リテンションマネジメントとは?導入メリットや施策の事例を解説!
「リテンションマネジメントって効果はある?」「どのように進めるの?」など離職防止をどのように進めるのか悩んでいる人事担当者もいるのではないでしょうか?
深刻な人材不足を背景に、優秀な人材を流出させない取り組みとして、リテンションマネジメントに取り組む企業が増えています。ここでは、リテンションマネジメントをわかりやすく説明するとともに、自社で優先すべき内容や効果的な進め方について紹介します。
目次
リテンションマネジメントとは?
まず、リテンションマネジメントの語源や人事分野での意味、近年注目されている背景、導入によるメリットを説明していきます。
リテンションマネジメントの意味
「リテンション(retention)」とは、直訳すると「保持・維持」という意味であり、人事分野では「人材の確保」をいいます。
「リテンションマネジメント」とは、優秀な人材の離職防止の取り組みをいい、こうした人材ができるだけ長く自社に留まってもらい、能力を発揮できる環境を整えるための人事における各種施策を指します。
注目される背景と取り組む理由
少子高齢化などを背景に終身雇用は終息し、若年層の早期離職が当たり前になっていますが、厚生労働省のアンケートによると、新規高卒就職者39.2%、新規大卒就職者32.0%となっているように、新入社員の3人に1人は3年以内に離職しています。
(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成28年3月卒業者の状況)」)
アンケートによると、企業が人材のリテンションに取り込む理由は、「育てた人材を手放したくない」「新規の人材採用が困難なため」などが上位にあげられていますが、これらを目的に人材の定着を図る施策として、リテンションマネジメントが注目されています。
〇リテンションに取り組む理由
導入するメリット
取り入れる施策によって違いがありますが、リテンションマネジメントを導入することによって、従業員の不満解消とともに意欲を向上させることにより、自社へのロイヤリティを高められるメリットがあります。
また、リテンションマネジメントとしてキャリア形成施策を行うことで、従業員は更なる能力を発揮することができ、企業は人材の定着することで競争力の維持・向上を図ることができるように、従業員と企業の両方にメリットがあるといえます。
リテンションマネジメントを行う前に
どのようなリテンションマネジメントの施策が効果があったかを知り、自社でどのように進めていくのか、リテンションの調査結果や自社の現状把握、課題の設定、優先順位について説明します。
リテンションマネジメントの効果的な施策
アンケートによると、リテンションマネジメントを実施して効果的だったのは「社内コミュニケーションの活性化」「待遇の改善」が突出して上位にあげられており、この2つを重視する必要があることがわかりました。
とくに入社して間もない社員は、コミュニケーションがとれる環境にないと相談できる相手がいない、孤立してしまう、最終的には離職してしまうということがありますので、社内コミュニケーションは重要です。
また、若年層はワークライフバランスを重視する傾向がありますので、休日や働きやすさなどの待遇を求めている結果と整理できます。
そのほか、大卒以上の従業員は自身のキャリアを重視する傾向が強いため、能力開発やキャリアプランの提示も有効な施策と考えられます。
先述のアンケートによると、実施して効果的だったリテンションマネジメント施策は、「社内コミュニケーションの活性化」が59%、「待遇改善」が58%、「能力開発・教育制度」が29%、「キャリアプランの提示(異動など)」が22%、「人事考課・目標管理制度の改善」が22%が上位にあげられていますので、参考にしてください。
自社の現状把握
思いつく施策を実施しても自社で有効であるとは限らないため、リテンションマネジメントを効果的に行うためには、自社の社員が会社にどのような不満をもっているのか、社内アンケートにより現状把握することをお勧めします。
ここでは、アンケート項目を決めるにあたって、心理学者のハーズバーグが唱えた「動機づけ・衛生理論」にて切り口を整理します。
動機づけ・衛生理論とは
職務の満足、不満足の要因に関する理論で、人間が職務に満足を感じるのは、仕事の達成感や責任の拡大のような「動機づけ要因」であり、人間が職務に不満を感じるのは労働環境や待遇面などの「衛生要因」であるという理論であり、次のように説明されています。
動機づけ要因は、「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」などがあげられ、これらが満たされると満足する一方、欠けていても不満足につながるものではありません。
衛生要因は、「会社の政策と管理方式」「監督」「給与」「対人関係」「作業条件」などがあげられ、これらが欠けていると不満足を引き起こしますが、満たしたとしても満足感につながるものではありません。
ハーズバークはこの2つの要因について、「衛生要因」は人間の環境に関するものであり、仕事の不満を予防する働きを持つ要因であるのに対し、「動機づけ要因」はより高い業績へと人々を動機づける要因として作用していると説明しています。
(リーダーシップインサイト「ハーズバーグの二要因理論」 引用・参考)
リテンションマネジメントにおける優先順位
リテンションマネジメントは「離職防止」を図り、「優秀な社員に長く活躍してもらう」ことが目的ですが、前者は仕事の不満を予防する働きをもつ「衛生要因」、後者は高い業績に動機付ける「動機づけ要因」といえます。
従業員の離職防止を図ることが優先事項であることから、衛生要因を優先し、その次のステップとして優秀な社員の意欲を高めるための動機づけ要因に取り組むことが効果的です。
社内アンケート項目の設定
社内アンケートを進めるには、「衛生要因」と「動機づけ要因」の具体的な切り口を整理し、そのうえでアンケート項目を決定する必要があります。具体的なアンケート項目例を次に例としてあげますので、自社にあてはめて決定してください。
衛生要因
- 会社の制度
- 適正な評価、最適な人材配置、ワークライフバランス、休暇の取りやすさ
- 労働環境
- 業務負担や労働時間、職場環境の快適さ、IT・設備の環境
- 対人関係
- 上司や先輩からの指導状況、同僚との協力体制、社内交流など
- 給与
- 対価が労働に見合ってないなど
- 対価が労働に見合ってないなど
動機づけ要因
- 達成すること
- 目標を達成してもインセンティブがないなど
- 承認されること
- 高業績をあげても何も評価や承認がされないなど
- 仕事そのもの
- 教育体制やキャリアパスの明示がないなど
- 責任の拡大
- 仕事の範囲がいつまでも変わらないなど
- 昇進
- 適正な評価がされていない、年功序列要素が強いなど
社内アンケートの実施方法
決定したアンケート項目を用いて、従業員満足度調査として下記の設問例を参考にアンケートを作成してください。
アンケート実施に多くの労力をかけられないなどの場合には、前述のアンケート結果にあった重点項目である「社内コミュニケーションの活性化」と「待遇の改善」に絞ってアンケートを実施することも有効です。
【アンケート項目に対する設問例】
会社制度について
- あなたの評価は適正と感じていますか?(1~5の5段階評価の選択式)
- その理由を教えてください。(回答必須)
アンケート実施方法は書面やウェブで実施する方法がありますが、書面での実施する場合は、アンケートの回収から集計等に非常に手間がかかります。そのため、これらを自動化できるウェブで実施することが効率的です。
Googleでは「フォーム」という機能があり、ブラウザ上で作ることができるため、ネット環境があれば作成が可能です。
フォーム上で必要な設問を設けて、選択式なのか記述式なのかをプルダウンで設定するなど、見た目で操作がわかる作りになっていて、どなたでも簡単に作成することができますので、参考にしてください。
【TIPS】組織サーベイツールの活用
アンケートを自社で作成する方法を説明しましたが、組織サーベイツールを提供している会社も多々あります。
なかには無料で組織サーベイを実施できる企業もありますので、参考にしてください。
ハイジの特徴(組織サーベイツール)
自社の課題設定
アンケートを回収・集計し、満足度の低い項目をピックアップします。
項目毎に評価平均を算出し、満足度の理由が記載された主な要因等も合わせて表に整理してください。
とくに早期離職を防止するためには、若年層の不満要因を押さえる必要があるため、できれば年代毎にアンケートを集計することをお勧めします。
下記に、アンケート集計例を示しますが、自社の状況に合わせて作成してください。
このように集計すると、項目別に実施すべきリテンションマネジメントの課題設定が可能になります。
アンケート集計例の「評価の適正性」を例にとると、50代以上は不満がなさそうですが、10~40代までは評価の適正性に不満をもっていることがわかります。
また、理由を見ていくと、「上司からのみの評価が不満」「好き嫌いで決まっていそう」「明確なフィードバックがない」などがあげられており、これらのことから、多面評価や面接制度の改定、評価項目の見直しなどが課題として考えられます。
このように、アンケートを集計して、自社の課題を設定してください。
なお、先にふれたように優先順位は「衛生要因」を優先し、次のステップで「動機づけ要因」が基本ですが、状況に合わせて設定してください。
リテンションマネジメントの事例
自社の課題設定に合わせて、リテンションマネジメントを実施していきますが、ここでは、厚生労働省が公開している「人材確保事例集」を用いて、リテンションマネジメントの参考事例を解説します。
ここにあげる事例以外にも、リンク先の事例集には豊富な事例が掲載されていますので、ぜひ参考にしてください。
採用・配属に対する取り組み
「採用者の受入れ体制にきめ細かい配慮を行う」事例
この事例は、採用者が職場に受け入れられていないと感じてしまうことに対し、先輩社員に採用の受入姿勢を指導するという事例です。
【課題内容】
採用者が新しい職場に受け入れられていないと感じてしまう。
【対応策内容】
採用者は新しい職場に受け入れられるかどうか緊張状態にある場合が多いため、先輩職員が自分の業務に忙しく無関心だと、それを過剰解釈して、「受入れられていない・冷たい・厳しい」と感じて早期離職に繋がる場合が多い。
このため、先輩職員に採用者の受入れ姿勢を指導する。具体的には、受け入れる側の先輩職員に対して、このような採用者の心理状態を理解させ、早期離職をさせないよう、採用者を歓迎し話しかけてあたたかく受け入れる姿勢を示すよう指導する。
【結果】
早期離職者が少なくなった。
この事例の対応としては、採用者が緊張状態にある心理状態を理解させ、早期離職をさせないように話しかけるなど、あたたかい姿勢をとるよう指導をしています。
先輩職員は、事例の記載のように、自分の業務の忙しさから採用者に関心を持っていたとしても、なかなか手が回らないということも良くあることです。
たとえば、「声掛け運動」「歓迎会やランチ会」などを行うことにより、採用者が溶け込みやすい環境をつくるほか、「人事による面談」を実施し、悩みを引き出すことも有効です。
評価・処遇に対する取り組み
「従業員が正当に評価されていると感じられる納得性のある人事評価を行う」事例
この事例は、評価制度の適切な運用ができておらず、上司の好き嫌いの影響がある仕組みのように見えてしまっているため、公平な仕組みであることを従業員に示したいという事例です。
【課題内容】
評価制度の適切な運用ができていない。上司の評価で点数が決まり、その点数によって部門内の順位が付き、その後に他部門との調整で順位が確定する仕組みを採用しているが、従業員が順位付けが上司に依存すると思っている。
代表が全員面談しているので、やり方としては公平に見えるはずだが、上長の好き嫌いの影響を排除できない仕組みのように見えてしまっているため、公平な仕組みであることを従業員に示したい。
【対応策内容】
評価者訓練を実施する
【結果】
・評価制度については、評価者訓練を実施。評価者の話すべき内容等をマニュアル化することで、どの評価者による面談であっても職員が評価の意義を理解・評価に納得できる体制作りを進めている。
・従業員と上長の評価面談については、最初に発言するコメントを統一するなどして、公平感の醸成・浸透を意識している。
また、フィードバック時には評価者(上長)のコメントを必須項目とすることで、単なる賞与の支給評価ではなく、次期以降の成長のための評価であることが伝わる評価の仕組みを構築する。
昨年度と比較すると評価者間のばらつきが緩和されたことで、公平感・納得感は増した。
この事例の対応としては「評価者訓練を実施する」という対応をしており、評価に納得できる体制作りを進めていますが、評価者訓練はここに記載されている効果のほか、従業員の意欲を高めるコーチングを盛り込むことで、評価者が同じレベルで行うことも期待できます。
また、上司のみの評価に依存していると思われていることについては、二次評価者を設定する、多面評価を導入するなども工夫としてあげられます。
評価に対する不満はとくに多い項目ですので、自社で実施したアンケートに応じた評価施策の検討が必要です。
教育訓練・能力開発に対する取り組み
「定着しやすい新人教育を行う」事例
この事例は、新人である本人の習得度合いを無視して仕事を与えたことから早期離職が発生しやすかったことに対し、本人の習得状況に応じて仕事を与えた事例です。
【課題内容】
本人の習熟度合いを無視して仕事を与えると早期離職が発生しやすい。
【対応策内容】
採用直後の者は、新しい仕事にも慣れておらず、経験者といえども、企業によって段取りなどが異なるため、はじめから難度の高い業務はできない。この点の配慮が不足すると、早期離職が発生しやすい。
このため、本人の習熟状況に応じて仕事を与える。
【結果】
採用者には、難度の低い職務から徐々に慣れさせて、本人の習熟状況に応じて難度を高めたり幅を広げたりする。そのために、本人の習熟状況をよく把握するとともに、本人が与えられた仕事に慣れてきたかどうかを常に聞いて、コミュニケーションをとる。
当たり前のように思えますが、「指導者が新人の習得状況を把握できていない」「一度教えれば十分と思っていた」といったコミュニケーション不足が本質的な原因と推察できます。
受入側の指導者は、自身の職務に加えて、新人の指導をしなければなりませんが、自身の職務が逼迫していると新人教育がおろそかになることは良くある事例です。
また、新人から相談できる体制を整えておけば、指導者が習得状況を把握できていないことがあっても新人から相談されますので、メンター制度などの導入も有効です。
自社の状況に合わせた効果的なリテンションマネジメントを実施しましょう
リテンションマネジメントの意味や注目されている背景とともに、リテンションにマネジメントに取り組む理由や効果のあった施策、自社の現状把握のためのアンケート実施の重要性や具体策などをお伝えしました。
少子高齢化が進むなか、70歳就業確保法が2021年4月から施行されることからも、いかに優秀な社員をリテンションしていくことが、これからの人事の課題になります。
ぜひ、従業員の離職防止や定着を図るため、本記事を参考にリテンションマネジメントに取り組みましょう!