時勢ですが、18卒採用の3〜5月にどのようなことが起こったのかをお伝えしていきます。

 

大手就職支援会社の発表によると、内定率が過去最高で推移しています(17年5月時点)となっています。リクルートワークス研究所が発表する大卒有効求人倍率は1.78倍で、昨年の1.74と比べると微増。しかしこの中身が問題です。中小企業の有効求人倍率は昨年4.16倍だったのが、今年は6.45倍に急上昇。一方、従業員5000名以上の大手企業は昨年0.59倍だったのが、今年は0.39倍に下降。また、業種別に見ると流通や建設が10倍前後に跳ね上がっているのに対し金融は0.91倍と低い。つまり二極化が起こっています。また充足率も、従業員数が少ない企業になればなるほど低く、中小企業にとって厳しい採用環境です。採用が難しい企業は、より難しくなります。そういった企業は、今年も同じやり方ではさらに採れない。より工夫が必要になってきています。

 

また他の変化としては、、採用ツールの変遷が目立ちます。2010年頃から、就職サイト以外の選択肢が登場しはじめました。ブログ、twitter、Ustream、Skype、WEBセミナーなどテクノロジーを活用した採用が注目されたり、ダイレクトリクルーティングに関してはここ3年ほどで一気に普及しました。就職サイトとの大きな違いは、採用広報の解禁以前から学生に接触できるということです。また、採用したい学生に対しピンポイントに会う手段なので、マスに対して広くPRするやり方から「“あなたに”会いたい」という1to1コミュニケーションに変わってきています。一方、変わらないのは採用スケジュールです。17卒と18卒は同じ(ちなみに19卒も同じ)で、変わりません。

 

これらをすべて合わせて考えると、有効求人倍率は上昇、充足率は下降、早くから学生と会えるツールができ、かつスケジュールは変わらない。ということは採用活動は早期化、積極化し、手法も多様化しているというのが18卒採用の現状です。その中で、18卒採用では具体的にどんな動きがあったのでしょうか。

 

根底にあるのは、売り手市場と二極化の採用マーケットです。また学生側も、行動する学生としない学生、内定をいくつもとる学生ととれない学生。早くから行動した学生と動き出しの遅かった学生、というように、二極化しています。

 

 

「インターンシップ=就活準備」で、学生の意識が変わる

そして、18卒採用に大きな影響を与えたのはインターンシップでした。これまでは「インターンシップ」と「就活」は別物、というのが学生側の認識でした。しかし16卒あたりから「インターンシップ」と「就活準備」が近づき始めました。採用スケジュールが後ろ倒しされ、3年生の秋や冬の時間ができたこと、企業はその時期から学生に接触をもちたいことなどが背景としてあります。そして、18卒では、「インターンシップ=就活準備」がさらに進みました。その結果、「インターンシップ」に行って満足し、そのほかの就活の準備でもある「自己分析」といった、自分の特徴や強み、価値観の把握などの準備が遅れることとなりました。実際、3月に会社説明会を実施した企業からは「ぼんやりした学生が多い」という声が多く、インターンシップが就活に与えた影響のひとつだと思います。

 

これまで、インターンシップといえば、1社で開催するものが最近では「コラボインターン」も増えています。業界で複数社集まって「業界を知るためのインターン」を開催したり、職種や、会社が大切にしている価値観など、企業間で共通する項目を切り口に開催されるようになりました。例えば、物流業界としてのインターンは3年目ですが上手く行っていますね。参加者300名、6割が女性、96%が物流業界を志望しているそうです。

 

他にも、旅館の女将インターンや、大手人材派遣会社のCEO体験などの「体験型」があったり、企業✕大学、企業✕地方自治体のコラボも増えています。公務員のインターンシップも盛んになってきていますね。公務員を志望する人が減ってきていますが、大学入学時点では公務員を志望する人は多いのです。大学生活、就活を経て、志望が一般企業に変わってしまう。ですので、公的機関としては就活が始まる前に認知をとりたいという思いがあるようです。

 

そして19年卒向けインターンのお話ですが、文科省等で議論が続けられていて、最終的に採用に直結させないという結論に落ち着きました。経団連は「5日以上」と定められていた期間を「1日〜でもOK」と変更しましたね。これにより1Dayインターンが解禁になりました。実施時期にも変化があり、冬のインターンの増加が顕著です。16年卒くらいから毎年インターンシップを実施している企業は、夏のインターン実施から採用シーズンまで長期間引っ張りきれない、という経験から冬が多くなっているようです。

 

インターンシップの開催自体は増える傾向です。今年、就職支援会社の開催するインターンシップ合説の開催数が昨年比1.3倍。増えているのは関東・関西ではなく地方開催です。19年卒から埼玉・八王子・山梨・岡山・愛媛・熊本が新たに開催地に加わっています。イベントがあるとプロモーションも大々的にされるので、インターンシップの認知が広がります。地方大学の情報感度の高い学生は、これによって動かされるのではないかと思います。東京で先に採用活動を行い、終わってから地方に採りにいこうという考えでいると、地方でも優秀層の学生は先に別の企業に接触されてしまっているという可能性は高くなるのではないかと思います。

 

18卒の採用特徴は、OB・OG訪問やリクルーター強化。

18卒採用がスタートするときに、今年の特徴はどうなるか?を考えていました。そこで考えたのが4点。

 

【1】OB訪問やリクルーターによる活動。特に16卒採用から、学生からの知名度や人気のある大手企業が積極的に行いました。それが、18卒採用でもさらに拡大しました。

【2】企業が大学との関係性を強化する。学内での合説やセミナーに参加したり、授業を一緒にしたり、就職課から学生を紹介してもらったり。

【3】また、都市部では採用しづらくなっているため、地方採用に注力する動きが増えました。企業が地方へ出向く形、ネットを活用してオンラインで説明会や選考を行う形と様々ですが、地方学生の移動距離や時間やお金を解消して、選考を受けてもらう動きです。

【4】ここ数年ですが、採用ブランディングとして「◯◯採用」という名前をつける企画も引き続き増えています。各社採用活動、見せ方に工夫をしています。

 

今日は企業、大学、両方の方がいらっしゃるので、それぞれに言い分はあると思いますが、リーマンショックの時に企業の採用数が減り、学内合説にも企業はなかなか出展しませんでした。それが今は「出展させて欲しい」と企業側からたくさんやってくる。人事担当者は3年くらいで異動されることが多いので、当時いらっしゃらなかった人もいると思いますが、これもまた人と人の関わり。大学との信頼関係をちゃんと構築しようという流れになってきています。

 

選考にも変化が見られます。企業は厳しい採用環境なので、内定を出した後に学生に選んでもらわなければなりません。そのためには「相互理解」を促すことが必要ですね。商社が合宿形式の選考を行ったり、自社の食堂でコーヒーを飲みながら社員と学生が交流できる場を設けたり。エントリーシートを廃止したところもあります。

 

WEBを活用して面談を行うところも出てきました。大手就職支援会社主催のイベントでは、初の合説ネット中継をやりましたね。他にもAIなど、新しい技術を活用する動きもあります。だいたい新しいものが出てきて定着するまでに3年ほどかかります。20卒採用くらいになると、AI採用も一般的になっているのだろうと思います。

 

また違った観点でお伝えすると、働く環境の整備を進める会社も増えましたね。初任給を上げたり、手当を増やしたり。奨学金返済の支援をするところもあります。大手通信会社では、週の休日を2日→3日にするという話もありました。働く場所の話ではリモートワークも増えましたね。学生アルバイトが多い企業は、3月の広報解禁前から、学生に向けて就活の講座を様々行って、アルバイトから正社員へ採用するルートを確立する企業も出始めています。

 

 

てるみくらぶの内定取り消しが引き金に。学生の「自己防衛」

学生にとって大きな影響を与えたのではないかと思う出来事が、今年3月にありました。2017年3月に経営破綻した「㈱てるみくらぶ」の内定取り消しです。内定者が50人超いて、そのうち30人ほどは別の企業に採用が決まったので良かったことは良かったのですが、これを見ていた学生は「自己防衛」をするようになりました。

 

リーマンショックの時も、多くの会社が内定取り消しを行いました。当然、学生としては取り消されてはどうしようもないから「内定承諾書」を軽い気持ちで出すようになりますね。自分の手元に2〜3社内定を保持しておいて、実際に入社する会社以外は、内定式前〜入社までに辞退するということです。どの時点に決めるのかは個人差があると思いますが、どちらにしろ内定者ときちんとコミュニケーションをとっておいた方が良いと思います。

 

今の学生が企業選択をするポイント

学生が企業選択をする際のポイントも変わってきています。「やりたい仕事ができる」を選ぶ人は減り「安定している会社」を選択する人が増えてきています(大手就職支援会社の就職意識調査より)。学生の「価値観」を知っておかないと、せっかく様々な方法でアプローチしてもそれが響かないという結果になってしまいます。

 

これまで学生は、例えば「業界No.1だから」というような、人事や経営者が関わらないポイントで志望を決めてきました。しかし大手メーカーがこれだけM&Aされたり、外資系企業に買収されている現状を見ると、そのポイントだけで仕事を選ぶのは危険ですよね。ではどういう基準で選ぶのか。その企業の社員がその企業に入社を決めた理由を、本音で学生に話をしてあげるといいと思います。学生の価値観を知った上で、その価値観と企業の価値観が合わないことがわかれば、学生は辞退するのもありですし、選考をストップさせるのもやむを得ないと思います。ちゃんと向き合って、お互いの価値観を知ることが大事になってきていますね。

 

【セミナーレポート】2018年卒のファクトから考えるこれからの新卒採用(後編)に続く