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【国際ビジネスブレイン 新将命氏③】戦略的人財育成とは「座学」「メンター」「修羅場経験」

― 思い切って任せて、結果責任を問うことで人は伸びる。

 

中野:

経営者が方向性を示し、そのための良い人材を採用して、働きやすい環境を作っていくと、今よく起こっているような「グローバル展開ができない」とか、「新規事業が生まれてこない」というような課題も、解決していくのでしょうか?

 

 

新氏:

そうですね。あとはやはり育成です。私は人材育成の要諦を3つにまとめています。

 

ひとつめは、座学。セミナーや研修会、社外の勉強会に出席させたりすることですね。座学がもたらすメリットは、経営やリーダーシップ、マネージメントの原理原則を体系的に学ぶ機会が持てるということですね。

 

「忙」という漢字があります。心を亡くすと書きますね。日常的に忙しいと、目先のことにかまけてしまい、物事の本質や原理原則を勉強しないで人生が終わってしまう危険があります。時々でいいから、座学の場所を与えて、これを学ばせなければなりません。これが人材育成に必要なウェイトとして10%です。

 

ふたつめは、メンターを持つということです。ビジネスや経営の知恵、生きる勇気を授けてくれる人のことを英語ではメンター、日本語では師と呼びます。こういう人を3人持つと人間は伸びますね。迷ったときに知恵と勇気をもらえます。日経新聞の「私の履歴書」に出てくる人に共通することは2つあって、ひとつは、成功者。もうひとつはみんな若いころにメンターを持っていることです。少し前に王貞治さんが出ていましたが、荒川博というメンターに出会わなければ、ホームラン王の記録は生まれなかったでしょう。人材育成に重要なウェイトでいうと、これが20%。

 

あとの70%は修羅場経験ですね。難しい仕事を担当すること。重要な新製品の責任者をやる、海外に拠点を立ち上げる旗振り役になる。そして、その仕事に対して結果責任を持たせる。若いうちからこういうチャンスを与えられていると、人は間違いなく伸びます。欲を言えば、海外経験が入ればさらに人材育成の加速度は増します。

 

 

中野:

なるほど。思い切って任せてみるのが良さそうですね。

 

 

新氏:

年配者が若者をダメだと思っているほど、本当はダメではないんですよね。思い切って任せて結果責任を問う、ということで人は伸びます。

 

 ― 最大のリスクは、リスクを冒さないこと。失敗を奨励し、変化を恐れぬ組織へ

 

中野:

伸びるチャンスを与えることが大切ですよね。でも大企業など、なかなか難しいケースもあるのではないでしょうか?

 

新氏:

日本というのは結局はしがらみ文化なんですよね。ある大企業があって、子会社の不振から売却や廃業を考えたとき、子会社の社長を昔の自分の上司がやっている、なんてことはよくあることです。そうするとつい、思い切った手が打てなかったりする。しがらみに縛られすぎると、思い切った大鉈をふるうことが出来なくなりますね。

 

また、人間には「変化が必要だ」という気持ちがある反面、変化に対する恐怖心があるんです。会社が変わったら、自分のスキルが必要なくなるかもしれない、自分の仕事がなくなるかもしれない。という恐怖感があるんですね。これが抵抗勢力になります。この抵抗勢力を説得して賛成勢力にするか、だめな場合は排除するか。これをやらない会社は、いつまで経っても元の木阿弥です。

 

 

中野:

そうですよね。変化に対応しなければ会社は取り残されてしまいます。では、どうすれば変化に対する抵抗勢力を排除できるとお考えですか?

 

 

新氏:

3つあると思います。

ひとつめは、変わることによるリスクもあるけれど、パラダイムが変わっていく中で会社がこのままだ取り残されてしまう。“変わらないことによるリスク”を理解してもらい、ある種の脅しをかける。

 

ふたつめは、変わったあとにこんな楽しみがある、こんな会社の姿が見えてくる、というように、変わった後の喜びの光を示すことです。

 

また、物事を変えようとすると失敗の可能性がありますよね。チャレンジしてうまくいかなかったら降格人事や減俸にしてしまうと、誰も変化しようとしなくなります。ですから、健全な失敗を奨励しよう、というのが三つめです。失敗の許容では弱い。奨励しないといけません。

 

昔ホンダが、本田宗一郎さんが社長の時代に、社員に対する表彰制度で「会社に対して一番大きな損害を与えた人が社長賞」ということをやったそうです。これは本田さんらしいですね。

 

 

中野:

失敗を奨励する会社なら、変化も起こりやすいですね。

 

 

新氏:

よく定年退職の挨拶であるでしょう、「お陰様で大過なく40年勤めることができました」という言葉。大過がない人は、大功もないんです。この言葉は「私はろくな仕事をやってきませんでした」と言っているようなものです。大過を冒すチャンスを会社が否定してしまうとみんな縮こまってしまいますよね。

 

最大のリスクは、リスクを冒さないことです。でも日本のほとんどの企業はリスクを冒さないですね。

 

 

中野:

だから新しいことが生まれなくなってしまうのですね。

 

 

新氏:

ある東証一部上場企業の社外役員をやってるんですが、先日その役員会でビジネスプランのプレゼンテーションがあったんですが、基本的には昨年までの延長で、ちょこっとした改善はたくさんあるものの、革新的なものはない。「これは狂気の沙汰だ」と言いましたが、現状を打破してある意味ワイルドでクレイジー、思い切ったことを考えることが必要です。こういう気持ちがない会社はダメでしょうね。型にはまった生き方からは、型にはまった考え方しか出てこない。「型破りをやる」ということをトップが奨励しないといけません。

 

 

中野:

確かに、トップが奨励していれば、型を破ることに抵抗がなくなりますね。

 

 

新氏:

魚は頭から腐る、と言いますが、会社が良くなるかダメになるかは社長で9割決まります。「馬鹿な大将敵より怖い」と言いますね。経営者で会社が変わってしまうのです。

 

― 人材市場の流動性が上昇。リテンションも重要事項に。

 

中野:

短期長期の結果が出せる環境づくり、またそういう人の採用、トップの考え方、とてもよくわかりました。そのほか、これからさらに求められるものは何でしょうか?

 

 

 

新氏:

採用、育成、教育、登用。そして、ますます重要になるのはリテンションですね。日本も人材市場の流動性が高まっています。辞めてほしくない人材をどうやって保持するのか。これが人事の機能としてますますこれから重要になっていきます。これについての仕掛けづくり、仕組みづくりをやらない人事は、“人事”という言葉に相応しくない。“他人事”ですね。

 

 

中野:

日本も、海外ほどではないものの、転職が当たり前の時代になってきました。人事としての役割は、人を司る幅広いものになっていきますね。

 

 

新氏:

私は人事の専門家じゃないけれど、経営をやるなら人事もやらないといけません。経営者として、これが一番重要ですから。人事の仕事として、成果主義制度の策定とか、評価制度とかの話をよく聞きますが、そんなことは、些末な話。経営者として、人事として、本当の本質を押さえないといけないのではないかと思います。

 

― 社会が変化していく中、変化しない企業はどんなに大手でも厳しい時代だ。会社が生き抜くためのパワーの源泉は経営者だが、重要な作用点は人事にあると言えるだろう。

 

 

■株式会社国際ビジネスブレイン 代表取締役社長 新 将命(あたらし まさみ)

1936年東京生まれ。早稲田大学卒。

シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップなど、グローバル・エクセレント・カンパニー6 社で社長職を3 社、副社長職を1 社経験。2003 年から2011 年3 月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバーを務める。「経営のプロフェッショナル」として50 年以上にわたり、日本、ヨーロッパ、アメリカの企業の第一線に携わり、今も尚、様々な会社のアドバイザーや経営者のメンターを務めながら長年の経験と実績をベースに、講演や企業研修、執筆活動を通じて国内外で「リーダー人財育成」の使命に取り組んでいる。

 

■株式会社i-plug 代表取締役 中野智哉

1978年12月9日兵庫県生まれ。2001年中京大学経営学部経営学科卒業。2012年グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。株式会社インテリジェンスで10年間求人広告市場で法人営業を経験。また新卒採用面接や新人営業研修など人材採用・教育に関わる業務を経て、2012年4月18日に株式会社i-plugを設立。

 

(文:松田真弓)