HRBPの仕事内容や役割とは?人事やCHROとの違い、導入手順、事例を紹介
昨今、経営者や部門責任者を人事面から支える「HRBP」(HRビジネスパートナー)に注目が集まっています。HRBPについての理解を深めると、自社の組織体制や人員配置を見直す足がかりになるかもしれません。
今回は、HRBPの意味や仕事内容、導入手順、実際の企業事例などを紹介します。
目次
HRBPとは?基礎知識を解説
HRBPとは「HRビジネスパートナー」の略語であり、企業において経営者や部門責任者のパートナーとして人事面の助言やサポートを行う存在です。人事機能を担う役職の1つとして、経営目標の達成や事業成長を目指します。
HRPBは、ミシガンビジネススクールに在籍するデーブ・ウルリッチ教授によって提唱されました。著書『MBAの経営戦略』において、ビジネススクールでは注目されてこなかった人事の組織体制や機能を「パラダイムシフト」する必要があると説いたのです。
ウルリッチ教授は、人事は単に人員調整や採用活動を行うだけの存在ではなく、経営陣のパートナーとして意思決定に必要な助言を与える存在であるべきだと指摘しました。HRBPは現場に身を置きながら、経営層との橋渡しを行い、人事のプロフェッショナルとして経営課題の解決を図る存在としています。
HRBPの仕事内容
HRBPは、人事のエキスパートとして主に次の2つの仕事を担います。
- 人事体制や教育体制の設計・構築、採用活動といった人事業務を遂行する
- 人事の側面から経営課題の解決を目指して施策を立案・実行する
ただし、企業によってHRBPの仕事内容や役割、定義は異なってきます。単に人事部門の責任者を指す場合もあれば、戦略立案に特化した人事コンサルタントをHRBPとする企業もあります。
HRBPはなぜ必要とされているか
昨今、HRBPが注目を集めているのには、どのような背景があるのでしょうか。
1つ目に、ビジネス市場の不確実性が高まり、人事に柔軟性が求められるようになったことが挙げられます。リーマンショックや新型コロナウイルス感染症に代表されるように、世界規模の急激な環境変化が相次いでいます。コロナ対策において急きょテレワークへの対応に迫られたように、このような状況下では、人事領域においても企業に素早い対応力が求められるのです。そこで、経営視点を持ちながら現場環境の改善を実行できるHRBPの必要性が高まりました。
また、採用売り手市場が続き、自社にマッチする人材獲得がますます困難になっていることも一因です。質の高い母集団を形成するには、採用要件を明確化してターゲット層とピンポイントで接触を図る必要があります。経営目標や課題から求める人物像を抽出し、適切な採用要件を確立できる人材が求められていることもあり、HRBPが注目されているのです。
HRBPの役割
HRBPの担うべき役割について解説します。
経営者のビジネスパートナーになる
HRBPには、経営者や管理者のビジネスパートナーとして、ビジョンや理念に対する深い理解が求められます。経営陣とともに目標実現においてどのような組織を作っていくべきか検討し、そのために必要な人事戦略を策定します。人事のエキスパートとして専門的な知識や経験を駆使し、人事の視点から企業組織の成長を支えることがミッションの1つです。
経営陣の理念を現場に伝える
経営陣の考えている理念やビジョンを噛み砕き、分かりやすい形で現場社員に伝えることも重要な役割です。理念やビジョンは策定すれば終わりというわけではありません。どのような意義や意図があるのか社員に理解してもらい、日常業務と連携させなければ、形骸化してしまいます。経営陣の考えを分かりやすく現場に伝え、現場との橋渡しを行うこともHRBPの役割です。
現場の声や現状を経営陣に共有する
HRBPは、経営層の意図を現場に伝えることと同時に、現場の意見や現状を経営陣に共有する役割もあります。企業経営では明確な達成目標を立てる必要がありますが、実現可能性の低い目標を立てては社員に負担をかけてしまいます。経営陣が一方的に理想を押し付けてしまう構図になると、社員が不満を抱き、モチベーションやエンゲージメントの低下につながりかねません。
現場に近い位置にいるHRBPは、日頃から社員の声や状況をこまめに情報収集し、経営陣に共有することが求められるのです。
HRBPと類似する役職との違い
HRBPとよく混同される言葉として、「人事」「CHRO」「労務」との違いを解説します。
HRBPと人事の違い
前章で紹介したウルリッチ教授の定義によれば、HRBPは人事機能の1つであるとされています。ウルリッチ教授が定義した人事の機能とは、次の3つです。
- シェアード・サービス:勤怠管理、給与計算、入退社の手続きといった事務作業
- センター・オブ・エキスパタイズ:人事評価や人材育成、労務管理といった専門知識を要する業務
- HRBP:経営陣のパートナーとして人事面から経営課題解決のための戦術を策定する役割
つまり、HRBPを含めた3つの機能を合わせた存在が人事といえます。
HRBPとCHROの違い
昨今、人事部門の最高責任者を指す役職として「CHRO(Chief Human Resource Officer)」を配置する企業も増えています。CHROは経営陣の1人として戦略人事を実行し、人事業務を統括するポジションです。対して、HRBPは人事部門の一員として現場に根ざし、社員の声を経営層に届けることで経営課題の解決を目指します。
CHROが人事戦略や中長期目標を策定し、HRBPはそれを実質的なチーム目標や行動プランに落とし込んで現場社員に浸透させると考えると分かりやすいでしょう。
HRBPと労務の違い
労務管理は、職場環境の改善や社員の健康管理などを行い、社員の働きやすさを向上させる機能です。前述でも触れた通り、人事機能の1つに含まれます。
経営課題の解決や目標実現のために必要であれば、労務管理がHRBPの仕事に含まれることもあります。
HRBPを導入するメリット
HRBPを企業に配置すると、次のようなメリットが得られます。
戦略的な人事を実現できる
経営戦略と連携した人事戦略の実現は、経営視点と人事視点のどちらが欠けていても難しいものです。経営視点を持ちながら人事の専門的な知識を駆使して戦略を立案できるHRBPがいると、経営戦略に即した人事を実現できるでしょう。既存の人事体制をそのまま踏襲するのではなく、優秀な若手社員の起用やポジションの新設など、攻めの人事が実行できます。
人材育成がスムーズになる
HRBPの仕事には、人材の育成や教育の体制作りも含まれます。経営戦略を実現するためにどのような人材が必要なのか紐解き、その人材を的確に育成するための体制構築を実現することで、現場での育成プロセスもスムーズになるでしょう。
HRBPに求められるスキル
経営陣のパートナーとなるべきHRBPには、どのようなスキルや特性が求められるのでしょうか。代表的な3つのスキルを紹介します。
経営視点やビジネス感覚
経営者や部門責任者の右腕となって活躍する存在となるには、彼らと対等に議論できるだけの経営の基礎知識やビジネス感覚はもちろん必要です。単に知識や業務遂行能力だけでなく、チームを統括した経験や後輩社員の育成経験、自社にマッチする人材を見極める目線なども重要になってくるでしょう。
人事の専門知識や経験
人事や採用に関して経営陣のアドバイザーになれるだけの深い専門性や経験、キャリアを持っていることも重要です。単純な知識や業務経験のみならず、人事体制の構築や組織形成といった上流工程に従事したハイキャリアが求められます。実質的には、人事・採用分野において少なくとも5年以上の就労経験が必要となるでしょう。
ヒューマンスキル
現場社員からの信頼を得る必要もあることから、良好な人間関係を築くヒューマンスキルも必須といえます。実現性や実効性の高い戦略を立案するためには、現場での細やかな情報収集が重要です。そのため、現場社員から「どのような内容でも相談できる」と思ってもらえる存在でいなくてはなりません。日頃から社員と密接にコミュニケーションをとり、信頼を得る姿勢が求められます。
HRBPを導入する手順
自社にHRBPを配置する際の手順を、4つのステップに分けて解説します。
1.人事戦略を明確化する
はじめに、自社の経営戦略や市場環境などを検討し、そのなかでどのようなチームや人材が必要なのか明確化していきます。人材確保においては、採用だけでなく育成も手段の1つであることを考慮しましょう。現状の目標や環境に対して求められる人物像を言語化し、それを2~3年単位の中期人事戦略としてまとめていきます。
2.人事体制を構築する
数年間の人事戦略が策定できたら、それを実行する人事体制の検討・見直しを図ります。HRBPの設置ありきで考えるのではなく、戦略の実現には本当にHRBPが必要なのか、設置するとしたら組織のなかでどのような役割を担うのか検討してください。検討の結果、戦略の実現にはHRBPが必要だという結論になったら、HRBPを含めた人事体制を新たに構築していきます。
3.実行と改善を繰り返す
最初からHRBPの本格導入を目指すのではなく、まずトライアルを行うことがおすすめです。HRBPは従来の人事と異なる存在であることを社内に認識してもらう必要があるからです。まずは小さな課題のサポートから開始し、HRBPの存在が社内に浸透するに従って、より大きな課題に発展させるとよいでしょう。試行錯誤を繰り返しながら、自社にとって最適なHRBPの運用方法を見定めましょう。
4.担当者の専門性を高める
HRBPが社内に定着しても、それで運用が終わるわけではありません。人事の専門知識から経営に関する知識まで幅広く習得する必要があるHRBPには、継続的に知識習得を行う姿勢が求められます。経営課題の解決に必要なロジカルシンキングをはじめ、人的資源の管理方法など、解決手法を幅広く取り揃えるようにしましょう。
HRBPを導入する際のポイント
HRBPを効果的に活用するためのポイントを3つ紹介します。
まずは部分導入から始める
HRBPは、日本企業ではまだ認知が広まっていない存在です。HRBPがどのようなミッションを担う存在なのか社内の理解が深まるまでは、経営課題といきなり直結させようとせず、まずは現場における実地的な課題解決からスタートしてもよいでしょう。
役割やミッションを明確にする
HRBPは、従来の人事や人事部長、CHROといった役職と明確に役割を切り分けにくい側面があります。役割が明確になっていない状態でHRBPを配置しても、思うように価値を発揮できません。「経営課題を解決する」といった抽象的な役割でなく、課題解決において具体的にどのような働きをしてほしいのかなど、できる限り詳細に言語化しましょう。
経営者と対等に議論できる人員を起用する
HRBPは、経営者のパートナーとして対等な立場に立ちながら、現場側の意見も取り入れられる存在でなくてはなりません。経営者寄りの人材を起用すると、うまく機能しない可能性があります。
とはいえ、HRBPを即戦力として担える人材は採用市場でもまれな存在です。ノウハウを貯めながら、社内で1から育てていくことも検討しましょう。
HRBPの導入事例(i-plug編)
新卒向けダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox」を運営する弊社i-plugでは、2021年10月に人事部責任者の発案によってHRBPを導入しました。なぜ導入を決定したのか、HRBPによって組織がどのように変わったかなど、導入事例を紹介します。
i-plugがHRBPを設立した背景
i-plugがHRBPの導入を決定した背景には、上場したタイミングで企業の目指す方向性や目標が変化し、組織の課題が明らかになったことがあります。
従来の人事部門は採用や労務を担う側面が多く、経営目標との連携や企業文化の醸成といった機能についてはこれからの段階でした。そこで、HRBPの組織を新しく設立し、事業へのコミットや組織づくりといったミッションに貢献できる組織を目指すことにしたのです。
i-plugにおけるHRBPの役割と仕事内容
i-plugにおけるHRBPの役割は、簡潔にいうと「人と組織面の課題解決を通して会社や事業成長にコミットすること」です。社員の声を聞きながら、経営陣や責任者のパートナーとして対等に議論し、組織のあり方や現状の課題の解決、社員へのメッセージを考えるなど、多方面とコミュニケーションを取りながら事業成長に寄与していきます。
HRBPの仕事内容は企業によってさまざまですが、i-plugの場合は人や組織面の課題解決がテーマのため、社内の関係構築に関わる仕事が多いです。
例えば、HRBPグループを立ち上げた当初、全社員面談の実施とサーベイの組み合わせで組織課題の抽出を試みました。そのなかで「フルリモート勤務におけるコミュニケーション不足」という問題が挙がっていたことから、解決策として「オフィスカミングDAY」というイベントを企画。会社側が交通費などの費用を負担して部署ごとに来社を促し、あらためて対面でコミュニケーションを取ってもらう機会を作りました。
HRBPを導入したことでの変化
従来の人事体制でも社員に寄り添った対応を心がけていたものの、組織構築の根幹に介入するような機能はありませんでした。しかし、HRBPという組織を立ち上げたことで、ブラックボックス化していた組織の課題も少しずつ見え始め、改善すべきポイントが明確になりつつあります。
最近ではHRBPが社員から相談を受ける機会も増え、キャリアや働き方について少しずつ気軽に話してもらえるようになりました。今後は、社員と経営、守りと攻めのバランスを重視しながら、社員にとってより働きがいのある環境づくりに取り組んでいきます。
まとめ
HRBPは、従来の人事とは異なり、人事のエキスパートとして経営陣とともに経営課題の解決を目指す存在です。経営視点と人事視点の双方を持ち合わせたHRBPを配置することで、経営と連携した戦略人事の実行が可能になります。
とはいえ、HRBPを担える人材は市場にも少なく、短期間での導入は困難と考えた方がよいでしょう。外部採用が難しい場合は、社内で1からHRBPとなれる人材を育成しながら、自社に最適な人員配置を目指してください。