過去10年と今後10年の新卒採用市場の変化 〜採用担当者がこれから取り組むべきイシューとは?〜
新卒採用市場はこの10年で大きく変化し、またこれからの10年も大きく変化しようとしています。
新卒採用に取り組む上で、この先無視できないメガトレンドや、人事として考えなければならないイシューは何でしょうか?
2022年6月14日に開催されたオンラインイベント「HR Offer Day 2022」では、人材開発・組織開発の有識者である立教大学教授の中原氏、株式会社サイバーエージェントの曽山氏のお2人をお迎えし、これらのテーマについてディスカッションしていただきました。その内容の一部をレポートします。
登壇者プロフィール
中原 淳氏(立教大学 経営学部 教授)
立教大学教授。立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長などを兼任。博士(人間科学)。専門は人材開発論・組織開発論。2018年より立教大学教授(現職就任)。
曽山 哲人氏(株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO)
上智大学文学部英文学科卒。1998年に株式会社伊勢丹に入社し、紳士服の販売とECサイト立ち上げに従事。1999年に当時社員数20名程度だった株式会社サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。現在は常務執行役員CHOとして人事全般を統括。
キャリアアップ系YouTuber「ソヤマン」としてSNSで情報発信しているほか、「若手育成の教科書」「クリエイティブ人事」「強みを活かす」などの著作がある。
モデレーター
田中 伸明(株式会社i-plug 取締役CFO)
1982年三重県生まれ。2005年関西学院大学経済学部卒業。2012年グロービス 経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。新卒ではアフラックに入社。株式会社グロービスでは法人営業に従事。i-plug創業初期はCOOとして法人営業を担当。
その後はCMOとして学生、法人マーケティングの仕組み作りや広報、大学営業の立ち上げ、またCHROとして組織開発にも着手。2019年9月よりCFOに就任しIPO準備、審査対応、IRを担当。株式会社イー・ファルコンの取締役も兼任し経営全般を担う。
過去10年の新卒採用市場における変化
田中
曽山氏
①「早期化」と「長期化」
インターンシップを含めて「早期化」していると同時に、内定を出すのも早くなり、入社までが「長期化」しています。
今であれば2023年度・2024年度・2025年度の卒業生というように、3年先のことまで同時に進めなければいけなくなっていますよね。採用から研修までを1年で行っていた時代からすると、時代が大きく変わってきていると言えるのではないかと思います。
②インターンシップの増加
インターンシップと言っても、研修的なインターンシップもありますし、事実上1日だけのものもありますが、総数としては増加していると言えます。
学生からすると企業理解が進むというポジティブな要素になりますし、会社からすると会社の中身を知ってもらい、社員に触れてもらえる機会が増加するというメリットがあります。
③情報公開の加速
たとえば、就業している方や退職された方から、会社の実態について口コミサイト上で評価されてしまうわけです。良い会社には良い口コミが投稿されて好印象を与えますが、イマイチな会社の場合は悪い印象を与えてしまいます。
「会社が社員を評価する」というモデルから、「働く側が会社を評価する」というモデルに変化して、就業に関する情報が民主化していることも大きな変化かと思います。
中原氏
①現代の就活活動は4年間の個別プロジェクトへ
かつての就職活動は4年生のみのイベントでしたが、現代の就職活動は4年間の個別プロジェクトになったということが挙げられます。
つまり4年間の大学生活の内で、学生によってインターンの開始時期も違えば、就職活動の開始時期も違います。私のゼミの場合は、約3割の学生が1年生からインターンに参加しています。就職活動の開始時期で言うと、2年生の前期が12%で、2年生の後期が44%です。人によって、就職活動の時期がバラバラになってきていることを感じています。
②仕事で選ぶ学生の割合が増えている
会社で選ぶのではなく、仕事で選ぶ割合が高くなっているということ。いわゆる「なんちゃってジョブ型採用」です。昔の私であれば、「人事に行きたい」と言っている学生に対して「人事に行きたいとは言うな」と伝えていましたが、最近は逆に「人事に行きたいと言え」と伝えています。つまり会社側にそう伝えたほうが、採用される傾向にあるわけです。
③長く働き続けられる会社を選ぶ
今の学生たちはワークライフバランスに執着を持っています。また、転勤やリモートなど、とにかく働き方の選択肢が多いほうがいいと思っています。ある意味職業は手段であって、その先でどのようなウェルビーイングや幸せを達成できるのかを考える学生が、少しずつ増えている気がしています。
今後10年の新卒採用市場の変化
田中
中原氏
①大学のみでビジネスパーソンを育成する時代は終わる
現在私のゼミでは、企業の方に授業に出向いただいて、共同で商品開発をするようなプロジェクトを進めています。学生を育てることに対して企業にコミットしていただくということは、逆に言うと、学生がその企業に就職するという事例もこれから出てくるのではないかと考えています。
②データアナリティクスを活用すること
私たちの学内ではデータアナリティクスラボという研究チームで、「どのような学生で、どのような成績の人は、どのようになっていくのか」というデータを集めています。またそのデータを通じて、「どのような学生を、どのように育成すれば、どのようになるのか」ということも研究しています。たとえば1年生の春学期の学習態度から、3年生の秋のことを高い精度で予測できてしまうわけです。
こういった研究の次の段階として、絶対に卒業後の話に進むと考えています。つまり極端な話をすると、「どのような学生が、どのような組織に入ると、どのように昇進して、どのように給与が変化するのか」ということを予測できるようになります。現時点でまだその段階までは進んでいませんが、この先の10年を考えた場合、データに基づく採用や組織適応、トランジションという話が進んでいくのではないかと思います。
曽山氏
①「経験者採用」の概念が新卒に下りてくる
1つ目として、先ほど中原先生がおっしゃっていた「なんちゃってジョブ型」がこれから広がっていくと思います。とくに「経験者採用」という概念が、さらに新卒に下りてくるだろうと考えています。
②本物インターンシップ
インターンシップの種類は非常に増えていますが、就業型のインターンシップは「就業経験を学んで自分の視野を広げる」という、本来の意味を持つインターンシップでもあります。給与的な報酬もしっかりお支払いしますから、大学生の生活にもメリットがあるわけです。インターンシップを単発で何回も受けて何回も落ちるよりも、長期で本物のインターンシップを行うほうが、より価値が上がっていくのではないかと思います。
③DX
大きく分けると2つありますが、1つはデジタル化です。効率化に近いものですが、面接フローの改善やデジタル化はこの先数年で一気に進みますし、まずは今の作業を圧縮するデジタル化が進むと考えています。
それとともに、今持っている採用のデータや入社後のデータを、どのように評価に連動していくのかということが進んでいくと思います。デジタル化が進むことによって、よりデータを収集できるようになっていく。データが豊富になると、より分析もしやすくなっていく。つまり、データ収集と分析のサイクルが回っていきます。逆に、デジタル化が遅れている会社はデータを取りづらくなっていきますから、企業間の格差も出てくるのではないかと思っています。
人事・採用担当者がこれから取り組むべきイシューとは
田中
曽山氏
①採用の経営課題化
私は「採用」こそが会社の未来を決めていくと思っています。そのため会社の経営陣や人事のトップの方々が、採用というものは採用の仕事ではなく、経営の仕事であるという定義を持つことができるかどうかが非常に大事だと考えています。
②採用から才能開花の一気通貫
入社後の配置やコンディションチェックまで、採用部門が権限を持って行っていかなければいけないということです。せっかく我が子のように育てて採用したメンバーがいたとしても、その人のやる気がなくなっていく姿を見てしまうと、嫌な気持ちになってしまいますよね。
具体的にサイバーエージェントでは、新卒採用と中途採用を行っている部門と、社内の異動を専門に行っている部門があって、元々は担当役員がそれぞれ違っていました。それを「これからは採用から才能開花までの一気通貫が必要だ」ということで、採用から全社員の最適配置までを1人の人間が見るようにしました。これは人を活かしやすくするために、実際に取り組んでいるイシューです。
③データ
とりあえずデータを一覧表にして見てみるだけでも、何かしらの改善の兆しは見つかるはずだと思っています。データを見て改善習慣を持ち続けるということも、非常に大事なイシューであると感じています。
中原氏
時々、大学に来てくださるビジネスパーソンの方々の中でも、時計の針が20年間止まってしまっているような方がいらっしゃるんですよね。自分の学生時代の話をしても、時代は変わってしまっているので、今の学生たちには引かれてしまいます。そういった点を踏まえて、もっと今の学生を見て触れ合っていただきたいと思っていますし、インターンシップやコラボ型の授業を含めて、さまざまな学生との接点を持てるといいのではないかと思っています。
曽山さんがおっしゃったような採用と育成の連動というイシューもありますよね。育成を担当している人からすると「なぜこんな人間を採ったんだ」と感じていて、採用担当者からすると「なぜ私たちが採った人材をこれほど駄目にしたんだ」と感じてしまっている。この部分が一気通貫できるような体制や仕組みをつくることができればいいですし、できることはたくさんあると思っています。
曽山氏
まとめ
教授と人事、それぞれの立場で最先端の取り組みをされているお2人。これから10年の変化とそれに向けて取り組むべきことについて、とても明確に示していただきました。人事・採用担当者にとっては多くの気づきを得られたセッションだったのではないでしょうか。
ほかにもお2人には、以下のような質問にもお答えいただきました。
- 配属確約型ではなくても学生は応募してくれますか?
- 「才能開花」実現のために活用しているデータは具体的にどのようなものですか?
- 優秀な採用担当が持っている要素とは?