このレポートは2016年8月31日に開催された服部泰宏氏の講演レポートです。
今、新卒採用の現場では何が起こり、企業はどんな動きをしているのか?
『採用学』の著者であり、横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授
採用学研究所リーダーの服部泰宏氏をお招きし、17卒や16卒を振り返りながら、18卒の最新動向について考えました。
【セミナーレポート】18卒新卒採用の行方 ~『採用学』服部泰宏氏と考える~
「科学の眼からみる“17卒採用”と“18卒採用”」
-3つの指標から導かれる18卒採用の最新動向とは-
はじめに
服部泰宏氏 :
今日は企業の皆さんが、採用においてどのように動いているか。17卒や16卒採用を振り返りながら、18卒の採用を考えていきたいと思います。
今日の話は大きく分けて3つあります。1つめは、私も大学で学生を毎年送り出している側なので、いま実際に起こっている学生のお話を。2つめはマッチング。マッチングの精度について、企業の人事データなどを用いた分析結果をお話しします。3つめは、新しい採用ツールが出てきていますのでその使いこなし方なども含めた、新しい企業の動きについて。最後に、企業の皆さんが自社の採用を変えたり、考えていくための今後のステップや考え方についてお話したいと思います。
1.いま、採用活動・就職活動で起こっていること
服部泰宏氏 :
学生の間ではいろんな変化が起こっています。就職活動の時期が短縮化され、その中で企業側で起こった動き、求職者側の動きがありました。見えているものと見えにくいものがありますね。
まずはインターンシップの拡大です。短い期間の中でどうやって学生にリーチするか。企業にとって、そのひとつの手段がインターンシップでした。また、最近の学生は3年生から事実上就活を始める、もしくは意識し始めます。3年生の5〜6月くらいからそわそわし始めて、先輩に話を聞いたりします。就活は実質3年生から始まっているということですね。これらは見えているものです。
見えにくいものもありますね。企業側の動きとしては、今まで大学やゼミの推薦枠というのは理系では当たり前でしたが、これが文系にも広がってきています。企業から「授業を一コマいただけないか」という申し出もあります。その時間を使って自社の紹介をしたり、学生の就活相談に乗るというものですね。
企業は採用のためのメディアやツールも使いますが、よりダイレクトな方法で学生と出会い始めています。また学生にも、そういった方法を選択する人もいます。ある企業には、学生から人事に直接電話がかかってきたんだそうです。「御社に興味がある」と。その企業がターゲットにしている大学ということもあって、実際に会うことにしたそうです。そういった見えない部分、アンダーグランドな動きも出てきています。
ここで学生の「動き」というものに注目してタイプ分けしてみたいと思います。
① ナビサイトを使った一般的な活動を周囲と同じタイミングで行う層
ここがマジョリティであることは変わりません。ただ、大学やエリアでその割合は微妙に変わります。私のいる横浜国立大学は都心に近いですが、とは言っても地方国立大学なのでMARCHクラスや早慶クラスの学生よりもマジョリティの割合が多いですね。ただ、慶應の先生から聞いた話では、この層が減ってきているということでした。私のゼミ生も、14人中4人が早々にナビサイトをやめてしまいました。個人の選択なのでもちろん構わないのですが、なぜやめたのかを聞いたところ「ナビサイトにある情報は大体手に入るから」と言うのです。学生達は、独自のネットワークを持っているので、誰でも見れる情報はもう必要ない、と思ったようなのですね。昔からこういう学生はいましたが、その割合が変わってきているようです。
② ナビサイトを使い一般的な活動をするが、就活の動き出しが早く自分から積極的に動く層
ナビサイトを使う学生ですが、動き出しが早く、他にもチャネルを持っています。他のチャネルというのが2つあり、1つは学生が自主的に企業と出会う場を提供する学生団体主催の場。慶應や早稲田、法政大学にもあると聞いたことがあります。OBが多い企業などを呼んできて、学生とマッチングさせるんですね。学生ベンチャーとして活動しているところもあります。
もう1つは人材紹介です。人材紹介サービス提供会社による、大学へのアクセスが非常に多くなってきている。私も毎年2〜3社から受けます。そこで学生と対談して、学生のメンターのような立場になり、就職活動をリードするというような形ですね。こういったサービスを受ける学生もいます。
③ ナビサイトを使わずに就職活動を展開する層
この層の学生は、大学3年の途中で有名なインターンシップに参加する経験をしたりすることで、いろんな大学の学生との人脈ができるような人ですね。うちのゼミにもそういう学生が2人いて、誰よりも情報を持っています。◯◯という企業がインターンシップを始めたらしい、とか。とても情報感度が高いですね。そういう学生は、ナビよりも自分たちの情報の方がビビッドだということをわかっているのですね。
この話は、どの層が良い、悪いということではありません。志向性や雰囲気に違いがあるので、皆さんの企業はどの層の学生が一番良いのかを考えれば良いと思います。③はいわゆるイケイケです。外資系金融機関やコンサルティング会社に決まったりします。メガベンチャーに行く人も多いですね。
ここで言いたいのは、学生が多様化してきているということ。今まで常識だったナビサイトには、全ての学生はいないのかもしれない。学生の層によって、図書館にいる人、学食でたむろしている人、教室にいる人など「いる場所」が違うように「使っているメディア」も一様ではないのです。
私はこういった観察をもとに、企業と学生が良い出会い、マッチングができればいいなと思って研究しています。その点を2つめのトピックとしてお話します。
2.期待のマッチング、能力のマッチング、フィーリングのマッチング
企業と学生の間で行われるマッチングには、「期待のマッチング」「能力のマッチング」「フィーリングのマッチング」の3つがあると思います。
まずは「期待のマッチング」について。これは私の造語ですが、会社側と求職者側がお互いに何を求めあっていくのか、お互いに何を提供できるのかというのを、できるだけクリアにすることです。勤務地や初任給、年収など。経営理念に共感しているかというようなことも含まれるかもしれません。
次に「能力のマッチング」。企業側は、社員になる人にパフォーマンスを上げてもらわないといけません。求職者がそのための然るべき能力を持っているかどうか。能力をどう測っているのか。面白いのが、アンケート調査などをやってきましたが、人事評価や離職率を統計的に分析すると、ここがうまくいくと満足度が高かったり、会社に残留する人が多くなります。会社に愛着を持ち始めるんですね。会社との距離感がよくなるのです。双方の思いや、やりたいこと、期待を確認できれば、当然残留確率は高まります。
そして、日本企業を見ていく中で無視できないのが「フィーリングのマッチング」です。
ある企業の面接を、実際に見せていただいたことがあります。「会話分析」と言って、どんな言葉を交わしたときにどんな表情をしているか、求職者がどんな答えをしたら面接官は優秀だと感じるのか。面接官に「どのタイミングで採用、不採用を決めるか」という質問をしたら、始まる前までは「最後まで見る」と言うのですが、実際やってみると「10分くらいでわかった」となるんですね。アメリカの実験では、平均が4分だそうです。もちろん、評価が途中で変わることもあるのですが、評価が悪かった人が良くなるケースはあまりなく、良いと思った人がそうではなくなるというケースはあるようですね。
また、採否を最終決定する場にも立ち会わせてもらったことがあります。能力が高くA評価、入社意欲も高い、全国転勤もOKという学生。普通なら内定が出るのではないかと思われると思いますが、そこで人事部長から「うちの会社で働いているイメージが湧かない」という話が出ました。期待のマッチングも能力のマッチングもクリアしているのですが、結局その学生は不採用になりました。
日本企業の場合は、長く務めてくれることが前提になっていて、プロ野球選手みたいにホームランを打ってくれればいいという話ではありません。一緒に働けるか、働きたいかどうか。大学の入試ですらこういうことはあります。「うちの大学っぽいかどうか」という話にはよくなります。フィーリングは日本ではとても重視されるのですね。
それでは、マッチングの中で「期待のマッチング」と「能力のマッチング」について、さらに深掘りしていきましょう。
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<講演者プロフィール>
服部 泰宏氏
横浜国立大学大学院
国際社会科学研究院 准教授 採用学研究所 リーダー
1980年神奈川県生まれ。2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(経営学)取得。滋賀大学経済学部情報管理学科専任講師、同准教授を経て、現在、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授。日本企業における組織と 個人の関わりあい(組織コミットメントや心理的契約)、経営学的な知識の普及の研究、シニア人材のマネジメント等、多数の研究活動に従事。主著に『日本企 業の心理的契約: 組織と従業員の見えざる約束』(白桃書房)があり、同書は第26回組織学会高宮賞を受賞。2013年以降は、人材の「採用」に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けた「採用学プロジェクト」のリーダーを務める。