社員の人材育成の場面において、多くの企業が取り入れている「ジョブローテーション」。
自社にもジョブローテーションを導入すべきかどうか、検討している人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では、ジョブローテーションの意味や目的、企業側と社員側それぞれのジョブローテーションのメリット・デメリットについて解説します。
さらに、ジョブローテーション導入に向いている企業と向いていない企業の違いや、ジョブローテーション導入の成功事例と失敗事例を紹介します。
目次
ジョブローテーションとはなに?

ジョブローテーションとは何なのか、その意味や目的について紹介します。
ジョブローテーションとは?
ジョブローテーションとは、社員の職場や職務を変更することをいいます。
社員のスキルアップにより、カバーできる職務範囲の広域化がジョブローテーションの狙いです。
ジョブローテーションの目的とは?
ジョブローテーションには、主に以下の5つの目的があります。
- 社員の能力開発
- 社員のマルチタスク化
- 適切な人材配置の判断材料
- 人材交流
- 管理職の養成
新しい職務に就くことで、社員のできることの増加、カバー範囲の広域化、能力開発やマルチタスク化などが期待できます。
また、異動先で、社員が想像以上の活躍をみせ、適切な人材配置に繋がることも少なくありません。
さらに、異動によって、今まで関わりの薄かった社員同士の交流も盛んになり、部署間の連携もスムーズに行えるようになります。
企業・社員におけるジョブローテーションのメリット

ジョブローテーションに関して、企業側及び社員側から見たそれぞれのメリットを紹介します。
企業におけるジョブローテーションのメリット
ジョブローテーションに関して、企業側から見たメリットは、以下の3つです。
①部署間の関係性の良好化
②社員配置における適性判断の材料になる
③管理職の養成後の能力発揮につながる
以下順を追ってご紹介します。
企業のメリット①部署間の関係性の良好化
社員がさまざまな部署とつながりを持つことにより、部署間の関係性の良好化が期待できます。
関係性の良好化により、ストレスの少ない安心した職場環境で業務に当たることが可能となります。関係性が築けていないことでの緊張などによるミスが減り、他部署であってもチームとしての結束が高まることで、連携や進行がスムーズに行くようになり生産性の向上にも繋がります。
企業のメリット②社員配置における適正判断の材料になる
1人の社員がさまざまな部署での経験を積むことで、業務ごとの得意・不得意がわかるようになります。
そのため、社員を適材適所でポジションに配置するための良い判断材料となります。
社員個人の能力や個性によってふさわしい業務を与えることで、業務精度や効率、モチベーションの向上に繋がり、より効果的な成果を上げることができるでしょう。
さらに、不得意な仕事は社員がプレッシャーやストレスを感じやすくなり、成果が上がらないことにより業務への不満もたまります。そういったネガティブな状況をさけることにも効果的です。
企業のメリット③管理職の養成後の能力発揮につながる
社員を管理職員として養成したい場合にジョブローテーションを取り入れることが養成後の能力発揮に繋がります。
様々な業務を経験することで特定の業務への理解が深まり、管理職として全体を見回し業務がより回りやすくなるような仕組みづくりをすることができます。
社員におけるジョブローテーションのメリット
ジョブローテーションに関して、社員側から見たメリットは、以下の3つとなります。
①さまざまな経験を積むことで視野が広がる
②マルチなスキルを手に入れられる
③希望の職場への異動がモチベーションアップに繋がる
以下順を追って紹介します。
社員のメリット①さまざまな経験を積むことで視野が広がる
社員が、今まで自分が行っていた業務だけでなく、全体の業務内容の把握をすることで、全体の流れを汲んで業務遂行できるようになり、広い視野を持って動けるようになります。
社員のメリット②マルチなスキルを手に入れられる
さまざまな部署を経験することで、多種多様な経験を積むことができます。営業、制作、事務、など異なったスキルが必要な部署を経験することで、どの部署の業務にも対応できるマルチプレイヤーになることができます。
社員のメリット③希望の職場への異動がモチベーションアップに繋がる
社員の希望した部署への異動の場合、社員のモチベーションが上がり、仕事へのモチベーションアップにつながり生産性の向上も期待できます。
企業・社員におけるジョブローテーションのデメリット

ジョブローテーションに関して、企業側及び社員側から見たそれぞれのデメリットを紹介します。
企業におけるジョブローテーションのデメリット
ジョブローテーションに関して、企業側から見たデメリットは、以下の3つとなります。
①教育コストの増加
②スペシャリストの育成が難しい
③社員異動直後の生産性の低下
以下順を追って紹介します。
企業のデメリット①教育コストの増加
異動してきた社員に対して、その都度教育をしなくてはいけないため、時間的にも人員的にも費やすコストが大きいことが予想されます。
企業のデメリット②スペシャリストの育成が難しい
ジョブローテーションをすることで幅広いスキルの習得につながる反面、1つの業務にかける時間も減り、専門スキルに特化した人材(スペシャリスト)の育成が難しくなります。
企業のデメリット③社員異動直後の生産性の低下
異動直後は社員にとって初めての業務や新しい環境になるため、業務や環境に慣れるまでの間、生産性が低下することが想定されます。
社員におけるジョブローテーションのデメリット
ジョブローテーションに関して、社員側から見たデメリットは、以下の3つとなります。
①専門性が身につかない可能性がある
②キャリアが中途半端になる可能性がある
③望まない異動によるモチベーションの低下
以下順を追って紹介します。
社員のデメリット①専門性が身につかない可能性がある
特定の業務の専門性を身につけるために必要な期間業務に当たれない場合、専門性が身につかずローテーションが終了してしまう可能性があります。
結果、専門性を身に付けられないままローテーション後の業務に当たることとなり、社員の優れた能力開発や生産性の向上などの、期待していた効果が得られないことも考えられます。
社員のデメリット②キャリアが中途半端になる可能性
専門性が身につかず社員のキャリアが中途半端となり、結果的に社内で評価されない可能性があるため、社員の不満につながる可能性があります。
中途半端なキャリアは再就職の際にも評価されないため、将来的に転職が考えられる職員にとっては大きなデメリットとなりえます。
社員のデメリット③望まない異動によるモチベーションの低下
社員の希望に関係なく、ジョブローテーション期間中は業務を行わなくてはならないため、望まない部署へ異動した社員は、モチベーション低下の可能性があります。
特に、望まない異動のあった該当社員に関して、前述したような「キャリアが中途半端になって社内に評価されない」などの事態が起きてしまうことで、ジョブローテーション後に大幅なモチベーションの低下も考えられるので注意が必要です。
ジョブローテーションが向いている企業・向かない企業

ジョブローテーション導入に向いている企業と向いていない企業にはどのような違いがあるのでしょうか。それぞれの企業について特徴を紹介します。
ジョブローテーションが向いている企業
ジョブローテーション導入が向いている企業の特徴は以下のとおりです。
- 複数業務が連動している企業
- 社員が幅広い知識を持つことが業務の効率化につながる企業
- 幹部候補社員を育成したい企業
- 新卒採用が多い企業
- 育成に対する時間・人員・費用に余裕のある企業
- 業務内容をマニュアル化できている企業
ジョブローテーションによって、さまざまな部署での経験を積めるため、他部署に渡って業務が連動している企業や、幅広い知識が業務の効率化に繋がる企業、経験豊富な幹部候補社員を育成したい企業、新卒採用の多い企業に向いています。
ただし、ジョブローテーションは異動がある毎に業務内容を教えなければなりません。
そのため、社員の育成に時間・人員・費用をかけることができる企業や、業務内容をマニュアル化できている企業でないと、ジョブローテーションを取り入れることは難しいでしょう。
また、ジョブローテーションによって望んでいない部署に配属された社員のモチベーションが低下し、退職率がアップする可能性も考えられます。
ジョブローテーションが向かない企業
ジョブローテーション導入が向いていない企業の特徴は以下のとおりです。
- 専門性が高く、スキルの習得に時間がかかる職種の企業
- 新卒採用が少なく、中途採用が多い企業
- 人員が限られ教育リソースが少ない中小企業
- 長期プロジェクトに携わっている企業
- 部署ごとに待遇に差がある企業
専門性の高い職種の場合、他部署から異動してきても、技術などの習得に時間がかかるため、ジョブローテーションを取り入れるには向いていません。
また、専門職で採用した中途採用の多い企業も向いていないといえます。
ジョブローテーションを取り入れた場合、社員が異動のたびに業務の説明をしなければならないため、時間や教育コストなどがかかります。
そのため、社員育成に力を割けない中小企業にはジョブローテーションは向いていません。
さらに、長期プロジェクトを請け負っている企業の場合、途中で異動があると、業務に大きな支障をきたす可能性もあります。
また、部署ごとに待遇に差がある企業の場合、異動によって待遇の差に不満を持つ社員も現れる可能性があるため、ジョブローテーションは取り入れないほうが良いでしょう。
ジョブローテーションの成功事例と失敗事例の特徴

ジョブローテーションの事例について、成功事例と失敗事例を紹介します。
ジョブローテーション成功事例
ジョブローテーションの成功事例として、ヤマト運輸と三井ホームを紹介します。
成功事例①ヤマト運輸
ヤマト運輸は、新入社員を対象にジョブローテーションを実施しています。
新入社員は入社後2年間に、配送物の集配・配送サポート、営業など現場での実務を経験します。
それにより自分の行っている業務の位置づけを理解し、全体の流れを把握することが可能となりました。
成功事例②三井ホーム
三井ホームは、総合職採用の社員を対象に、積極的にジョブローテーションを活用している企業です。
営業担当、社内設計、設計担当、工事担当、本社技術スタッフ、本社事務スタッフなど家づくりに関わるあらゆる業務を社員が経験することで、家づくり全体でのプロフェッショナルの育成を図っています。
ジョブローテーションにより、社員個人のスキルアップだけでなく、部署ごとの連携がスムーズになり、部署間連携が必要な大きなプロジェクトにも役立っています。
ジョブローテーション失敗事例の特徴
ジョブローテーションでは異動先の部署で業務が進めづらい、コミュニケーションが円滑に取れないなどの問題が発生することもあります。
そういった失敗をしてしまう事例の特長としては、異動する社員が、異動先の部署や業務が未経験であるにも関わらず、事前に業務知識・経験・信頼関係の構築などが準備できていない場合は、失敗してしまう事例が多くなります。
そういった失敗をおこさない為にも、異動する社員に対して異動前から業務知識を共有、事前トレーニングの時間を設ける、異動先社員との事前のアイスブレイクを行うなどで失敗のリスクを回避する必要があります。
ジョブローテーションを取り入れて人材を育成しましょう
ジョブローテーションについて、目的やメリット・デメリット、導入に向いている企業と向いていない企業、導入事例などを紹介しました。
重要なことは、ジョブローテーションにおける企業側と社員側のメリット・デメリットを良く理解した上で、対象社員の選定や時間的に余裕のあるジョブローテーションの導入を図ることです。
ジョブローテーションに関して、慎重に自社に合った導入方法を検討し、企業にとって必要な人材育成を図りましょう。