「1on1」で強い個と組織をつくる。導入・実施のポイントを解説
個の時代と言われる中、一人ひとりの可能性を引き出す人材開発・組織開発の1つとして1on1ミーティング(以下、1on1)に注目が集まり、導入する企業が増加しています(『日本の人事部 人事白書2020』によると導入企業の割合は4割超)。
しかしながら日常的な運用を担う現場からは「忙しくて実施できない」、「話すことがない」、「本当に意味はあるのか」といった声も挙がり、歩調を合わせることに苦労している人事の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
1on1を効果的に活用し人材開発・組織開発に繋げるには、現場に任せっぱなしにせず、全社としてPDCAを回しながら運用していくことが重要です。今回は導入方法や運用のポイントを解説します。
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目次
1on1とは?面談との違い
まずはじめに、1on1とは何かについて、面談と比較しながら説明します。
1on1とは、週に1回~月に1回のペースで行う上司と部下が1対1で対話する場・機会です。評価や管理のために行われる面談とは異なり、部下の成長をサポートするために行うのが1on1です。
1on1を通じて上司は、部下がどういう思いや考え、悩みを持っているのかということを把握し、部下のサポートを行います。これまでの面談が、評価者である上司のための場になりがちなのに比べ、1on1の主人公はあくまでも部下であることが最大の特徴です。
注目される背景
ここでは1on1が注目される背景について解説します。
事業環境の変化
現在はVUCA※の時代と呼ばれ、以前と異なる先の見通せないビジネス環境の中、既存のやり方が通用しない状況が生まれています。予測不能な状況の中で会社が持続的な成長を果たすためには、各組織や社員一人ひとりが自ら考え、行動し続けることが求められるようになりました。
それを推進するためには、個人の成長はもちろん、上司と部下、部下同士など、組織内の良好なコミュニケーションが不可欠であり、コミュニケーション手段の一つとして、1on1は注目されています。
※VUCA
Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)という4つのワードの頭文字から取った言葉。「予測不能な状態」という意味を持つ。
労働市場の変化
現在日本では、労働人口の減少が著しくなっているとともに、終身雇用の崩壊で転職活動も当たり前になっています。企業と個人の関係は、お互いを選び合う相互選択関係へと変化しました。そのような状況の中、企業は働く個人から選ばれ続ける必要があり、企業と個人を結び付け続けるための手段として1on1は普及しています。
働き方や人材の多様化
近年、テレワークの増加や副業の容認など、多様な働き方を推進する流れが社会的に進んでいます。また、企業のグローバル化、女性やシニア層の活躍など、人材自体も多様化しています。社会の変化に対応した人材開発が重視されており、柔軟な対話型コミュニケーションの必要性が高まっています。
1on1の効果
続いては1on1の効果について、部下、上司、組織というそれぞれの視点からご紹介します。
部下(メンバー)にとって
部下にとっては「ビジネスパーソンとしての成長のきっかけを得ること」が期待できます。具体的には下記のような効果が挙げられます。
- コミュニケーションをとるきっかけになる。
- 上司と信頼関係が構築でき、コミュニケーションが円滑になる。
- ちょっとした困りごとでも気軽に相談できる。
- 短いスパンで振り返りを行うことができるので、業務の改善に繋げられる。
- アイデアや改善案を上司に気軽に提案することができる。
- 組織や業務の方針をすり合わせることで、疑問解消ややるべきことの明確化ができる。
- 対話の中で問いかけを多く受けることで、自ら内省するスキルが高まる。
- 今後の自身のキャリアプランを考えるきっかけができる。
上記4点目の「短いスパンで振り返りを行うことができるので、業務の改善に繋げられる。」に関する補足として、経験学習サイクルという考え方を紹介します。
組織行動学者のデービッド・コルブが提唱した考えで、1on1内や事前準備において、成功体験や失敗体験を振り返ることで、自身の傾向や課題が明確になり、学びが一般化(概念化)された結果、新たな行動の変化に繋がり、経験学習サイクルが回るようになります。
サイクルを回すことによって、部下個人が成長し、更に個人の集合体である組織の成長へと繋がっていくのです。1on1導入の先駆者で成功事例としてあげられるヤフー株式会社では、1on1の主目的として「社員の経験学習を促進するため」という内容を掲げています。
- 「経験」:その人自身の状況下で、具体的な経験をする。
- 「省察」:自分自身の経験を多様な観点から振り返る。
- 「概念化」:他の状況でも応用できるよう、一般化、概念化する。
- 「実践」:新しい状況下で実際に試してみる。
上司にとって
上司にとっては「部下の成長と会社の成長を『繋ぎ合わせる』すること」が期待できます。具体的には下記のような効果が挙げられます。
- コミュニケーションをとるきっかけになる。
- メンバーと信頼関係が構築でき、コミュニケーションが円滑になる。
- メンバーが困っていること、不安や悩みをキャッチアップできる。
- メンバーに関する情報(動機の源泉、価値観、強み、弱み)を知ることで、メンバーの持ち味や個性を活かしたサポートができるようになる。
- 会社や組織のビジョンやミッション、方向性に対するメンバーの理解度を確認、すり合わせることができる。
- 今後のメンバーのキャリアについて、対話することができる。
- 部下全員と話すことで、組織全体の課題が見えてくるきっかけとすることができる。
- 個人や組織の課題解決に取り組むことで、上司自身の成長も期待できる。
組織にとって
最後に組織にとっては「組織パフォーマンスを高め、会社の成長を加速すること」が期待できます。具体的には下記のような効果が挙げられます。
- 個人のパフォーマンス向上により、組織全体のパフォーマンスが上がる。
- 個人と会社のエンゲージメントが高まることで、社員の定着率向上に繋がる。
- 定期的に行われる人事評価への納得度を上げることができる。
- 個人のキャリアや適性を顕在化することで、適切な人材配置を実現できる。
- チームワークが高まることで、携わっているプロダクトやサービスがより良いものになる。
以上のように、質の高い1on1を行うことで、個人や組織にとって様々なポジティブな効果をもたらすことが期待できます。
1on1が機能する組織をつくるためのポイント
最後に、1on1を会社全体として機能させるために取り組むべきポイントをご紹介します。人事が主体となり、三者それぞれに対して支援を行うことが成功の鍵となります。
部下(メンバー)に対しての支援
1on1をより意義ある場・機会とするためには、上司・部下の双方が当事者意識をもって貢献することが求められます。当事者同士が対話を通して相互に作用することが部下の成長へ繋がっていくのです。
部下の当事者意識を高めるための働きかけの例として、「キャリアワークショップ」をご紹介します。1on1では身近な業務相談に留まらず、キャリアについての対話を行うことで、部下の長期的な成長を支援することが可能となります。
しかし、キャリア観が漠然としすぎていると、上司側もどう対応して良いものか戸惑うことが予想されます。そして本人も自信をなくし、キャリアという中長期的に重要な意味を持つテーマを、1on1の話題として挙げなくなってしまいます。
そのような状況を防ぐため、人事や人材開発組織がワークショップを主催し、キャリアの考え方のインプットや過去の棚卸し、ベースとなる自己理解促進の支援を行います。そういった機会を踏まえ、継続的に1on1を実施していくことで深い対話を展開することができるでしょう。
【キャリアワークショップ例(目安時間:5h)】
- 過去の棚卸し:成功体験と失敗体験の共有
- 客観的視点での自己理解の促進:上司からの手紙
- 未来へのヒント:先輩インタビュー
- 未来ビジョン:未来の自分を描き、描いた未来に近づくための戦略立案
上司への支援
1on1は部下のための時間であるという性質上、話題に上るテーマは広範にわたり、伴走役となる上司には幅広い知識・スキルが求められます。
上司が1on1をより良く運営できるように、知識・スキル学習の機会付与やナレッジ共有などの教育的支援を充実させることが重要です。下記に効果的な1on1を行う上で、上司に求められる5つのスキルをご紹介します。
1.アクティブリスニング
相槌 / 相手が言ったことを繰り返すことで、内省を促すこと。
2.レコグニション
無条件の肯定的な配慮 / 目の前にいる部下の存在を認め、部下のありのままを受け止める、そしてそれを相手がわかるように伝えること。
3.コーチング
部下が経験から学び、次の行動をうながすための質問を主としたコミュニケーション手法
4.ティーチング
知識や技術を知っている人から知らない人に教える行為。
5.フィードバック
耳の痛いことを部下にしっかり伝え、彼らの成長を立て直すこと。
これらのスキルを身につけ活用することで、対話を通じて部下の課題を深掘りし、成長に繋げることができるようになります。
また「今回のできごとから何を学んだの?」という学びの確認をする問い、「この学びを次にどこで活かす?」という次の行動を決定させる問いを活用することで、更に効果を高めることができます。
こうした知識やスキルを習得するための機会としては、ロールプレイングを実施することをお勧めします。3人1組となり、上司役、部下役、オブザーバー役を立てて、模擬面談や面談後の相互フィードバックを行うことで、知識やスキルの定着を図ることができます。
組織全体への支援
1on1をやることが当たり前となるよう、組織全体を支援していくことも重要です。具体的な取り組みを3点ご紹介します。
第1に、導入する目的の明確化と周知の徹底です。導入段階において、まずは現場の上司・部下の双方が1on1の意義・意味について十分に理解・共感している状態を育むためのコミュニケーションを図っていくことが肝要となります。
具体的には説明会の実施、イントラネットや社内報、社員が集まる会議(全社朝礼、キックオフなど)での発信や、社内のインフォーマルなネットワークを通じての啓蒙等、あらゆるルートを活用し、1on1の認知を拡大していきましょう。
第2に、自社に合った方法やルールの設計をすることが重要です。頻度や時間はどうするのか、アジェンダは配布するのか、飲食費はつけて良いのか、実施状況チェックやアセスメントは行うのか等、導入目的に合わせたルールを設け、運用することで、PDCAサイクルを回しやすくなります。
ヤフー株式会社では、3ヶ月に1回、部下に自分が受けた1on1を点数化してもらい、結果を上司にフィードバックする取り組みを導入しています。そういった取り組みでの効果やベストプラクティスを全体共有するような仕組みをつくることで、全社で1on1の効果を高めることができます。
第3に、現場の実施環境の整備を行う必要があります。個室の不足やスケジュール調整困難などの環境要因を理由に、1on1が形骸化していくこともあります。ミーティング用の設備を整え、現場が取り組みやすい環境をつくりだしましょう。
終わりに
今回は1on1が注目される背景や効果、導入ポイントについて解説しました。1on1はVUCA時代の今、社員一人ひとりが更に成長していくための効果的な手段の一つです。
部下にとっても上司にとっても有効な成長の機会であり、それが組織や会社の成長へも繋がっていきます。
しかしながら導入して満足していては結果は出ません。目的を果たすために人事部主体で部下、上司、組織それぞれに対して働きかけ、現場の運用サイクルが効果的に回るように支援していくことが重要です。
短期的に成果が上がるものではありませんが、強い個と組織をつくり会社を成長させていくため、着実に推進していきましょう。今回紹介したポイントを押さえ、是非実践してみてください。
参考資料:『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(ダイヤモンド社)