「事業の幅が広すぎてどんな職種があるのかよく分からない」
建設業界に興味をもって就職活動を進めるなかで、このような疑問を抱えている人は多いのではないでしょうか。
規模が大きいことから学生人気の高い建設業界ですが、安定性だけを志望理由にしてしまうと、入社後のミスマッチが起こりかねません。本当に建設業界を志望するのであれば、仕組みや将来性について正しく理解することが大切です。
この記事では、建設業界の概要や最新動向、将来性について詳しく解説していきます。代表的な職種と向いている人の特徴も紹介するので、ぜひ業界研究に役立ててください。
建設業界とは
建設業界とは、建物の建設から土地や水路の土木工事まで、包括的に請け負う業界全体を指します。私たちが暮らす住宅やマンションの建設や、自動車が走るための道路整備などが建設業界の仕事です。
建設業界の業種は主に、ゼネコン、サブコン、ハウスメーカーの3つに分けられます。ゼネコンは建築・土木事業を総合的に手がける企業で、ゼネコンの補完的な役割を担っているのがサブコンです。
ハウスメーカーは戸建て住宅の建設がメインですが、大手ハウスメーカーの中にはゼネコンのように幅広い事業を展開している企業も見られます。
建設業界の市場規模
国土交通省の建設総合統計によると、2022年上半期(1月~6月)の全国出来高(民間・公共)は25兆478億円です。2021年上半期の25兆3955億円、2021年下半期の26兆9417億円と比べるとやや減少しています。(『2013年4月から2022年5月までの推計値』と『月次調査』から算出)
ただ、2022年の1月~4月は対前年同期比でいずれもマイナスでしたが、5月~10月は前年同月の出来高を上回っています。下半期にかけて堅調な推移を見せていることから、2022年全体では昨年の出来高を上回りそうです。
建設業界の動向
業界研究を深めるためには、業界の仕組みだけでなく最新動向まで頭に入れておく必要があります。気になるニュースについて面接で聞かれた際に自信をもって答えられるよう、建設業界で話題になっていることを押さえておきましょう。
民間工事は伸びるも、公共工事が落ち込む
建設総合統計によると、民間工事の全国出来高は若干の伸びが見られるものの、公共工事では減少傾向が見られます。2021年上半期と2022年上半期を比較すると、民間工事は平均で4.5%上昇しているのに対し、公共工事は平均で8.5%の減少です。
新型コロナウイルス拡大の慣れによって景気が回復傾向にあり、それに伴って民間工事の出来高は増加していますが、公共工事の出来高の回復はやや遅れています。
建設技能者の高齢化が進む、技術継承が課題に
高齢化によって多くの業界で後継者不足が課題となっていますが、建設業界も例外ではありません。建設工事の直接的な作業を担当する建設技能者の高齢化が進んでおり、技術継承が課題になっています。
国土交通省の推計によると、建設技能者全体の約4分の1を60歳以上が占めています。10年後にはその大半が退くことになるため、技術継承や働き方改革などによる、若い人材の確保と育成が喫緊の課題です。
大手を中心に効率化の動きが見られる
大手ハウスメーカーやゼネコンを中心に、業務を効率化する動きが見られます。若い人材確保・育成の課題に対応するため、今後もこうした省人化の流れが建設業界全体で進んでいきそうです。
例えばスーパーゼネコンの多くは、遠隔からリアルタイムで現場映像の確認と、担当者との通話ができるウェアラブルカメラを導入しています。そのほか清水建設では、現場で活躍する自律型ロボットの実証実験に力を入れるなど、業務効率化の動きが活発化しています。
建設業界の将来性
市場規模の大きな建設業界ですが、持続的な成長と発展に向けていくつかの懸念材料があります。自分の描くキャリアプランを実現できるか確かめるためにも、建設業界の将来性について知っておきましょう。働き方改革の促進が必須
建設業界では、出来高が増えて労働力が多く求められていますが、人手不足が続いています。特に前述のとおり、若手の人材不足は深刻です。
建設業界でも働き方改革が進められていますが、建設業界の一部では「長時間働いている人が偉い」「私用で有休を取ってはならない」といった価値観が残っている企業も存在しており、これまで形成されてきた建設業界のイメージが払拭しきれていない部分もあります。
若手人材を確保・育成していくためには、さらに働き方改革を促進し、残業時間の削減やワークライフバランスの充実など職場環境を改善していく必要があります。
生産性向上のための構造改革が求められる
慢性的な人手不足に対応するためには、新たな人材を確保・育成するだけでなく、人手が足りなくても運用していけるような仕組みを作っていく必要があります。その対策の一つとして進められているのが、既存の制度や規制の見直しです。
2019年に建設業法等の一部を改正する法律が公布され、監理技術者の専任緩和や建設資材製造業者へ勧告できる仕組みづくりが図られたように、生産性向上のための構造改革の動きがあります。
人手不足をロボットやAIなどの技術で解消する
ロボットやAIなどのテクノロジー導入によって効率化を図る動きも見られます。人手不足への対策としてはもちろん、単純作業をロボットに任せることで職場環境を改善し、建設業界をより魅力的な業界にするのが狙いです。
これまでは掃除や警備などの簡単な仕事をこなすロボットがほとんどでしたが、最近ではAIを搭載した高度なロボットが登場し始めています。例えば、清水建設が大阪大学と共同で開発した溶接ロボットはその代表例です。
建設業界の職種
一つの住宅、一つのダムを建設するためには非常に多くの職種が関わっています。職種ごとの大まかな仕事内容と働く魅力を知り、自分が活躍できそうなフィールドを考えてみましょう。
施工管理部門
施工管理は建設工事や土木工事の全体を取りまとめる部門です。プロジェクトの計画に基づき、工事の品質と安全が保たれているか、スケジュール通りに進められているかを指導・監督しています。
大きな責任が伴う大変な仕事ですが、全体をまとめる立場から多くの人とコミュニケーションをとり、1つの現場を作り上げていける点が施工管理の面白さです。危機管理能力に優れた人や、周りを巻き込んでいくリーダータイプの人に向いています。
設計部門
設計は建物のデザインや構造、設備などを設計する部門です。意匠設計・構造設計・設備設計の3つに大きく分けられ、建物の外観のような大枠から、内部で快適に過ごすための設備のような細部まで手がけています。
設計の魅力は、自分のアイディアをデザインや設計に取り込める点です。クリエイティブな仕事なために、時には良いアイディアが思い浮かばない難しさはありますが、建築のスタート段階から関われるのは大きな魅力といえます。
技術部門
技術開発は新しい技術を開発したり、プロジェクトごとに最適な工法を提案したりする部門です。品質や安全性、環境への配慮、工期の短縮などを実現するため、高度な技術を通して建設業界に貢献しています。
技術開発の魅力は、新しい技術と情報にいち早く触れられる点です。まだ浸透していない技術を手探りで自分のモノにしていく過程が技術開発の大変なところであり、同時にやりがいでもあります。
営業部門
営業は自社技術を提案し、工事を受注するために売り込む部門です。プロジェクトの構想段階から携わり、顧客へのヒアリングや予算の管理、社内各部署との連絡調整などの業務を担当します。
営業の魅力は、自分の働きによって会社に大きな利益を生み出せる点です。担当者として顧客のニーズをうまく引き出し、複数の企業の中から自社を選んでもらったときには、非常に大きな達成感を得られるでしょう。
事務管理
事務管理は幅広い業務を担当する、いわゆる本社管理部門です。人員や資材の管理、財務・経理、総務・人事・法務など、会社の経営に関わる事務全般を業務としています。
事務管理の魅力は、他部門をサポートすることによって会社の発展に貢献できる点です。担当業務をきちんと遂行することで各部署の職場環境を整えたり、感謝の言葉をかけられたりしたときに喜びを感じられます。
建設業界に向いている人
建設業界で長く働いていけるか不安な人は、向いている人の特徴と自分の特徴を照らし合わせてみましょう。当てはまらない人は建設業界に向いていないというわけではありませんが、以下のような特徴があると職場環境への適応がスムーズです。コミュニケーション能力が高い人
1つのプロジェクトに数多くの人が関わる建設業界には、コミュニケーション能力が高い人が向いています。自分の意見を分かりやすく伝えたり、相手の意図を正確に汲み取ったりできる人が活躍しやすいでしょう。
例えば、さまざまな職人や技能士が集まる工事現場で、支障なく工事を進めるためには1人で業務を進めるわけにはいきません。安全かつスムーズに工事を進められるよう、担当者との綿密なコミュニケーションが求められます。
体力がある人
職種によって肉体的な負担の大きさに差はありますが、建設業界ではハードな仕事が多めです。たくさんの仕事をこなせる体力がある人は、どんな業種・職種でも重宝されるでしょう。
特に体力を求められるのは、施工管理や土木作業などの現場仕事に従事する場合です。スケジュールによっては残業や夜勤が発生するケースもあり、時間が不規則な中でも身体を壊さないかが重要になります。
危機管理能力の高い人
危険な事故を未然に防ぐため、危機管理能力の高い人が建設業界に向いています。単純な作業でも集中力を切らさず、一つ一つ慎重にこなせる人は建設業界で活躍しやすいでしょう。
なかでも、工事現場で全体を取りまとめる立場にある施工管理は、高い危機管理能力を求められる職種です。危険な工具と機材を使用する工事現場では、少しの油断や手抜きが大事故に繋がりかねないため、いかに事故の可能性を減らせるかが重要になります。
数字に強く緻密な人
設計や事務管理などの仕事には、計算の際に問題が起きないように、細かなところまで緻密かつ正確に作業できる人が向いています。数字に強く、細かな確認作業を怠らない人が活躍しやすいでしょう。
扱うプロジェクトの規模が大きい建設業界では、1つの計算ミスや勘違いが大きな損失に繋がります。数字が苦手で見るのも嫌な人ではそういったミスのリスクが高まるため、苦手意識がある場合は克服していく必要があります。
建設業界の売上高ランキング
最後に、建設業界で売上高トップ3の企業を紹介します。以下に紹介する概要を参考に興味のある企業が見つかったら、ぜひ自分でも各企業の特徴や差別化点を詳しく調べてみてください。
1位:大和ハウス工業株式会社
大和ハウス工業は、大阪府大阪市に本社を置くハウスメーカーです。住宅事業をメインとし、賃貸住宅事業や流通店舗事業、建築事業、環境エネルギー事業など、幅広い事業領域で活動しています。
住宅事業メインのハウスメーカーでありながら、経営の多角化によって収益源の分散に成功しているのが大和ハウス工業の強みです。
ゼネコンの中で売上高トップの鹿島建設に倍以上の差をつけていることから分かるとおり、建設業界で確固たる地位を築いています。
2位:積水ハウス株式会社
積水ハウスは、大阪府大阪市に本社を置くハウスメーカーです。住宅事業をメインとし、建築・土木事業や分譲住宅事業、都市再開発事業。リフォーム事業などを展開しています。
戸建住宅事業に限れば業界トップのシェアを誇っているのが積水ハウスの強みです。
建築関係の仕事よりも、住宅関係の仕事に興味がある人にとって、有力な就職先候補となるでしょう。
3位:鹿島建設株式会社
鹿島建設は、東京都港区に本社を置くスーパーゼネコンです。建築・土木事業をメインとし、開発事業やエンジニアリング事業、環境事業などを展開しています。
スーパーゼネコンのなかでも特にグループ会社が多く、海外展開にも積極的な姿勢を見せるなど、事業領域拡大に力を入れているのが鹿島建設の特徴です。
海外事業では、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアにある現地法人を中心にビジネス展開しており、グループの売上高の多くを占めるまでに成長させています。
まとめ
今回は建設業界の概要や代表的な職種、向いている人の特徴などを紹介しました。
同じ建設業界でもハウスメーカーとゼネコンでは業務内容が異なるうえ、ハウスメーカーのなかでも企業によって強みが異なります。自分の強みと仕事に求める基準に合う就職先を見つけるため、まずは業種や企業ごとの違いを理解していきましょう。
建設業界は理系が活躍しているイメージが強いかもしれませんが、営業部門や事務管理部門に代表されるように、文系が活躍できる場も多く存在します。大学の専攻によって就職先を決めつけず、広い視野をもって就職活動に臨んでください。