アベノミクスの施策である、女性管理職比率の引き上げが各社で課題になる約10年以上前から、ダイバーシティに関する部署を設け、取り組んできたのが日産自動車だ。新興国の市場拡大、新たな技術開発など、目まぐるしく経営環境が変化する自動車業界で日産自動車はどのように新卒採用に取り組んでいるのだろうか。
日産自動車の採用から育成までを統括する、日本タレントマネジメントグループ兼人財開発グループマネージャー 品川裕祐氏に話を聞いた。(聞き手:株式会社i-plug 松田)
海外販売比率のUPとアライアンスで、組織もグローバル化へ
松田:
日系のグローバル企業の中でも、ダイバーシティの取り組みなど、人事領域の改革をかなり先進的に進めていらっしゃると思います。その背景には何があったのでしょうか。
品川裕祐 氏:
日産のビジネスがグローバルに展開されていることが大きな要因だと思います。日産の海外販売比率は、1970年代には50%程度でしたが、昨今約90%にまで上昇しています。年間約550万台程度販売しておりますので、その90%となると約500万台が海外のお客様に購入いただいていることになります。多様な、そして多くのお客様に最適な価値や製品を届けるためには、モノカルチャーな組織で考え、モノを作っても、それに十分に応えることは難しいです。そのためには、私たちもダイバーシティな組織になり、異なる考えをぶつけ合うことにより、最適な解を導き出すことが必要だと考えています。よって、私たちのダイバーシティは、グローバル化への対応、多様なお客様に最適な価値をお届けするための経営戦略なのです。
松田:
ルノーとの提携も関係していますか?
品川裕祐 氏:
はい。皆さんご存知の通りルノーはフランス企業です。ルノーとのアライアンスは、シナジーの創出、最大化が重要な目的です。具体的には、部品の共同購買や、プラットフォームの共有、技術の共同開発、生産拠点の活用、人財の最適配置等で、シナジーを創出、最大化を図っています。日本と異なる文化のメンバーと協働し、目的を達成するために、例えば、日産ではworking with French partners、ルノーではworking with Japanese partnersといった研修も行い、相互理解を図っています。
松田:
ルノーと一緒に取り組まれていることは結構多いのですね。
品川裕祐 氏:
そうですね。日産とルノーは1999年に提携し、今年17年目に入りました。これほど長く続いているアライアンスは、自動車業界では他に見当たりません。ダイムラーとクライスラー、フォルクスワーゲンとスズキ、フォードとマツダ。資本提携をしても、なかなか続いていません。日産とルノーのアライアンスが効果を出し、継続している理由は、提携当初の理念である両社の独立性と独自性を尊重するということを今でも共有し、目的達成のために相互理解を図り、愚直に実行しているからだと思います。
求めるのは日本の良さとグローバルの強みを併せ持った、リーダーシップ人財
松田:
品川さんは採用チームを率いていらっしゃいますが、日産自動車として、新卒採用でどのような人を求めているのでしょうか?
品川裕祐 氏:
「専門性」と「リーダーシップ」を有する「和魂多才型」人財を求めています。和魂とは、日本人、日本企業の強みと言われている、主体的に仕事をしながら、積極的にチーム間連携を図り、困難な仕事も最後まであきらめずにやり切ることを意味します。多才とは、グローバルに仕事を行うために、データや事実ベースで、論理的に議論、コミュニケーションすることやオープンマインドでダイバーシティを許容することです。
このような人財を求める背景は、日産自動車の本社機能の役割に起因します。トップマネジメントは、本社機能に対して、戦略策定やその実行を高い専門性を用いグローバルにリードすることを求めています。つまり、日本で採用される方は全員、専門性とリーダーシップを有することと和魂多才型人財になっていただく必要があります。
松田:
採用時に重視されている能力はあるのでしょうか?
品川裕祐 氏:
上記にありますリーダーシップです。ただし、よくイメージされるような、グループをぐいぐい引っ張っていくようなことだけを指しているのではありません。リーダーシップは、あらゆる場面で必要となっており、例えば、新入社員でも自分の担当業務を完遂するために、先輩、上司をリードすることが求められます。
大学名でのスクリーニングはしない。英語力と実践的な能力が肝。
松田:
新卒採用時のスクリーニングはどのような基準なのでしょうか?
品川裕祐 氏:
英語とwebテストや適性検査、エントリーシート等でスクリーニングを行います。そこで見ているのは、リーダーシップの素養があるか、そういった経験をしているか等です。ちなみに、大学名と求める人財像に相関があるとは言えませんので、大学名でスクリーニングは行っておりません。
松田:
足切りのようなものは、設定されていないのでしょうか?
品川裕祐 氏:
英語力については、TOEICの基準を設けています。TOEIC730点を応募の基準(技術系リクルーター採用は600点)にしています。TOEICイコール英語力ではありませんが、730点あれば基礎力はあると言えますので、入社後英語を使った業務にもスムーズに入っていけると思いますし、より実践的な英語力も早期に身に着けることが出来ます。
松田:
日産自動車で働く上で英語はやはり不可欠なのですね。
品川裕祐 氏:
はい。全部署に外国人がいたり、全員が常に英語で会話、メールを書いているわけではありませんが、例えば、カウンターパートに外国人がいたり、上司の上司が外国人であったりすることはよくあります。そういう場合は、日本人同士日本語でミーティングをしていても、最初から資料を英語で作ったりします。また、本社から海外拠点に出張、駐在することもありますし、逆に海外から日本に来ることも多く、海外とのテレビ会議は頻繁にあるので、英語を使ってのコミュニケーションは多いと思います。
目指せば社長のポジションにも。ガラスの天井は存在しない。
松田:
公用語は英語ですか?
品川裕祐 氏:
公用語という概念はありません。TPOを意識し、便利な言葉を使うようにしています。日本人同士で話しているときは日本語。そこに外国人のスタッフが一人でもいたら、英語に切り替えています。
例えば、今年3月〜7月にかけて、私の下にアメリカからMBAの学生をインターンで受け入れました。彼は英語しかできませんでしたが、彼が来て以降、私のチームでは英語を自然に使うようになりました。余談ですが、日本の労働市場の理解の一環として、新卒採用イベントに彼を連れて行き、英語で学生の皆さんにプレゼンしてもらいました。学生の皆さんは少し戸惑っていましたが、これも日産の一部として感じていただけたと思います。
松田:
自然に受け入れるというところに本当のグローバル企業らしさを感じますし、御社らしいですね。
品川裕祐 氏:
そうですね。グローバルという観点でいうと、人財の活用もグローバルに行っています。本社から海外に行くことは、他の日本企業と同様にありますが、日産の特徴は海外から本社に来たり、本社を介さずに海外拠点間での人財の異動も頻繁にあることです。ビジネスニーズに応じて、最適な人財を配置するという考え方です。その結果、海外現地法人でトップを任されている外国人、本社で重要な職責を担っている外国人人財も多数います。海外で採用された人財が、このように活躍していることは、人財確保の面においても有利に働きます。ガラスの天井がないため、世界中の優秀な人財にアプローチでき、キャリアを提示できます。それに魅力を感じ入社して、活躍し、実際にそういうポジションにつく。いいサイクルだと思います。
松田:
目指せば、ゴーンさんのポジションにも行けるということですか?
品川裕祐 氏:
そういうことになります。国籍、性別に関係なく、意欲と能力、実績次第で自身が望むキャリアを実現できますし、それを“早く”実現できるのは日産ならではだと思います。
ダイバーシティ先進企業、日産自動車が取り組む新卒採用とその未来〈後編〉 に続く