― ネット化によって情報の制限がなくなり、就職ナビはエントリーを供給することが使命になってしまっている、それが問題の源ということですね。寺澤さんが注目されている“キャンパスリクルーティング”というのはどんな手法ですか?
寺澤氏:
かつて、大学には『就職部』というものがありました。いわゆる就職をお世話するところです。求人票を受け付けて、学生がそこに応募する。その大学の学生を求めている企業が求人票を出していたわけですね。ところが、就職ナビが肥大化していく中で“そのシステムでは就職ナビには勝てない”となったんです。『就職部』は『キャリアセンター』と名前を変えて、学生のキャリア支援をする存在になりました。
しかし、先に述べた通り就職ナビには問題がある。それを解決するひとつの手立てとして、大学のキャリアセンターが企業に対して見極めをして、求人票を受け付け、学生に対して掲出する。企業と出会う方法としては良いのではないでしょうか。
ただ、それだとキャリアセンターの力量に左右されるという点が課題です。そこに学生が運命を委ねて良いのか、と。それでも、私は就職ナビに依存するよりも、大学がひとつの起点となって、企業と学生を上手にマッチングさせることを実現していくのも良いと思います。実際に、学校自体が問題意識を一にして、取り組んでいるところもあり、実績を出しているキャリアセンターも出てきています。
中野:
いまの就職活動では、大学と学生と企業の関係性が、昔に比べて変化していますよね。大学がそっちのけになってしまっていて。そしてキャリアセンター自体、人もお金もないという状況の大学も多いと聞いています。これが最大の課題ではないでしょうか。キャリアセンターが頑張って就職率を上げても、その影響は入学志願者数に現れます。そうなると入試センターのほうが評価を得て、キャリアセンターに光が当たらない。人もお金もないというのはそこに原因があると思います。
― 大学のシステムそのものにも、課題がありますね。また「入社後活躍」というのが今一番のキーワードかなと思いますが、入社後に思うようなパフォーマンスが出せなくていい評価をもらえず、そこからコミュニケーションが悪くなって早期離職というケースが多いように思います。背景はどのようにお考えですか?
寺澤氏:
かつては、社会人になるまでに競争がありました。兄弟姉妹の中で勝ち、友達の中で勝ち、大学の入試も今のように全入時代じゃないので難しかったです。浪人する人も多かった。そんな中で挫折を味わい、大学生ともなればちょっとした“大人体験”をし、社会に出たものです。社会に出ればまたそこで揉まれて、競争の中で鍛えられていく。今は成長過程で競争に晒される機会が少ないですね。上位の大学でも、受験生を集めないといけないので無試験で受け入れるところもあります。競争や挫折感を味わわず、修羅場体験もせず、経験なく企業に入ったときに、簡単なプレッシャーで潰れてしまうということだと思います。
しかし、今の学生が優秀だという声もありますよ。先日ネットビジネスをやっている会社の人と話した時に「ネットリテラシーもあり、ネット上でのコミュニケーションもスムーズ。とても優秀だ」と。
― インターネットによって世の中の仕事がどんどん変わってきている中で、企業が求める能力を見極める力を備えないといけないということですね。他にも問題に感じていらっしゃるところはありますか?
寺澤氏:
もうひとつは、今の面接の仕組み、選考の仕組みにも問題があるかもしれませんね。ひとりひとりよく見れていないことも多いと思います。もっとコミュニケーションの時間をもって、見極めた上で選考し内定を出せば、入社前からその学生のいろんな情報を知った上で採用することが出来る。
短期間で大量の学生を集めて、選抜して落としていく中で、ある種の同質性を選考の中で持ってしまい、同じような人ばかり採用してしまって、個性がない、個性がないと言っている側面もあるのではないでしょうか。
中野:
私も前職で採用面接をしていたときに同じように思ったことがあります。45分で3人と話して「これで何がわかるんだ!」と。一対一で話してもわからないのに。お酒を飲みに行って、3時間くらい話したり、一日中ずっと一緒にいればわかるんですが。
寺澤氏:
母集団を増やすから、じっくり見ることができないというのもあります。お互い理解しないまま選考が進んで、ある時点でばっさり切ってしまわないといけないというのが今の状況ですね。もう少しじっくり話をすれば大学なんて関係なくいい人見つかるということがあるかもしれない。
こういった今の新卒採用の課題に立ち向かうという、御社のOfferBoxに注目しているのですが、これを作ろうと思った経緯はどんな経緯ですか?
中野:
私はもともと前職、インテリジェンスという転職情報会社にいました。ちょうど就職雑誌がネットに変わるときですね。先ほど出てきた一括エントリーシステムというのは、アルバイト求人でもあったんです。そのときは、掲載企業から批判が集中しました。「応募はあるけれど実際に面接に来ないじゃないか!」と。そしてすぐそのシステムはなくなったんですよね。でも新卒だけそのシステムが残っていた。そこにすごく違和感があって、調べてみました。すると、就職が決まらない学生と、3年以内に早期離職する学生が、全体の48%と約半数を占めている。これは何か課題がありそうだなと思ったのがきっかけで、どこに課題があるのかを探るために企業や学生に話を聞いてまわりました。
まず感じたのは“今の学生は優秀”だということ。しっかり勉強していますし、ボランティアや、留学をしている子も多い。語学力も持っていますし、学生団体を作ったりと、何かしらやっているんですよ。
では企業はどうかというと“早期離職はコストがかかりすぎて、そういう人は採用したくない”と。コスト面もありますが、心の問題もありますよね。辞められるのはやっぱりつらいですし、そこを解決したいと企業は思っていました。
では大学かなと思ったのですが、就職部もキャリアセンターに変わりながら、自らを現在に合った形に変えようとしている。ただ一向によくなっている感はない。残るは就職ナビのような、“つながり方”に問題があるのかなと思いました。
やはり紙からネットに変わる移行期に大きな問題が存在しているというのが最初の答えでしたね。ネット化によって情報が無制限になります。学生が企業を評価するというのはなかなか大変です。でも就職活動なんて初めての学生は、山ほどある企業の中から一社を選ぶなんて、そんな能力、ノウハウがあるわけありません。それなのに、無制限にしてしまうのは非常に無責任じゃないかなと思いました。
寺澤氏:
OfferBoxを作る上で、こだわった点はどんなところなのですか?
中野:
3つありまして、まず一つ目は“ノウハウを持っている企業側からアプローチする手法”です。オファーということですね。
二つ目は、新しい市場なので“ルールを設けないといけない”と思いました。企業がオファーを送れる数には100通という上限があり、学生もオファーを承認できる数には10社(現在は15社)という制限を設けました。学生も企業も、その選考がストップ(終了)すると、その分枠は増えて、企業は新たな学生にオファーでき、学生はオファー承認できる枠が増えるシステムです。情報はオープンになっていても、無責任に行き過ぎるとネットの悪影響を受けると思いました。
三つめは“成功報酬”にこだわりました。ビジネス的に参入しやすいという意味もあったのですが、通常の求人広告のように先にお金をいただいてしまうと、コミットするところは「応募数」になってしまいます。最終的にいい人材が入社した時が、お客様がまず初めに喜ぶところ。その後は定着して活躍することが最終目標ですが、まずはじめの“入社”を、組織全体でこだわって、そこで初めてみんなが喜ぶようなモデルにしたかったんです。そうすれば、組織自体も健全なところに向かって活動していくのではないかという思いを込めて作ったのがOfferBoxです。
寺澤氏:
今のお話を聞いて、圧倒的なイノベーションは「制限」ですね。逆求人は、以前からFace to Faceでやってきたところが多く、なかなか規模が広がらない。量的な広がりが難しい。これをネット上でやると聞いたときは、どのようにやるのかな?と思いました。無尽蔵に広げようとすると、結局就職ナビと同じようになるのではないかなと。“制限をつける”というのは言われてみれば、その方法があったか!と思いますが、なかなか気が付かないですよね。
もうひとつすごいなと思うのは学生の集客力です。一般の就職ナビは学生を集める競争がとにかく大変です。なので、現在はリクナビ、マイナビの二社に集約されていますが、大変な広告費が必要な事業モデルですし、運営企業の体力勝負になってしまいます。しかしOfferBoxは、学生の口コミで広がっている。この事業が学生のためになっているということに、学生が気づいている。それが大きいですね。
でも、企業側も学生側も、上限があることに不満はないのですか?大量採用する企業なんかは“もっとオファーさせてくれ!”と言われそうですが…。それを断っているというのは勇気のいることですね。
中野:
業界で言う、タブーをやりましたね。はじめは怖かったですけど、実際にやってみると人気企業だと10名オファーをすると1名採用できるんです。一般的な企業でも40~60人にオファーをして1名採用できる。人気のある企業はより効率よく使えるので、上限は同じでも結果はあまり変わりません。また、制約がある中で動くと質にコミットします。これを撤廃すると量にコミットしてしまう。ネット上のビジネスですけど、最終的には実際に会ってもらう前提のマッチングですから、やはり制限は必要ですね。きちっとしたコミュニケーションをとろうというインセンティブが働くので、想像以上に効果が出ていると感じています。
寺澤氏:
キャンパスリクルーティングは、学生の未来を“大学が呼び込む企業だけ”に限定していいのかという乗り越えられない壁がありました。一方で、学生は世の中のすべての企業に会えるわけではないですよね。自分が処理できる数の中で会っていけばいい。数を求める必要はない、と私は思っています。子供たちにも、自己分析も企業分析も必要ない。会った中で興味があったところだけを調べればいい、はじめから企業分析をする必要はない、と言っています。将来性のある会社なんて、アナリストでも判断が難しい。仕事選択は、偶然が左右します。それでいいのではないかと思います。おそらくキャパを超えてやるので、就職ナビというのは自分で制限できない人はうまくいかないのだと思いますね。
中野:
今の世の中だったらいくらでも方法はあるので、どうしても行きたい企業があれば自らエントリーすればよいと思います。興味を持ったというのはいいことですから。逆にオファーというのは、偶然の出会いですね。
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