【事例あり】ジョブローテーションとは?意味や目的、実施手順を紹介!
以前から日本企業で広く取り入れられてきた「ジョブローテーション」。不確実性が高くより多角的な人材が求められる事業環境のなか、戦略的にジョブローテーションを活用する企業が増えています。
この記事では、ジョブローテーションの基礎知識をはじめ、メリット・デメリット、導入に向いている企業の特徴、企業事例などを紹介します。
目次
ジョブローテーションの基礎知識
まずは、ジョブローテーションの意味や背景、採用市場の動向など、基礎知識について解説します。
ジョブローテーションの意味
ジョブローテーションとは、幅広いスキルや経験を持った人材の育成を目的として、戦略的に人事異動を実施する制度です。短い場合は1年、長ければ5年程度の頻度で職務や部署を変更し、社員にさまざまな仕事を横断的に経験させることで、企業や事業に対する理解を深めます。
ジョブローテーションは、終身雇用を前提とする日本企業で広く浸透してきた人事制度です。現代では、ゼネラリストの育成や社員の能力開発を目的として、戦略的に導入されるケースが増えています。
ジョブローテーションが広まった背景
長期雇用を前提とする従来型の日本企業では、企業内ゼネラリストの存在が求められていました。幹部候補として社内の主要部門で現場経験を積み、社内人脈を形成することがジョブローテーションの主な目的だったのです。
しかし、ITが急速に発達し、ビジネス構造が複雑化している現代では、深い専門性が重視されるようになりました。そのため、自社に精通している人材ではなく、多角的な人材の育成が求められており、ジョブローテーションもより戦略的に活用されるようになっています。
ジョブローテーションの頻度
労働政策研究・研修機構の調査「企業の転勤の実態に関する調査」では、「人事異動の頻度は何年ごとになることが多いか」という質問について、「3年」が27.9%と最も多く、次いで5年が18.8%との結果になりました。
また、規模の大きな会社ほど「3年」と答える割合が増えることも分かっており、大企業ほど定期的にジョブローテーションを実施している状況が伺えます。
ジョブローテーションの動向
前段で紹介した調査では、ジョブローテーションを行っていると回答した企業は53.1%であり、会社規模が大きくなるほどその割合が高くなっています。
また、株式会社MAPが20~30代の転職希望者に対して実施したアンケートでは、約80%がジョブローテーション制度を好意的に捉える回答をしています。
ジョブローテーションを前時代的な制度と捉える向きもありますが、現代でも半数以上の企業が取り入れており、労働者側も複数の仕事を経験できる環境を好意的に捉えているようです。
ジョブローテーションの目的
多くの企業がジョブローテーションを取り入れる背景には、どのような意図があるのでしょうか。代表的な目的を4つ紹介します。
人材の見極め
ジョブローテーションによって多様な部署や職種を経験してもらうことで、社員の特性を見極め、適材適所の人材配置が実現します。
1つの職種に長く就いた方が社員の専門性を高められますが、その職務が本当にその社員に最適であるのかどうかは分かりません。ジョブローテーションを実施して複数の業務経験を積むことで、社員も自分自身の適性を知り、どのようなキャリアを伸ばすべきなのか考えるきっかけになるのです。
企業理解の促進
社内に存在するさまざまな事業や業務を経験すると、自社のビジネス構造や事業内容の理解も促進されます。
特定の職務を遂行しているだけでは、部署同士の関わりや事業内で各業務がどのような役割を持っているのかなど、横断的な理解が進みません。ジョブローテーションによって自社内の組織体系や業務同士の関わりを把握すると、組織を俯瞰でき、自分の業務のミッションも明確になります。
業務のブラックボックス化の防止
部署内で新しい人員の受け入れが定期的に行われると、その都度業務プロセスの棚卸しが行なわれるため、ブラックボックス化の防止につながります。
1つの業務を特定の社員が長く担当していると、業務プロセスが属人化しがちです。組織の新陳代謝を図ると、業務の効率性向上につながります。
モチベーションの維持
新しい業務にチャレンジすることは、モチベーションにも好影響をもたらします。
特定の業務に長く従事していると、作業がルーチン化してしまい、やりがいを感じにくくなる社員も少なくありません。新しい職種に就くと自分の成長を感じられる機会も増え、知識習得やスキル獲得に前向きに挑めるでしょう。
ただし、社員の向き不向きやキャリアパスを考慮のうえで実施すべきです。1つの職務の専門性を深めることにやりがいを感じる社員もいるため、別分野へのチャレンジを強制しないよう注意しましょう。
ジョブローテーションと類似制度との違い
ジョブローテーションと混同されやすい言葉として「社内公募」と「人事異動」との違いについて解説します。
ジョブローテーションと社内公募の違い
社内公募とは、人材を必要とする部署が社内で募集をかけ、マッチする社員が自主的に人事異動を希望する制度です。制度の詳細は企業により異なりますが、経験年数や保有スキルなどが採用条件として設定され、一般の募集と同様に書類選考や面接が実施されるケースが多いといえます。
どちらも人事制度の一環ではありますが、ジョブローテーションは経験を積ませたい社員を企業側が選抜するという点で異なります。ジョブローテーションでは人事異動を企業から打診しますが、社内公募では自主的に希望した社員のなかから、配置転換する社員を選定します。
ジョブローテーションと人事異動の違い
人事異動とは、社員の所属部署や職種、職位を変更させる人事制度のことです。部署異動や職種変更だけでなく、転勤や転籍、出向、昇進・降格も人事異動に含まれます。
つまり、ジョブローテーションによる配置転換は、人事異動の1つです。人事異動のなかでも、特に人材の適性見極めや育成を目的に、人事戦略の一環で行われるのがジョブローテーションという位置づけになります。
ジョブローテーションを実施する企業側のメリット
ジョブローテーションを実施する企業側の主なメリットは、次の3つです。
- 部署間の意思疎通の促進・円滑化
- 社員の適切な人事配置
- 管理職の養成
ジョブローテーションによって複数の部署と関係を築き、社内人脈を形成することで業務の円滑化が期待できます。意思疎通がスムーズになり、部署を横断したプロジェクトでも効率的に業務を進められるでしょう。
また、社員の得手不得手を判断し、より的確な人材配置が実現するというメリットもあります。社員にとっても自身の得意分野が明確になるため、モチベーション向上や業務の効率化にもつながります。
管理職候補の企業理解を深めたい場合も、ジョブローテーションが向いています。会社の組織構造やビジネス構造が網羅的に把握でき、組織を俯瞰できるようになるでしょう。
ジョブローテーションを実施する企業側のデメリット・注意点
ジョブローテーションを実施する主なデメリットや注意点は次の3つです。
- 専門人材を育成しにくい
- 人事・評価制度の見直しが必要
- 教育コストの負担
ジョブローテーションはゼネラリストや管理職の育成に向いている反面、社員の専門性を伸ばしにくいという特徴があります。1つの経験やスキルを長期間かけて伸ばす機会が減るため、専門職社員の育成が難しくなるのです。
また、部署や職種ごとに評価基準や給与体系が異なると、社員の不満につながる可能性があります。異動前後で評価や給与に大きな変動がないよう、平等な評価制度の構築が必要です。
さらに、各部署にとっては定期的に新しい人員を受け入れなければならないため、受け入れ先が負担する教育コストにも配慮しなくてはなりません。
ジョブローテーションの社員側のメリット・デメリット
社員側のメリットとしては、次の3つが挙げられます。
- 組織の全体像を把握できる
- スキルや経験の幅が広がる
- 新しいスキル獲得によってモチベーションが向上する
複数の業務経験やスキルの獲得は成長の実感につながり、モチベーション維持や学習意欲の向上が期待できます。
反対に、デメリットとしては次のような項目が考えられます。
- 専門性を獲得しにくい
- キャリアに一貫性がなく転職しにくくなる
- 希望しなくても異動を打診される可能性がある
深い専門性が得られず、キャリアにも一貫性がなくなるため、社内人材としてはキャリアが深まる一方で、転職で武器になるようなスキルを得られない可能性があります。また、得意分野で専門性を高めたい人にとっては、異動がモチベーション低下につながるかもしれません。
ジョブローテーションの導入に向いている企業の特徴
ゼネラリストや管理職の育成に適しているジョブローテーション制度は、次のような特徴を持った企業に向いています。
部署をまたいで事業を行っている
メーカーや金融機関など、複数の部署が横断して1つの事業を行っている企業は、ジョブローテーションとの親和性が高いといえます。商品やサービスを提供するまでに、どの部署がどのように関わっているのか理解していると、他部署ともスムーズな連携が可能です。
管理職の育成に注力している
自社のビジネス構造や業務の関わりなどを深く理解していないと、管理職として部下に的確な指示を出すことができません。さまざまな事業や部署に携わり、自社の全体像を把握できるジョブローテーションは、管理職の育成に適しています。
教育制度が整備されている
恒常的に新人の育成が求められるため、教育体制が整備されていることも重要です。育成プロセスが制度化されているだけでなく、新人を独り立ちさせるまでの人的余裕があるかどうかも考慮しなくてはなりません。そのため、ある程度社員数が多く、企業規模が大きい会社の方がジョブローテーションに向いているといえます。
ジョブローテーションの導入に向かない企業の特徴
ジョブローテーションに向かない企業の特徴は次の通りです。
専門職が多い
ジョブローテーションを導入すれば、社員が1つの業務に長期的に従事することが難しくなるため、専門職の育成には不向きです。研究や開発など、専門的な知識やスキルが求められる職種が多い企業は、ジョブローテーション制度を導入すると人材育成が困難になるかもしれません。
長期間のプロジェクトが多い
同様の理由で、長期間のプロジェクトに携わる職種でも、ジョブローテーションは不向きです。何年もかけて行う商品開発や、コンサルティングのような長期間の顧客支援などでは、途中でメンバーチェンジがあると業務遂行に支障が出る可能性があります。メンバーチェンジにより新陳代謝が期待できることもありますが、クライアントとの信頼関係にも関わるため、慎重な判断が必要です。
人員の替えがきかない
企業規模の小さい中小企業や少数精鋭で業務を回しているチームなどでは、無理にジョブローテーションを取り入れると業務が立ち行かなくなるリスクがあります。前述の通り、ジョブローテーションでは異動のたびに社員を育成しなくてはならないため、教育コストを負担する人的余裕が必要です。人員が限られている企業では、導入が難しいといえます。
職種によって評価基準や給与体系が異なる
グループ会社が多く、ジョブローテーションにおいて出向や転籍の可能性がある場合、企業ごとに評価制度や給与体系が異なるかもしれません。異動の前後で社員の給与が大きく変動したり、異動先の社員と大きな差が出たりすると、不満の原因となってしまいます。企業全体で平等な給与体系や評価制度が整備されていないと、ジョブローテーションの実施は難しいでしょう。
ジョブローテーションを導入する際の4つの手順
ジョブローテーションを導入するにはどのような方法があるのでしょうか。一般的な手順を4つに分けて解説します。
1.ジョブローテーションの目的を明確化する
まずは、ジョブローテーションを実施してどのような効果を得たいのか、目的を設定します。経営課題と紐づけ、その解決のためにどのような人材が求められているのか、社員にどのような経験を積ませるべきか検討し、目的を決定しましょう。
複数の目的を設定しても問題ありませんが、優先順位をつけるようにしてください。
2.対象となる社員を選定する
目的が定まったら、異動の対象となる社員を選定します。過去の事例や社員データを参考に、勤続年数や適性、年齢などを考慮して決定しましょう。
なかには、人事システムなどを活用して対象者を決定する企業もあるようです。
3.配置部署や期間を設定する
続いて、その社員にどのような経験を積ませたいのか検討し、配属先部署と期間を決定します。この際、社員の特性に適した部署を選ぶことが大切です。他にも、本人がこれまで積んできた経験や希望するキャリアプランなども参考にしましょう。
あわせて、配属先となる部署の受入体制や教育を担当する人材の調整も必要です。
4.ジョブローテーションを実施する
対象者と配属先が決まったら、ジョブローテーションを実施します。対象社員に周知する際は、配属の理由や達成してほしい目標もあわせて伝えましょう。社員の質問には率直に答え、不満や疑問のない状態で異動を実施することが重要です。
実施した後は、社員が期待通りのパフォーマンスを発揮できているか、定期的に確認の機会を設けましょう。配属先に馴染めなかったり、業務に不安を持っていたりする可能性もありますので、面談を実施してフォローやサポートを行ってください。
ジョブローテーションを導入する階層別のポイント
ジョブローテーションを導入するポイントは、対象となる社員の年齢や経験年数によって異なります。それぞれのポイントを解説します。
若手社員
若手社員のジョブローテーションは、企業理解の促進や本人の適性の見極めを目的に行われるケースがほとんどです。一方で、若手社員は「このようにキャリアを積んでいきたい」という希望を強く持っていることも多く、相違があると不満を抱く可能性も高くなります。
そこで、ジョブローテーションを行う目的をしっかり共有し、精神面のサポートを丁寧に行いましょう。配属先でメンターを付けて、相談先を明確にする方法も効果的です。
中堅社員
中堅社員のジョブローテーションは、管理職候補の育成を目的とした実施が多くなります。特定の部署しか経験がなかったり、部下をマネジメント経験がなかったりする社員に、管理職として必要な経験を積ませるためにジョブローテーションを行います。
配属先では、自分の業務を遂行するだけでなく、リーダーを任せたり、後輩を育成したりする機会を与えるとよいでしょう。
マネジメント層
すでにマネジメントを経験している社員を対象にジョブローテーションを実施する場合、経営層の育成を目的とすることが一般的です。この場合、業務を通して経営視点を学んでもらうことで、マネジメントスキルをより強化しなくてはなりません。
単なる部署異動ではなく、新規事業の立ち上げや、海外事業部への転勤なども含めて検討し、より多角的な視野が身につくよう配慮するのも手です。
ジョブローテーションを導入している企業事例
最後に、ジョブローテーションを活用して成功した企業の事例を紹介します。
pokka sapporo
食品・飲料メーカーのpokka sapporoでは、新卒から10年の間に、3種程度の異なる部署や勤務地、職種を経験してもらうジョブローテーションを実施しています。若手のうちに幅広い経験を積んで、競争の原動力となるダイバーシティ視点や多角的なスキルを獲得させることが目的です。
例えば、小売店への営業など現場での業務経験を積んだ後、マーケティングや製品開発といった部署に異動するといったモデルケースがあります。市場動向を肌で感じる経験が、ニーズを的確に捉えた施策立案につながるそうです。
京王電鉄
京王電鉄では、将来的に経営に関わることが期待される総合職においてジョブローテーションを実施しています。鉄道や開発といった特定業務だけでなく、グループ企業での出向を含めて多様な業務体験を積ませることで、京王グループの幅広い事業に携われるチャンスを作っているそうです。
一方で、社員の希望を踏まえたキャリアデザインも重視しており、興味のある部署での職種体験や社内公募など、社員が自主的にローテーションできる制度も取り入れています。
三井倉庫グループ
三井倉庫グループは、グループ各社を含めたジョブローテーションを平均3~4年の頻度で実施しています。グローバルな物流事業を展開しているため、海外支社への異動も含まれます。個々人の知識や経験の幅を広げ、組織を活性化することが制度の目的です。
ただし、年に1回自己申告制度を設けており、キャリアに関する本人の希望をヒアリングして、それを考慮した人事を目指しているといいます。
まとめ
従来の日本企業では企業内ゼネラリストを育成する目的で広く導入されてきたジョブローテーションですが、近年は多角的な人材の育成を目指して戦略的に活用されることが多くなっています。
ジョブローテーションの導入によって、管理職の育成や社員のモチベーション向上といったメリットが期待できますが、異動を実施する際は社員の適性や希望を尊重する姿勢が大切です。対象となる社員とコミュニケーションをとりながら、戦略的かつ無理のない制度設計を目指しましょう。
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