いま、もうそこに採用難が見えている。就職ナビを増やすだけでは解決しない問題が潜む。この変化を勝ち抜くには。
― ダイレクトリクルーティングで、この市場は変わるでしょうか?
中野:
企業にお願いしていることがありまして、100人規模の講義式の説明会には、“OfferBox経由の学生は入れないでほしい”と伝えています。5~10名程度の少人数の座談会のような形式で、ざっくばらんに話せる機会を作っていただきたいと。企業の間でも、それが少しずつ当たり前になってきました。学生にも非常に受けまして、口コミになっていっていますね。
寺澤氏:
オファーが来ることで、必要以上に虚勢を張らず、そのままの自分を好きになってもらえるわけですね。しかも、少人数で話せるというのは自分を見てもらっているという気持ちになりますね。
ところで、全然オファーをもらえない学生もいるのですか?
中野:
登録学生には、かなり詳細なプロフィールを入力してもらっています。動画も入れられますし、写真も3点入ります。文字は2000字程度です。本気で書こうと思うと1時間くらいはかかりますね。学生を集めるのが大変なのに、たくさん書かせようというのも業界のタブーですが、実際にきちんと書いている学生は9割以上がオファーを獲得しています。
なぜこういうことが起こるかというと、企業もいろんな尺度で学生を見ていく時代に変わってきているんですよね。これまでの評価は“学歴”が主でした。OfferBoxは、大学以外に留学経験や語学力、部活、学生団体、理系学生なら研究内容、いろんな軸で企業が学生を探すことが出来るようにしています。その分野分野で頑張っている学生にスポットが当たるように、というのが頭の中にあった設計図でした。
寺澤氏:
それも素晴らしいですよね。企業側で有効なセグメントをする尺度がないと、ついつい上の大学から一部の大学の学生にオファーが集中すると思いますが、OfferBoxはどう違うんでしょう?
中野:
その尺度を多くしていくことが大事ですね。行動特性でマッチングできるシステムを2015年3月からスタートさせています。オファー送信数に上限があるので、企業も本当にマッチした学生にオファーを送りたいという気持ちになると思います。きちんと使っていただいてオファーしていただくと、そのあとも濃密なコミュニケーションが築けます。就職ナビのDMは、開封率1%台ですが、OfferBoxのオファーは、開封率はほぼ100%です。企業が送れる100通分の1通が自分に来ているというのも作用していると思います。ですので、オファーした内、平均4割は面談に繋がっています。そして会えたうちの8割は、採用したいレベルの学生が来る、と企業からお声を頂いています。
寺澤氏:
企業も幅がないとだめですよね。人気の大手企業から、中堅・中小、業種も多様でないと、オファーが分散化されませんよね?そのあたりはどうやっているのですか?
中野:
これは価格設定に理由があると思います。成功報酬1人30万円という設定にしていますが、企業の一人当たりの採用予算の平均をとりました。通常、成功報酬だと70万~90万円の間が一般的です。それだと、大手企業はその金額は出せません。もっと安く採用できるので。中小企業もそこまで出せる企業は多くありません。残るのは、IT企業のキャッシュリッチで、学生に知名度がない(BtoB企業など)になってしまいます。そうなると特化型のサービスになってしまいます。この価格設定にしたことで、コントロールしなくても、自然に利用企業はばらついていきます。
実は、価格設定もサービスも、全部自分で考えたのではなく、企業と学生に聞いた結果を反映しているんですよね。
寺澤氏:
それがいいですよね。
OfferBoxは、ダイレクトリクルーティングのサービスということですが、世界の潮流ですよね。日本でも少しずつ広がってきていると思いますが、今新卒採用でダイレクトリクルーティングと言えるのは、中野さんから見てほかにありますか?
中野:
本当のダイレクトリクルーティングの定義は、間に人材会社を挟まないことだと思います。でも、ダイレクトリクルーティングと言いつつも、企業が直接学生にメッセージを送っているところはほとんどないと思います。人材会社が代行してやっているか、大量に同じメッセージをどんどん送るDM型ですね。OfferBoxのように、企業がひとりひとりの学生のプロフィールを見て、一通一通オファー文を考えて送っているところはなさそうです。
寺澤氏:
ダイレクトリクルーティングは、中途採用のほうが多いですよね。中途採用だと、スペックも設定しやすいですし。新卒一括採用の弊害かもしれませんが、新卒だとどうしても学生を十把一絡げに見てしまって、どうセグメントするのかが難しい。採用担当者も、OfferBoxを利用して学生ひとりひとりと向き合って個性を知る中で、本当に欲しい人材が絞られていくんじゃないかなと思いますね。
中野:
そこに学歴という要素をできるだけ薄くしてほしいなと思いますね。大学に入るまでに人生が決まるのはおかしいと。大学の4年間もすごく成長する時期ですし、人はどんどん変わっていく。大学生活でやってきたことを通じて評価されるような世界を作りたいですね。
問題に思っているのは、“採用という仕事が職人技すぎる”ということです。科学的アプローチがあまり入っていないんですよね。なぜ入らなかったか、進化しなかったか。それは、就職ナビや人材紹介に依存したからだと思います。それだと自社にノウハウがたまらないのですよね。ダイレクトリクルーティングがこれから流行していく中で、科学的アプローチが入っていくと思います。これをやっていきたいです。
OfferBoxを広めていき、まずはクローズと分散化を実現することが第一歩ですね。16卒はまさにそれが市場的にもやりやすいのかなと感じています。求人数もぐっと増えました。3月に16卒ナビサイトがオープンしましたが、15卒12月のナビオープン時と比べると掲載件数は1.5倍。15卒の3月と比べても1.2倍です。16卒は早期から動いていた学生も多く、すでに就活を終えている学生もいるので、15卒と比べると、学生が減って企業が増えているということですね。さらに企業側も、今までのやり方にかなり疑問を持ち始めています。これを機に、しっかりダイレクトリクルーティングを根付かせたいです。
寺澤氏:
当社の調査でも、就職ナビを増やすという企業は増えています。採用手法として重視するものは何かと企業に聞くと、就職ナビは4番目で、年々優先順位が落ちていますが、一方で採用難のため就職ナビを使う企業が増えているのが現状です。増やすけれど採用できない、という状況になりそうですね。
― 学生と企業がしっかりと向き合う採用が必要な時代になってきた。人任せ、ナビ任せではこれからの採用難は乗り越えられない。課題を克服すべく、市場が最適な方向に向かおうとしている。
■ProFuture(旧社名:HRプロ)株式会社 代表取締役社長 HR総研所長 寺澤康介
1986年慶應義塾大学文学部人間関係学科を卒業後、就職情報会社文化放送ブレーン入社。営業部長、企画制作部長などを経て、2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。常務取締役を経て、2007年採用プロドットコム(現社=ProFuture)株式会社を設立、代表取締役社長に就任。 約25年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く人材採用のコンサルティングを行う。
<執筆、出演、取材メディア等>
「週刊東洋経済」「東洋経済オンライン」「日経ビジネス」「日経アソシエ」「労政時報」「企業と人材」「人材教育」「人事マネジメント」「企業実務」「NHK(テレビ、ラジオ)」「朝日新聞」「読売新聞」 「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊文春」「アエラ」「サンデー毎日」など
■株式会社i-plug 代表取締役 中野智哉
1978年12月9日兵庫県生まれ。2001年中京大学経営学部経営学科卒業。2012年グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。株式会社インテリジェンスで10年間求人広告市場で法人営業を経験。また新卒採用面接や新人営業研修など人材採用・教育に関わる業務を経て、2012年4月18日に株式会社i-plugを設立。
(文:松田真弓)