東証4市場を3市場に再編する理由
日本にある証券取引所の中で、最大のものは東京証券取引所(東証)です。企業の時価総額や流通株式などの基準によって、東証一部、東証二部、マザーズ、JASDAQの4つの株式市場に分かれていますが、vol.1では2022年4月にこの4市場を3つに再編する予定があると説明しました。時価総額については、あとで詳しく説明します。
なぜ、4市場を3つにするのでしょうか。大きな狙いは、各市場のコンセプトを明確にし、企業のレベル感をそろえることです。
現在の4市場の企業数をみると、東証一部(2179社)、東証二部(480社)、マザーズ(333社)、JASDAQスタンダード(663社)です(2020年11月5日時点)。最もステータスが高く優良企業がそろう東証一部に最も多くの企業が集まるという、よく考えるとおかしな構図になっています。
このような構図が生まれた背景には、東証が一部上場のハードルを自ら下げたことがあります。
東証一部に直接上場する場合、時価総額(企業の株価×発行済み株式数)要件は500億円以上でしたが、2012年に250億円以上に引き下げられました。また、東証二部やマザーズの企業が東証一部に昇格するルートもあり、マザーズからの場合、時価総額40億円でよいなど、基準が甘い点が指摘されてきました。マザーズは「成長企業のための株式市場」という位置付けにあり、企業の昇格を促すという意図があったからです。
ひとたび上場すると上場を中止する企業が少ないという事情もあります。流入は多く流出は少ない。こうして東証一部は膨らんでいきました。その結果、時価総額20兆円のトヨタ自動車(2020年11月時点)と数十億円クラスの企業が混在する、「粒のそろわない」株式市場となったのです。これは海外の投資家からすると非常に分かりにくい市場です。
そこで東証は市場の再編を行うことにしました。下記の図のようなイメージです。
- プライム市場=東証一部にあたる、海外投資家などのグローバルな投資も想定した企業
- スタンダード市場=中堅企業、投資対象としてふさわしい実績のある企業
- グロース市場=新興企業、高い成長性を持つ企業
の3区分です。市場の名称はすべて仮称です。
また、それぞれの市場で、流動性、ガバナンス(統治)体制、経営成績・財政状態の基準を設けます。グローバル投資を想定する企業に対しては、英文開示の義務付けを検討。海外の投資家への情報提供を積極的に行い、日本の株式市場の注目を高めることで海外から資金が流れ、株式市場が活性化すること狙います。
企業の時価総額から株式市場での評価が分かる
企業の時価総額は、企業を評価する1つの指標です。
時価総額は、「株価×発行済み株式数」で計算することができます。考え方としては、市場で決まった株の値段(日によって変わります)と世に出ている株の数を掛けることで、その企業の株の全体の値段が分かる、というものです。例えば、1株1万円で5000株発行している企業の時価総額は5000万円になります。
では、商品企画から製造、販売を一貫して行うSPA(製造小売り)という共通点がある3社──「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング、ニトリホールディングス、「無印良品」を展開する良品計画の時価総額(2020年11月9日時点)を見てみましょう。
企業の時価総額で比較すると、3社の順番は上のようになります。
また、過去3~5年の推移をみると、その企業は上り調子にあるのか、堅調なのか、下降気味かといった、トレンドをつかむことができます。
みなさんはふだん商品・サービスを購入するとき、内容や品質、価格などを比較・検討しているでしょう。みなさんが抱いている企業イメージは、提供される商品・サービスによって形成されていることが多いかもしれませんが、時価総額を知ると株式市場からの評価という別の見方を知ることができます。
時価総額は業界が異なる場合でも企業同士の比較が容易であるため、たびたび指標として使われます。ただし、時価総額は投資家目線の期待が反映されている面が強く、企業のビジネスモデルが変わるなどさまざまな材料で大きく変動することがあります。また、時価総額が高い企業が、自分が理想とする働き方のできる職場とは限らないので、企業研究などの際には注意しましょう。
ほかの企業の株価や株式発行数が気になる人は、ヤフーファイナンスなどで調べてみてください。上場していない企業の価値を測る場合は、決算書をもとに資産などを計算する、似た上場企業の株価を参考にする、などの方法があります。