【セミナーレポート】曽和利光氏が語る、就活「後ろ倒し」の衝撃ー16卒採用振り返り・17卒採用戦略①
2016年卒採用は時期が後ろ倒しに。企業、学生ともスケジュールに振り回された年となった。2016採用、問題の本質は何だったのか。そして2017採用で取り組むベきこととは何なのか。
2016年卒採用は、採用活動の時期が後ろ倒しになり、企業、学生ともスケジュールに振り回された年となりました。しかし、問題の本質は本当に『時期』なのでしょうか。
元リクルート人事部GM、書籍『就活「後ろ倒し」の衝撃』(東洋経済新報社)の著者である、株式会社人材研究所 代表取締役 曽和利光様に、2016年卒の採用について振り返っていただき、2017年卒の採用戦略のヒントについてお話いただく、採用担当者向けセミナーを実施しました。2016年卒採用では何が問題だったのか。その本質に迫り、これからの取り組まなければならないことについてお話し頂きます。
【講師】
株式会社人材研究所 代表取締役社長 曽和 利光 様
元リクルート人事部ゼネラルマネージャー。組織人事コンサルタント。リクルート人事部GMとして培ったノウハウ・2万人の面接データベース・心理学とを融合しワンランク上の人材を採用する独自手法「プラチナ採用」を確立。リクルート、ライフネット生命、オープンハウスで人事畑を進み、株式会社人材研究所設立。
株式会社i-plug 代表 中野 智哉
グロービス経営大学院大学卒(2012年3月) インテリジェンスで法人営業を経験、上記経営大学院卒業後、同期3名で株式会社i-plugを創業し、同年10月に新卒に特化したダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox」をリリース。 中京大学経営学部を卒業後、最初に就職した企業が絵に描いたような「ブラック企業」で、初任給は約束された給与の半分・・・。そのような自身の原体験から、現在の就職活動の在り方に対して問題意識を持ち、少しでも学生の可能性が広がるような機会を提供したいと考え起業を決意した。 「我が子が使うサービスを創造する」を合い言葉に就職活動の問題解決に取り組む。
中小企業と大手企業のスケジュールが逆転した2016年卒採用
i-plug 中野:
早速ですが、曽和さんは『就活「後ろ倒し」の衝撃』という本も出されていますが、2016年卒の採用をどう振り返りますか?
人材研究所 曽和様:
そうですね。従来ならば、人気のある大手企業が先に採用活動を行い、それが終わってから徐々に中小、中堅、ベンチャー企業が実施するというのがこれまでの流れでした。それが逆転してしまったというのが構造的に一番大きなことだったと思います。
経団連に加盟する大手企業が8月まで採用活動を終えることができませんでした。リクルーターだったり、インターンシップだったり、採用に近いことはやっていたと思いますが、本当に内定を出すのは8月。そうなると、大手よりも早く選考が始まっていた中小企業やベンチャー企業の内定者も大手が終わるまで実質FIXしなかったということですね。
i-plug 中野:
大手企業は、早く動けない分インターンシップを増やしましたね。
人材研究所 曽和様:
2014年卒と2015年卒を比較してもインターンシップは倍増したと言われていましたが、2015年卒から2016年卒でもさらに倍になっている感覚があります。インターンシップという手法自体が飽和状態になっているんですね。人気企業でもインターンシップの応募者が減り、中堅・中小企業になると数人しか集まらないという状況もよく聞きました。“普通のやり方”でのインターンシップが限界に達したのかなと思います。採用活動が後ろ倒しになることによって、個人情報を得られる時期が短くなりました。経団連の指針(の定義)でも、インターンシップはいつから始めても大丈夫でした。ある意味、唯一許されていた採用広報活動だったんですね。
i-plug 中野:
今年のトレンドは、今までインターンシップを実施していなかった、老舗大手企業もこぞって実施したというのがあると思います。その結果が2016年卒の採用というところで出ていると思いますが、各企業どうだったのでしょうか。
人材研究所 曽和様:
成功している企業とそうでない企業がありましたね。インターンシップというと、自社の仕事を疑似体験してもらうようなプログラムが多いと思います。この「自社の」という部分を取っ払って、学生がキャリアを考える上で役立つような経験を提供する企業もあります。リクルートキャリアさんの取り組みで、「GLIP(グローバルリーダーシップインターンプログラム)」というものがあります。昨年がベトナムで今年カンボジアだったと思いますが、海外の日系企業で働く機会をリクルートキャリアが支援するというインターンシップです。
そういった企画ならば、普通のインターンシップと違って「いっちょやってやるか!」というような学生が集まります。リクルートの仕事を経験できますよ、というような企画だと来ないような、例えば経産省に行こうかなと思っている、というような学生が、こういう場だと来たりするのです。若い方に面白い仕事の機会を提供する、ということなのでCSRに近いですね。
若者にとって一般的魅力のあるインターンシップ企画を立てられた企業が、いいインターンシップが実現できているように思います。
i-plug 中野:
なるほど、それは受ける側としては面白い機会ですね。では、失敗したのはどんな企業だったのでしょうか?
人材研究所 曽和様:
普通にインターンシップをやってしまったところが一番失敗だったのではないかと思います。成功したのは先ほどお伝えした通り、自社の仕事経験ではなくて、エッジの立った“学生に受ける企画”ですね。
また、母集団形成のためにインターンシップを実施した企業は失敗したところが多いように思います。逆に、リクルーターやスカウト型採用でいい人を見つけてきて、その受け皿としてインターンシップを用意するというやり方を採用したところはうまくいっていました。会ってみて意気投合した後にインターンに誘うということですね。似て非なるものですが、これが成否を分けたのではないかと思います。
i-plug 中野:
会った後に、インターンに呼び込む。確かに目的が全く違いますね。
天国から地獄へ
人材研究所 曽和様:
あと、就活後ろ倒しでもうひとつ顕著な傾向がありました。大手もインターンなどいろいろやってきたとは言いつつ、基本的には8月まで決まりませんでした。学生が、大手よりも早く動いた中堅・中小・ベンチャー企業に出会える期間が長かったのです。
私は“天国と地獄”と呼んでいるのですが、天国をと地獄をみることになった企業が多いようです。はじめは、いい学生に会えるので「例年よりいい学生に会え、内定を出し承諾された。今年の採用は大変と聞いていただけど、いい結果になったじゃないか」と一時的に天国を味わいます。しかし、8月に入り1~2週間の間に、辞退者が続出。内定者が半減してしまう。こういう企業が多かったと思いますね。
i-plug 中野:
おっしゃる通り、8月に入ってから内定辞退されたというお話は多く聞きましたね。
人材研究所 曽和様:
悪かったということではなく、むしろ会えているというのはチャレンジした証拠です。例年なら会えないような層の学生と、後ろ倒しになったことでリーチすることができた。するとだんだん目が肥えてきます。そうなると採りたくなるのが経営者、採用担当者の当り前の行動です。
それにより、競合が強くなるわけですね。いい人に会えたなら、後工程のフォローが重要です。私は「採用戦闘力」と呼んでいますが、例えば学生から「入社動機」を聞かれると思いますが、ここをブラッシュアップしていない企業が多い。学生からするととても重要な部分なのですが、これをさらっと言ってしまったり、内容がいつの間にか「事業説明」や「組織風土の説明」になってしまっている人が多いのです。
いい学生に出会えたのなら、競合も強い。だからフォローを強化しないといけなかったのに、いつも通りに行ってしまった。それで内定辞退者続出というケースが多かったのではないかと思います。
i-plug 中野:
後ろ倒しがきっかけではありますが、そもそもの「採用力」を磨かなければならなかったということですね。
人材研究所 曽和様:
いい人材に会ってしまったなら、口説く力を持っておかないとだめですよ。じゃあ、出会わなければ良かったのか…。となりますが、そうではありません。どの会社でも、自社の採用をより強くしていきたい、もっと優秀な人を採っていきたい。それが会社を発展させていくということですから、まず一歩目は会わなければなりません。会えているということは、すごくいいことですよね。ただ、もう一歩足りなかったということなので、17卒採用には対策が必要になると思います。
「就職活動意識低い系」の優秀な学生を狙え
i-plug 中野:
目の前にチャンスはあったけれど、取り逃がしてしまったということですね。そのほかに何か原因はありますか?
人材研究所 曽和様:
天国から地獄のお話の続きになりますが、就職活動を早い段階から始めている学生は、いわゆる「就職活動意識高い系」の人達だと思うんですよね。そういう方は、外資系とかメガベンチャーとか、知名度の高い企業に入りたい。それを目標に就職活動を頑張っている人が多いと思います。そういう人ばかりに会ってしまって、うまくいかなかった企業は多いと思います。採用ブランドがそこまで高くない企業だと、そもそも負けるマーケットで勝負してしまったということではないでしょうか。
就職活動の意識が高い、低いというのは、人として優秀かそうでないか、自社に合うか合わないかというのは関係がありません。例えば体育会系で就職活動を全くやっていない、という人でも優秀な人はたくさんいます。就職活動意識低い系で、優秀な層を狙えたりすると良かったのではないかと思います。
マス向けに広報すると、早い時期は就職活動意識高い系の学生が多く集まると思います。なので、こちらからダイレクトに、内定者の後輩や、OfferBoxのようなスカウトのサービスでこちらから声をかけにいくということが有効ですね。
i-plug 中野:
なるほど。確かに競争が激しいところに行くよりも、効率が良くいい人に会えそうですね。就職活動意識高い系かどうかというのは、会えばわかるものですか?
人材研究所 曽和様:
インターンに何社行ったかを聞くとわかりますよ。「15社行きました!」という人は意識高いですよね。こういった層は、採用しにくいんですよ。行きたいところを選んでいるので。でも割合でいうと、そうではない人の方が多いのではないでしょうか。
就職活動意識低い系というのは、受ける社数も少ないです。そして、受ける社数を絞って効率型の就職活動をしている人が増えてきています。もともとスケジュールの後ろ倒しも大学側からの要請で、学生が勉強に集中できる期間を増やしたいという意図だったようですが、学校側は学生に対して就活を効率的にやるように促す傾向になってきているようです。学生は受ける社数をかなり絞ってきています。企業側は、どうやって学生にリーチすべきか、工夫しなければならなくなってきたというのが、全体の流れですね。
i-plug 中野:
就職活動意識高い系とそうでない人の就活時期の違いから、二極化しているという声も企業側からよく聞きました。学生に向けたアンケートでは、2015年卒では、選考解禁の4月(当時)までに就活を終える人は12.1%でしたが、2016年卒は選考解禁の8月までに就活を終える人が40.6%に増えていますね。ベンチャー志望がもちろん早くて、大手志望が遅い傾向となりました。
人材研究所 曽和様:
本来、大手が前だったほうが社会全体としてはやりやすかったのです。それが逆転したことによって、志望度が高い企業の選考が8月に控えているので、いいと思う会社から内定をもらっても承諾できない。そういった中途半端な状態が続いたのが問題だったかと思います。
採用戦闘力を強化すること、就活意識高い系ではなく低くても優秀な人をターゲティングすることが、必要になってくると思います。