働き方改革の問題点は?企業が直面する課題と解決のカギ4つ
近年、多くの企業が働き方改革の導入に取り組んでいます。しかし、働き方改革と一口にいっても改革すべきポイントが多岐に渡るため、思うように改革が進んでいないと悩んでいる人事担当者も多いのではないでしょうか。
そこで働き方改革の基本、多くの企業がつまずく課題や働き方改革が抱える問題点と解決法をまとめてご紹介します。
目次
働き方改革の基本
まずは働き方改革の基本となる三本柱を改めて知っておきましょう。
働き方改革のポイントとは?
働き方改革のポイントは下記の3つです。
- 長時間労働是正
- 同一労働同一賃金(正社員・非正規の差是正)
- 多様で柔軟な働き方の実現
それぞれのポイントをご紹介します。
長時間労働の是正
過労死やメンタルヘルスの不調などで、長時間労働は長年問題視されてきました。高度経済成長期に長時間働くスタイルが流行し、何十年経過した現在も長時間労働が常態化している状態です。
つまり、会社の運営が長時間労働をベースとした構造になっているため、抜本的な改革をしなければ変化しない問題だといえます。
同一労働同一賃金
正規・非正規の格差問題が浮き彫りになった派遣切りを覚えている方も多いのではないでしょうか。その後、不安定な雇用を守るため日雇い派遣の禁止などを含んだ派遣法の改正が2012年10月1日に行われました。
しかし、同じ労働をしていても正規・非正規で賃金が異なる問題については、2020年4月1日にパートタイム・有期雇用労働法が施行されてようやく改善に動く企業が出てきた状態です。
多様で柔軟な働き方の実現
今は育児や介護で出社が難しくなり退職してしまう、退職してブランクがあり正規雇用に復帰できない、定年を迎えてなお働きたいという労働希望者への受け皿がありません。
多様で柔軟な働き方にシフトできるよう改革することで、労働希望者が活躍できる社会を作ることを目的にしています。
働き方改革のそもそもの目的は?
働き方改革はそもそも何を目的として作られたのか、ご存じでしょうか。働き方改革の目的は労働力人口の減少に歯止めをかけ、日本経済を活性化することです。働く人のワーク・ライフ・バランスを実現し、皆が活躍できる社会(一億総活躍社会)をつくるために改革に取り組んでいます。
なぜなら日本は少子高齢化によって人口が減っているにも関わらず、働きたい人を受け入れられない状況にあります。
働きたい人を受け入れられないことで、労働力人口は減少し、企業は人手不足になる可能性もあるでしょう。このままでは日本経済が衰退していくと懸念されているのです。
日本経済が衰退しないためにも、長時間労働の是正・同一労働同一賃金・多様で柔軟な働き方を早急に実現し、働きたい人がきちんと働ける環境を作ることが不可欠です。政府がそう判断したことで、働き方改革法案が施行されたのです。
そもそも働き方改革は誰のため?
「目的は理解できたけれど、働き方改革は誰のために行うものなの?」と不思議に思う方もいるかもしれません。その答えは、個人・会社・国すべてのためと言えます。日本で暮らす個人のためでもあり、会社のため、ひいては社会全体・国全体のために取り組む改革です。
個人・会社・国それぞれのメリットは以下です。
- 個人:ワーク・ライフ・バランスがとれた働き方を実現できる
- 会社:ワーク・ライフ・バランスがとれる働き方の実現で採用力が向上する
- 国:ワーク・ライフ・バランスがとれた働き方で、個人が生き生きと働けるため、労働力人口が増え、日本経済が活性化する
ワーク・ライフ・バランスが実現できると、その他複数のメリットを同時に得ることも可能です。個人はその他に育児や介護を行いながら働くことができる、自己啓発の時間に充てられる、休養を取ってより意欲高く仕事に臨めるなどのメリットがあります。
会社の場合は採用力の他に、育児で離職しがちな女性社員の離職防止、社員の意欲低下の防止、残業代の削減にもつながるメリットがあります。
もしこのまま働き方改革に取り組まずに今の働き方を続ければ、労働力人口が回復せず、日本経済は少子高齢化による人口減とともに衰退していく可能性が高いのです。
つまり、個人が働きづらい環境であれば働く人が増えず、人手不足や売上減少で会社が倒産し、日本経済全体が衰退していってしまいます。
日本経済の衰退を防ぐためにも、日本に暮らす個人、すべての企業が取り組むべき問題といえるでしょう。
このように改革が実現すれば個人・会社・国の皆が幸せになるプランなのですが、なかなか改革が進まないのはなぜでしょうか。企業が直面している問題点を確認してみましょう。
働き方改革で企業が直面している問題点
働き方改革で企業が直面している問題点は5つあります。
人件費やツール導入などコストが高い
働き方改革を実施する場合、人件費の増加やツールの導入などでコストが高くなってしまいます。
人件費が上がる理由としては、年次有給取得の義務化と同一労働同一賃金の2つがあります。年次有給取得の義務化で賃金をもらいながら休む人がいれば、休みで圧迫した業務が他の人にまわり、その人に残業代を支払うことによって人件費が増加します。
さらに同一労働同一賃金の義務化により、今までは賃金差があった仕事も同一賃金にする必要があるため、雇用している人数×上昇した賃金分の人件費が増加します。雇用している人数が多ければ、人件費負担の増加幅も大きくなるため負担が大きくなります。
また、時間不足や効率化を人ではなくシステムで解決するために、ツール導入を検討する企業も多いです。
しかし、抜本的な改革をする場合は大規模なシステムをつくる必要があります。そのため導入コストが莫大にかかってしまい、ずっと取り組めないという状況があるのです。
高度プロフェッショナル制度の乱用
高度プロフェッショナル制度とは、一定額の収入以上の専門職に就く人に対して、働いた時間ではなく成果で評価する制度のことです。
一定額の収入以上に当てはまる専門職の方については、労働基準法の残業時間上限や残業代の概念、休憩・休日などに関わる規制もすべて対象外とされます。
つまりこの制度を乱用すれば、労働基準法を無視した働き方を会社が指示したとしても問題にできない可能性があります。
働き方改革のためにできた制度ですが、残業代も支払われない・長時間労働を命令されても問題にならないという、本来の目的に反する結果を生むことも十分考えられるでしょう。
従業員のモチベーション低下
これまで残業代で収入を得ていたのに、残業規制が入ったことで収入が減少し、働くモチベーションが下がる人も出てくるでしょう。また、会社として働き方改革のための制度を作ったとしても、問題点が解決されないまま、制度が実施されないままになる可能性もあります。
制度が形骸化した場合、約束したことを実施しない会社に対して信頼がおけなくなるため、従業員のモチベーション低下は避けられないでしょう。
生産性・売り上げの低下
残業時間の規制・多様な人材の受け入れなどを実施すると、時間不足による売り上げ低下、新たな人材への教育時間確保による生産性の低下などが問題になります。
働き方改革は構造上の問題であることが多いため、今のやり方を大きく変えずに残業規制や多様な人材を受け入れた場合、負担が増すだけになる可能性も高いです。働き方の改善を図るつもりで改革を実施しても、生産性や売り上げの低下を招けばリストラや倒産という事態にもなりかねません。
働き方改革に取り組んだ結果、働く人を不幸にしてしまうという未来を作る可能性もあるのです。
サービス残業や管理職の負担などの増加
残業時間を規制したことで、家への持ち帰り仕事が増えるなどのサービス残業への懸念もあります。または残業規制のない管理職への負担が増え、管理職以外はワーク・ライフ・バランスがとれるなど、いびつな形で制度が実施される可能性もあるでしょう。
一部に負担が寄るようになると負担がかかった人が退職をし、さらに生産性と売り上げの低下を招くため、双方のバランスを保てるような解決策を打っていくことが必要です。
働き方改革における問題点の解決策
では、働き方改革における問題点をどう解決していけばいいのかをご紹介します。
現状把握と問題点の洗い出し
まずは自社に現状どのような問題があるのかを現場にヒアリング、細かく把握した後に解決方法を導き出しましょう。
この現状把握には、働き方改革における問題点の特定以外にも3つのメリットが得られます。
- 問題点と解決策が明確になり、働き方改革における優先順位が定まる
- 優先順位に応じて働き方改革に取り組めば、無駄なコストをおさえられる
- 部門ごとの詳細な勤務状況が明らかになることで、高度プロフェッショナル制度の乱用を防止できる
高度プロフェッショナル制度が適用された労働者には、通常の労働基準法で定められた労働時間や休憩などの規定が当てはまりません。しかし、年間104日以上の休日確保や健康管理時間を見た上で労働者の健康を確保することが定められています。
そのため、休日日数が確保されていたとしても「心身ともに健康を害する可能性がないか」「高度プロフェッショナル制度に該当する業務の範囲を超えていないか」などの細かい現状把握をすることで、制度乱用を防止できます。
働き方改革のゴールの共有
働き方改革のすべてが実現するのは理想ですが、手間がかかりすぎるため、会社経営と並行して一度にすべて改革することは難しいのが現実です。まずは一番自社が問題としている部分を解決することにフォーカスし、働き方改革におけるゴールとプロセスを改めて全体に共有しましょう。
全体に共有すれば個々人の目的意識を高めゴールに向かうモチベーションを醸成できますし、ポジティブに取り組むことで生産性・売り上げのアップにつながる可能性も出てきます。
働き方改革は企業にとっても構造の変更を伴う一大プロジェクトになるため、一時的に機能がストップして全社のパフォーマンスが下がる可能性もあります。もちろん一気に変化させることは難しいため、段階的に実施するという方法を取る場合もあるでしょう。
しかし、一時的なパフォーマンスの低下を恐れて最初から一部分だけと決めて改革を行っても、望むような結果は得られない可能性が高いです。構造から改革していくには段階的に行うとしても移行期間の期限は決め、全社横断で実施することが重要です。
しかし、効率化など数字のみを見つめて改革を行うと数字には現れないプラス面を削ぎ落としてしまい、かえって生産性を下げることにもつながりかねません。本来の目的を定期的に振り返り、目的に沿った施策を行えるよう注意しましょう。
抜本的なワークフローの見直し
自社の改革すべき働き方が確定したら、抜本的な改革をするためにゼロからワークフローの見直しを行いましょう。残業や管理職の負担増を防ぐには、そもそも必要のない仕事・システムで置き換えられる仕事・外注できる仕事・まとめれば手間が減る仕事などを見つけることが重要です。
間違った観点で見直しをしないためには、「この仕事は本当に必要か」「どの程度の利益や付加価値を生み出しているのか」を調査した上で、「今回の目的に沿っているか」という基準でどうするかを判断しましょう。
ロードマップの作成
ワークフローの見直しができたら、新しいワークフローに変更するまでのロードマップを作成してください。今までやってきたことを大きく変える場合、さまざまな角度から反対意見が出てきます。
検討の結果、反対意見が正しいという判断であれば、やり方含めて改めて検討する必要があるでしょう。しかし、単に今までのやり方を変えたくない気持ちに理由をつけた反対意見も出てくるため、冷静に判断していくことが重要です。
改革に取り組む際はさまざまな意見や感情が混じって、目的やあるべき姿を見失ってしまいがちです。そんなときこそ、改めて目的を共有し、客観的なデータを用いて議論ができるよう注意しましょう。
また、改革に取り組む途中でコミュニケーション不足になる可能性も高まるため、いつも以上にコミュニケーション接点を作れるように心がけることがスムーズな改革のためには重要です。
目的を見失って制度が形骸化するという最悪の事態は避け、改革によって経営が改善するよう取り組んでみてください。
働き方改革における問題点は、現状に即した施策と目的共有がカギ
個人のワーク・ライフ・バランスと会社の健康経営を両立してくれる働き方改革を実現するためには、企業ごとに異なる問題点を発見することから始めましょう。
自社の問題を正しく把握すれば、現状に即した施策を実施でき、より働き方改革をスムーズに推進できます。実施する際には働き方改革を実施する目的を全社に共有し、会社全体の士気を上げて取り組むように心がけると目的以上の成果を得られるかもしれません。
今こそ働き方改革に全社横断で取り組み、全員で明るい未来をつかみとってみてはいかがでしょうか。