いい企業に共通して見られる顕著な特徴は、人事部が機能していること。人事は会社のファシリテーターとして、高度なリーダーシップが求められる。

― 重視すべきは、スキルか、マインドか。

 

中野:

人材育成の話が出ましたが、変化の時代に対応するためにも優秀な人材が必要ですよね。
そのあたりはいかがお考えでしょうか?

 

新氏:

人ザイのタイプを、私は4つに分けて考えています(下図参照)。

 

人ザイの4タイプ

 

① スキルが高く、なおかつマインドも高い → 人財
② スキルは高いが、マインドは低い    → 人在
③ スキルは低いが、マインドは高い    → 人材
④ スキルは低く、マインドも低い     → 人罪

 

マインドのことを私は人間力と呼んでいます。人間力は、信頼・尊敬・意欲です。信頼される人はどういう人かというと、嘘をつかない、約束を守る、言うこととやることが一致しているような人は信頼されますね。その信頼が高まると、尊敬になります。尊敬は、私利+他利 と提言づけています。人間は自分が一番。それはしょうがない。ただ、自分の利益だけじゃなくて、他人の利益や人が幸せになることまで考えられる人は、尊敬の対象になると思います。そして、意欲。本人の意欲も高く、また周囲の意欲も高めることができる。この両方を含めた意欲ですね。

 

①のような人は、全体の5~10%くらい。会社を動かしてきたリーダー人財ですね。②は、スキルはあるけれど率先して動かない指示待ち族です。①がリーダーならば②はフォロワーですね。これが80%くらい。言われたことしかやらない人です。①との差は大きいですね。

 

③は、おそらく若者でしょうね。元気いっぱい、幸せいっぱい、仕事さっぱり。現時点では原材料にしかすぎない人です。④は、罪ですよ。仕事もできないしモチベーションも低い。会社が行かなくてはならない方向があるとしたら、逆方向に引っ張ってしまう人。3%くらいはいますね。

 

経営者にとって伸びる会社にするためには、①に入る人間を一人でも多く育てることに尽きると思います。しかし、その前に経営者にとってやることがあります。それは、自分自身が①に入る人財になることですね。

 

 

中野:

今のお話から、②や③の社員を①に引き上げることが必要かと思いますが、②から①に移動するのと、③から①に移動するのは、どちらの方が引き上げやすいのでしょうか?

 

新氏:

営業力を高めましょうとか、技術のスキルを磨きましょう、というのは結構時間がかかりますよね。一方マインドは、気付きさえあれば一日で変わります。どんなにスキルを磨いてもマインドのない人はだめなんですね。そういう気付きを与えるのも、経営者や人事部の役目だろうと思います。

 

中野:

②は、中途で採用し、③は新卒で採用するようなイメージですね。

 

新氏:

そうですね。

 

サウスウエストという、飛行機業界で業績が良く有名なアメリカの会社があるんですが、この会社のハイアリングポリシー(人材採用の方針)が有名です。

“Hiring for character, training for skill”

採用は、性格を見てやれ、ということです。スキルのトレーニングは採用した後でもできる。どんなにスキルが高くて仕事ができる人でも、信頼、尊敬ができないようなマインドの人は採用してはいけない、と言うのですね。逆にスキルが低い人でも人間的、人格的に立派な人、これはトレーナビリティ(能力が向上する可能性)があるわけですよ。新卒でも中途採用でも同じことですが、スキルを過大評価してはいけない。その人の人柄、人格を見ろというのが経営者としての考え方です。

 

 

中野:

確かに、中途の場合は特にスキルにばかり目がいってしまう採用も多いと思います。採用がうまくいかない会社というのはそれが原因のひとつかもしれませんね。

 

新氏:

私は、「金・銀・銅」という説を持っていまして、金はどんなに汚れていても、磨けばまた光沢を発する。銀はどんなに磨いても所詮銀は銀です。銅は、どうにもならないですね。採用するときの素材の見分け方で、金の素材を採用しないと後に禍根を残します。

 

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中野:

金かどうかを、どうやって見分けるとよいでしょうか?

 

新氏:

事業部長や人事部長によく聞かれる質問です。私はいつも、「目の光を見ろ」と言っています。インテリジェンスレベルが高くて知識量が豊富でも、目に光がない人は採用してはいけません。これは、問題意識を持っているかどうかということですよ。人生に対して前向きに取り組む姿勢があるかどうか、というところが目の光に出ます。

 

ジョンソン・エンド・ジョンソンの社長時代に、ある実験をしました。新卒入社者の入社時の筆記試験の成績と面接の評価が、13年後の出世度と相関があるかどうかという実験です。その結果、筆記試験はほとんど相関関係がありませんでした。重要なポストを与えられている人に共通するのは、面接の評価が良かった人でしたね。

 

中野:

日本の企業は定期採用、一括採用を続けてきていて、その根幹にあるのはいまだ偏差値評価、という企業も多いですね。これ自体、そもそもあまり意味がないということになりますね。

 

ところで、よく企業の人事の方と話をしていると「採用が先か、育成が先か」という話になります。

 

新氏:

絶対採用ですよ。トレーニングなんて儚いものです。どんなに磨いても銅は銅なんです。育成する価値のある人、育成し甲斐のある人を採用しなくてはなりません。私の経験的な実感として、重要度は採用8、育成2ですね。

 

 

― ユニークな人材が会社を変える。

 

中野:

新さんは、グローバルカンパニーでのご経験が長いですが、海外の企業と日本の企業の違いは感じられますか?

 

新氏:

日本の企業は、古い大企業ほどいまだに純血主義のところが多いですね。中途採用をよそ者扱いして、冷たく扱うところがあります。そういう背景が日本と海外の違いですね。

 

有名な話ですが、海でイワシを捕って岸へ戻るとき、イワシは生命力が弱いから、岸に着くまでに腐ってしまう。そこで、イワシの中に大きなナマズを入れてみると、イワシに緊張感が漂って岸に戻るまで元気だったと。組織の中には、時々ナマズを入れておかなければなりません。異質の人間ですね。

 

 

中野:

変わり者を入れておくことが、組織活性に繋がるんですね。

 

新氏:

日本で“変わり者”というと悪い意味ですが、英語ではいい意味。ユニークな人という意味になります。以前、大手自動車メーカーの人事部長と会ったときに社員の個性について聞いてみたら、みんな金太郎飴だと言っていました。型にはまっているんですね。組織に刺激を与えるためには、若干の摩擦が必要で、今いる社員とは違うタイプ、エッジの効いた人を何人か入れたほうがいいですね。

 

中野:

大手企業の上役の方から、変わった人が欲しいというお話はよく聞くんですが。

 

新氏:

本音と建前が違う場合が多いんでしょうね。波風を立てないという傾向は、年配者になるほど多いですよ。

 

中野:

変わった人材は、選考のどこかの過程で落ちていってしまうのですね。
他に採用の時の人材の見抜き方はありますか?

 

新氏:

中途採用の時は、どんな仕事をしてどんな失敗をしたか。その失敗から何を学んだか。これに対して満足に答えられない人はダメです。それから、10年後どんな人間になっていたいか。これに対しても納得いく回答が返ってこなかった人はダメですね。自分の人生に責任が持てない人は、会社の運命に責任を持つわけありませんから。新卒の場合は、どういうビジネスマンになりたいか?という質問をして、前向きな答えが返ってくる人がいいですね。

 

― 人事に求められる高度なリーダーシップ。

 

中野:

ではこれからの時代に、人事に求められる役割とは何でしょうか?

 

新氏:

これは私の信念なのですが、いい企業に共通して見られるもっとも顕著な特徴は、人事部が機能していることですよ。人事部の役割は、会社におけるファシリテーターです。要するに決定権のない推進役です。決定権、命令権を持っているのは経営者ですよね。決定権、命令権なくして人を動かすというのは、権があるよりもレベルの高い、高度なリーダーシップが要求されるわけです。そういう自覚と覚悟が、人事には必要です。

 

中野:

会社の根幹は人ですね。具体的には、どんなことが必要なのでしょうか。

 

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新氏:

重要なことは環境づくりです。私は“3K”と考えています。

 

ひとつめは、環境。環境も細分化すると、「物理環境」、「時間環境」「人的環境」に分けられます。物理環境は、衛生面と環境対策。清潔で安全なオフィスで働けるということですね。また、継続的慢性的に残業が多い会社は何かが狂っています。経営者が狂っているかシステムが狂っている。たまには残業もいいいし徹夜もいいけれど、慢性的だと勉強する時間もないし家族と過ごす時間も取れないですよね。そして、人的環境。うちの会社の社長が素晴らしい、と若手社員が感じていることが大事です。

 

3Kのふたつめは、お金。給与が良い、ボーナスが良い、退職金制度がきちんとしているなどのお金の面も無視できません。ただ言えるのは、3Kのうち今言ったふたつは、不満抑制要因ですね。給料が5000円、8000円上がって嬉しいけれども、そのうち慣れてしまいます。おそらく1週間くらいしかもたないと思います。環境が良くて収入が良いと、不満は出てこないけれど動機の促進にはならないわけです。

 

では三つめは何かというと、「心」です。仕事にやりがいがあると社員が感じている。うちの会社はいい会社だ、世の中のために役立っている、いい仕事をしていると誇りを持っている。また、社員が目標を達成したときに、「やった!」という喜びが口をついて出てくる。達成感を社員が感じていること。そして、会社や仕事に対して社員がどう思っているのか。自分を高めることができ、磨くことができると感じているのか。

 

中野:

心の充実、ということですね。

 

新氏:

そうです。誇りと、達成感、自己実現。これが社員の動機を高めるためのエッセンスです。この3つを社内に実現するような制度、仕掛け、仕組みづくりが、人事にとって重要な役割だと思います。こういうことを社内横断的にやるという機能が人事部という部署です。年に一度は従業員満足度調査をやった方がいいと思います。顧客満足度調査はよくやりますよね。でも顧客満足を生みだすのは社員です。

 

意外に役員やトップは、社員が何を感じているかということについて、詳しい認識を持っていないということはよくあります。上が満足していると思うほど、社員は満足していない。だから、お客様の声を聴くように、素直に社員の声を聴くということをやっていいと思います。

 

【国際ビジネスブレイン 新将命氏③】戦略的人財育成とは「座学」「メンター」「修羅場経験」 に続く

 


2015年6月9日公開 | 新 将命氏 対談