デザイン思考とは?重要な5つのプロセスや導入方法など幅広く解説
不確実性の高い現代において、注目されるようになっているのが「デザイン思考」です。「名前は聞いたことがあるけど、実際には何なのかよく分からない」「自社にどうやって浸透させればよいか分からない」と悩んでいる方も多いでしょう。
そこで今回の記事では、デザイン思考の基礎知識から、ビジネスで活用するメリットや運用方法などを解説します。デザイン思考を取り入れた実際の事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
デザイン思考とは
デザイン思考は、デザインに関する思考プロセスを使って、ユーザー視点で課題を見つけていく方法です。ここでは、デザイン思考の特徴や、注目されるようになった背景について解説します。
デザイン思考の特徴
デザイン思考は、デザイナーが行う認知・思考プロセスを使って、ビジネス上の解決策を考える手法です。1987年に発表された、ピーター・ロウの著書『デザインの思考過程』をきっかけに、その考えが広まっていきました。
デザイン思考の特徴は、あくまでもデザインの思考過程を使ったビジネスのマインドセットであり、「デザインに関する手法ではない」という点です。また、ユーザー視点に立つのが、何よりも重要とされています。
注目されている背景
デザイン思考が注目されている背景はいくつかあります。まず考えられるのは、市場構造の多様化です。ユーザーのニーズを捉えるのが難しくなっており、ユーザー自身も、「自分に本当に必要なものは何か」がよく分かっていない状態になっています。
そのなかで企業に必要とされるのは、仮説設定や検証を繰り返して商品を開発することではなく、「これまでの常識にとらわれない思考の枠組み」です。例えばAppleが開発したiPhoneは、デザイン思考が生み出した商品の典型的な例として知られています。
またユーザーが、「商品自体よりも、商品の購買体験に価値を置くようになった」のも、デザイン思考が浸透した背景です。Apple Storeのように、ユーザーの顧客体験をデザインする重要性が、従来よりも大きく増しています。
デザイン思考と類似・関連する思考法との違い
デザイン思考と類似・関連する思考法として、「アート思考」「ロジカルシンキング」「クリティカルシンキング」の3つがあります。ここでは、それぞれの思考法の特徴や、デザイン思考との違いを解説します。
アート思考
アート思考は、自由な発想を起点にして、オリジナリティのあるアイデアを生み出すための思考法です。「何かしらの課題を解決するためのアイデアを出す」という意味では、デザイン思考と共通した部分があります。
アート思考とデザイン思考の大きな違いは、その視点です。ユーザー視点を徹底するデザイン思考に対して、アート思考は開発担当者や企業の自由な発想を重視しています。似たような意味ではあるものの、デザイン思考とは明確に別物として定義される手法です。
ロジカルシンキング
ロジカルシンキングとは、論理の流れを明確にし、物事を認識するための手法です。具体的には「結論」と「根拠」の2つに分け、論理的なつながりを意識しながら、問題の本質を見極めます。論理的に整理されるので、話を分かりやすく伝える際にも役立つ思考法です。
ロジカルシンキングとデザイン思考の大きな違いは、課題認識や解決のためのプロセスです。デザインの認知・思考プロセスを使った、クリエイティブな発想を重視するデザイン思考とは異なり、ロジカルシンキングは論理性を重視します。
クリティカルシンキング
クリティカルシンキングは、批判的な精神を持ちながら、考えを深めていくための思考法です。論理性を重視する意味ではロジカルシンキングと似ていますが、「与えられている問題の前提から疑う」のが大きな特徴となっています。
クリティカルシンキングとデザイン思考の大きな違いは、ロジカルシンキングの場合と同じく、課題解決のアプローチ方法です。あくまでも「客観性」を重視するクリティカルシンキングは、「クリエイティブ」のデザイン思考とは異なります。
デザイン思考をビジネスで活用するメリット
デザイン思考をビジネスで活用すると、柔軟な発想で仕事を進められるなど、さまざまなメリットが期待できます。ここでは、デザイン思考をビジネスで活用するメリットについて、4つのトピックに分けて解説します。
柔軟な発想で仕事を進める習慣がつく
冒頭でも触れたように、デザイン思考を活用することによって、柔軟な発想で仕事を進める習慣が身につきます。
デザイン思考で仕事をする際は、基本的に他の人と意見を交換しながら進めていきます。自分では考えられなかったさまざまな意見を取り入れられるため、より柔軟な発想での仕事が可能です。
新しいアイデアを生み出せるようになる
新しいアイデアを生み出せるようになるのも、デザイン思考を活用する大きなメリットです。デザイン思考では、「とりあえずアイデアを出してみる」といった姿勢が奨励されています。
失敗を考えずにアウトプットをする習慣が身につくため、前例のない新しいアイデアの創出にもつながるでしょう。ちょっとしたアイデアが、企業の躍進につながる可能性もあります。
社内のコミュニケーションが活発になる
これまでの話に関連しますが、社内のコミュニケーションが活発になるのも、デザイン思考を取り入れるメリットです。遠慮なく意見を交換する環境があれば、会社やチームにとって好影響があります。
例えば、「誰かが気軽にアイデアを出し、他の人がそれに対して意見を言う」「柔軟な発想によってアイデアに深みが出る」といった、新しいパターンが浸透するでしょう。
チーム・組織の強化につながる
デザイン思考によって社員が柔軟な考え方・行動ができるようになれば、チーム・組織の強化にもつながります。役職や上下関係に関係なく、自由に発言できる環境を整えることで、「チームに貢献しよう」という意識も高まるでしょう。
高い生産性で仕事を進めていくためには、チームのまとまりが最重要課題です。デザイン思考によって、チームや組織が、1つの方向性を共有できるのも大きな魅力といえます。
スタンフォード大学が提唱する「デザイン思考」の5つのプロセス
スタンフォード大学では、デザイン思考のプロセスとして、「共感(Empathize)」「定義(Define)」「概念化(Ideate)」「試作(Prototype)」「テスト(Test)」の5つを提唱しています。ここでは、それぞれの項目について解説します。
1.共感(Empathize)
共感(Empathize)は、ユーザーの課題を考えるためのプロセスです。先ほども触れたように、デザイン思考を徹底するためには、ユーザーの視点に立ち続けるのが重要になります。
具体的には、インタビューやアンケートによって、ユーザーの意見や感情に共感するのが典型です。後の項目で紹介する、フレームワークを使うケースもあります。
2.定義(Define)
定義(Define)は、「1.共感(Empathize)」によって得られた情報を活用し、ユーザーのニーズを定義するプロセスです。
ここで重要なのは、表面的なニーズだけでなく、潜在的なニーズも同時に考えることです。「ユーザーは本当は何を求めているのか」を理解できれば、常識にとらわれない新しい商品・サービスが生まれる可能性もあります。
3.概念化(Ideate)
概念化(Ideate)は、定義されたユーザーのニーズを満たすために、何をすればよいかを考えるプロセスです。複数人でアイデアを出し合うブレーンストーミングを使うのが一般的となっています。
重要なのは、質の高いアイデアを出そうとするのではなく、全員でより多くのアウトプットを心がける点です。なるべく肯定的にとらえる形で、多くのアイデアを出しましょう。
4.試作(Prototype)
試作(Prototype)は、特に多くの支持を集めたアイデアを具体化するためのプロセスです。ある程度アイデアが固まったら、必ず試作品・試作サービスを作りましょう。
ここで重要なのは、なるべく低コスト・短時間で試作することです。試作品は新しい課題に気づくための手段であると理解しておきましょう。
5.テスト(Test)
テスト(Test)は、「2.定義(Define)」が正しかったのかどうかを確認するためのプロセスです。具体的にはプロトタイプのユーザーテストを実施し、意見を収集します。
ユーザーの課題解決が十分でなければ、どこに課題があるのかを再度洗い出し、新しい商品・サービスを作っていきます。
デザイン思考の実践に使えるフレームワーク
デザイン思考を実践するためには、フレームワークを使うのも重要です。先ほど紹介したプロセスでいえば、「1.共感(Empathize)」で使うケースが多いといえます。ここでは、デザイン思考の実践に使えるフレームワークを解説します。
共感マップ(エンパシーマップ)
共感マップ(エンパシーマップ)は、ユーザーの認知や価値観を整理するためのフレームワークです。具体的には、以下の6つの視点を使います。
- 考えていること/感じていること(Think&Feel)
- 聞いていること(Hear)
- 見えているもの(See)
- 言っていること/行動(Say&Do)
- 痛みやストレス(Pain)
- 得られるもの(Gain)
担当者間で認識をすり合わせられるのが大きなメリットです。
SWOT分析
SWOT分析は、ビジネスモデルを整理するためのフレームワークです。具体的には、以下の4つの視点を使います。
- 優位点(Strength)
- 課題(Weakness)
- 機会(Opportunity)
- 外的脅威(Threat)
これらの頭文字をとってSWOTと呼ばれます。改善点が見つかるだけでなく、将来的なリスクを予測できるのが大きなメリットです。
事業環境マップ
事業環境マップは、SWOT分析と似たようなフレームワークで、「市場」「業界」「トレンド」「マクロ分析」の4つの視点を使ってビジネスモデルを分析します。外部環境を定義し、柔軟に対応できるようにするためのフレームワークです。
「市場」「業界」の2つが、ミクロの外部要因となります。これは、自社のビジネスモデルに直接影響を与えるものです。一方「トレンド」と「マクロ経済」は、マクロの外部要因であり、間接的に影響を与える要素として考えられます。
ジャーニーマップ
ジャーニーマップは、ユーザーが自社の商品・サービスに関わるプロセスを可視化するためのフレームワークです。具体的な活用方法は、以下の2ステップに分かれます。
- プロセスとして「認知」「興味・関心」「比較検討」「購入」の4段階を想定する
- 各プロセスにおけるユーザーの「思考」「感情」「行動」「課題」などの項目を設定する
ユーザーの購買体験の全体像を把握できるため、デザイン思考ととても相性のよいフレームワークといえます。
ビジネスモデルキャンパス
ビジネスモデルキャンパスは、自社のビジネスモデルを分析するためのフレームワークです。具体的には、以下の9つの要素を設定します。
- 顧客セグメント
- 顧客との関係
- 販路(チャネル)
- 提供価値
- 主要活動
- リソース
- パートナー
- コスト構造
- 収益の流れ
ビジネスモデルの概要が理解しやすくなるので、情報を共有するのに役立ちます。「RIZAP」ブランドの取り組みなど、数多くのビジネスで使われているフレームワークです。
デザイン思考の導入方法
デザイン思考を導入する方法は、「テストのプロジェクトチーム結成」「他のチームにノウハウを共有」の2ステップです。ここでは、実際にデザイン思考を導入する流れについて解説します。
1.テストのプロジェクトチームを結成する
まずはテストのプロジェクトチームを結成しましょう。デザイン思考を組織に浸透させるためには、実際に体験してもらうのが重要です。テストのプロジェクトチームを結成し、結果にフォーカスするのではなく、「デザイン思考」それ自体に馴染んでもらいます。
また、必要に応じて、デザイン思考を高めるための研修を実施するのも有効です。ワークショップ形式や動画視聴による研修など、自社に合った方法を選択しましょう。
2.他のチームにノウハウを共有する
デザイン思考が馴染んでくるようになったら、他のチームにノウハウを共有しましょう。テストのプロジェクトチームで洗い出した課題、解決策などをまとめておき、分かりやすい形で情報を伝えます。
ここで重要なのは、短期間で無理にデザイン思考を浸透させようとしないことです。すぐに結果を出すのは難しいので、あくまでも「長い時間をかけて社内に浸透させていく」というイメージが大切になります。デザイン思考は、手法ではなく、課題解決のための「考え方」の1つであるという認識が重要です。
デザイン思考の注意点
デザイン思考は、ゼロベースでの発明に向いていないなど、いくつかの注意点があります。ここでは、デザイン思考を取り入れるうえで注意したいポイントについて、3つのトピックに分けて解説します。
ゼロから発明するのには向いていない
デザイン思考は、ゼロからの発明には向いていません。デザイン思考の特徴は、ユーザー視点に立つことです。そのため、デザイン思考を効果的に活用するためには、ユーザーの体験や感情といった要素が欠かせません。
デザイン思考は、従来の枠組みにとらわれないアイデアを生み出すための考え方ではありますが、「ゼロからモノを生み出すための考え方」とは別物です。ユーザーの存在が最初にあると理解しておきましょう。
チームの構築が難しい
チームの構築が難しいのも、デザイン思考を取り入れる際に気をつけなければなりません。チームを作るうえで特に重要なのが、気軽にアイデアを出したり、意見を交わしたりできることです。
例えば同じチームでずっと働いてきた人々を集めても、これまでの常識を覆すような、新しい発想は生まれにくいでしょう。また上下関係が強いチームになってしまうと、上司の意見が優先されてしまうため、意見の多様性が確保しにくくなります。
すぐに結果が出るわけではない
デザイン思考は、すぐに結果が出るわけではありません。特にデザイン思考を全く取り入れていなかったチーム・組織の場合は、これまでのやり方を変える必要があるため、浸透するまでに長い時間がかかります。
またデザイン思考自体はシンプルなものですが、クリエイティブな発想をするのは簡単ではありません。無理に結果を出そうとするのではなく、デザイン思考の活用を根気よく続けていくのが重要です。
デザイン思考を取り入れている有名企業の事例
ここでは、デザイン思考を取り入れている有名企業の事例として、「Apple」「パナソニック」「ソニー」の3つを紹介します。実際の事例を見て、自社でデザイン思考を活用する際の参考にしましょう。
Apple
Appleは、「iPhone」を開発し、従来の「ガラケー」が主流になっていた世界を大きく変えました。このiPhoneの開発にも、デザイン思考が大きく関わっています。
iPhoneの優れていたポイントは「ユーザーの潜在的欲求を定義し、それを満たすためのデバイスになっていた」という点です。インターフェースをユーザーの視点になって考えるという、デザイン思考の本質に関わる事例です。
パナソニック
パナソニックは、主に採用面でデザイン思考を取り入れています。採用活動を行っていく際の違和感を整理し、「エンプロイヤーブランディング戦略」の開発に結びつけました。
デザイン思考は、ユーザー視点で物事を考えるための思考メソッドです。パナソニックでは、「ユーザー=求職者」と定義し、求職者の視点に立った情報発信を徹底しています。キャッチコピーを年ごとに変えるのではなく、「働く場としての魅力」を一貫して発信する姿勢を重要視しています。
ソニー
ソニーは、「デザインリサーチ」という手法の実践に取り組んでいます。具体的な統計やデータを用いるマーケティングリサーチとは異なり、アイデアにつながるヒントを探るという、デザイン思考の要素を含んでいるのが大きな特徴です。
次世代映画撮影カメラ「VENICE」は、ソニーのデザインリサーチが活用された商品です。カメラとしてのスペックや機能だけではなく、「カメラマンが本当に使いやすいカメラとは何か」が考えられています。
まとめ
デザイン思考を理解するうえで重要なのが、ビジネスですぐに使える「手法」ではなく、長い時間をかけて浸透させる「考え方」という視点です。すぐに結果を求めるのではなく、長い時間をかけて浸透させるという意識を持ちましょう。
また、デザイン思考を効果的に実践するためには、チームの構築方法も重要です。多様なバックグラウンドを持った人を集め、気軽に意見を言い合えるような環境を作りましょう。今回紹介した、具体的な事例も参考にしてください。
クオリティの高いチーム・組織を作るためには、デザイン思考を持った学生を採用するのが重要です。最新の学生・企業の市場動向を知りたい採用担当者の方は、こちらの資料をご覧ください。今後の採用活動に役立てていただけたら幸いです。