人事は経営の一員。制度はどうあるべきか、アクションに落とすならどうするのか。人事のプロフェッショナルとしての仕事が、今求められていること。

 

― 日産自動車のタレントマネジメント。

 

中野:

山極さんは、日本タレントマネジメント部の責任者も兼任されているそうですが、御社の育成システムはかなり注目されていますよね。グローバルカンパニーのタレントマネジメントについて教えていただけますか?

 

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山極氏:

当社は150か国以上で商品・サービスを提供しています。それぞれの国で、現地の優秀人財の登用が進んでいますので、出身国によらずグローバル共通で評価できるシステムを入れています。また、ハイパフォーマーをマネジメントするような仕組みも導入されています。徐々に現地の優秀な人材が育ってきて、中には現地で成果を出し、本社に逆出向でやってくるというケースも出てきまして、とてもうまくいきました。しかしその反面、日本人が若いときに海外で経験を積む機会が減ったのです。

 

車は、昔は輸出していました。そこから海外に出て行ったのですが、最初に生産を現地化しました。その後、開発も現地化。次に営業を現地化したのです。昔は日本人が若いうちに指導的立場で海外に行き、マネジメント経験を積んでいたのですが、そういった機会が少なくなってきました。若いうちにそういった経験がないと、40代くらいになったときに、現地の優秀な人との間で差が出始めます。そこで、日本タレントマネジメント部を発足させて、意図的に人財開発を行っていくことを昨年提案したのです。

 

中野:

現地化が成功して、日本人の成長にはマイナスに寄与してしまったのですね。具体的にどのような改善を行ったのですか?

 

山極氏:

まずやったことは、海外経験のある人や現地で好業績の人がどんな経験をしているのかを調べました。すると、二つあって、一つは30歳くらいまでにピープルマネジメントの経験をしていました。100名くらいのマネジメント経験ですね。

 

もう一つは、現場でPL責任を負う仕事をしている。この二つが非常に大事だと気付きました。日産の海外法人はそんなに規模が大きくないので、若くても任されるんですよね。この経験に圧倒的な差があることが分かりました。異文化の中でのピープルマネジメント、商習慣の違うところでのビジネス。現地のリーダーである経営者と話をする。これが全部英語で行われているわけです。

 

この二つの経験を準備して、海外の現場で営業経験など実務経験を積ませる。また、選ばれて派遣される人は、職位をひとつ上げて、現地のフロンタラインの業務にアサインします。

 

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中野:

相当揉まれる経験をするわけですね。そういった任に選ばれる方は、入社する前から見極めがあると思いますが、どのような共通点がありますか?

 

山極氏:

その共通点を見出したいのですが、採用というのはフィードバックサイクルが非常に長いので、私の代だけでは検証しきれないかもしれません。そこでどのような手法を採用したかと言いますと、日本人のビジネスリーダーたちに直接インタビューを行い、その結果から備えていてほしい資質を抽出し分類しました。

 

分類したらだいたい3つに分けることが出来ました。ひとつはマインド。もうひとつは技、スキルですね。最後に体験。これらを心技体というキーワードでまとめています。日本人の良いマインドセットと欧米流のスキルを持った人財を見極めていくための、採用の現場では「心と技」に関して、行動判別のチェックリストで見るようにしています。「体験」については、入社後のアサインメントで見極めていくことになります。

 

中野:

あとは、それが入社数年後に証明されるかどうかということですね。

 

山極氏:

通常採用チームは採用しかやらないと思いますが、当社は新しい取り組みとして、採用チームのカバー範囲を入社後3年まで広げようとしています。採用したかった人が実際に採用できているのかどうか、採用の部分しかやっていないとわからないと思いますが、採用のコミットとはそういうことだと思うのです。

 

中野:

なるほど。そうするとPDCAがきちんとまわりますね。

 

山極氏:

そうですね。それぞれのポジションに対して、次そのポストに就く候補者のリストがあります。会社のニーズを満たせる人、業績からの要求にこたえられる人、これらの人々の計画をサクセションプランと呼んでいます。

 

中野:

それを管理されているのも、タレントマネジメントなのですね。こういう経験をさせたら伸びる、こういう経験が足りていない、なども把握されているのですか?

 

山極氏:

そうです。当社にはそれを専属でおこなう“キャリアコーチ”がいます。重要ポストのサクセッションプランの作成を専門にやっている皆さんで、人事部に所属して関係者と相談しながら仕事をしています。

 

中野:

それはとても心強いですね。そこまでされていない企業がほとんどかとは思いますが、企業経営のためのひとつのファンクションである人事の中で、今後どんな役割が重要だと思われますか?

 

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山極氏:

 

会社によって、やらなければいけない課題は異なると思います。例えば、日産自動車はグローバル展開していますが、海外の現地法人を買収して大きくなってきたわけではありません。何もないところから日産が出資してすべてつくってきたので、カルチャーの根っこは同じなのです。それに対して、海外の会社を買収してビジネス基盤を強化していくケースも多いです。直面している問題は全然違いますよね。カルチャーの違う相手とともにやるならば、それぞれの良い点を持っていて、同じペースではできないことを認識しなければなりません。

 

中野:

自分たちで考えて、受け入れあって、作っていかないといけませんね。

 

山極氏:

人事は経営の一員、と思ってやっています。制度はどうあるべきか、アクションに落とすならどうするのか。人事のプロフェッショナルとしての仕事が、求められていることだと思います。

 

― グローバル企業で活躍するサムライ。

 

中野:

最後に、御社では今後どんな人が活躍されると思いますか?

 

山極氏:

そうですね。“サムライスピリット”をもっているような人ですかね。サムライは、剣のスキルを身に着けて、精神力を磨く。相手に対して逃げずに戦っていく。日本人は意外にゼネラリストが多いですよね。何かひとつ、武器を身に着けておくということがすごく大切だと思います。会社に入るのではなくて“職”を見つける。自分が一生できそうな職業を見つけることが重要だと思います。そのやり方を見つけるということが大事だと思います。

 

(文:松田真弓 写真:大丸剛史)

■日産自動車株式会社
日本人事企画部 日本人事企画グループ
兼)日本タレントマネジメント部  日本タレントマネジメントグループ 担当部長(取材当時)
山極 毅 氏
1989年日産自動車入社、エンジン設計部に配属。フェアレディZやGTR用エンジンの開発、セレナ、エクストレイル等の車両収益企画に従事。

2010年に本社人事本部に異動、国内、海外の人員・労務費マネジメント、海外出向者企画、日本の人事制度・評価報酬制度の改定などを担当。2015年度より新卒・中途採用の企画と実務統括も担当し、現在人財育成コンセプト実現に向けた改革を推進中。第4回日本HRチャレンジ大賞、人材育成部門優秀賞を受賞。

 

■株式会社i-plug 代表取締役 中野智哉
1978年12月9日兵庫県生まれ。2001年中京大学経営学部経営学科卒業。2012年グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。株式会社インテリジェンスで10年間求人広告市場で法人営業を経験。また新卒採用面接や新人営業研修など人材採用・教育に関わる業務を経て、2012年4月18日に株式会社i-plugを設立。

 


2015年12月1日公開 | 山極毅氏 対談