― 新卒採用にダイレクトリクルーティングを導入した背景。
中野:
大手企業も、ダイレクトリクルーティングの導入が徐々に進んできています。御社にもOfferBoxを導入いただいていますが、自動車業界では導入が早いほうですね。背景にはどんなことがあったのでしょうか。
山極氏:
日産自動車の人事戦略にそった人財を採用するための一つの手段として、ダイレクトリクルーティングは魅力的でした。採用において、個人を知ることや、個人と仕事とのマッチング、個人と社風のマッチング、そんなことを考えていると、やはり“人”を知りたくなります。大量にエントリーをいただいて、そこから短期間で適性を見極めていくよりも、我々が本当に欲しい人材がどこにいるか、その欲しい人材に対してアプローチした方が、結果的に時間もコストも節約できるはず、という考え方です。
中野:
個人と会社と職種という3つのマッチングをやっていく中で、まずは個人の情報が多いツールで、さらにそこから絞って会い、一人と会う時間を長くする。そこがポイントなんですね。新卒だけでなく中途採用でもダイレクトリクルーティングを活用されているのですか?
山極氏:
中途採用に関しては、活況なので人材がなかなか出てきません。現役で活躍されている方に声をかけて、興味ありますか?という話から入ります。受け身だとだめですね。こちらからダイレクトにアプローチします。
中野:
導入されて、いいところ、悪いところが見えてきていらっしゃると思いますが、どう感じていらっしゃいますか?
山極氏:
我々は、会社で働く人財の多様性が、非常に大事だと考えています。面接官も人間ですので、無意識に自分と同じような人を採用したくなるのですが、それが続くと似ている人が集まってしまういます。例えばOfferBoxは、一般学生のほかに理系学生、日本人留学生、体育会系学生といろんなバックグラウンドを持った人を探せるようになっていますよね。そういったシステムは良いと思います。
将来的にはもっと発展してほしいですね。例えば、実家が自営業で、小さな頃から商売感覚を身につけてきたような人が探せたら面白いと思います。あとは第二新卒なんかもいいですよね。当社は、卒業後3年以内の人は、新卒と同じ扱いで受け入れています。3年間でどんな経験を積んできたのか、充実していたのか、そこで何を感じたのか。そういった情報があると、多様な人材にアクセスできていいですね。
― 会社の目標が変われば、人事のやるべきことも変わる。
中野:
個人をしっかり見て、マッチングを図っていくとのことでしたが、そこにまだ注力されていない人事の方も多いのが現状だと思います。御社としては、会社として進めていらっしゃるのでしょうか?それとも山極さんのお考えでしょうか?
山極氏:
私は、「採用の変革」「戦略的な採用のアプローチを考えて実行してほしい」というタスクを受けて仕事にあたっています。しかし、このような人事戦略立案担当が一人いるだけでは、実際の業務は動きません。企業の文化や会社で働くそれぞれのメンバーが持っている価値観など、この根っこを持っているメンバーの協力がないと、変革は実現できないと思います。
上司と部下が定期的に面談する、キャリア、業績、目標設定の話をちゃんとする。これが当社の場合は普段から当たり前に実行しているので、個人を知ることに対して全社員が違和感なくやっているし、出来る素地があります。この点は、非常に重要だと思います。
中野:
そういった土台をつくることが大事なんですね。
山極氏:
大事ですね。現場の協力が得られないということで悩んでいる人事の方って多いですよね。
中野:
多いですね。当社のサービスも新しい取り組みとして導入いただくことが多いので、意欲的な人が一人いるだけではかなか進みません。担当者だけにやる気があっても、結局全体の仕組みを変えられず、普通の選考フローをとってしまい、うまくいかないケース。社長や人事責任者にやる気があっても、人事担当者が動かずストップしてしまうケースもあります。
山極氏:
そうですね。人事部内の関係者だけでなく、人事部以外の従業員の方々の協力が得られるかどうかも、大事なところです。ここはカルチャーを変えていくしかありません。トップが大号令をかけて、変えることができれば随分楽に回るようになると思います。
中野:
そこの仕掛けが重要ですね。今後人事の役割というのは変わっていくでしょうから、カルチャーを変えていくことが必要になってきますね。
山極氏:
人事と言っても、会社の中の一ファンクションです。ものを扱う生産や開発があって、お金を扱う経理財務があって、人を扱う人事があって。それぞれが、利益の最大化という目的のために動かないといけない。会社の目標が変われば、人事のやることも変わらなければなりません。人事だけでなく、どのファンクションでも同じことだと思います。
中野:
そういった意識を持っている人事の方は多くはないと思います。山極さんがそういった意識を持ったのは何かきっかけがあったのですか?
山極氏:
日産の人事は「いろんなことをやっているよね」というイメージを持たれているようですが、CEOカルロス・ゴーンの「人事はこうあるべき」「エクセレントカンパニーの人事はこうだ」という思いがあって、その思いのとおりに“なっていない”というところが変革の始まりでした。たとえば、一つの基本は数字を使って話すこと。なんとなくはだめです。経営目標の達成手段として人事は存在しているので、人的資源の情報は定量的に把握できていないといけない、ということです。
中野:
人事の仕事は“人”のことなので、なかなか定量的に話すというのは簡単ではないですよね。
山極氏:
私はもともと人事ではなくて、企画のバックグラウンドを持っています。そんなこともあって、人事をやってみてくれるか、ということになったのだと思います。
【日産自動車 山極毅氏③】ビジネスリーダーに必要な「心・技・体」。それを育てるタレントマネジメント。 に続く