人材業界とは?市場規模や動向、仕事に向いている人などを解説

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「人材業界は事業の種類や職種が多くてよくわからない」
「少子高齢化や景気の影響で、やめとけという人もいて不安」

人材業界は求職者にも企業にも感謝されるやりがいのある仕事ですが、上記のような疑問・不安を感じている人もいるのではないでしょうか。

また、人材業界は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、近年環境が大きく変化している業界のひとつです。

この記事では、人材業界の市場規模から、分野、市場の動向や将来性など解説していきます。向いている人や売上高ランキングも紹介するので、業界研究の参考にしてください。

人材業界とは

人材業界とは、「採用・組織・研修・人事制度など、企業を人材の面から支援をする業界」です。支援の方法は、人材紹介、人材派遣、求人広告、人材コンサルティングなどさまざまです。

人材業界は、昨今の動向から見ても今後需要が高まることが予想されており、社会貢献性の高い業界ともいわれています。

人材業界の市場規模

株式会社矢野経済研究所の調査によると、2021年度の人材業界の市場規模は9兆5,281億円です。これは前年比6.9%増であり、2022年度には10兆円を超える見込みであると発表されています。

この背景には、同一労働同一賃金制度による派遣人材の単価上昇、専門性の高いIT人材への需要の高まりなどが挙げられるでしょう。

ただし、新型コロナウイルス禍で失業者が増えて需要が高まった再就職支援は、感染拡大の落ち着きにより市場が縮小すると考えられます。

人材業界の4つの分野

人材業界といっても、分野は大きく4つに分けられます。人材紹介、人材派遣、求人広告、人材コンサルティングです。それぞれで事業内容や企業に対する採用サポートの方法が異なるので、確認していきましょう。

人材紹介

人材紹介は、自社に登録している求職者と、正社員や契約社員を採用したいと考えている企業とをマッチングさせる事業です。新卒の人材紹介と中途の人材紹介の2つに大きく分けられます。

求職者からはスキルや人柄、今後のキャリアプランなどを、クライアント企業からは求める人物像や事業の課題などをしっかり聞き出したうえで互いをマッチングさせるため、精度の高いサポートができます。

自社から紹介した人材がクライアント企業に入社したら、クライアント企業から紹介手数料をもらうという成功報酬型のビジネスモデルを採用している企業が多いです。

人材派遣

人材派遣は、労働者を自社で雇用し、別企業に派遣スタッフとして派遣する事業です。

労働者がクライアント企業で働き始めても、その労働者と直接的に労働契約を結んでいるのは人材派遣会社です。よって、給与は人材派遣会社から労働者に支払われます。

人材派遣の場合、派遣スタッフがクライアント企業で働いている期間中、クライアント企業から派遣手数料を支払ってもらう仕組みを採用している企業が多いです。

求人広告

求人広告は、企業の求人情報をWebや雑誌などに掲載し、求職者を集める事業です。クライアント企業から求人内容やその企業で働く魅力などを聞き取り、魅力的に紹介することが仕事です。

求人の内容は正社員や契約社員、派遣社員からアルバイト、パートまで多岐にわたります。

求人広告ではその広告が実際の採用につながったか否かには関係なく、広告を掲載することで発生する広告料金をクライアント企業からもらっています。

人材コンサルティング

人材コンサルティングとは、企業の人事戦略の立案や実行をサポートし、企業が抱える人材関連の課題を解決する事業です。

採用自体をサポートするだけでなく、採用制度そのものや人事制度、研修などについても幅広くコンサルティングします。

人材紹介や人材派遣は新しく人を採用することを支援する事業ですが、人材コンサルティングは「採用・組織・労務・人事制度など人材関連の課題解決を支援する事業です。

人材コンサルティング会社は、コンサルティング費用としてプロジェクト単発で報酬を得ることがメインですが、ツールを提供することでサブスクリプション(月額課金)型のサービスを提供する企業もあります。

人材業界の動向・トレンド

人々が働く環境や雇用の仕組みなど、人材業界を取り巻く状況は今まさに変化を続けています。そんな人材業界を理解するにあたって、押さえておきたい5つの動向・トレンドを見ていきましょう。

テレワークへの対応が必須

新型コロナウイルス禍でテレワークが推進される中、人材業界でも環境に合ったサービスの提供が求められています。

その一例が、オンライン面接です。人材業界の中でも人材紹介業の場合、自社から紹介した求職者とクライアント企業との面接をサポートすることがあります。オンライン面接が増えたことで、対面面接とは違う難しさを感じる求職者・企業もいるでしょう。

そうした点について、求職者・企業の両方に適切なアドバイス・サポートをすることが、新たに必要になっています。

終身雇用が崩壊

2019年に経団連の中西宏明会長が「終身雇用なんてもう守れないと思っている」と発言をしたことが波紋を呼びました。

終身雇用が崩壊すると、人材の流動性が高まります。人材の流動性が高まると、企業は自社の魅力を高めて優秀な人材の流出を防ぐこと、人材流出を補うために採用数を増やすことが求められます。

このように、終身雇用が崩壊することで人材関連サービスの需要は高まるため、人材業界にとっては追い風と考えられます。

同一労働同一賃金への対応が必須

人材業界の中でもとくに人材派遣業では、同一労働同一賃金への対応が必須です。同一労働同一賃金とは、正社員と派遣社員・パートとの不合理な待遇差を禁止する制度です。

これを受けて、人材派遣会社では派遣先企業に対する派遣料金の増額交渉、派遣スタッフへの待遇変更の説明、その他さまざまな手続きや書類作成などをする必要が生じています(厚生労働省「派遣労働者の待遇改善に 向けた対応マニュアル」より)。

派遣先企業が増額交渉に応じてくれないなどのトラブルも起きやすいため、この制度への対応は人材派遣会社にとって1つの課題といえるでしょう。

グローバル人材の需要増加への対応

日本では経済成長の鈍化や人口減少を受けて企業の海外進出が進んでおり、グローバルで活躍できる人材への需要が高まっています。諸外国を相手に仕事をする場合、語学力だけでなく交渉力や商慣習への理解が必要となります。

こうした需要に応えるため、人材業界では海外志向の強い求職者を集める工夫をしたり、クライアント企業に対してグローバル人材採用・育成の支援をしたりする企業が増えています。

海外進出を進める企業を相手に仕事をする機会も今後増えていくと考えられるため、グローバルで活躍するために必要な素養を理解しておくことが大切です。

人材業界の将来性

次は人材業界の将来性を見ていきましょう。以下の3点をピックアップして紹介します。

  • 少子高齢化による労働人口の減少
  • 景気の変動から受ける影響
  • 転職市場の伸長

少子高齢化による労働人口の減少

今後、少子高齢化が進み労働人口が減少すると、企業の人手不足が加速します。企業は人手不足を解消するための人事戦略の見直しが必要になるため、人事戦略の立案・実行をサポートする人材コンサルティング企業にとっては商機が増加します。

ただ、労働人口が減少するということは、最終的には求職者の減少に繋がります。求職者が減ると、人材紹介・人材派遣業界の規模は縮小していく可能性が高いと考えられます。

人材業界で長期的にキャリアを築いていくことを考える場合は、人口動態・予測などについて調べ、自分なりの仮説を持つことをおすすめします。

景気の変動に左右されやすい

雇用は景気に左右されやすいです。景気が上向きになり成長が見込めれば企業は採用数を増やし、景気が下向きになると企業は採用数を抑えるのが一般的です。

そのため企業の採用活動をサポートする人材業界も、景気に業績が左右されやすくなります。
ただ、景気が悪い中でも業績を上げていくためには、優秀な人材の力が必要だという考え方の企業もあります。

同じ人材業界でも、領域によって景気と業績がどのように連動するかが大きく異なるため、人材業界を志望する場合は、今後考えられる景気変動に強い領域かどうかを考えてみるのもよいでしょう。

再度転職市場が伸長する可能性も

厚生労働省の公表している「令和4年版労働経済白書」によると、新型コロナウイルスが感染拡大した2020、2021年は2年連続で転職者数が減少しています。

しかし、それ以前は、2011年から転職者数の増加が続き、2019年には、2002年以降で最多の転職者数を記録していました。今後、先に紹介した終身雇用の崩壊の影響もあり、転職者数は再度増加していく可能性があるという意見もあります。

なお、転職者が増える要因としては、転職を希望する求職者が増えるだけでなく、採用する企業が増加することも挙げられます。採用する企業が増えると、企業側は「なかなか良い人材に出会えない」という課題に直面することも多いです。、

その場合は、企業が自社に合った人材を効率的に採用するための採用戦略や体制の構築支援が必要になり、人材コンサルティング会社も活況となることがあります。

人材業界の主な職種

人材業界には複数の分野があるだけでなく、複数の職種もあります。どの職種に就くかによって誰に対してどのような仕事をするのかが変わってくるので、しっかり確認しておきましょう。

営業職

人材業界の営業職は、新たなクライアント企業を獲得するための新規開拓営業のほか、既存のクライアント企業に対して以下のようなフォローをおこないます。

  • 人材紹介:求人内容のヒアリング・すり合わせをして求人票を作成し、企業の採用活動をサポートする
  • 人材派遣:人材派遣の活用方法についてのアドバイスや、現在派遣している自社スタッフへの教育・研修のアドバイスをする
  • 求人広告:求人広告の内容についてすり合わせ、調整をする
  • 人材コンサルティング:クライアント企業の課題を聞き出し、解決策を提案する

キャリアアドバイザー(CA)

キャリアアドバイザーは、人材紹介会社で求職者と面談をし、マッチする企業を紹介する職種です。求職者が希望する企業に入社できるよう、書類選考対策や面接対策をすることもあります。

また、面談を希望する求職者と面談するだけでなく、企業の求人に合う人材を既存登録者のデータベースから探し出し、「このような企業がありますが一度面談しませんか?」とアプローチすることもあります。

この場合、企業に採用のアドバイスをする営業(リクルーティングアドバイザーとも呼ばれる)を兼務する形をとることもあります。

コーディネーター職

コーディネーター職は、人材派遣会社で派遣スタッフと面談をして派遣先企業を紹介したり、新しい派遣スタッフを募集し、登録をおこなったりする職種です。

派遣スタッフの性格や経歴、スキル、希望などをしっかり把握して長く働ける企業を紹介することが求められます。もし派遣スタッフと派遣先企業との間で問題が起これば、間に入って解決を図ります。

派遣スタッフと信頼を築くことで、派遣スタッフに合った企業を紹介し、適切なフォローができるようになるため、関係構築能力が重要になります。

企画・マーケティング職

企画・マーケティング職は、自社メディアやサービスの企画・開発をおこなう職種です。
人材コンサルティング会社の場合は、主にコンサルティング先となる企業に向けたBtoBサービスの企画・マーケティングになりますが、人材紹介会社や人材派遣会社、求人広告会社の場合、利用企業を募集するためのBtoBマーケティング施策と求職者を募集するためのBtoCマーケティング施策の両方が必要になります。
担当部署が分かれていることも多いですが、社内異動で両方を経験することも可能なため、BtoCとBtoB両方のマーケティングスキルを身につけたい人にとっては、魅力的な環境といえます。

広告制作職

広告制作職は、求人広告業において広告を作成する職種です。営業職がクライアント企業から聞き取ってきた求人内容や求人広告の希望を反映させ、実際に広告を作成します。

求人広告のデザイン・作成をするだけでなく、営業に同行して一緒にクライアント企業の話を聞いたり、クライアント企業へのインタビュー、撮影をしたりすることも仕事の1つです。

クライアントの希望をくみ取り、求職者を引き付けるデザイン力・コピーライティング力が求められます。

コーポレート職

コーポレート職とは、人事や経理、総務、広報、法務などの職種を総称したものです。コーポレート職は、会社が円滑に回るように社内を整える印象がある方もいるかもしれませんが、必ずしもそうではなく利益に直結する働きをする場合もあります。

例えば、人材紹介会社の場合、「入社後に短期離職した場合の返金」に関する条項を契約で設けることがあります。ある程度の短期離職の発生は事業計画に盛り込むこともありますが、想定以上に短期離職による返金が増えると事業計画から乖離する要因にもなります。

そのため、法務職は紹介先企業が抱えるリスクを総合的に評価したうえで適切な契約内容かをレビューする必要があったり、経理職は企業ごとに異なる契約内容に応じた処理が求められたりすることもあります。

このように、会社の利益・業績に関わる重要な役割を担うこともあります。

人材業界で働く魅力

人材業界で働く魅力としては、例えば次の3点が挙げられます。

  • 人の人生に深く携われる
  • 多種多様な人に出会える
  • 働きやすい環境が整っている

人の人生に深く携われる

人材紹介会社や人材派遣会社では、新たな仕事に就くサポートをします。人材の流動性が高くなったとしても、やはり転職は人生の一大イベントです。

そうした人生の大きな転換期に携われるということは、貴重な経験です。求職者にどのような企業を紹介するか、転職に向けてどのようなアドバイスをするかなどによって、求職者のその後の人生は大きく変わってきます。

人の人生に深くかかわる分責任は大きいですが、やりがいも大きい業界だといえるでしょう。

多種多様な人に出会える

人材業界で働くと、多種多様な人に出会えます。クライアント企業や求職者が属する業界は多岐にわたるうえ、出会う人々の職種や職位もまた多様なためです。

例えば、クライアント企業と求人のすり合わせをする際には、採用担当者だけでなく各部署の部長や社長・副社長などから話を聞くこともあります。求職者にも、新卒の就職活動から第二新卒、企業の経営メンバーまでさまざまな人がいます。

幅広い業界・職位の人に出会い話を聞くことで学びを得られるだけでなく、自身の人脈を形成していくことにもつながるでしょう。

働きやすい環境が整っている

人材業界は、働きやすい環境も整っています。

人材業界は仕事の終わり時間が遅くなりがちだと聞いたことのある人も多いでしょう。とくにコーディネーター職やCAの場合、派遣スタッフや求職者と面談できるのは彼らの仕事が終わってからなので、一般的な企業の終業時間後から忙しくなる傾向にあります。

しかし、その分フレックスタイム制を導入していたり、平日に休みを取れるようになっていたり、自分のライフスタイルに合った働き方を選べる企業も多いのが特徴です。

人材業界に向いている人の特徴は?

他の業界と同じように、人材業界にも向き・不向きがあります。人材業界の場合は次のような人が向いているといえるでしょう。

  • コミュニケーション能力に優れている
  • 知的好奇心が高い
  • 行動力が高い

コミュニケーション能力に優れている

人材業界では多数の求職者やクライアント企業の担当者と関わるため、コミュニケーション能力が重要です。ただし、ここでのコミュニケーション能力とは、素早く相手と打ち解け話ができることだけではありません。

求職者と関わる職種の場合、人生を左右する転職活動を任せてもらうからには求職者から信頼してもらう必要があります。企業と関わる場合も、担当者の本音や企業の本当の魅力を聞き出す能力も求められます。

求職者やクライアントなど相対する人によって、必要なコミュニケーションは異なります。自分のコミュニケーションスタイルが合う分野や職種を選ぶことを推奨します。

知的好奇心が高い

知的好奇心が高い人も人材業界に向いています。

たとえば求職者との面談では、相手に興味をもって深く理解することで、より精度の高いマッチングが実現できます。また、クライアント企業との打ち合わせでは、企業の沿革や創業のきっかけなど、さまざまな面の理解を深めることで、その企業の文化や風土に合った人材や人事戦略を提案できるようになります。

思わぬところから求職者の魅力や企業の魅力を発見することもあるため、相手に興味を持ち情報を積極的に収集できる人が向いていると言えます。

行動力が高い

行動力が高い人も、人材業界に向いています。
人材業界で扱う求人は、該当する人材が見つかり次第締め切られてしまいます。締め切られる前に素早く人材を探し出し、面談・紹介をし、採用につなげなければなりません。

仮に紹介できたとしても、クライアント企業は複数の人材系企業を利用していることも多いので、行動が遅いと思うように専攻を進められないこともあります。そのため、行動力が高く、スピード感をもって仕事を進められる人が向いているといえます。

人材業界の売上高ランキング

最後に、人材業界の売上高ランキング上位3社を紹介していきます。なお、売上高ランキングは、2021年度の有価証券報告書の内容に基づき作成しています。

1位:株式会社リクルートホールディングス

人材業界の売上高第1位の企業は、株式会社リクルートホールディングスです。人材以外の売上を除いた売上高は約2兆4,891億円です。人材関連のサービスを提供する主なグループ会社とその事業内容は以下の通りです。

  • 株式会社リクルート:人材紹介、メディア運営
  • 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ:経営人事領域におけるコンサルティングなど
  • 株式会社リクルートスタッフィング:人材派遣
  • Indeed, Inc.:求人広告

ヘッドハンティング、再就職支援など幅広いサービスを展開しており、海外を拠点とするグループ会社もあります。

2位:パーソルホールディングス株式会社

人材業界の売上高第2位の企業はパーソルホールディングス株式会社です。売上高は約1兆608億円です。主なグループ企業とその事業内容は次の通りです。

  • パーソルテンプスタッフ:人材派遣、アウトソーシング、紹介予定派遣/人材紹介
  • パーソルキャリア:人材紹介、転職メディア、ダイレクトソーシング、副業・兼業・フリーランス支援、キャリア自律支援、再就職支援

グループ会社は他にも多くあり、上記事業の他にも人事・組織コンサルティングや教育・研修など幅広く手掛けています。

3位:アウトソーシング

人材業界の売上高第3位の企業は株式会社アウトソーシングです。売上高は約5,693億円です。株式会社アウトソーシングは、国内外の企業に対するアウトソーシングをおこなっています。主なグループ会社は、以下の通りです。

  • 株式会社アウトソーシングクエスト:国内サービス系アウトソーシング
  • 株式会社PEO:国内製造系アウトソーシング
  • 株式会社アウトソーシングテクノロジー:国内技術系アウトソーシング

株式会社アウトソーシングでは、人材を派遣するだけでなく、工程全体の改善や総合的なコスト削減、品質向上も含めたサービスを提供しているのが特徴です。

まとめ

以上、人材業界の市場に関する情報や職種、企業について紹介しました。
大きく、人材紹介・人材派遣・求人広告・人材コンサルティングに分類されていますが、いずれも「人」の面から企業・社会に貢献する仕事です。
新型コロナウイルスの感染拡大で大きく変化した業界ですが、今後の業界の成長に向けて明るい兆しも見えてきている業界です。

また、人材業界と一口にいっても、事業内容や提供価値、企業文化などはそれぞれ大きく異なります。少しでも興味を持った方は、ぜひ個別の企業について調べてみてください。