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世界で5万5,000種類もの製品を提供する3Mの強さは顧客との距離感にあった
それではスリーエム ジャパン株式会社コーポレートリサーチラボラトリー統轄技術部長でいらっしゃる宇田川さんにお話を伺いたいと思います。貴社では今年にはいり、ビジネスグループをこれまで5つだったものを4つに再編されたとお聞きしました。なぜ、このような再編に至ったのでしょうか?
一番の目的というのは、お客様へのアプローチの仕方を整理して、お客様、あるいはマーケットの変化に対してより素早く反応し、意思決定を早めて行動に移し、新たな価値を生み出していくためです。デジタライゼーションはじめ世の中の動きが速くなってきている中で、お客様のニーズが絶えず変化していることが背景にはあります。お客様の課題解決を営業力、マーケティング力、製品力を総動員して提案するスタイルが3Mの強さであり基本的なアプローチとなります。
よりお客様に寄り添うことができる再編ということですね。4つのビジネスグループにはどのようなものがあるのでしょうか?
1つはトランスポーテーション&エレクトロニクスといって自動車や電気機器メーカーを顧客とするOEM事業、2つ目はセーフティ&インダストリアルといった一般工業にアプローチする事業、そして3つ目は病院などを顧客とするヘルスケアビジネス、最後の4つ目として皆さんがよくご存知のポスト・イット® 製品やスコッチ・ブライト™ スポンジたわしといった一般消費者向けのコンシューマーの4つとなります。それぞれのビジネスグループがグローバルの戦略をもって取り組んでおり、我々はジャパンとして主に日本のお客様に対してどういう提案ができるかを考え取り組んでいます。
今回の再編について宇田川さんはどのような手応えを感じていらっしゃいますか ?
お客様ごとにグループを再編することによって、社内の活動がよりシンプルになり、変化に対してよりアジャイルに動けることができるようになったと感じています。お客様も素早く変化に対応していかなくてはなりませんし、私たちもそれに合わせて変化し続けていかねばなりません。場合によってはお客様よりも素早く動かないといけないこともあります。そのためには意思決定を素早くし、行動に移せる体制にすることが欠かせないわけです。
「アジャイル」という言葉がでてきましたがIT業界ではよく聞くようになってきていますよね。
3Mでもキーワードになっていますね。ラピッドプロトタイピングと言っているのですが、完成してからお客様に見せるのではなくて、開発途中であっても早い段階でお客様にお見せして使用いただき、そのレスポンスによって修正していくという手法を取り入れています。お客様とも一緒になって製品を開発していくため関係性が強まりますし、早いサイクルで製品化していくことができればお互いにとっても競争優位性の獲得につなげていくことができると思っています。
人と人とがつながる仕掛け、脈々と受け継がれるイノベーションへの強い想い
グローバルの戦略やビジネスグループの再編の影響を受けて技術部門の動きには変化はあったのでしょうか?
ビジネスグループには別れていますが、私たちの技術はいずれのグループでも活かすことができる共通のものです。技術部門においても4つのビジネスグループに分かれてはいますが、組織の垣根はなく、常に連携できるようにしています。技術を組み合わせることが高度化、複雑化するお客様の課題解決には欠かせないためです。
「組織の垣根をなくし、常に連携できるようにする」というのは多くの企業が実現を目指すものの悩みを抱えていることだと思うのですが、3Mではなぜそれが実現できているのでしょうか?
そうですね。グループを作ればそこだけで完結することもできてしまいますからね。3Mには「テクノロジープラットフォーム」という社内で共有している技術基盤がありますが、実をいうとそれは人と人とをつなげるネットワーキングの仕組みなんですよね。技術は人に紐づいており、テクノロジープラットフォームを介して自由にアクセスしネットワーキングすることが可能です。人と人とのつながりを促進し風通しの良さを残したまま、ビジネスグループという単位ではオペレーションをきっちりやるといったスタイルにチャレンジしています。
他にもビジネスに役立つと考えることであれば、自分に与えられたテーマとは別に労働時間の15%を費やしてその研究に取り組むことができる「15%カルチャー」や技術者同士が交流をする「テクニカルフォーラム」といったものもネットワーキングを促進することに貢献しています。
制度や仕組みではわからない「3Mらしさ」はありますか?
そうですね。技術部門の社員であっても「これはビジネスになるのではないか」といった観点を持ちながら研究活動に「15%カルチャー」を使っている人が多いという点でしょうか。決して明文化しているわけではないのですが、脈々と3Mの中で受け継がれているように思います。
3Mでは一人のアイディアを何人かの小さなグループで製品にまでもっていきます。その過程においては、「それってなんのバリューがあるの?」を問い続けます。実際に、そこが明確にならないと正式なプロジェクトとしてもキックオフはできません。
本質は何かをとことん突き詰めていく感じですね。
おっしゃるとおりです。私が現場にいた頃は、よく「イノベーションとは何?」「リサーチとイノベーションとの違いは何?」といったテーマについて技術者同士で議論をしていましたね。こういった議論が3Mの中ではずっとなされています。「イノベーションを起こしたい」と強く思っている技術者が多いのも3Mの特徴だと思います。
One of themではなく高い専門性を活かしマイノリティになるというキャリア選択
コーポレートリサーチラボラトリーについても教えていただけますか?
はい。3Mのコア技術に関する研究開発に取り組んでいるのがコーポレートリサーチラボラトリーとなります。グローバルではアメリカ、日本、中国、ドイツの4拠点だけとなっています。なぜ日本にあるのかと言いますと、開発、製造に関して歴史があり、技術的な蓄積があるためです。さらに、日本の顧客がグローバルに出ていく中で、顧客のニーズに応えるために高いレベルの技術力を磨きました。
具体的に、どのような研究開発がコーポレートリサーチラボラトリーでは行われているのでしょうか?
コーポレートリサーチラボラトリーは4つの組織で成り立っています。まず、材料を取り扱うマテリアルラボラトリー、製造プロセスの研究開発を行うプロセスラボラトリーの2つがあります。マテリアルラボラトリーは化学会社であれば一番想像しやすいと思います。例えば、粘着剤や接着剤、フィルムといった製品の基礎となる材料の研究開発をしています。プロセスラボラトリーでは、そういった材料をどのように製造するかのプロセスを研究しています。プロセスというのは混ぜたり、押し出したり、塗ったりと様々です。3Mは材料とプロセスのマッチングで様々な製品を開発してきていますのでマテリアルラボラトリーとプロセスラボラトリーの2つは3Mの競争優位性のコアと言えますね。そして、3つ目に分析や解析を専門に行うアナリティカルラボラトリー、そして4つ目に顧客の変化に対応するためここ数年で特に注力しているシステムラボラトリーがあります。システムラボラトリーでは、AIやIoT、ソフトウェア、エレクトロニクスといったデジタル系のテクノロジーの領域の技術開発を行っています。
製品だけでなくそれを支えている研究領域も非常に広いですね。採用における課題としてはどういったことがあるのでしょうか?
そうですね。3Mは多くの学生に化学の会社であるということはわかってもらっていますが、IT業界に行こうと思っている学生にも3Mという会社は魅力的な会社なんだよと伝えたいですね。
例えば、最近、AI・機械学習を扱う「データサイエンス」が新しくテクノロジープラットフォームに加わりました。特にアメリカにおいて3Mはダウ工業株30種平均の構成銘柄の中の一つであり、メジャーな企業の1社であるためこのような分野でもトップタレントが集まってきています。そういった技術者とも製品開発やネットワーキングの機会を通じてつながることが可能です。そういった環境があるというのは3Mの面白さだと思いますね。
博士のステップを踏み、高い専門性や自分の考えをしっかり形成しているからこそ働きやすい環境があると思いますし、そういったベースがしっかりしている異分子の人材にも是非来てほしいですね。そして、そういった方にテクノロジープラットフォームに新たな1要素を加えてもらうことで、これまでにない製品の開発、イノベーションを起こすことができると考えています。
最後にこの記事を読んでいる博士の皆さんに一言お願いします!
日本のコーポレートリサーチラボラトリーの役割も先にご紹介したグローバル戦略の変化の中で少しずつ変化してきています。これまでは「日本のために」でよかったのが「いかにグローバルに貢献するか」に、まずはアジアにおける貢献が求められてきています。
それによって求める人財像においても、バックグランドは変わってはいませんがグローバルでのコミュニケーション力や相手のカルチャーを楽しめる力、自分がやっていることをしっかり伝えることができる力といったものがより求められてきています。私自身、これまでアジア、グローバルでの仕事を経験してきましたが、そのあたりの力が大事だと痛感しています。日本国内だけでなく、グローバルでの仕事を経験することで自分の可能性を広げていくことができる会社だと思います。
3Mでは、コーポレートリサーチラボラトリーではなく事業部のラボラトリーに配属されることもあります。他にも様々なキャリアパスがあります。もちろん何十年もコーポレートリサーチラボラトリーで領域を深掘るというオプションも選択できますが、いろいろな分野のビジネス・製品開発を経験して自分の幅を広げていくこともできます。主体的に選択することができる環境があると思います。テクノロジープラットフォームは人そのものです。百聞は一見に如かず、是非3Mの人に会いにきてほしいですね。