この不確実な時代を乗り越えるために企業に求められる要素とは何か。グローバル・エクセレント・カンパニーで社長職を歴任してきた新将命(あたらし まさみ)氏が読み解く。
社会全体の価値観が急速に変わっていく、不確実な時代。世界トップシェア、大手企業、グローバルカンパニーでさえ、破たんに追い込まれる時代だ。この変化の時代を乗り越えるために、いま経営者に求められるものとは。また、企業活動の根幹である人材採用、育成を司る“人事”に必要なものとは。
シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど、グローバル・エクセレント・カンパニー6 社で社長職や副社長職を歴任。長年の経験と実績をベースに、国内外で「リーダー人材育成」の使命に取り組んでいる、株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役 新将命(あたらし まさみ)氏に、株式会社i-plug代表 中野智哉が、この不確実な時代を乗り越えるすべを聞いた。
― 企業に求められる3つの要素とは。
また、自分の社会人生活に期待できると言った人は27.2%。去年より2.6%下がりました。学校を出た新入社員の4人に3人は将来に期待が出来ないと答えているわけです。
株式会社i-plug 中野智哉(以下、中野):
下がり方が異常ですね。なぜこのような傾向になっているとお考えでしょうか?
新氏:
これは枝葉末節的な“てにをは”の問題ではなく、企業経営の基本的な問題から生まれていると思います。この不確実な時代を乗り越えるために必要なものは3つあります。一番目が「方向性」、二番目に「人材育成」、三番目が「変化対応」です。
よく企業の部長や課長向けに講演をしていると、彼らの口から「疲労感」「疲弊感」「閉塞感」という言葉が聞かれます。私はこれを冗談で“平成の3H”と呼んでいますが、こういう言葉が出てくるというのは「現象」です。原因があるから現象が起こる。この原因を探ってみると、大企業でいう本部長や役員が、部下である部長や課長をつかまえて、やれ稼いで来い、新商品の開発を急げとお尻を叩いているんですよね。
それに煽られて部長や課長は、遮二無二仕事をして結果を出す。そこまではいいのですが、人間というのはあまり目先の短期的な目標だけで、朝から晩まで上に叩かれると多くの人が時間の経過とともに制度疲労にかかってしまうんです。
では何が真の問題かというと、トップが会社の夢を語っていないんですね。人間は、不平不満があっても、その先に期待や希望、楽しみ、喜びが見えていたら、目先の不満は収めてしまいます。100あった不満は0にはならないけれど、20~30くらいにはなります。これを大企業の8割以上の人がやっていません。
方向性は、簡単な一次方程式で説明できます。
方向性=理念+目標+戦略 です。
理念は、Mission(使命)+Vision(構想)+Value(価値)。あえてプラスするならば、それにWay、行動指針ですね。この4点セットが方向性の中身です。これを経営者のほとんどが示していない。短期目標の中で喚いているんです。
中堅社員のみならず、新入社員がやる気満々で入ってきても、方向性が欠如している会社だと、半年~1年経つと、この会社の将来はどうなるのか、何を目指しているのか、クエスチョンマークが浮かぶようになります。それでやる気がなくなってしまうんですね。
― 顧客満足を得るための当事者は社員。社員こそすべて。
中野:
トップが方向性を示すことの重要さがよくわかりました。二番目の人材育成ですが、新さんのお考えになる人材育成のあり方はどのようなものでしょうか。
新氏:
会社の目標を達成するために、戦略がありますよね。戦略を戦術に落とし込み、現場展開をして結果を出す。これが経営者の重要な能力です。人材は、戦略を戦術に落とし込むために、最も重要な経営資源です。したがって、勝ち残っている会社や元気な会社、エクセレントカンパニーに共通する特徴は、トップが社員の人材育成に対して、ほとんど宗教的な情熱を持って取り組んでいることです。IBM、ジョンソン・エンド・ジョンソン、P&G、日本の会社にもそういった会社がありますね。
会社というのは、最終的には株主満足を果たさないといけません。そのためには“売上・利益”という業績がよくないといけません。業績を上げるために一番重要な条件は顧客満足。顧客満足を得るための当事者は社員なんです。社員がすべてという考えでなくてはならない。優れた社員を育てるための原動力は経営者です。経営者が優秀だと、教育訓練もやりますし、いいシステムや制度の導入もやりますよね。そうして育てた社員はいいものを作り、いいサービスを提供します。それが業績に現れ、株主満足に繋がるのですね。(下図参照)
― 狂気とは、昨日までと同じことを続けて、明日がより良い日になることを期待することである。
中野:
人材育成に対する経営者の情熱次第で、会社は変わるということですね。
三番目は「変化対応」ということですが。
新氏:
変化に対して、私が常に伝えていることがあります。
「狂気とは、昨日までと同じことを続けて、明日がより良い日になることを期待することである」
世の中が変わっている、消費者が変わっている、流通が変わっている、テクノロジーが変わっている。いろんなことが音を立てて変わっていますよね。物事が大きく変わることを「大変」と言いますが、経営環境がスピーディーに大変しているわけです。周りが大変しているときに、自社も変わらないとそれこそ大変なことになってしまいます。
経営者は、迅速に周りの環境に遅れないように、会社を変えなくてはならない。ダーウィンの言葉に、
「生き残るものは、強いものでも賢いものでもない。変化に最も迅速に対応できるものだ」
というものがあります。強いものが生き残るのであれば、GMやJALの破たんをどうやって説明するのか。コダックの破たんも。業界No.1の強いものが全部だめになってしまった。
中野:
変化対応が出来なかったからそうなってしまったのですね。
「迅速な」変化対応というのが重要ですね。
新氏:
そうです。ただし“対応”というのは既に変化が起きてから対応するということですが、欲を言えば変化を先取りしたい。半歩でもいいから先を行く。これは、これからの日本企業に求められていることです。この3つを満足にやっている会社は、東証一部上場企業を見てもほとんどないのではないかと思います。これをやっている一部の会社が勝ち残ると、私は分析しています。
【国際ビジネスブレイン 新将命氏②】採用8割、育成2割。これからの人事に求められる能力とは に続く