トライアル雇用と試用期間で離職を防ぐ!両者の違いや解雇制限を解説
試用期間を設けて採用したものの、能力に問題があったり、社風に合わなかったりする人材もいます。しかし、試用期間経過後に、企業の都合だけで雇用継続を拒否することはできません。
試用期間を設けた雇用以外にも、マッチング策となる制度があります。それが「トライアル雇用」です。トライアル雇用を利用し、マッチングミスを防止しようと検討している人事担当者もいるでしょう。
しかし、トライアル雇用と試用期間を設けた雇用は、雇用継続義務や対象者などが大きく異なり、トライアル雇用を導入する場合は十分に比較検討する必要があります。
この記事では試用期間とトライアル雇用の差を詳しく解説し、トライアル雇用導入のメリット・デメリットもお伝えします。
そのうえで、試用期間やトライアル雇用というマッチングツールだけでなく、基本的だけれども改めて見直していただきたい施策についても確認します。人材と自社のマッチングで悩んでい人事担当者の方は、ぜひ、参考にしてください。
目次
試用期間とトライアル雇用の異同
雇用のミスマッチを防ぐための方法である試用期間を設けた雇用と、トライアル雇用は、同じ雇用方法のように思う人事担当者もいるのではないでしょうか。しかし、両者の意義は大きく異なります。まず、試用期間とトライアル雇用の異同を解説します。
試用期間とは?
試用期間とは、本採用決定前の「試みの期間」です。試用期間は、労働者の人物、能力、勤務態度等を評価して社員としての適格性を判定し、本採用するか否かを決定するための期間とされています。
お試し期間と言っても、労働に対して企業が対価を払う約束をしているので、試用期間中の企業と労働者の関係は、通常の労働契約に基づいています。労働契約に基づく以上、民法、労働基準法などの法令を遵守しなければなりません。ただし、試用期間を設けた雇用は、「解約権留保付労働契約」と解されているため、企業側の都合による解雇事由が比較的広く認められています。
トライアル雇用とは?
トライアル雇用とは、企業が、労働者が業務を行うための適性や能力があるかどうか見極めるため、3か月程度の短い期間で試行雇用し、期間終了後に本採用するかどうかを決定する雇用方法のことを言います。トライアル雇用後の常用雇用への移行や雇用のきっかけ作りを支援するために、国が設けた制度である点が特徴です。
なお、トライアル雇用は対象労働者が限定されており、ハローワークを通じて求人しなければなりません。詳しくは後述します。
雇用継続義務の違い
試用期間を設けた雇用も、トライアル雇用も、労働契約が発生していることに変わりはありません。しかし、試用期間終了後の延長拒否が認められるかどうか、トライアル雇用期間経過後に採用義務があるかどうかの点でちがいがあります。
試用期間を設けた雇用はの解雇事由は、通常の雇用契約よりは広く認められているといっても、どんなケースでも企業側の都合で解雇できるわけではありません。
「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない事由による解雇」は、企業が解雇の権利を濫用したものとして、試用期間を設けた労働契約であっても無効とされます。
これに対して、トライアル雇用では、トライアル雇用だけで終了しても法令に反しない点が、大きく違います。
ただし、トライアル雇用の趣旨から、できる限り常用雇用へ移行する努力を、国は企業に求めています。
また、トライアル雇用期間中、対象労働者が意欲的に業務に当たるために必要な指導や助言も、企業は求められていますので、「合わなかったら解雇できるから」という簡単な考えでトライアル雇用を実施するのは好ましくありません。
試用期間経過後の解雇制限
次に、試用期間と解雇制限の関係について、試用期間経過後の雇用延長を拒否する正当事由の具体例などを確認します。
解雇事由の具体例
試用期間経過後に、雇用延長を拒否するためには、次の事由が必要です。
- 解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由が存すること
- 社会通念上相当と是認されうる場合であること
また、前述の通り、試用期間延長拒否は労働契約の解雇にあたりますので、一般的な解雇事由の制限についても、注意しなければなりません。
一般的な解雇事由
- 労働者の労務提供の不能による解雇
- 能力不足、成績不良、勤務態度不良、適格性欠如による解雇
- 職場規律違反、職務懈怠による解雇
- 経営上の必要性による解雇
- ユニオンショップ協定による解雇
試用期間経過後の雇用延長拒否では、上記2、3が問題となることが多いと考えられます。2と3につき、典型的な事例の概要を見ておきます。
大手ゲーム関連企業事件
大学院卒の正社員として採用された従業員が、労働能率が劣っている、向上の見込みがない、積極性がない、自己中心的で協調性がない等として解雇されたことに対して、解雇無効等を申し立てた事案です。この裁判では従業員が勝訴しました。
本判決のポイントは、次の点です。
平均的な水準に達していなかったからといって、直ちに本件解雇が有効となるわけではない
- 人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではない
- 体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地があるのに実施された形跡はない
- 就業規則に規定する解雇事由には「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」、「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」など極めて限定的な場合に限られている
情報処理業界向けのサービス業を営む企業の事件
派遣先で繰り返し行った長時間にわたる電子メールの私的使用や、私的な要員派遣業務のあっせん行為が、服務規律、職務専念義務に違反していたとして解雇された従業員が、解雇権濫用を理由として地位保全などを求めた事案です。この裁判では従業員が勝訴しました。
本判決のポイントは、次の2点です。
- 従業員の私用メールは、職務義務違反ではあるが、解雇理由として過大に評価することはできない
- 従業員の勤務態度、能力も、問題はあるものの、解雇するについて正当な理由があるとまでいうことはできない
参考:厚生労働省
解雇事由と就業規則の規定
解雇無効を従業員が争った場合、裁判では「客観的に合理的な理由」が就業規則に定める解雇事由に該当するか否かが問題となります。つまり、就業規則に定められた解雇事由が限定的な場合、解雇事由は狭く解されてしまう可能性があるということです。
トライアル雇用のメリット・デメリット
試用期間延長拒否については、解雇権濫用の法理により制限される場合があることがわかりました。企業と人材のミスマッチを防ぐための試用期間ですが、残念ながら一度雇ってしまったら、簡単に延長拒否はできません。
試用期間を設けた雇用より、試行的な要素が強い雇用であるトライアル雇用につき、認められる要件と補助金について確認します。
トライアル雇用のコースと概要
トライアル雇用には、一般トライアルコース、障害者トライアルコース、障害者短時間トライアルコース、若年・女性建設労働者トライアルコースの4つのコースがあり、それぞれのコースで、対象者や事業所の要件、求人方法等が細かく定められています。
所定の手続きを経て従業員を雇用し、必要書類を管轄の労働局に提出すると、トライアル雇用期間中、対象労働者1人あたり、月額4万円前後の助成金が支給される制度です。
参考:厚生労働省
トライアル雇用のメリット・デメリット
次に、トライアル雇用のメリットとデメリットを確認します。
企業側にとって、トライアル雇用の最大のメリットは、トライアル期間経過後の常用雇用への移行義務がないことでしょう。
この点が試用期間を定めた雇用と大きく違います。トライアル雇用のメリットは他にも複数あげることができます。
◇トライアル雇用のメリット◇
- 必ずしもトライアル期間後に常時雇用に移行する必要がない
- 企業と労働者のミスマッチを避けることができるため、早期の離職を防止できる
- 助成金を受給できる
- 本採用の前に求職者の能力・適性を見極めることができる
- ハローワークを通して求人するため、求人広告費用を掛けずに採用活動ができる
一方、トライアル雇用は「就業が困難な者」の就業機会を確保するための制度であるため、企業側のデメリットもあります。
◇トライアル雇用のデメリット◇
- 対象者の職務経験が乏しい
- 対象者の中には、離職を繰り返している者もいる
- ハローワークなどを通じて求人しなければならない
- 対象者の指導に手間がかかる
- 助成金受給のための手続きが大変
離職を防ぐ採用の王道
試用期間を設けたり、トライアル雇用を実施したりすることも大切ですが、根本的な施策を講じなければ、効果的に離職防止をはかることはできません。離職防止の施策として、採用管理と定着管理があります。ここで一度、基本に立ち返って自社の採用を確認することも必要です。
採用段階で、将来の離職を防ぐマネジメント手法である「採用管理」と、「定着管理」ができているかチェックするポイントと、改善例を解説します。
採用管理・定着管理のチェックポイント
下記のうち一つでもあてはまったら、採用方法や採用後のフォロー体制などを見直す必要があります。
- 応募はあるが、応募者の能力等が以前と比較して求める基準に達していないように感じる
- 求める人材像と応募者がマッチしていない
- 採用の方針や方法が自社の求める人材像や現実の応募者をふまえたものになっていない
- 指導役やメンター(相談相手)をつけることができ ない等、入社後の新人フォロー体制に不安がある。
- 「イメージと違った」ため、新人が業務に適応できずにやめてしまう等、人員配置と業務とのミス マッチが生じている。
- 将来のイメージが湧かない等、長期勤務に向け たキャリアパスを従業員にうまく示せない。
- 人事評価を行っていない、あるいはうまく運用できない等、評価方法に課題がある。
- キャリアパスや処遇を通じてモチベーションを 上げるような仕組みを作れていない。
- 従業員のスキルに個人差がある、業務手順がばらばら等、業務スキルの標準化ができていない。
- 従業員の社会常識に不安がある、基本業務を一人でできない等、基礎能力が不安な者がいる。
- 研修受講などの教育訓練の機会を十分に提供できていないなど、人材育成に不安がある。
- スキルアップや新事業に向けた教育・訓練等が十分に行えていない。
見直し事例
採用管理と定着管理の見直し事例を2つ紹介します。早期離職を防ぐ効果がはっきり現れているケースもあるので、参考にしてください。
まず、求人票に記載する求人賃金額に幅があった企業の例です。求人賃金額の幅を見て「最高額は見せかけ」ととらえる求職者は応募しませんでした。一方、「最高額が支給されるはず」と期待する求職者は、実際の支給額を提示された段階で選考辞退したり、早期離職の原因となっていました。
このため、職務経験年数、資格の有無、処理できる業務内容などに応じた実際の支給額のモデルを提示したところ、選考辞退や早期離職を減らすことができました。
次に、採用者が早期離職してしまうことが多かった企業で、先輩職員に採用者の受入れ姿勢を指導したところ、早期離職者が減りました。これは、新規採用者に対して先輩社員が無関心だと、ただでさえ緊張状態にあるうえに、「自分は受け入れられていない」と感じでしまいます。
そこで、先輩社員に対する教育をおこないました。新規採用者の気持ちを理解するように促し、積極的に話しかるなどして、受け入れる姿勢を示すように指導したのです。
新規採用者に先輩が声を掛けるのは当たりまえと、現場にまかせるだけでは、足りないケースもあるということです。先輩社員にしてみれば、自分の仕事で手一杯かもしれません。小さな改善で成果につながる事例の一つです。
マッチングと離職防止は総合的施策で解決!
試用期間を設けた雇用とトライアル雇用の異同や、試用期間終了後の延長拒否が認められるための事由、一般的な解雇制限と試用期間との関係などを見てきました。また、トライアル雇用導入のメリット・デメリットも確認しました。
試用期間を設けた雇用も、トライアル雇用も、企業側からすれば、マッチングミスを避けるための方策という点では同じです。
しかし、その趣旨は全く異なります。とくに、トライアル雇用制度は、雇用機会に乏しい労働者のための施策であることを理解しなければ、導入するメリットに乏しいでしょう。
積極的に雇用促進に寄与し、広く人材を求めるかどうかは、それぞれの企業理念に関わることですので、導入の際は十分に検討してください。
また、試用期間を設けたりトライアル雇用を利用したりするだけでなく、「なぜ、採用のミスマッチがあるのか?」「なぜ、わが社は早期離職者が多いのか?」と、基本に立ち返って自社の施策に不足がないか、見直してみることが必要です。
前述したとおり、企業側にとって小さなことでも、新規採用者にとって大きなストレスもあります。きめ細かな気付きが大切です。