AI採用とは?新卒採用でAIを活用するメリット・デメリットや事例を紹介
人材売り手市場や人材獲得競争の激化といった動きのなか、自社が求める人材を高い精度かつ効率的に獲得するための取り組みがより重要になっています。同時に近年はAI技術の発達によって、これまで人が行っていた高度なタスクの一部をAIに任せられるようになってきています。そこで注目されているのが「AI採用」です。
本記事では、AI採用の基礎知識と活用の背景を解説し、具体的に採用でAIを活用する3つの方法をご紹介します。また、企業が新卒採用にAIを活用するメリット・デメリットや、採用にAIを活用する際の注意点についても詳しく解説します。
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目次
AI採用の基礎知識

AI採用は、採用業務の効率化やマッチング精度の向上を目指す選択肢として、近年注目を集めています。ここでは、AI採用の基本的な概念と活用の背景について解説します。
AI採用とは
AI採用とは、採用活動においてAI(人工知能)を活用し、採用業務の効率化や候補者のマッチング精度の向上につなげる取り組みを指します。具体的には、求人媒体で登録者のプロフィールや志望要件をもとに候補者を絞り込む際や、書類選考で応募者のES(エントリーシート)を評価する際、さらには面接プロセスにおいてもAIが活用されている状況です。
AI採用を行うには、一般的にツール提供会社が提供するAIモデルを活用します。自社の採用要件や社内に蓄積されている過去データをAIモデルに追加的に学習させたり、既存のシステムに組み込んだりすることで、効率的かつ精度の高い採用活動を実現できます。
AI採用が取り組まれている背景
AI採用が注目される背景には、深刻な人手不足と売り手市場の影響があります。
従来人間が行っていた採用業務のタスクにAIを活用すると、品質を維持・向上させながら同時に効率化・自動化できます。例えば、ESの初期選考や候補者の傾向分析など、膨大な時間・労力がかかるタスクをAIに担わせることで、担当者はより戦略的な業務や人間的な判断が不可欠な業務に集中できるのです。
また、AI技術の進歩とコストの低下も、AI採用が普及している要因の1つでしょう。従来、AIは極めて高価であり、資金・専門人材を抱えるごく限られた企業だけが保有・活用していました。しかし、近年はAIモデルの構築・カスタマイズも容易になり、高度な大規模言語モデルを安価かつ手軽に利用できるようになっています。そこで、採用にAIを活用しやすい条件が整っているのです。
採用でAIを活用する方法

採用活動においてAIはどのように活用されているのでしょうか。ここでは主な活用方法を詳しく解説します。
候補者の接点創出
1つ目は、候補者と接点を作る際にAIを活用する方法です。
採用現場では、自社が求める人材との接点を増やすことが大きな課題となっています。まず、候補者選定には時間・労力がかかり、また候補者に響く求人文言やオファー文を作成するのは容易ではありません。
そこでAIを活用すると、プロフィールや志向をもとにマッチング度が高い人物を自動的に抽出できます。また、自然言語処理技術を搭載したAIが過去のデータをもとに高い反応率・応募率が見込める求人文言やオファー文を自動生成することも可能です。
これによりマッチング精度の向上と業務効率化を同時に実現できるでしょう。
書類選考の評価
2つ目は、書類選考の評価にAIを活用する方法です。
採用現場において、大量のESを1つひとつ確認するのは、膨大な時間・労力がかかり、さらに主観的な判断が入り込むリスクもあります。これにより、判断がぶれてしまったり自社が求める人材を見逃してしまったりする可能性も否定できません。
AIを活用すると、過去の採用データを学習した機械学習モデルが、求める人材の特徴を抽出。そのパターン・モデルをもとに、応募者のスキルセットや経験、志望動機などを総合的に評価し、適切な候補者を効率的にフィルタリングすることが可能です。
担当者は戦略的な業務に集中でき、採用プロセス全体の質・効率を高められます。
面接
3つ目は、面接プロセスにAIを活用する方法です。
面接では、候補者のパーソナリティ・適性を見極める必要がありますが、評価の精度は面接官の主観・スキルに大きく左右されます。また、多数の候補者に対して一貫した評価を行うことも簡単ではありません。
そこでAIを活用すると、面接プロセスの公平化と効率化につながります。具体的には、AIが面接の音声・映像を分析し、候補者の表情、話し方、反応速度などからコミュニケーションスキルやストレス耐性を、あたかもプロの面接官のように客観的に評価します。
このようにAIを活用することで、面接官の主観的なバイアスを減らし、より公平かつ一貫性のある評価が可能になるのです。
企業が新卒採用にAIを活用するメリット

ここではは、「AIを新卒採用に活用すると具体的にどのようなメリットがあるのか」「なぜ自社が求める人材の確保につながるのか」を解説します。
採用活動の工数を削減できる
新卒採用の現場では、学生からの問い合わせ対応、書類選考、面接日時の調整など、多くの時間・労力がかかる業務が存在します。例えば、書類選考では特定の時期に膨大な応募者のなかから要件に合う人材を選び出す必要があり、これは担当者にとって大きな負担です。
AIを導入することで、新卒採用活動の各種タスクを効率化・自動化できます。具体的には、AIが応募者のES・プロフィールを解析し、企業の求める要件に合致する候補者を自動的に抽出。「AI面接」を活用すれば、面接の日程調整や評価も自動化でき、採用担当者・面接官の負担を軽減できます。
このように、AIは書類選考や面接といった採用活動の数多くの場面で工数削減に役立つのです。
公平・一貫性がある評価に役立つ
AIを活用すると、人の主観・バイアスによらず公平で一貫性のある選考につながります。
一般的に、採用プロセスでは、面接官や評価担当者の主観・バイアスが意図せず結果に影響を与えることがあります。また、評価基準が統一されておらず、担当者によって判断がぶれてしまう問題もあるでしょう。
一方、AIは決められたパターンや客観的なデータにもとづいて評価を行うため、一貫性のある評価が可能となり、公平な選考を行えます。
ただし、AI自体がバイアスを持つ可能性は排除できず、完全に任せきりにするのは推奨されません。そのため、AIは評価担当者をサポートするツールとして活用し、人間の判断と組み合わせるのがよいでしょう。
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書類選考の評価精度と効率が向上する
AIを活用することで、ESの信頼性や人材の個性を効率的に判断できます。
新卒採用の現場では、ほとんどの学生が複数社に同時に応募するという特性上、場合によっては応募者が過去のESやWeb上で出回っている記載例をコピー・改変していないかチェックする必要があります。しかし、これを人手で行うのは膨大な時間と労力がかかり、現実的ではありません。
AIを導入すると、過去のESや公開されている記載例と、提出されたものを比較し、類似性を自動で検出できます。また、大量のESを学習したAIであれば、提出されたESの独創性や優れたポイントを瞬時に判断することも可能です。
これにより、採用担当者は信頼性の高い情報に基づいて選考を進められ、就職活動が解禁された直後の忙しい時期であっても、自社が求める人材を見逃すリスクを抑えられます。
多様な応募者に対応できる
AIを導入すると、多様な応募者に対応しやすくなるというメリットもあります。
まず、AIを活用することで採用や選考にかかる工数が削減され、より多くの応募者からエントリーを受け付けることが可能になります。書類選考や面接にAIを実装すれば、人の代わりにある程度までAIが判断・対応できるため、社内の採用担当者が多くない場合でも、自社が求める人材を効率的に選び出せます。
特に、近年は人でなければ対応できないと思われていた面接をAIが行う「AI面接」も登場している状況です。原則オンラインでいつでも実施できるため、遠方に住んでいる学生やスケジュール調整が難しい学生ともマッチングしやすくなります。
このように、AIを活用すれば多様なバックグラウンドを持つ学生との出会いを増やしやすいのです。
企業が新卒活動にAIを活用するデメリット

AIを新卒採用に導入すると多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。ここでは、AI活用時に考慮すべきポイントを解説します。
心理的に抵抗を感じる人も存在する
AIを採用プロセスに取り入れることに対して、学生のなかには不安や抵抗を感じる人もいます。Thinkings株式会社の採用・就活とAIについての調査では、「企業がAIを活用した判定を実施することをどう思うか」という質問に対し、学生から「AIの判定方法が分からず不安」「AI面接で同じ質問を何度もされ、不信感を抱いた」といったネガティブな意見が寄せられました。
このように、AIの導入は企業側にはメリットがあるものの、学生側には不安を与える可能性があります。そのため、AIを活用する際には、その仕組みや目的を丁寧に説明し、理解・納得を得られるような慎重な対応が求められます。
出典:Thinkings株式会社「『採用・就活とAI』について、採用担当者と学生へ調査」
学生の個性を細かく判断するのは困難
AIはESをデータとして解析しますが、そのなかには応募者一人ひとりの志望動機や想いが込められています。文章力や表現力には個人差があり、AIがその個性や熱意を正確に評価できる保証はありません。例えば、内容が優れているにもかかわらず、表現の癖があって機械には解釈しにくい場合、AIがそれを見落としてしまう可能性もあります。
このため、AIに全ての判断を任せるのではなく、人間の目による確認や補完が必要です。人間とAIが協働することで的確に評価することが可能になります。
事前の要件設定・データ整理が必要
AIを効果的に活用するためには、事前の評価基準の設定やデータ整理に時間と労力を割く必要があり、これらがデメリットとなる場合もあります。
AIが応募者を評価・判断するためには、まず評価基準を明確にし、それを言語化してシステムに組み込む必要があります。その前提として、自社が求める人材像を具体的に定義しておくことが不可欠です。
また、AIの判断精度を高めるためには十分なデータ欠かせません。エントリー数が多い大企業であれば必要なデータを短期間で収集できますが、エントリー数が少ない中小企業やベンチャー企業では、データが不足し、AIの精度が期待したレベルに達しないこともあります。
採用にAIを活用する際の注意点
新卒採用にAIを導入することにはメリット・デメリットの両面があり、活用する際はいくつかのポイントに注意する必要があります。
まず、AIがバイアスを持つ可能性があります。AIは過去のデータを学習して判断を行うため、元のデータに偏りがあると、意図しない「癖」を持つリスクがあるのです。「評価が偏らないか定期的にチェックする」「人間の補助的に使う」といった取り組み方が重要でしょう。
また、学生の心理に与える影響にも注意が必要です。AIが選考に使用されていると知ると、一部の学生は納得感の低下や抵抗感を抱く可能性があります。企業側は「AIをどのように活用しているのか」「AIに対してどのようなスタンスなのか」を説明できるようにしておく必要があります。
さらに、AIシステムの継続的な調整も考慮しなければなりません。AIは「過去のデータを学習して、より精度の高い出力ができるようになる」特性を持つため、追加学習を含めた調整が必要です。
AI採用の導入ステップと成功要因
AI採用は、ただツールを導入すれば成功するわけではありません。戦略的な計画と継続的な改善が不可欠です。ここでは、AI採用を成功に導くためのステップと、押さえるべきポイントを具体的に解説します。
AI採用導入前の準備(現状分析と目的設定)
AI採用導入は、事前準備が重要です。まず、自社の採用課題を明確に言語化しましょう。応募者対応の工数過多、面接の属人化、ミスマッチによる早期離職など、AIで解決したい具体的なポイントを特定します。
次に、その課題をAIがどう解決し、どんな成果を期待するのかを数値目標で設定します。「書類選考時間を〇%削減する」「内定辞退率を〇ポイント改善する」など、明確な目標を設定することで、導入後に効果測定を行えます。現状の採用プロセスやデータの整理もこのフェーズで徹底的に行い、AIが学習しやすい基盤を整えることが成功への第一歩です。
AI採用ツールの選定ポイント
AI採用ツールの選定は、自社の課題解決に直結するため、慎重に進める必要があります。重要なのは、自社の採用課題に最適な機能を持つかという視点です。書類選考の自動化、AI面接、候補者マッチング、歩留まり予測など、各ツールが提供する機能は多岐にわたります。
次に、費用対効果を見極めましょう。初期導入コストだけでなく、月額利用料、運用にかかる人件費なども含めたトータルコストで判断します。
また、既存の採用システム(ATSなど)との連携性や、導入後のサポート体制が充実しているかも確認が必要です。ベンダーの実績や、利用企業の声を参考に、信頼できるツールを選びましょう。
導入後の運用と改善サイクル
AI採用は導入後の運用と継続的な改善サイクルがとても重要です。
AIが提示する評価や候補者リストを人間の目で必ず確認し、初期の精度を担保します。AIの学習データは運用するほど蓄積されるため、徐々に精度は向上しますが、意図しないバイアスがかかっていないかなど、定期的な検証が不可欠です。
データに基づいた効果測定を継続的に行い、AIのパフォーマンスを評価します。期待値との乖離があれば、設定の調整や、AIの学習データを見直すなど、改善策を実行しましょう。AIと人間の協調が、採用の質を最大化する鍵となります。
AI採用を活用している企業の事例
キリンホールディングス
飲料・食品業界の大手であるキリンホールディングスの事例を紹介します。
従来の採用プロセスでは、応募者の個性や潜在能力を多角的に見極めることに課題を感じ、特に新卒採用における一次面接の評価の質と効率化を求めて2026年卒の新卒採用から「AI面接官」を本格導入しています。
このAIは、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」をベースに、候補者の発言内容や表情を分析し、多角的な評価指標を可視化します。
これにより、書類選考だけで候補者を落とすことなく、人間では約6時間かかる評価をAIが短時間で行い、公平で質の高い一次スクリーニングを実現しています。
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社では、新卒採用における応募数の膨大さにより、ESの評価に多大な時間を要している点が大きな課題でした。
同社は、2017年からAIを活用したES選考を導入し、後に動画面接へのAI導入も実施しています。IBM Watsonの自然言語分類技術を用いてESの内容を分析することで、ES選考にかかる人的工数を約75%削減し、また、AIが動画を分析することで、面接所要時間を約70%削減する成果を実現しています。
横浜銀行
横浜銀行では、大量のエントリーシートを公平かつ効率的に評価することに課題を感じていました。
そこで、FRONTEO社が提供するAIエンジン「KIBIT」をエントリーシート選考に導入。KIBITは、人間が判断に迷うような微妙なニュアンスを含むテキスト情報も分析し、応募者の内面的な特性や企業文化への適合性を評価します。これにより、ES選考にかかる時間を約70%削減しながら、将来のハイパフォーマー候補をより効率的かつ公平な基準で発見することを実現しています。
AI採用に関するよくある質問とQ&A
AI採用の導入を検討する際によくある疑問にお答えします。
AI採用は本当に公平なのか?(バイアスの問題)
AIは人間のような感情や先入観を持たないため、評価の一貫性は高まります。しかし、学習データに過去の採用実績や人事評価の偏りがある場合、AIもそのバイアスを学習してしまうリスクがあります。完全に公平とは言い切れないため、導入企業は学習データの質を検証し、定期的に評価結果を人間の目で確認・調整することが重要です。
導入にどれくらいの費用がかかるのか?
AI採用ツールの費用は、提供ベンダーや機能、利用規模によって大きく異なります。無料プランから始められるものもありますが、高度な機能や大規模な利用には月額数万円〜数十万円以上かかるケースも。初期導入費用、月額利用料、オプション費用などを総合的に考慮し、自社の予算と期待する効果に見合うツールを選定することが重要です。
AIが採用担当者の仕事を奪うのか?
AIは採用担当者の仕事を「奪う」のではなく、「代替し、支援する」ツールです。書類選考や一次面接などの定型業務をAIが担うことで、採用担当者は学生との深い対話や戦略立案、企業ブランディングといった、より人間ならではの創造的・戦略的な業務に集中できるようになります。AIと人事が協調することで、採用活動全体の質が高まります。
学生からの評判や反応は?
学生の反応は二つに分かれる傾向があります。AIの公平性や効率性を評価する学生がいる一方で、人間味のない選考に抵抗を感じる学生も存在します。企業は、AI活用の意図やメリットを学生に丁寧に説明し、AIによる選考後も人間による手厚いフォローを行うことで、学生体験の悪化を防ぎ、良好な関係を築くことが重要です。
中小企業でも導入できるのか?
近年では、中小企業でも導入しやすいAI採用ツールが増えています。限られたリソースの中で採用活動を効率化したい中小企業にとって、AIは強力な助けとなります。高額なフルパッケージではなく、書類選考の自動化など特定の機能に絞ったツールから導入を検討したり、無料トライアルを活用したりするなど、自社の規模や課題に合わせた導入が可能です。
まとめ

AI採用は、新卒採用における効率化とマッチング精度の向上を実現する有力な手段です。学生との接点創出、ESの評価、面接プロセスにいたるまで、AIを活用すると採用活動の効率・質を高められます。しかし、「学生がネガティブな印象を持つ恐れがある」「個性の細かな判断が難しい可能性がある」といったデメリットも存在します。こういったAI採用のメリットやデメリットの両面を比較しながら、最適な活用方法を検討してみてはいかがでしょうか。
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