このレポートは2016年5月12日に開催された「HRサミット」のトークセッションレポートです。2016年卒の就活「後ろ倒し」をきっかけに、2017年卒以降もより採用戦線は激化することが予想されます。そんな中すでに4年後に控えた2020年問題。その2020年に向けて取り組むべきことは何なのか。2018年卒からすぐに実践できる採用戦略とともに考えます。
【セミナーレポート】「2020年はどんな世界か?新卒採用戦国時代とは?」
~採用のプロが注目する3つのキーワード~(2016年5月12日開催)
年々縮小していく労働市場と若者を取り巻く環境の変化により、多くの企業が直面することになる2020年問題。私たちが2018年卒採用からどんなことに取り組むべきかを、元リクルート人事部GM株式会社人材研究所代表 曽和様、元三幸製菓人事責任者 株式会社モザイクワーク 代表 杉浦様と弊社代表の中野が一緒に考えてまいります。
[インタビュアー:株式会社i-plug 取締役 田中 伸明]
2017年卒の振り返り ~繰り返された天国と地獄パターン~
田中:
最初に今後のことを話す上で外せない17年卒の振り返りについて、ここ2~3年のことも交えながら曽和さんより所感をいただきたいと思います。
曽和様:
16卒と17卒で比べるとそこまで大きな構造の変化はありませんが、16卒で起こったことが、17卒ではより激化したなと思います。
16卒では、大手企業ではリクルーターの大復活があり、体育会系や理系、研究室にいてなかなか就活マーケットに出てこない学生に対して母集団形成をしていたのが、17卒では表面的な採用期間が短くなった分、リクルーターを理系・文系職に増やしたり、インターンシップが前年の倍に増えたりと表面的な採用以外の部分も増えたと感じます。また昨年は8月の内定までは水面下で活動していましたが、今年は堂々とやっている印象を受けました。
それを受けて中堅や中小ベンチャーへの影響も昨年と同様に起こっていると思います。16卒は3月に広報を開始し8月の内定まで5ヶ月ほどあったので、大手を受ける前にいろいろ見てみようという学生がいて、厳しいと言われていた中小・ベンチャーでも5月の時点でいい学生に会え、内定もたくさん出し、すでに内定承諾も得ていました。しかし8月になると、1週目で早くも8割が辞退する、ということが起こるのです。これを私は天国と地獄パターンと呼んでいるのですが、今年もそれがすでに起こっているのではないかと思っています。
田中:
いわゆるナビの活用などパワーゲームの中で従来の戦い方をしてしまうと、やはり採用ブランド力や予算に余裕のある企業などには敵わないということですね。
曽和様:
気をつけないといけないのは、優秀層に会えている企業ですね。競合は強いわけですから、フォローをきちんとしないと、他社に流れてしまうということに今年もなりかねません。特に私がよく言うのは集め方にもよりますが「優秀か優秀じゃないか」、「自社に適してるか適してないか」というのと、「“就職活動意識高い系”と“就職活動意識低い系”」というもう1つの軸です。就活に積極的な学生と、体育会系学生であれば大会など、自分がやりたいことを頑張っていてあまり就活に積極的ではない学生がいます。
本来狙うべきは「“就活意識低い系”の優秀層」です。「“就活意識高い系”の優秀層」はどうしても人気の企業に行きますので、その辺りで上手い出会い方が出来てないと、天国と地獄パターンが繰り返されることになってしまいます。
ですので勝てる土俵で勝負できている企業が、採用活動がうまくいっている企業なのかなと思います。
田中:
「口説く」という工程に相当工数をかけないと、最後に負けてしまう可能性が高いということですね。
曽和様:
そうですね。戦闘力という言葉はあとでお話しますが、「一度会ったら絶対に勝つ」というような採用担当を擁しているチームになればまた別ですが、なかなかそういうことは難しいですからね。
増えつつある土俵ずらしという採用戦略
田中:
そういった意味では、杉浦さんが前職の三幸製菓で数多く取り組まれてきた手法も、従来の手法との違いを出して、まさに勝てる土俵で戦っていくという手法だと個人的には理解しています。ぜひ杉浦さんの視点での17卒の振り返りをお話いただけますか。
杉浦様:
私は昨年9月まで三幸製菓という会社で採用をずっとやってきました。17卒に関して振り返る中で我々の施策にも繋がっていくのですが、やはり全体感として、ナビに載せてそこから人を集め、そこからフローに流していくという当たり前の構造がまだ続いているなという印象はありますね。
少しずつ手法を変えてきているなという企業も出てきているのは間違いないと思います。しかし一方として、同じやり方でやってきた企業は、昨年の今頃はすごく順調で内定もすごくいい感じで出せましたと言っていました。
曽和様:
危険ですね!
杉浦様:
そうなんです。それでやはり「夏前に全員来ませんでしたというような企業も私の周りではいました。何が起きているかというと、開放性・外向性が高い学生は当然のことながら集まって回遊するわけなんです。
昨年に関しては、特に大手企業が後の方で選考を行ったので、15卒採用の時は来なかったような学生が来て、そして回遊していきますので自社を通り越して当然どんどん大手企業に流れていくということになりました。
開放性・外向性が高い学生というのはやはり誰がみても良く見えるのです。なんとなくコミュニケーション能力も高くて良さそうに見えますので、やはり採用したくなってしまうんですね。でもそういう学生というのは、基本的に回遊していますのでどんどん流れていって、いつの間にか行き着くところに落ち着いてしまいます。ですから、自分たちが必要な人材はどういう人材かをきちんと客観的にみて、その子たちがいるところに釣竿を垂らすということが大事です。
田中:
エントリーの仕組みが非常に多様だからこそ、自社でほしい人材をしっかり定義した上で、その人たちに対してどこにどういう打ち出し方をすればエントリーしてきてくれるのかを科学して創ってこられたということですね。
杉浦様:
そうですね。まさにおっしゃる通りで、三幸製菓では数百人というエントリーからスタートしたのですが、最終1万3,000人までエントリーを増やしました。ただそこで気付いたのが、採用は10~15人なのに1万3,000人のエントリーがあるということは、ほとんどの人を落とさないといけないということです。これはお互いにとって非常に効率が悪いと思いました。そもそも受けさせない仕組みをどう作るかが大事なのです。
「私たちはこういう人しかいりません」ということをきちんと打ち出して、受ける側は「自分は違うから受けません」となる仕組みです。そのためにはまず自社に必要な人材を分析し、それをアセスメントに乗せてお互いに可視化できるようにしていかないといけません。
ダイレクトリクルーティングという視点での17卒の振り返り
田中:
中野さんは土俵ずらしという戦略についていかがですか?
中野:
弊社は、新卒ダイレクトリクルーティングサービスであるOfferBoxを運営していますので、客観的にデータが取れます。16卒のこの時期まで昨年でいくとだいたい3万通ほど企業から学生にオファーが届いていました。それが17卒の今の時期ですと約7万通が流通しています。企業からアプローチするという採用手法も昨年の2.34倍ほどになっているという状況で、企業の動きもかなり変わってきていると感じます。
具体的には、まずエリア特性があります。16卒は関東の企業が積極的でしたが、17卒からは関西や東海の企業にもかなり積極的にご利用いただいています。全国の企業で取り組みが進んでいるというのが昨年と今年の違いです。
土俵ずらしという観点で言いますと、曽和さんがおっしゃった「就職活動意識低い系×優秀層」狙いだと思うのですが、昨年は都市部の高学歴層にオファーが集まる傾向にありましたが、今年は地方の高学歴層にもオファーがいくようになったというのが特徴ですね。関東の企業も関東の学生だけでなく関西・九州・中国地方や東北などのあまり競合しないところへ勝負をかけるという大きな流れができてきています。
また、弊社でもOfferBoxを使って自社の採用を実施しています。
現在社員数は43名ですが、曽和さんや杉浦さんのお話を聞いて、自社でも17卒から取り組みました。結果12名の学生にオファーを出して2名の採用が決まっています。あと1名にも内定を出す予定ですが、今年はそれで終了の予定です。
まずやったことは、杉浦さんのおっしゃる可視化です。
自社の営業の採用なので、自社で活躍している営業はどういうタイプなのかを調べました。その結果、学習意欲が高い、コミュニケーション能力が高い、ストレス耐性が高い、慎重性が低いという特性が出ました。このデータをもとに、OfferBoxで合致する人を抽出したら1,000人ほど該当しました。ところが1,000人と会うわけにはいきませんし、弊社は東京と大阪しか拠点がないので、学歴は無視してあまり競合しない学生に絞ってオファーを出しました。結果、普通に探していてもなかなか会えないとてもポテンシャルの高い学生が採用できました。自社で欲しい人材の定義と競合しない場所を明確にすることで、かなりスムーズに承諾まで獲得できるのだということを体感した17卒採用でした。
田中:
結果的には17卒も大きな構造的変化はなく、募集フェーズに力を使うパワーゲームが展開されることとなりました。そして当然のことながら勝者も従来と変わらず、採用ブランドと潤沢な予算を持った企業となったわけですね。しかしその中でもうまく採用ができる企業が出てきており、土俵ずらしやターゲティングというようなことが成功要因のキーワードとなっていそうです。
2020年に向けて18卒からすぐに実践できることとは?
田中:
今回のテーマであります、2020年を見据えて18卒採用にどう取り組んでいくのかをそれぞれ3つのキーワードで表現していただきます。
ターゲティング(ブルーオーシャン)・ターゲティング(データベースド)・採用戦闘力
曽和様:
まずはブルーオーシャンです。関東の上位校、これはもうレッドオーシャン過ぎますよね。ここで頑張って属性だけ良い人が採れたとしても入社後はわかりません。
実はあまり知られていない2つのマーケットがあります。一つが京都市内でも北の方にある京都大学や同志社大学です。どうしても大阪の中心まで出てきて積極的に活動することが少ないのです。
中野:
OfferBoxでも京都大学は決まる確率がすごく高いですね。
曽和様:
はい、狙い目ですね。もう一つは既卒者や外国人の採用です。別のNPOが運営されている就活サイトでは既卒者が登録をしています。うちでも2名ほどそこから採用をしています。
また、エンジニアやサービス業など採用にかなり苦戦するような部分では外国人採用に力を入れているところも出てきています。昔と比べればだんだん外国人採用も増えてきてはいますが、まだまだ日本人の学生と比べればブルーオーシャンですし、2020年に向けて少子化で労働力が減っていくことを考えると、今から良い外国人を採用する力をつけておかないと間に合わないと思います。
二つ目はデータベースドです。中途採用というのはキャリアがあるのでどんな属性なのかということが見えますが、属性が見えないことが新卒採用の難しさだと思います。ですからテストを使って、1,000人まで絞り込むようなデータを使えば、属性ではない区切りでポテンシャルの高い人や自信のある人が浮き上がってきます。
特に能力値というのは大学のレベルだけではわかりません。上位校とは言ってもどんどん分室化されているので、例えばSPIの結果だけでもだいぶ差が出るのです。ですので、やはり適性検査などをうまく使って浮き彫りにしていくのは大事だと考えます。
最後に採用戦闘力ですね。採用段階では第一印象だけに頼らないことが大切です。見抜く力というのは、ダイヤモンドではなく原石をいかに見つけていくか、元々持っているものをいかに引き出せるかという面接力をつけることになります。最終段階ではフォロートークや現場のトップ営業など対人影響力の強い人を導入して志望度を高めていくことになりますから、フォロートークを磨くことはすごく大事です。こういった戦略以外のスキルを採用戦闘力と表現しています。
最初の二つは戦略として明日からでもすぐに使えます。しかし売り手市場は変わらないので、最後はやはり戦闘力なのです。口説く力や志望度を高める力というのはスキルですからすぐに取り掛からないと、2020年まであと3回しかチャンスがありません。
戦略性・効率性・可視化
杉浦様:
まずは戦略性です。自社にとってどういう人が必要かというのは永遠のテーマであり、やらなければならないことですが、60万人の学生の中で圧倒的に活躍するだろう学生は上位数%だとします。そこを採りにいきたくなるのはわかりますが、果たして採れますか?採れたとして使いこなせますか?これからどんどん人口が減っていき、日本の総労働力が減る中で、使いきれてない労働力をもっと使っていかないといけないのとアプローチできてないところにアプローチしていかないといけないと思います。
次に効率性ですが、「効率性」というのは入社後のパフォーマンスまでみた時の効率性です。採用は、その方が入社して活躍し、パフォーマンスを出さないと全く意味がないのです。そこををきちんとデザインして、効率化していかないといけません。
そのためにはやはりデータをしっかりみてください。
そして可視化ですが、多くの企業では、おそらくスキルを縦軸に、社風フィットを横軸にした際、スキルが学歴になっていて、社風フィットは面接官とのマッチングになっていることが多いと感じます。学歴というのは確率論だと思いますので、上位校になればなるほど比較的能力が高い学生が多い、もしくは確率が高い可能性はあります。しかし反対にはずれを引き続ける可能性も十分にあるのです。ですから、本当に必要な人材というものをきちんと可視化せずに大学のレベルだけで採用を続けていると、いつまでも自社に合わない人を引き続けることになりかねません。
学歴と入社後のパフォーマンスには実は相関がないというのが出てきています。そういった意味では指標軸をきちんと見直す必要があります。
それが可視化であり、戦略性にもつながっていくと思います。
田中:
開放性外向性が低い学生や第一印象などに関わらず、あとに活躍する人を可視化されるまでにどれくらいの期間を要しましたか?
杉浦様:
自社のアセスメントツールの開発に2年、そこから2クールぐらい回してみないと正確性が分からないと思いますので、3~4年はかかりました。それでもまだ精度を高める必要があると感じています。
採用ターゲティング・採用戦術・設計できる人(仕掛ける人)
中野:
根本的に重要なところはお二人と変わりません。
3つの中で速やかにやらないといけないのは一つ目の戦術です。15・16・17卒と次々とスケジュールが変わっていく中で、従来と同じやり方をしていても上手くいかないと感じているかと思います。年度やスケジュールが変わっても、やはり失敗はしたくないので上手くいっていた頃と同じやり方で進めます。しかし、そもそも外部環境が変わっているわけですから、同じやり方をすると上手くいかないのは当たり前です。
2020年までに、さらに色々変わると思いますが、戦術もその変化に応じて変えていかなければなりません。
次に採用ターゲティングです。一般的には採用後の管理や育成などマネジメントに工数をかけがちですが、実は採用段階で工数をかけることが大事なのです。入り口で工数をかけてでも自社にフィットした人を採用することで、自ら成長し長い間定着して活躍してくれることになります。それが良い循環となるのでターゲティングというのはとても大事です。また活躍している人に学歴は全く関係ありません。大事なのは多様性です。「うちには、こういうタイプじゃないダメだ」という考えに固執しすぎていると、人の調達段階で事業が進まなくなります。かといって多様すぎるのも困りますので、根幹が似ている部分と多様であっていい部分を明確にした上で再度ターゲティングをしてみると良いでしょう。
そして最終的にそれを誰がやるのか?というのが仕掛ける人になります。
もちろんそれは人事がやるべきポイントですし、2020年になったときにそれが出来る人事と出来ない人事の違いになってくると思います。
テクノロジーの進化はもう見えていますので、テクノロジーに任せるところと人でないとできないところをきっちり切り分けて考える必要がありますね。
例えば自社の採用ターゲットさえきちんと設計していたら、それに合う人というのはもう人工知能が探してくれる時代になっています。それを設計する人、最後に口説く人、人事が口説けない場合はそういう人をアサインできるかなど仕掛ける能力はとても大事なことです。
杉浦様:
採用は何のためにやるのかということを、もう一度問うてもいいのかなと思いますね。やはり会社が発展しないといけませんし、成長していかないといけません。そのための採用です。ですから、そのためにはどういう人が必要かを突き詰めていかなければ、ただの数合わせで乗り切ることになってしまいますよね。また、戦略である以上はすべての会社が同じ戦略をとる必要はありませんし、同じ戦略をとっても上手くはいかないと思います。有名な企業と地方の中小企業が同じ戦略をとっても意味がないですし、ある程度知名度がある大きい企業はおそらく採用人数もそれなりに多いはずですから、細かい戦略は打てるはずがないと思っています。そういった企業はそれなりの戦い方をしていかなければなりません。
田中:
テクノロジーを活用したり、統一すべき根幹の部分と多様であるべき部分をしっかりとらえて可視化したり、すべて前提として「そもそも採用とは何のためにやるのか?」ということを常に考えなければいけませんね。
短期・中期の土俵ずらしということで、まずはブルーオーシャン、ターゲティングのところではデータベースドな考え方でもって、自社で採るべき人材を定量的に可視化するということですね。
そしてそういった仕組みを作ってPDCAをまわしながら自社の形を作っていくこと。18卒はそこを取り組まないともう2020年に間に合わない。こういう分析ばかりではなく、具体的にどういうソリューションがあるのかもしっかりとリサーチしていかなければいけませんね。
【講師】
株式会社人材研究所 代表取締役社長 曽和 利光氏
元リクルート人事部ゼネラルマネージャー。組織人事コンサルタント。リクルート、ライフネット生命、オープンハウスで人事畑を進み、株式会社人材研究所設立。
株式会社モザイクワーク 代表取締役社長
採用学研究所 コンサルティングフェロー 杉浦 二郎氏
2015年9月まで三幸製菓人事責任者を務め、同年10月より現職。株式会社モザイクワークを設立し、採用プランナーとしても活動中。また、外部アドバイザーとして三幸製菓の17採用にも関与。「カフェテリア採用」「日本一短いES」等々を生み出し、TV、新聞、ビジネス誌等、多くの媒体に取り上げられる。イベントでの講演多数。また、地元新潟において、産学連携キャリアイベントを立ち上げるなど、「地方」をテーマにしたキャリア・就職支援にも取り組んでいる。
株式会社i-plug 代表取締役社長 中野 智哉
グロービス経営大学院大学卒(2012年3月)インテリジェンスで法人営業を経験、上記経営大学院卒業後、同期3名で株式会社i-plugを創業し、同年10月に新卒に特化したダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox」をリリース。「我が子が使うサービスを創造する」を合い言葉に就職活動の問題解決に取り組む。