娘が会社選びをはじめた12月頃は、「総合職を志望するのか、一般職を志望するのか」を私とよく話していました。
この総合職、一般職などの職制の区分は、会社毎の独自のものなので、それぞれの会社によって職制の呼称も内容も異なりますが、就活においては結構重要なのです。といいますのは、「どこで勤務するのか」「どういう仕事をするのか」という働くことの基本におおいに関係しているからです。
一般的には、総合職は、企画や営業、管理業務など業務全般に従事する職員で、転勤することもありうる職制です。一方、一般職は、事務や定型的な仕事、営業のアシスタント的な職務を行う職制で、基本的には転居を伴う転勤はありません。当然ながら、総合職の方が一般職に比べて高い給与体系になっています。また企業の採用活動は、職制ごとに行うのが普通で、入社してからも一度決まった職制を変更するのは簡単ではありません。
私が入社した30年前は、大手企業の多くはこのような職制ではなく、男性、女性で区分していました。現在の総合職的な職務は男性に、一般職的な職務は女性にと暗黙のうちに決められていたのです。それが、男女雇用機会均等法の施行などを経て職制で区分するようになったのです。ただ今でも総合職は男性中心、一般職は女性中心に運営されている会社は少なくありません。
また、総合職は、極端に言えば、「どこにでも行く」「なんでもする」という仕事ですので、特に女性の場合は、結婚して住まいが変わったり、子育ての時期に働き続けることが難しくなることがあります。私の妻は、子育てをしながらでも働けることを重視していたので、一般の企業ではなく娘に公務員か教師になることを勧めていました。
このように女性のライフサイクルの点からも、この職制の課題を会社選びの段階で検討しておく必要があるのです。単に会社が有名だとか、CMが多く流れていて馴染みがあるといったことだけではなく、自分はどういう働き方を望んでいるのか、どういう職制が自分にとって働きやすいのかにポイントをおくと会社選びを具体的に考えることができます。
私の娘の場合は、「同じ仕事をするなら高いレベルを目指したい」と考えていましたし、「親から経済的・精神的にも独立したい」というのが働く重要な動機でしたので、はじめは、全国転勤のある総合職を目指していました。その結果、ある金融機関から一旦内々定をもらいました。
ところが、就活中に祖母が大きな手術を受けて、その介護に家族が取り組む姿をみて、方針を変更しました。地元で働くことができる仕事を優先して、一般職も視野に入れてあらためて各社に応募しました。このように「どこで勤務するのか」「どういう仕事をするのか」は、非常に重要なのです。
最近は、地域限定総合職や準総合職などという名称で、転勤する地域を一定範囲に抑えたり、仕事の内容を限定した職制を新設する会社もあります。企業側も職制に工夫を凝らし、社員の為に働きやすい職場を作るとともに、優秀な学生を採用しようと努力していることも知っておくといいでしょう。
ひとつ留意しておいてほしいのは、総合職になったからといって、入社から定年までいつも転勤がついて回るわけではないのです。専門職や研究職的な仕事ですと、ひとつの勤務場所だけで定年を迎える人もありますし、本人の健康面や家族などの身上面を配慮して転勤を控えることもあります。また一般職でも本人の同意を得て一定期間転居を伴う転勤を行っている会社もあります。同じ職制内の働き方にもある程度多様性があるのです。
そういう意味からも、職制の区分は、各々の会社独自のものなので、自分自身の目で、その会社の具体的な情報を収集することが大切です。職制は定められていても、実際の運用は違っている場合もないとはいえません。
具体的には、会社説明会に出席したり、会社の先輩などに直接話を聞いてみることでしょう。また、職制とその運用を見ていくと、会社が社員に対してどういう働き方を求めているかのスタンスが見えてくることがあります。これも会社選びをする際のひとつの見方になると思います。
「asahi.com(朝日新聞社)の就活朝日2011」での連載を一部加筆
筆者プロフィール
楠木新(くすのき・あらた)
1954年(昭和29年)、神戸市生まれ。京都大学法学部卒業後、大手企業に勤務し、人事・労務関係を中心に、企画、営業、支社長等を歴任。勤務の傍ら、大学で非常勤講師をつとめている。
朝日新聞be(土曜版)にコラム「こころの定年」を1年あまり連載。07年10月から08年5月までダイヤモンド社のウェブサイトで娘の就職活動をリアルタイムに追ったドキュメント「父と娘の就職日誌」を掲載。
著書に「就職に勝つ! わが子を失敗させない『会社選び』」「就活の勘違い」など。
楠木新さんの主な著書
就職に勝つ!わが子を失敗させない「会社選び」(ダイヤモンド社)
就活の勘違い 採用責任者の本音を明かす (朝日新書)