新卒に「即戦力」を求めていいのか?経営戦略に基づく人材定義が重要!

【無料ダウンロード】求める人物像の定義にスグ使える現場ヒアリングシート(Excel)はこちら

新卒は育成することが前提のポテンシャル採用、即戦力が必要な場合は中途採用。従来は、このように言われてきました。

しかし、深刻な人材不足が大きな課題となっている今、一部で「新卒に即戦力を求めるべきか、否か?」という議論も生じています。

「これからは新卒にも即戦力が求められる時代だと聞くけど本当?」
「いやいや新卒に即戦力を求めるなんてとんでもない。それは中途採用の役割でしょ?」
「そもそも何ができれば新卒に「即戦力」があると認めていいの?」

今回は、上記のような「新卒採用 × 即戦力」にまつわる疑問を解消すべく、採用の本来の目的に立ち返って、採用における「即戦力」とはどう捉えられるべきかを解明していきます。

【サンプル】採用基準策定のための現場ヒアリングシート(記入例付き)
【サンプル】採用基準策定のための現場ヒアリングシート(記入例付き)
採用基準策定のための現場ヒアリングシートで、仕事で成果を上げるために必要な能力、性格、志向・価値観は何であるかを現場社員へヒアリングし、採用時の求める人物像を抽出しましょう。
資料ダウンロード

採用における「即戦力」とは?新卒採用と中途採用それぞれの目的と求められる能力を改めて整理する

おける「即戦力」とは?新卒採用と中途採用それぞれの目的と求められる能力を改めて整理する

まず「新卒採用に即戦力を求めるか否か?」を考察するにあたって、以下を整理しておきます。

  • そもそも企業活動の1つとしての採用の目的
  • 新卒採用と中途採用それぞれの目的の違い
  • 採用において「即戦力」となる人材の具体的な能力

そもそも採用とは?経営戦略を実現するための企業活動

まず新卒採用、中途採用というカテゴリーのもう一つ上の階層、つまり「採用」の目的について考えてみましょう。

  • 急遽抜けた人員不足の穴を埋める人材が欲しい
  • 経営者の想いや企業理念を継承してくれる幹部候補候補を育てたい
  • これまでとは違う新しい発想を積極的に取り入れたい
  • 今起こっている課題を解決してくれる能力を求めている
  • 新規事業の立ち上げに向けて、関連分野の経験者を必要としている

このように企業が新しい人材を必要とする状況は様々です。

採用とは、企業の課題解決や目標達成に必要な人材、また企業の将来を担う人材といった「企業の経営戦略におけるキーパーソン」を企業の外から探し出し、自社に入社してもらう企業活動です。

言い換えると、「経営戦略の実行」を「人材供給」という切り口で実現するのが採用活動ということになります。

新卒採用と中途採用の目的の違いは「活躍を期待する時間軸」にある

採用の大きな目的は、企業が経営戦略を実行するために「ある時点で不足している、あるいは将来のある時点で不足すると予想される人材を確保すること」です。

人材供給という視点では、新卒採用と中途採用の目的の違いは下記のようになります。

  1. 新卒採用による人材供給:「将来的に」必要とされる、または「将来的に」足りないと予測される人材の供給
  2. 中途採用による人材供給:「今」必要とされる、または「今」足りない人材の供給

入社から3年後や5年後、あるいはもっと先の将来性を見据えて採用するのか、入社後すぐにでも活躍することを期待して採用するのか、つまり「活躍を期待する時間軸(=どの時点での活躍を期待して採用するか)」が新卒採用と中途採用の目的の違いとなります。

一般的に、「新卒採用は“ポテンシャル採用”で、中途採用は“即戦力採用”である。」と言われているのは、以上の考え方に基づくものです。

では、入社後すぐに活躍できる「即戦力」を持つ人材とは、具体的にどういった能力を持ち合わせている人材なのでしょうか。

採用において「即戦力」となる能力とは?自社が今すぐ必要とする知識やスキル

将来的な活躍を期待して採用する新卒採用では、現時点で保有しているスキルや知識に比べて、価値観・性格といった社風適合性主体性・行動力などの潜在的な能力を重要視する傾向があります。

一方で、入社後すぐにでも活躍してもらわないといけない(即戦力になってもらいたい)中途採用は、自社に今すぐ必要な知識やスキルを求められることが多く、この知識やスキルがいわゆる「即戦力」と捉えられています。

これを簡易的に可視化すると下のグラフのようになります。人材の能力の構成要素(特に自社で活躍してもらうために必要とされる能力)と、それらを習得するのに要する時間の関係を表したものです。

人材の能力の構成要素

このグラフ上の能力において、右に行けば行くほど、年齢を重ねるほど習得あるいは変更・修正するのが難しいと考えられています。

例えば、性格や価値観はこれまでの人生における経験が蓄積されて作り上げられるものであり、簡単に矯正できるものではありません。

しかし、知識やスキルはいつ取り組み始めても遅すぎることはなく、努力次第では早期に習得することが可能です。

もちろん語学やプログラミングなど一筋縄ではいかないようなものや、実務を経験してこそ得られるスキルもありますが、思考力や価値観などと比べると習得に要する時間は短いと言えるのではないでしょうか。

ここでの先天性の低い能力(知識・スキルなど)は、書籍を読む、動画コンテンツで学ぶなど、「すぐにでもインプットし始めることができるもの」と捉えるといいでしょう。言い換えると、「入社してからでも育成できる要素」となります。

このため、知識やスキルは、未来の活躍人材となる新卒に必ずしも求めるべき要素ではなく、むしろそれを習得しようとする行動力や主体性があるかどうか、また企業の社風にマッチする価値観・性格を持つ人材であるかどうかが、新卒の採用基準として重要視される傾向にあります。

その一方で、入社後すぐに活躍してほしい企業の即戦力となる人材は、その企業独自のやり方やルールさえ覚えれば職務を遂行できるだけの能力を備えておかなければならず、そのことを目的とした中途採用では、「今何ができるか=今その企業が必要としている知識やスキル」が重要視されています。

新卒に即戦力が求められるケースもある:在学中に職務に直結するスキルを習得できるかがポイント

在学中に職務に直結するスキルを習得できるかがポイント

ここまでお話しした「経営戦略を念頭に置いた新卒採用と中途採用のそれぞれの目的」からすると、新卒には「即戦力」を求めるべきではない、ということになります。

実際に新卒に「即戦力」を求める企業の割合は少ないです。

では新卒に対して「即戦力となれる人材求む!」と主張する企業は間違っているのか?と聞かれると、一概にそうとは言えません。

その企業が「新卒に求める即戦力」をどのように定義しているかによっては、新卒でも即戦力となり得るからです。新卒に即戦力が求められるケースには、主には下記3つのパターンが考えられます。

  1. IT職種など一部の専門性の高い知識やスキルを新卒に要求している場合(職種別採用)
  2. 新卒に一定水準の即戦力“性”を求めている場合
  3. 新卒も中途も分け隔てなく即戦力を前提に採用している場合

ここでは、新卒に即戦力を求める上記3パターンの企業とその理由をご説明します。

【サンプル】採用基準策定のための現場ヒアリングシート(記入例付き)
【サンプル】採用基準策定のための現場ヒアリングシート(記入例付き)
採用基準策定のための現場ヒアリングシートで、仕事で成果を上げるために必要な能力、性格、志向・価値観は何であるかを現場社員へヒアリングし、採用時の求める人物像を抽出しましょう。
資料ダウンロード

①IT職種など一部の専門性の高い知識やスキルを新卒に要求している場合(職種別採用)

業務の専門性が高く、必要なスキルが明文化されている職種において、新卒でもその専門技術を持っていれば、中途採用人材と同じように「即戦力」を有する人材として採用するという企業があります。

専門性の高い職種の代表的な例が、エンジニアなどのIT系の技術職です。

近年では、情報系学科を専攻している学生だけでなく、文系学生でも自主的にプログラミングをする学生も増えてきています。

中途採用人材に比べると実績こそ少ない(もしくは無い)ものの、職務を遂行するのに必要な知識とスキルがあれば、新卒でも「即戦力」になることは可能です。

また同じ企業の新卒採用でも、総合職採用と職種別採用を分けて実施しているところもあります。

このように仕事にすぐ役立つことを大学で専攻していれば、新卒でも「即戦力」人材になり得ると考えられますが、現状我が国では仕事に直結する専門教育が進んでおらず、大学在学時に自主的に習得したプログラミングなどの一部のスキルに偏っているため、やはり全体から見ると、「即戦力」人材は中途採用が中心となっています。

②新卒に一定水準の「即戦力」性を求めている場合

新卒であっても一定水準の「即戦力」性を求めている企業もあり、特に成長目覚ましいベンチャー企業などはこの傾向が見られます。

急速に事業が成長するベンチャー企業は、事業の拡大に人員数や教育体制などの仕組みの構築が追い付かない状況に置かれることがあり、こういった状況下では若手社員でも早期にコアメンバーになってもらう必要性が生じる可能性があります。

その場合、行動力や主体性といった若くして活躍できる人材に成長するためのポテンシャルに加え、何かしらのスキルを持つ「即戦力」性の高い人材を新卒に求めるケースがあります。

ただし「早期にコアメンバーとして活躍してもらう」ことは、その若手社員の成長の「機会」として戦略的に意図したものなのか、社内に何らかの別の問題があって離職率が高くなり、労働力不足で必然的にそうならざるを得ないのかで、「新卒に即戦力性を求めるべきかの是非」は異なります。

労働力が欲しいだけの場合はそもそも新卒である必要はありません。また中途採用であっても「その即戦力を必要とする背景や目的」を明確にしないと、入社後のミスマッチや不満・ストレスによる離職に繋がりかねません。

③新卒も中途も分け隔てなく即戦力を前提に採用している場合

前述した2パターンに当てはまらない例外として、新卒も中途も分け隔てなく採用している外資系企業があります。

外資系と聞くと「即戦力」「成果主義」という言葉が思い浮かぶ通り、外資系企業の多くは、採用という人材投資からいかに短期的に成果を上げられるかということを重視する傾向にあります。

また「終身雇用」「年功序列」といった日本独特の雇用慣行もなく、将来を見据えて新卒を育成しようという意識も薄いため、外資系企業の経営戦略における採用の役割が、そもそも日本企業の「新卒採用」の考え方とはかみ合わないのです。

グローバル化やIT技術の発展に伴って、一部の外資系企業では新卒採用数が徐々に増加してきてはいますが、一定の「即戦力」性が求められるため、まだまだ中途採用の割合が多いのが現状です。

以上のように、企業が採用基準として設定する知識やスキルや経営戦略の切り口によっては、新卒に「即戦力」が求められるケースもありますが、学生が職務内容に直結する高度な知識や専門スキルを在学中に習得できている場合を除いては、新卒に「即戦力」を期待する採用活動はあまり現実的ではないと言えるでしょう。

結局、新卒に「即戦力」を求めてもいいのか?自社の採用戦略や目的達成に必要かという視点で考えよう

自社の採用戦略や目的達成に必要かという視点で考えよう

今回は、経営戦略を念頭に置いた採用の本質に立ち返って、新卒採用と中途採用それぞれの目的を明確にした上で、採用における「即戦力」はどう捉えられるべきかについてお話ししました。

以下、ポイントをまとめます。

  • 採用とは、「経営戦略の実行」を「人材供給」という切り口で実現する企業活動である。
  • 新卒採用と中途採用の目的の違いの1つに「活躍を期待する時間軸の違い」がある(新卒は将来、中途は今)。
  • 上記のことから、一般的に「新卒採用はポテンシャル採用」「中途採用は即戦力採用」とも言われる。
  • 育成を前提とし、将来的な活躍を見据えた新卒には、先天性が高く習得に時間を要する「性格や価値観」といった能力を採用基準として重要視することが多い。
  • 採用における「即戦力」とは「今すぐ自社に必要な知識やスキル」などを指す。(中途採用の場合は業界経験の知見なども含む)
  • 企業が「求める即戦力」によっては、新卒でも即戦力を有する人材となり得る。
  • ただし職務に直結する専門的な知識や高度なスキルを在学中に習得できるケースは少なく、現状で新卒が「即戦力」となりうるのは一部の職種に限られている。

「新卒にも即戦力を求めるべきか?期待してもいいのか?」は、一概に「Yes」「No」で答えられるものではありませんが、前述したように、もし「労働力が足りない!」という理由だけで新卒に「即戦力」を求める、というのであればそれは間違っています。

確かに労働人口は年々減ってきており、人材不足が緊急の課題であることは事実ですが、今いる社員一人一人の生産性を上げる取り組みや、新入社員を始めとする若手社員がより早期に活躍するように教育体制を強化することも対策の選択肢としてあるはずです。

もし今あなたが「新卒に即戦力を求めるべきか否か?」の判断に頭を抱えているのであれば、「新卒に即戦力を求めること」が自社の経営戦略を実現するために必要か、新卒採用の目的を達成するために必要かという視点で考えてみてください。

実務で忙しい毎日の採用業務の中でも、採用の本質や経営戦略の原点に立ち返り、また一点に集中しすぎず視点を変えてみることが助けになるかもしれません。

【サンプル】採用基準策定のための現場ヒアリングシート(記入例付き)
【サンプル】採用基準策定のための現場ヒアリングシート(記入例付き)
採用基準策定のための現場ヒアリングシートで、仕事で成果を上げるために必要な能力、性格、志向・価値観は何であるかを現場社員へヒアリングし、採用時の求める人物像を抽出しましょう。
資料ダウンロード
人事ZINE 編集部

人事ZINE 編集部

人事・採用担当者の悩みに寄り添うメディア「人事ZINE」の編集部です。 新卒採用オファー型サイト「OfferBox(オファーボックス)」を提供する株式会社i-plugが運営しています。