働き方改革とは?【わかりやすく】概要と重要ポイント3つを解説
“働き方改革”ってなに?どうやって進めるの?就業規則は?……働き方改革対応で頭を抱えている人事担当者もいるのではないでしょうか?
働き方改革関連法は、2021年4月から完全施行されるので、基本的にはそれまでに準備を終えておく必要があります。そこで今回は、働き方改革関連法の概要と重要な3つのポイント、実務の進め方などを紹介します。
また、例外として、同一労働同一賃金の対応については、全てを今行うことが得策ではないことも合わせて説明いたします。
目次
働き方改革とは? わかりやすく概要を説明
働き方改革に取り組む前に知っておくべきこと
日本は「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立」など、働く人のニーズが多様化している状況に直面しています。こうしたなか、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。
「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く人の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く人一人ひとりがよりよい将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
つまり、働く全ての人々の環境をよりよくする法律なのです。
・働き方改革関連法は8つの労働法を一括で改正
国は前述のような考えの下、次の8つの労働法を改正しました。
- 労働基準法
- じん肺法
- 雇用対策法
- 労働安全衛生法
- 労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運用の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)
- 労働時間等設定改善法(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法)
- パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)
- 労働契約法
これを一括で改正した法律が働き方改革関連法であり、正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といいます。
どのように改正されたか、具体的に見ていきましょう。
働き方改革とは? 働き方改革関連法の全体像
働き方改革関連法は、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保のため、次の8つが改正されています。
2019年4月から順次施行されていますが、中小企業と大企業で施行時期に違いがあり、次のとおり中小企業は猶予期間が設定されています。中小企業と大企業の定義は、下記のとおり資本金、または労働者数で業種ごとに定められた基準で判断することになっています。
1.時間外労働の上限規制が導入(大企業2019年4月1日~/中小企業2020年4月1日~)
時間外労働の上限について月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合(特別条項)にも上限を設定します。
【罰則】6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
2.年次有給休暇の確実な取得(全企業2019年4月1日~)
年間10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得を企業に義務づけられます。
【罰則】30万円以下の罰金
3.中小企業の月60時間超の残業の割増賃金率引上げ(大企業適用済み/中小企業2023年4月1日~)
中小企業で猶予されていた、月60時間を超える残業に対する割増賃金率が50%に引上げられます。(25%→50%)
【罰則】6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
4.「フレックスタイム制」の拡充(全企業2019年4月1日~)
より働きやすくするため、労働時間の調整が可能な期間(清算期間)を3か月まで延長できるよう、制度が拡充されます。
【罰則】30万円以下の罰金 ※届け出ないと罰則対象となります。
5.「高度プロフェッショナル制度」を創設(全企業2019年4月1日~)
高度な専門的知識等を有し、かつ一定水準の年収の者を対象に、一定条件の下「労働時間、休日」等の労働時間の規制を適用除外にできます。
6.産業医・産業保健機能の強化(全企業2019年4月1日~)
労働者の健康管理等に必要な情報を産業医へ提供することなど、産業医の活動環境が整備されます。なお、労働時間の把握義務も含みます。
【罰則】50万円以下の罰金
7.勤務間インターバル制度の導入促進(全企業2019年4月1日~)
1日の勤務終了後から翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間の確保に努めなければなりません。
【努力義務】
8.正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差が禁止(大企業2020年4月1日~/中小企業2021年4月1日~)
同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で基本給や賞与などの個々の待遇ごとに不合理な待遇差が禁止されます。
【罰則はないが損害賠償請求のリスクあり】
働き方改革対応の重要ポイント3つ
働き方改革関連法のなかでも、どの企業でも対応が必要で、労力のかかる重要ポイントを3つに絞って説明していきます。
①時間外労働(残業)の上限規制
法改正のポイント
先にも述べたとおり、従来の「36協定」の限度基準を法律に格上げし、罰則による強制力を持たせることとなりました。また、従来、労使合意により上限なく時間外労働を設けることのできた従来の「36協定の特別条項」について、上限を設定するよう規制されます。
つまり、いままで青天井に設定できた残業時間に上限を設定し、強制力を持たせるために罰則を設けたということです。
・上限規制の内容
原則、月45時間・年360時間(36協定)ですが、臨時的な事情で労使が合意(36協定特別条項)した場合であっても以下を超えることはできません。
- 年720時間以内
- 複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
- 月100時間未満(休日労働を含む)
あなたの会社の「36協定/特別条項」は大丈夫?
あなたの会社の特別条項は大丈夫でしょうか?
後述しますが、改正後は特別条項に健康確保措置を定める必要があります。ここでは、36協定(特別条項含む)の内容について見ていきましょう。
特別条項付きの36協定を締結している場合は、大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から、特別条項について法令の範囲で上限を設定することが必要です。
また、36協定(特別条項含む)の様式が法改正に伴い、法律施行以降、最初に到来する協定期間から新様式で対応することが求められています。
・特別条項における新様式のポイント
新様式で特別条項を定める場合は、健康確保措置を導入する必要があり、様式裏面のなかから選ぶ必要があります。
すでに対応済みの事項と思いますが、労使合意事項であることに留意してください(下図、赤矢印の部分)。
・36協定届の記載例 (限度時間を超える場合:特別条項付)
②年5日の年次有給休暇の確実な取得
法改正のポイント
先にも述べたとおり、年間10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得が企業に義務づけられます。
会社は、年次有給休暇取得義務対象者について、「労働者自らの請求」「計画的付与」「使用者による時季指定」のいずれかの方法で、年次有給休暇を取得させなければなりません。
また、「年次有給休暇管理簿」の作成、3年間の保管も義務付けられています。
次の厚生労働省のサイトに制度概要や「年次有給休暇管理簿」などの解説がありますので、参考にしてください。
(厚生労働省 「年次有給休暇促進特設サイト」)
あなたの会社は有給休暇の管理はどうなっている?
あなたの会社の労働者は、年次有給休暇を5日取れていますか?
先に述べたとおり、「労働者自らの請求」「計画的付与」「使用者による時季指定」のいずれかの方法で年次有給休暇を取得させる必要があります。
ただし、業種・業態によっては年次有給休暇を取得することが業務上困難な場合は、計画的付与で年次有給休暇を計画的に取得させることが考えられます。
なお、計画的付与は、労使協定のほか就業規則の改定も必要ですので、改めて適用する場合は、余裕を持って労使合意の上で進めるとよいでしょう。参考までに、計画的付与導入の参考サイトをご紹介します。
(厚生労働省 岡山労働局 「年次有給休暇の計画的付与制度の導入に向けて」より)
③同一労働同一賃金
法改正のポイント
先に述べたとおり、同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で基本給や賞与などの個々の待遇ごとに不合理な待遇差が禁止されます。
ポイントは下図のとおり「不合理な待遇差をなくすための規定整備」「労働者に対する待遇に関する説明義務化」の2点になります。
あなたの会社はどこまで対応している?
上図にあるように「不合理な待遇差をなくすための規定整備」については、厚生労働省にてガイドラインが制定されていますが、不合理にあたる例は、不合理になる「可能性」に留められており、最終的な判断はこれから出てくる最高裁の判断待ちになっています。
この状況のため、同一労働同一賃金に関する就業規則改定について、最高裁判決が出るのを待たずに行うことは得策ではありません。一度待遇を変更すると元に戻すことは困難であり、非正規社員の待遇については細心の注意を払って決定すべき事項だからです。
重要ポイント3つの実務対応は?
時間外労働(残業)の上限規制
実務上、当たり前ですが、残業を36協定/特別条項の範囲内に上限の範囲に収めることが求められます。
そのために、特別条項の見直しをする際に残業が多く見込まれる場合は、できる限り法定の上限である月80時間、年間720時間にしておくことが望ましいです。
ただし、単に上限を増やすのではなく、どのように残業を減らす努力をするか、どのように残業を管理するかなど、労使で十分に話し合うことが求められます。
・管理上のポイント
特別条項を定めているとしても、月45時間の限度を超えることができるのは1年のうち6カ月までとしなければなりません。
ただし、法改正後は特別条項を最初からあてにするような残業計画ではなく、原則、月45時間の限度内に収める管理体制を整えることが望まれます。
労働者人数が多い企業は、勤怠システムの36協定や特別条項のアラート機能などを活用するとよいでしょう。
年5日の年次有給休暇の確実な取得
年次有給休暇の取得率が少ない会社などは、労働者の年次有給休暇の取得漏れがないように、計画的付与を検討してもよいかもしれません。
ただし、製造業やサービス業などで労働日数が売り上げに直結するような場合は、全員一斉に有給休暇を付与するのではなく、グループに分けて一斉付与をするなども有用です。
なお、計画的付与の必要がない場合であっても、労働者から年次有給休暇の取得計画を付与基準日の前に提出させる、基準年度後半には「有給休暇取得月間」を設けるなどの規定をぜひ検討してください。
・管理上のポイント
自社の年次有給休暇の基準日が個別付与の場合、年次有給休暇の基準日が労働者によってバラバラになり、有給消化義務の管理が非常に煩雑になります。
そのため、一律に管理が可能なので、基準日を毎年一定の日に統一する「一斉付与」の方式に切り替えることをお勧めします。
次の「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」に詳しく解説されていますので、参考にしてください。
(厚生労働省 「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」より)
同一労働同一賃金
まず対応しなければならないのは、主に説明義務の準備、就業規則改定の2点です。
・説明義務の準備
待遇の違いがあった場合、労働者から説明を求められたら説明をする義務がありますが、厚生労働省より「説明書のモデル様式」が公開されています。実務としては書面の準備が必要ですので、準備をしていなければ、速やかに準備してください。
なお、書面には厚生労働省の「説明書のモデル様式」を使用すれば、様式を自社で作成する必要はありません。
○(厚生労働省「パートタイム・有機雇用労働法対応のための取組手順書」)
・就業規則の改定
同一労働同一賃金に関する就業規則改定について、最高裁の判決が出る前に全てを行うことは得策ではないことを説明しました。
そのため、規程改定の対象とするのは、すでに最高裁で判決が出ている通勤手当や、福利厚生など明らかなものに留めるのがよいと思われます。最高裁判決の動向を見ながら、弁護士等の専門家と相談のうえで対応を進めたほうがよいでしょう。
働き方改革を対応している人事担当者へのアドバイス
これらの働き方改革関連法対応は、あくまで最低限企業が対応すべき事項であり、働き方改革の第一歩です。このようななか、新たに担当を任され、対応に苦慮しているという人事担当者もいるかもしれませんが、ひとりで悩む必要はありません。
無料で利用できる厚生労働省の働き方改革推進センター(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198331.html)などをぜひ活用しましょう。
コロナ渦で、リモートワークなど働き方改革を加速した企業や、とん挫している企業もあるかもしれませんが、同一労働同一賃金の動向を見ながら、重要ポイントを中心に着実に対応をしていきましょう。