「採用広報」の役割とは|自社を“内側から”ブランディングする重要性
ここ数年で「採用広報」という言葉をよく見かけるようになりました。
以前から「採用広報」という言葉自体はありましたが、現代は情報を発信するメディアの多様化やコミュニケーション手法の変化から、「採用広報」の在り方が見直される動きがあるようです。
今回、人事ZINE編集部は、新卒採用アドバイザーとしてご活躍されている山地さんに、現代における「採用広報」の定義や役割についてご意見を頂きました。
目次
自社のファンを増やせても、”自社の求める人材の採用”に繋がっていなければ「採用広報」の役割を果たしたとは言えない。
人事ZINE編集部
ー今回は採用広報の役割や在り方に対するご意見をお聞かせいただければと思います。山地さんは現在の「採用広報」をどのように定義付けていますか?
山地さん
“採用広報担当” というポジションが無いので、「これが採用広報の役割です!」と明確な線引きをするのは難しいのですが、”自社が求める人材” を採用するために寄与する活動は全て「採用広報」と呼べるものだと思っています。
企業の広報活動もコーポレートサイトの運用、SNSアカウントを活用した自社PR、テレビCM、取引先と良好な関係性構築と幅広いのですが、「”採用”広報」の場合は、その広報活動が「自社の求める人材と採用を接続する」ものでなければなりません。
ですので、自社のファンを増やすだけ、エントリー数を増やすだけで採用に結び付いていない広報活動は、採用広報の役割を果たしているとは言えないと思います。
厳しい観点かもしれませんが、入社後の定着と活躍というところまで繋げて、初めて「自社の求める人材を採用する」という役割を果たしたと言えるのではないでしょうか。
ーなるほど。「採用広報」は採用活動の一部という立ち位置ではないのですね。むしろ全体の採用計画に関わってくるという。
そうですね。自社の求める人材を採用するという前提条件のもとでは、
- 求人広告の掲載
- 就活イベント・転職イベントへの出展
- SNSを活用した企業情報の発信
- ダイレクトリクルーティングによるオファー
- 初回接触のカジュアル面談
- 企業パンフレットの配布…
など、広義的には全て採用広報に含まれるのではないかと思っています。
直近の採用からはかけ離れるかもしれませんが、オウンドメディアリクルーティングという言葉が出てきたように、オウンドメディアを活用した自社ブランディングも採用広報に繋がると思います。
ーすぐに始められるものから長期的な施策まで幅広いのですね。
これから採用広報に力を入れていくのであれば、長期的な視点で取り組んだ方がいいと思います。
そもそも人材採用というのものは、「こういう人材が何人欲しい!」と思ったときにすぐに探してきて自社に採用できるものではないので、即効性を期待できる施策ってまず無いんですよね。
求人広告や人材紹介サービスを使えば短期間で採用できるかもしれませんが、「自社が求める人材の採用」に繋がってなければ「採用広報」の役割を果たせているとは言えない。それにずっと投資しつづけないといけないですし。
自社の認知を高めるために求人広告に投資するのは間違っていないと思います。問題はその後に自社の求める人材にアプローチする手を打てるかどうかです。
「広告を打って応募が増えました!」で終わりではないですよね?採用まで繋げないといけない。そういう意味で採用広報は採用活動全体に関わってくると思いますし、初めからすべてがうまくいくわけでもないので長期的な施策にならざるを得ないんですよね。
まずは人事部・各部門のマネジメント層・経営陣が中心となって舵取りをする、最終的には全社レベルで取り組むのが理想です。
自社を”内側から” 魅力的にしていくことが自社ブランディングになる
山地さん
持論ですが、1年・3年・5年とかけて自社を”内側から”ブランディングしていくことが重要で、それが「自社の求める人材を採用する」ことに繋がるのではないかと考えています。
内側のエンゲージメントを高めて魅力的な会社にしていくことで、自社のブランドって上がっていくと思うんです。
今の時代は、SNSで個人が自由に発言できて、ユーザー同士でも交流ができますよね。会社で嫌なことがあれば愚痴をこぼすし、退職した人がその会社に対する意見を述べることも制限はありません。
企業が自社の魅力を外側に発信することももちろん大事ですが、その情報の真偽は企業がコントロールできない第三者の意見や評価によって判断されます。
エンゲージメントの高い職場であれば自然と友人に勧めたくなりますし、活躍している若手社員がその様子を積極的に発信すれば、企業本位で発信している「若い世代が活躍しています!」という真偽の確証も得られる。
採用!採用!と最短距離を求めずに、会社のブランディングのために長距離を走り続ける方が、「採用広報」の効果が出やすいと思います。
一見、採用からはほど遠い施策に思えるかもしれませんが、その取り組みをコツコツ積み上げることが結果的に近道だったりします。
採用広報における大事な考え方「量質転換」と「分散投資」
人事ZINE編集部
ーこれから本格的に「採用広報」に取り組もうという企業が押さえておくべきポイントはありますか?
山地さん
先ほどの話の続きになりますが、大事なポイントの1つは「粘り強く取り組む忍耐力」です。要するにすぐに大きな効果が得られるような簡単なものではないということですね。そしてそれを全社レベルで認識しておくことも重要です。
これまで様々な企業の採用課題に立ち会ってきた経験から申し上げると、「この施策がうまくいっていない」という企業は、採用に対する取り組みの「質」か「量」のどちらかに課題があるものなのですが、相談をお聞きしていると、「量」に問題があるケースが圧倒的に多いです。
「量質転化の法則」と言われるように、まずは量をこなしていかないと結果も得られないですし、継続しないと改善もできない。ノウハウも溜まっていかないですよね。
もちろん効率化することも大事ですが、それは労力をかけて質を向上させてから考えればいいことなので。
そしてもう1つ大事なことは施策の「分散投資」です。
SNSのビジネスアカウント、Wantedly、ダイレクトリクルーティング、Indeed…と、情報発信をする手段や採用サービスって次々と新しいものが出てきますよね。
IT系の企業でなくても、Web検索の仕組みを理解していないと広報活動ができない時代になりました。
この変化が速い時代では、次に何が出てくるか、どのタイミングにトレンドが変わるかも予測不能です。今まで自社で効果的に活用できていたサービスに代わるものが現れるかもしれない。
その際に、施策の分散投資をしておかないと変化に適応しにくいんです。そういった意味ではいろいろなものにチャレンジしておくことも大事ですよね。
ー労力をかけるにしても、それを1つに絞るのはリスクがある。
2020年3月は、コロナウイルスの影響で説明会や就活イベントが軒並み開催中止になりました。これまでイベントが大きな成功手法となっていた企業や「候補者に会えれば強い」という企業からすると大打撃ですよね。
「A社のイベントが無くなったとしても、B社とC社のイベントがある」というリスクヘッジはしていたかもしれませんが、まさか世の中のイベントが全部無くなるとはどの企業も予想していなかったことです。
説明会も面接も全てオンラインでの開催になって、その中にはWeb面接をしたことがない企業もあるでしょう。
このような突然の変化は稀ですが、それでも実際に「いつ何が起こるかわからない」「世界が変わるかもしれない」ということが起こってしまったわけで、あらゆる変化に適応できるような体制作りをしておくことの重要性を今回の事態で改めて感じさせられました。
採用広報が、役割を果たす採用広報であるためには、会社全体を巻き込む体制作りから
人事ZINE編集部
ー採用広報に必要なものが「量質転換」と「分散投資」。かなりのリソースですね。
山地さん
そうですね。ですが、実際にリソースをかけずに成功した事例を私は聞いたことはありません。
Twitterの企業アカウントを作ってダイレクトに短期間で採用に至ることはないですし、オウンドメディアにしても継続していく粘り強さが必要です。
そして発信する内容を魅力的にするには、実際に自社の内部の魅力を高めていかないといけないですよね。
採用広報が、自社の求める人材を採用する採用広報であるためには、会社全体を巻き込む体制作りが必要になる。中途半端な取り組みでは実現できないでしょう。
ーありがとうございました。そう考えると採用広報の役割ってものすごく広いですね。
繰り返しになりますけど採用って簡単ではありません。本当にちゃんと課題に向き合って取り組まないと「自社が求める人材」を採用するのが難しい時代になってきています。
「自社の求める人材」を採用するために、良質な情報を発信するために、魅力的な会社であるために、自社がやるべきことは何なのか?ということを、会社全体で取り組んでいただければと思います。
最後に
今回は、新卒採用アドバイザーの山地さんに、現代における「採用広報」の役割や向き合い方についてお話しいただきました。
継続的に自社を”内側から”ブランディングしていくことが重要で、それが「自社の求める人材を採用する」ことに繋がる。それが中長期的に視点で採用広報になる。
今やどの企業も「自社が求める人材」を採用するのが難しい時代です。即効性を求めず、あらゆる採用課題に対して会社全体で向き合う姿勢が必要になってきます。
これをきっかけに採用広報に力を入れて取り組んでみてはいかがでしょうか。