「自動車業界で活躍する企業ごとの特徴を知りたい」
自動車業界に興味をもって業界研究を進めている学生のなかには、このような悩みを抱えている人が多いのではないでしょうか。日本のものづくりには欠かせない業界ですが、市場規模が大きいだけに、仕組みについて深く理解するのは難しいですよね。
そこでこの記事では、自動車業界の概要から代表的な企業、今後の動向と課題まで詳しく解説していきます。記事の最後では職種別の志望動機例文も紹介するので、自動車業界を目指している人や興味のある人はぜひ参考にしてください。
目次
自動車業界とは
自動車業界とは、自動車の製造・販売に関わる業界のことです。自動車やバイクといった完成車を取り扱う自動車メーカーをはじめ、部品を製造する自動車部品メーカー、自動車の販売をおこなうディーラーなど数多くの企業で構成されています。
日本の自動車業界の市場規模・販売台数
日本の自動車業界の市場規模は、2021年-2022年で63兆9667億円です(トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車など売上高上位9社の完成車メーカーの合計)。
また、OICA(国際自動車工業会)の調査によると、2021年の国内における新車自動車販売台数は約445万台でした。2020年比で-3%、2019年比で-14%と減少傾向にあります。
世界の自動車業界の市場規模・販売台数
OICA(国際自動車工業会)の調査によると、世界全体での2021年の新車自動車販売台数は約8268万台でした。2019年比では-9%でしたが、2020年比では+ 5%とやや増加の兆しが見えます。
新車自動車販売台数では中国とアメリカが圧倒的な数字を誇っており、その2ヵ国に次ぐのが日本です。2ヵ国には到底及ばないほどの差がありますが、日本の自動車業界は世界で3番目の規模を誇っています。
自動車業界の商流・ビジネスモデル
自動車業界全体の商流は、部品→完成車→販売(→関連サービス)の順で構成されています。
自動車部品メーカーが部品を作って完成車メーカーが自動車を組み立て、ディーラーが完成車を販売する、というのが大まかな流れです。
細かな部品から大きな部品まであらゆる部品を使って完成車を作り、無事販売にこぎつけたら再び調達と製造、販売をするサイクルが繰り返されています。
自動車部品メーカー:部品の製造
ボディ、シャーシ、エンジン、ドライブトレインなど、自動車を構成する様々な部品を製造するのが自動車部品メーカーです。
完成車メーカーを取引先としているため知名度はそれほど高くはありませんが、日本の部品メーカーが作る高品質な部品は海外でも評価されており、グローバルに事業展開している企業が多くみられます。
【代表的な自動車部品メーカー】
- デンソー
- アイシン精機
- 豊田自動織機
自動車(完成車)メーカー:完成車の製造
自動車(完成車)メーカーは、自動車部品メーカーが作った部品を組み立てて自動車を完成させる企業です。メディアで見かける機会が多いことから、自動車部品メーカーよりも知名度が高い傾向にあります。
自動車を完成させる以外に、自動車のコンセプト決めや走行テスト、新しい技術の研究開発、既存の自動車の改良なども完成車メーカーの重要な役割です。
【代表的な完成車メーカー】
- トヨタ自動車
- ホンダ
- 日産自動車
自動車販売(ディーラー):自動車の販売
自動車販売(ディーラー)は、一般消費者に対して自動車を販売する企業です。完成車メーカーと一般消費者を結び付ける役割を果たしています。
基本的に、完成車メーカーが所有している専用の販売店は正規ディーラーと呼ばれ、特定の完成車メーカーと契約を結ばず多様なブランドを扱う販売店はサブディーラーと呼ばれてます。
【代表的なディーラー】
- トヨペット
- Honda Cars
- ヤナセ
自動車関連サービス:車載用製品の製造など
そのほか、自動車関連サービスを提供する会社もあります。例えば、自動車の修理・整備をする会社、カーナビやETC車載器のような車載用製品を製造販売する会社などが代表的です。
自動車の製造に直接関わっているわけではありませんが、人々の生活と密接な関係にあるのが自動車関連サービスです。近年は新たなビジネスモデルが続々と登場していることから、今までにない価値を持つサービスが増えていくと予想されています。
自動車業界の日本企業売上ランキングTOP5
【2021年度売上ランキング】- 1位:トヨタ自動車(31兆3795億円)
- 2位:ホンダ(14兆5526億円)
- 3位:日産自動車(8兆4245億円)
- 4位:スズキ(3兆5683億円)
- 5位:マツダ(3兆1203億円)
ここからは各企業の有価証券報告書を参考に、自動車業界の日本企業売上ランキングTOP5を紹介します。各企業の特徴と強みも合わせて紹介するので、業界・企業研究に役立ててください。
トヨタ自動車
【会社概要】
- 本社:愛知県豊田市
- 代表者:代表取締役社長 豊田 章男
- 創立:1937年
- 従業員数:単体7万710人、連結37万2817人
- 売上高:31兆3795億円
トヨタ自動車は国内で圧倒的なシェアを誇り、海外でも確固たる地位を築いている企業です。トヨタの強みはなんといっても、電動車(HV・PHV・EV・FCV)をフルラインナップできるほど安定している経営基盤です。
ここ最近は全方位戦略からEV重視に方針転換しつつあるものの、これほど多方面に資金を振り分けられるのはトヨタならではといえます。
ホンダ
【会社概要】
- 本社:東京都港区
- 代表者:取締役代表執行役社長 三部 敏宏
- 設立:1948年
- 従業員数:単体3万6111人、連結20万4035人
- 売上高:14兆5526億円
ホンダはトヨタ自動車に次ぐ売上を誇る企業です。四輪事業以外に、二輪事業やパワープロダクツ(芝刈り機や草刈り機のような作業用製品を扱う事業)、航空事業などを手がけており、特に二輪事業に強みを持っています。
ダイハツ・スバル・マツダ・スズキと連携するトヨタや、三菱・ルノーと連携する日産に対し、独自の路線を貫いているのがホンダの特徴です。
日産自動車
【会社概要】
- 本社:神奈川県横浜市
- 代表者:代表執行役社長兼最高経営責任者 内田 誠
- 設立:1933年
- 従業員数:単体2万3166人、連結13万4111人
- 売上高:8兆4245億円
日産自動車は、トヨタとホンダに並び日本三大自動車メーカーに数えられる企業です。提携しているフランスの大手自動車メーカー・ルノーと、子会社化した三菱自動車を合わせるとトヨタグループに匹敵する規模を誇っています。
トヨタとの競合を避けるために早くからグローバル展開してきたことで、北米や中国を中心とした海外事業に強みがあります。
スズキ
【会社概要】
- 本社:静岡県浜松市
- 代表者:代表取締役社長 鈴木 俊宏
- 設立:1920年
- 従業員数:1万6267人
- 売上高:3兆5683億円
スズキは軽自動車をはじめとした小型車開発に強みを持つ企業です。軽自動車ならではの魅力を武器に、独自の経営基盤を築くことに成功しています。
軽自動車は日本特有の規格なためグローバル面では大手3社に劣りますが、早くから開拓してきたインド市場においては、他社の追随を許さない圧倒的なシェアを誇っているのがスズキの特徴です。
マツダ
【会社概要】
- 本社:広島県安芸郡府中町
- 代表者:代表取締役社長兼CEO 丸本 明
- 創立:1920年
- 従業員数:単体2万3207人、連結4万9786人
- 売上高:3兆1203億円
マツダは広島県に本社を持つ企業です。スタイリッシュな外装に高級感のある内装、人馬一体を追求した走りでコアなユーザーから支持を得ています。
EVや自動運転といった次世代技術の開発には遅れをとっていますが、提携中のトヨタと急速に距離を縮めており、今後さらにブランド価値を高めていくことが期待されています。
自動車業界のニュースと今後の動向/課題
2018年にトヨタ自動車の豊田章男社長が、「100年に一度の大変革の時代を生き抜くために」と題したメッセージを伝えたように、自動車業界は変革期にあります。
石油を中心とした社会のあり方が見直しされている今、自動車業界にどんな課題があり、今後どう変わっていきそうなのかを知っておきましょう。
世界的な販売台数の減少
新型コロナウイルス感染拡大による販売台数の落ち込みから、回復の兆しが見えた2021年ですが、今後の世界の販売台数は緩やかに減少していくと予測されています。
その要因の1つが発展途上国で起きている人口増加の停滞です。発展途上国を中心に伸び続ける人口ですが、女性の社会進出や避妊知識の普及などによっていずれは頭打ち状態になり、発展途上国の販売台数の減少から世界の販売台数も減少する見込みです。
日本も人口減少と自動車離れの進行
先にも述べたとおり、2021年の国内における新車自動車販売台数は2020年比で-3%、2019年比で-14%と減少傾向にあります。急激に増加に転じるプラス材料がないことから、今後も減少傾向が続く可能性が高いでしょう。
その要因として考えられているのが、人口減少と自動車離れの進行です。人口が減れば自動車を購入する人が減るのは当然として、維持費や購入費用の高さなどを理由に自動車を所有しない人が増えています。
新型コロナウイルスの影響は一時的になる見込み
新型コロナウイルスについては一時的な影響と考えられていますが、販売台数はそれと無関係に減少していく見込みです。
上記でお伝えしたとおり、販売台数の減少には人口減少や自動車離れの進行など、様々な要因が影響しています。新型コロナウイルスの影響だけが販売台数減少の要因ではないため、たとえ感染拡大が収束しても流れが変わることはないでしょう。
CASEへの対応
近年の自動車業界では、「CASE」という用語が業界の今後を語るうえでは欠かせないものとなっています。CASEはConneted Autonomous Shared Electricの略語で、日本語で「繋がる、自動運転、シェアリング、電動化」を意味します。
業界を取り巻く環境を把握するために、CASEがどんな概念なのかを見ていきましょう。
Connected (IoT)
Connectedは繋がるという意味を持つ言葉で、モノとインターネットを繋ぐ情報通信技術「IoT」と非常に深い関わりがあります。
従来の自動車は外部から完全に隔絶された空間でしたが、Connectedでは自動車同士が繋がった状態を実現します。
例えば、自動車をインターネットに接続し、位置情報や道路の混雑状況などを把握できるようにする構想がConnectedです。
Automation (自動運転)
Automationは自動車の自動運転のことです。交通事故の削減や渋滞の緩和、ドライバーの負担軽減などを目的に、自動運転化が進められています。
自動運転のレベルは搭載機能によって1〜5の5段階に分類され、日本では一定の条件下(高速道路など)で自動運転できる「レベル3」の自動車が公道を走れるところまできています。
例えば、レベル3自動運転機能を搭載したホンダの「LEGEND」は、高速道路渋滞時に最大時速50キロ以下での自動運転が可能です。
Shared&Service (カーシェアリング)
Shared&Serviceは、いわゆるカーシェアリングのことです。ソフトバンクやUberに代表される相乗りサービスが国内で普及し始めているほか、無人タクシーの開発が進められています。
カーシェアリングのメリットは、購入費用や駐車場代、燃料費、保険料などのコストがかからない点です。自動車購入の最大のネックであるコスト問題を解決できるため、今後は需要の高い首都圏を中心にカーシェアリング市場が拡大していくと見込まれています。
Electric (電気自動車)
Electricは、電気の力でモーターを動かして走行する電気自動車(EV)のことです。ガソリンに頼らないEVに移行すれば地球温暖化防止に繋がるため、各自動車メーカーはこぞって開発を進めています。
価格の問題から国内ではなかなか普及が進んでいないのが現状ですが、補助金や優遇制度が増えてきているため、徐々に国内のEV市場は拡大していきそうです。
MaaSなど新たなビジネスモデルの構築
販売台数が減少する見込みである以上、新たな自動車ビジネスを構築する必要があります。トヨタが月定額制で自動車に乗れるサービスを提供しているように、各自動車メーカーでは、新車販売以外の方法で収益を確保しようとする動きが活発化しています。
新たなビジネスモデルを構築するうえで注目が高まっているのが、「MaaS(Mobility as a Service)」と呼ばれるシステムです。
MaaSはあらゆる公共交通機関を結び付けるシステムのことで、利用者は目的地までの移動手段や所要時間の検索のほか、予約や支払いまでまとめてできるようになります。
既に国内ではトヨタのMaaSアプリ「my route」が10県でサービス提供されており、新たなビジネスモデルは今後ますます増えていきそうです。
自動車業界の主な職種・仕事内容
ここからは、自動車業界の主な職種・仕事内容を紹介していきます。自動車業界の商流には様々な職種がありますが、今回は就活で特に人気のある完成車メーカーに絞って紹介します。職種選びの参考にしてください。研究開発職
研究開発職は、新しい自動車や自動車部品の技術の開発、既存製品の改良のための研究開発をおこなう職種です。IT、モーター、エンジンなど幅広い分野の専門家が集まり、テーマに沿った研究を進めていきます。
完成車メーカーが進める研究分野は非常に幅広いため、テーマによって求められる専門知識とスキルは大きく異なります。研究開発職を目指すのであれば、幅広い分野のなかで特にどの分野に関わりたいのかを明確にしておくのがポイントです。
生産技術職
生産技術職は、自動車や自動車部品の生産や進捗管理を担当する職種です。生産の効率化や品質維持、安全に自動車を生産・供給するためのリスク管理などの役割を果たしています。
生産技術職のやりがいは、自らの手で自動車に命を吹き込めることです。どんなに素晴らしい研究や企画があったとしても、実際に完成車として組み立てなければ人々の生活に貢献できないため、生産過程に携われることが大きなやりがいとなります。
企画・マーケティング職
企画・マーケティング職は、自動車や自動車部品のコンセプトや販売方法を考える職種です。市場調査に基づいて人気になりそうな自動車を考えたり、消費者が自動車を買いたくなるようなキャンペーンを企画したりしていきます。
企画・マーケティング職の魅力はなんといっても、自分のアイディアが形になることです。企画に関わった自動車が実際に街を走っている姿を見かけたときには、何事にも代えがたい達成感を得られるでしょう。
営業・販売職
営業・販売職は、自社で生産した自動車を顧客に販売する職種です。イメージしやすいのは自動車ディーラーの営業・販売色でしょう。一般消費者へ自動車を販売します。
完成車メーカーの営業・販売職の場合は一般消費者ではなく、主に法人対象となります。
他の業界の営業・販売職と異なる点は、年収や福利厚生などの待遇面が充実していることです。完成車メーカーのほとんどは大企業なため、働く環境がしっかりと整備されている傾向にあります。
一般事務職
一般事務職は、カスタマーサービスや情報システム、経理・財務、調達、人事など幅広い事務を担当する職種です。完成車メーカーにある様々な部門をサポートする、縁の下の力持ち的存在として活躍しています。
一般事務職の魅力は、他の職種と違って原則転勤がないことです。トヨタの業務職(一般職)は毎年30~60人程度と、完成車メーカーの一般事務職採用は少なめですが、ワークライフバランスを保ちやすいのが魅力となっています。
自動車業界の志望動機の例文
最後に、自動車業界の志望動機の例文を3つ紹介します。志望動機を考えるときのポイントは、企業や職種ごとの特徴をよく理解することです。
「自動車業界のどの商流で働きたいのか」「どんな職種で何を成し遂げたいのか」まで具体的に掘り下げるよう心がけましょう。
自動車部品メーカー研究開発職の例文
「部品がなければ自動車は作れない」「部品1つで自動車の特徴が大きく変わる」という点で、完成車メーカーでは味わえないやりがいがあると思いました。
なかでも御社は、微細藻類を使ったCO2吸収・バイオ燃料化の研究や、ディーゼルエンジンシステム開発など、将来を見据えた研究開発にいち早く取りかかっています。
環境問題に対して確かな技術を持っているところに魅力を感じ、多くの自動車部品メーカーから御社を選びました。
完成車メーカー生産技術職の例文
なかでも私が携わりたいのは生産技術の仕事です。自動車づくりでは企画を考えたり、部品を作ったりすることが大切なのは間違いありませんが、製品の良し悪しは生産過程の仕事にかかっていると考えています。
素晴らしい企画をきちんと再現できるかは生産過程の技術で決まるため、生産技術職として企画や部品に価値を与える仕事がしたいと思いました。
設計者やエンジニアの要求を明確に再現する生産ラインを設計し、機能・性能以上の価値を作り出すことが私の目標です。
自動車ディーラー販売職の例文
部品メーカーや完成車メーカーも志望先として悩んだのですが、一般消費者と最も距離が近いのはやはりディーラーです。いい買い物ができて喜ぶお客さんの姿を見たときに大きなやりがいを感じられると思い、ディーラーを志望先に選びました。
「地域社会の交通事故ゼロ実現」という目標に代表されるように、御社は販売数だけを追うのではなく、地域の未来を考えた取り組みもしています。
そんな視野の広さが、1人1人に寄り添った提案をしていきたい私の考えとマッチすると思い、数あるディーラーのなかから御社を志望しました。
まとめ
以上、自動車業界の業界研究に役立つ情報と、職種別の志望動機例文を紹介しました。
市場規模が大きいことから志望先として人気の自動車業界ですが、業界のなかには多様な企業と職種があります。同じ自動車業界でも部品メーカーとディーラーではまったく役割が異なるため、それぞれの違いをよく理解してから選考に臨みましょう。
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