新入社員教育で早期戦力化を実現!実施のポイント3つを解説
「新入社員が育たず、すぐに辞めてしまう」「これまでのやり方が通用せず、新入社員にどう関われば良いのかわからない」「現場に任せきりになり、配属先によって成長度合いにバラツキが出てしまう」など、新入社員教育に関して悩みを抱える人事の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
新入社員の定着、早期戦力化を実現するには、1年後のゴール設定をした上で現場と連携しながら進めていくことが重要です。今回は、教育の方法や効果を高めるポイントについて具体的に解説します。
目次
新入社員教育を実施する理由
はじめに、新入社員教育が必要な背景や実施理由についてご説明します。
早期戦力化のため
新入社員教育とは、新入社員に対して、社会人、企業人として必要なスキル、知識、スタンス(態度)を身につけてもらうために成長する機会を企業から提供するものです。労働力人口の減少により働き手が少なくなっている中、企業にとって、新入社員を一日でも早く戦力化し、収益に貢献してもらえるような人材に育てることの重要性は増しています。
また社会人としての最初の1年は今後のビジネスキャリアにおいて大変重要な意味を持ちます。最初の1年でビジネスパーソンとしての基礎土台をどれだけ形成できるかによって、2年目以降の成長にも差が生じるため、そういった意味でも、新入社員教育が果たす役割は非常に大きいと言えます。
定着のため
厚生労働省が発表している「新規学卒就職者の離職状況(平成28年3月卒業者の状況)」によると、大卒者の約30%が3年以内に離職するという傾向がここ数年続いています。終身雇用が崩壊し、企業と個人の関係性が変化する中、企業は働く個人から選ばれ続ける必要があり、人材の流出防止という観点でも、教育は重要な意味を持ちます。
教育の方法と流れ
ここでは、教育の種類や一般的な新入社員教育の流れをご紹介します。
教育の方法はOJTとOFF-JTの2種類
新入社員教育の方法は大きく分けると現場で行うOJTと、現場から離れて行う研修(OFF-JT)の2種類があり、それぞれ狙いやタイミングに合わせて実施していく必要があります。
教育の一般的な流れ
教育の一般的な流れとしては、「入社時研修」→「現場実習」→「配属現場でのOJT」→「フォローアップ研修」となります。1つ1つの内容や狙いを順番に紹介します。
入社時研修
入社前や入社直後に実施する研修です。内定者や新入社員はこれまで社会人としての経験がないため、会社の理念や事業内容、社会人としての基礎スキル、知識、スタンスを最初に身につける必要があります。研修を通して最低限の基礎を身につけることで、現場への配属後の立ち上がりをスムーズにします。
【入社時に必要な教育の例】
- 会社(経営理念・事業内容)への理解を深める
- 会社の一員としての自覚を持ち、働くことへの動機を高める
- 仕事についての基礎スキル、知識を身に付ける
- 社会人としての基礎スキル、知識を身に付ける(報連相、マナー、OAスキル)
- 就業規則、経費精算や勤怠管理、グループウェアの使い方を身に付ける
早期戦力化を実現していく上で、内定者のうちから教育をスタートすることも効果的です。実際、他社での長期インターンシップ等を通じて学生時代からビジネス基礎力を身につけている学生も増えている中、入社後にゼロから教育を実施するのではなく、最低限は入社前に全員が身につけられるような教育施策を実施することで、入社後、より実践的な内容からスタートできるようになります。
現場実習
自社の事業について、その全体像や流れ、強みなどを肌で感じて学ぶための実習です。営業拠点や製造現場などで実施するもので、自社の事業理解を深めるだけでなく、社内のネットワークづくりとしても非常に有効です。
実施にあたっては人事と現場の密な連携が必要となります。現場側で実習担当者を選出してもらい、受け入れにあたっての詳細を詰めていきましょう。日報や実習後の振り返り機会等、学びが深まる工夫を取り入れることも重要です。
配属現場でのOJT
部署に配属された後、実際の仕事の流れや業務内容・業務のやり方を学ぶ必要があります。先輩社員やOJT担当者の指導の下、職場や職務への適応に向けて、実務を通して身につけていきます。
方法としては、OJT担当者が個別に教育するケースや、配属された人数が多い場合は講義形式で教育するケースもあリます。OJTの成功が新入社員の成長にも大きく関わるため、忙しい現場でもOJTが機能する様に、OJT担当者を支援することが重要です。
フォローアップ研修
配属後も、タイミングに合わせたフォローアップや研修を実施していくことで教育の効果を高めていく必要があります。具体的には、職種や配属先に関わらず必要なスキル(ロジカルシンキングやレジリエンス等)を獲得するための研修、人事や他部署メンターによる定期フォロー面談などがあります。
また1年目終了時には、計画初期に設定したゴールへの到達度を確認する機会として振り返り研修を実施します。日常業務から離れ、1年間をじっくり棚卸しながら、成長実感、課題形成及び2年目に向けてのアクションプラン設定を行います。
例えば職場サーベイを用いた研修は、あるべき姿とのギャップ認識及び自身の強みや成長課題を自覚する上で効果的です。また同期が集合する機会を設けることは、帰属意識の醸成へも繋がります。
「今年の新人はイマイチ!」とはもう言わせない。教育成功のポイント
続いては、新入社員教育を成功させる上での3つのポイントをご紹介します。
1年後のゴールを設定することで、目的を見失わないようにする
初めに1年後のゴール像を明確にしておくことがポイントとなります。ゴール像が設定、共有されることによって、新入社員は漠然と「一人前になる」ではなく、目指すべき目標が明確になります。またゴール像とそのために必要な能力要件(態度、スキル、知識)、教育施策を紐付けることで、目的がクリアになり、1つ1つの施策の効果を高めることが期待できます。
下の図はヤマハ株式会社の3ヵ年における各年度の状態目標と能力要件をまとめた資料です。自社の人事制度及び経済産業省が提唱する社会人基礎力をベースに作成されています。
【ゴール像、能力要件を定義する上での参考指標】
- 経営戦略からの落とし込み
- 人事制度上での新入社員の等級定義やコンピテンシー
- 現場からのヒアリング
- 外部指標(社会人基礎力や人材育成に関するサービス提供企業が設けている指標)の活用
これらを統合しながら自社に合ったゴール像や能力要件を明文化しましょう。
配属前|脱、知識詰め込み教育。体験と知識の習得を交互に行い納得感を高める
今の新入社員世代は、インターネットが普及し、検索すればすぐに答えが見つかる環境で育ってきたため、分からないことがあれば自分で考えるのではなく、まずは調べる癖がついています。
その結果、実行しながら自ら考え、意味を見出すことに不慣れで、あらかじめ「行う意味」が腹落ちできるかどうかでパフォーマンスが大きく変わる傾向にあります。実際、一般社団法人の日本能率協会の2020年度新入社員意識調査ではアンケート回答者(307人)のうちの約9割の新入社員が「指示が曖昧なまま作業する」ことに抵抗を持っていると言う結果が発表されています。
上記新入社員の特徴も踏まえると、研修においても「行う意味」の腹落ちが重要になってきます。その事例として株式会社ネットプロテクションズホールディングの研修が参考になります。
研修期間において、実務的な現場業務の体験と、思考法やフレームワークのインプットといった知識の習得を交互に行うことで双方の効果を高め、定着を実現するような設計となっています。
「現場体感→体感した業務を行う上で必要な知識をインプット→得た知識を活用してアウトプット→それをこなしたことによりさらに必要性を感じるインプット」という流れを繰り返すことで「なぜその研修を受けるのか」の納得感を高めることができます。
また、1つ1つの研修の実施形式に関しても、「やってみる→失敗する→振り返る→改善する→やってみる」という体験主体の構成やディスカッションを多く取り入れた形式にすることで、新入社員の納得感を醸成し、学びの定着度を高めることができます。
配属後|任せっぱなしにしない。現場との二人三脚の体制づくり
新入社員教育においては、現場、人事、新入社員が連携していくことが早期戦力化を実現していく上でのポイントとなります。例えばOJT担当者向けの研修実施(受け入れ前準備、受け入れ後相談)、育成・指導ツールの提供や研修の学びを現場へ報告する仕組みの構築、人事面談・他部署メンター面談等、人事にできることは多くあります。
配属後は、現場に教育を丸投げにしてしまいがちですが、日々の活動に忙しく余裕がない課長やOJT担当者を支援し、ゴール達成に向けて積極的に働きかけることが重要です。
【OJT担当者向け研修の内容例】
- 育成ゴールイメージの共有と咀嚼
- OJTに関する知識インプット(OJTとは、新人の傾向)
- ティーチング、傾聴トレーニング
- 相互理解ワーク ※
- OJTプランニング ※
※に関しては、新入社員とOJT担当者が一緒に受講することで、効果が高まります。
今後の新入社員教育の課題と展望
最後に、今後想定される新入社員教育における課題や展望をお伝えします。
自律型人材の教育
現在はVUCA※の時代と呼ばれ、それまでと異なる先の見通せないビジネス環境の中で、仕事や職場環境も変化しています。新入社員は、言われた通りの動きを徹底できることが求められていた以前とは違い、正解や決まりきった方法がない中で、試行錯誤を繰り返し、自分で考え行動し続ける「自律型人材」であることが求められるようになりました。
一人ひとりが「こうするべきだ」「こうしたい」という意志を持って仕事に取り組むことが、会社と個人の持続的な成長を実現させます。新入社員教育においても、前述した様な体験やアウトプットメインの場を設け、「考え行動し続けること」を習慣化させる必要があります。
また、同時にキャリアプランを自身で描ける様に教育していくことも大切です。これまでの様に企業に忠誠心を尽くし、定年まで勤めあげることが当たり前ではなくなっている中、働く個人は自己実現や自己成長のプランを自身で描き、キャリアを自己決定していくことが求められています。企業としては、そういった個人を支援するために、早期からキャリアを考える機会を設けていく必要があります。
※VUCA
Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)という4つのワードの頭文字から取った言葉。「予測不能な状態」という意味を持つ。
通年採用への対応
経団連(日本経済団体連合)による「採用選考に関する指針」の廃止や新型コロナウイルスの影響で、採用活動について、新卒一括採用から通年採用にシフトチェンジする動きが広がっています。
通年採用の場合、入社時期にバラツキが生じることが想定されるため、これまでの様に一括で足並みを揃えて教育することが、コスト面でも体制面でも難しくなります。
都度の入社に対応できるような教育の仕組みや配属部署での受け入れ体制を整えることが重要です。またそもそも通年採用は、必要なポジションへの採用を行う取り組みなので、総合職採用ではなく、職種別採用が前提となります。そういった状況を踏まえると、下記3点がポイントになるでしょう。
1. 基礎的なスキルや知識は入社前に身につけた上での入社を前提に。
社会人として必要な基礎スキルや知識に関しては、アルバイトやインターンとして実務経験を積むことや、e-learningを通した事前学習での習得等を実施し、戦力となれる状態で入社をさせる形が望ましいです。
2.入社後は、必要な実習や研修を選択して受けるスタイルに。
一括採用の場合、全員一律の研修を同じタイミングで実施していますが、通年採用の場合、それは現実的ではありません。選択型の研修プランを用意し、配属先の上長と本人で相談した上で、必要なものを選択して参加する形へ変更する必要があります。
3.現場でのOJTがより重要に。
全体教育から個別教育へとシフトする上で、個別の部署毎の教育がより一層重要になります。人事としては、現場と連携し、1年後のゴールに到達できるように支援していく必要があります。
一括採用でも通年採用でも、基本的に教育の目的は早期戦力化と定着という点では変わりません。目的の達成のために自社の状況に合った教育計画を立て、推進していくことが求められます。
全社で新入社員教育を行い、人が育つ会社をつくりあげていきましょう
新入社員の早期戦力化を実現するためには、ゴール像を描き、到達に向けて人事部主体で関係者を巻き込みながら、新入社員を育てる仕組みをつくっていくことが重要です。
その結果として、新入社員が育つ環境や風土が全社で醸成され、更に新入社員が先輩になった際、次世代の新入社員への教育にも熱心になり、人が育つサイクルが形成されていきます。
新入社員教育は手間やパワーがかかるものではありますが、会社の将来的な成長へ大きく繋がる活動です。人事担当者として新入社員を育てることへの熱量を持ち、周囲への働きかけを行い、人が育つ会社をつくりあげていきましょう。
最後に、人事ZINEでは会社説明会スライドのテンプレート(PowerPoint)をご用意しています。こちらもダウンロードしてぜひご活用ください。