【人事向け】就業規則とは?制定ルールやフロー、不利益変更対応を解説
労働基準法など労働条件変更に関する法改正や職場ルール変更をするときなど、就業規則の変更が必要なケースが多くあります。
この手続きは、ミスがないようにすることはもちろん、従業員からの訴訟により裁判となった場合でも大きな問題にならないように対応することが必要ですが、対応に不安な人事担当者もいると思います。
ここでは、就業規則の法的な位置付けや定めるときのルール、制定や変更手続きなどを説明します。
あわせて、特に労働問題に発展する可能性のある、不利益変更手続きについても解説いたしますので、参考にしてください。
目次
就業規則とは
就業規則の内容や法的な位置づけなどについて説明します。
なお、本記事中の労働基準法は、2020年4月1日の改正法施行時点の定めを指しますこと、ご留意ください。
就業規則とはなにか
就業規則とは、労働基準法に基づき、労働条件や待遇の基準、職場ルールなどを定めた会社の規則であり、常時10名以上の従業員を雇用する会社は作成・変更の上、労働基準監督署に届け出る義務があります。
労働基準法では、次のとおり定めています。
・労働基準法 第89条「作成及び届出の義務」抜粋
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
(電子政府の総合窓口「e-Gov」より)
就業規則の位置づけ
労働基準法上、就業規則は、原則、従業員代表の意見書を取得し、就業規則を制定・変更して労働基準監督署に届出することとされています。
従業員代表の意見書は、同意ではなく「意見」ですので、これは一見すると、会社の思ったとおりの就業規則を定めることができると思われるかもしれません。
しかしながら、就業規則の効力について、労働基準法では次のとおり定められていますので、これを機に、法令・労働協約と就業規則の関係性の理解を深めてください。
・労働基準法 第92条「法令及び労働協約との関係」抜粋
第九十二条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
○2 行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。
(電子政府の総合窓口「e-Gov」より)
つまり、就業規則は、法令、または労働協約より従業員が不利益になる定めは無効となります。
法令、労働協約、就業規則、労働契約のそれぞれの関係性がまとめられた表を掲載しますので、参考にしてください。
・法令、労働協約、就業規則、労働契約の関係
広義の就業規則と狭義の就業規則
一般的には、労働条件や職場ルールなど就業規則に定める事項のすべてを「就業規則」の一つの規程で定めず、例えば「賃金規程」「通勤費支給規程」「退職金規程」といったように、別規程として定めているケースが大半と思います。
では、労働基準法でいう「就業規則」とは、前述した「賃金規程」などの別規程は就業規則に該当しないのでしょうか?
「就業規則」という名前でなくても、前述した労働基準法第89条の1項から10項に定める事項を規定した別規程は、労働基準法上「就業規則」となります。
わかりやすく表現するため、この項目の説明では、就業規則という名前の規程を「狭義の就業規則」、労働基準法でいう労働基準法第89条に定める事項を規定した別規程を「広義の就業規則」とします。
人事担当者になったばかりだと混同しやすいかもしれませんが、労働基準法でいう就業規則は「広義の就業規則」であることに留意し、従業員代表への意見書取得や労働基準監督署への届出など、広義の就業規則の制定・変更手続きを失念しないようにしてください。
【就業規則の届出漏れがないようにするためのヒント】
労働基準監督署に届出が必要な広義の就業規則に該当するか否かを判断するため、「就業規則の別規程一覧」を作成することをお勧めいたします。
または、広義の就業規則に該当する規程の附則などに、例えば「本規程は、労働基準法に基づき、所定の手続きを経て労働基準監督署届出が必要な就業規則の別規程である」といった文言をいれることも有効です。
このように工夫することで、就業規則の届出が漏れないようにできますので参考にしてください。
就業規則がない場合は?
前述したとおり、労働基準法上、常時10名以上の従業員を雇用する会社は作成義務があります。
この条件にあてはまっているにもかかわらず作成していない会社は、後述の作成フローを参考に、社会保険労務士や弁護士等の専門家に相談うえで、速やかに制定を進めるよう検討してください。
なお、制定する場合は、厚生労働省にて「就業規則作成支援ツール」を活用することも有効です。モデル就業規則の規程例や注意事項を参考に、必要事項を入力することで、届け出可能な就業規則を作成することが可能です。
〇(厚生労働省 スタートアップ労働条件「就業規則作成支援ツール」)
就業規則に定めるルール
労働基準法上、就業規則に定めるルールがありますが、これらの内容を説明します。
絶対的記載事項
前述した労働基準法第89条1項から3項に定められた事項が「絶対的記載事項」であり、必ず定めが必要な事項です。
厚生労働省では、次のとおりまとめています。
相対的記載事項
前述した労働基準法第89条3項2から10項に定められた事項が「相対的記載事項」であり、定める場合は記載が必要な事項です。
厚生労働省では、次のとおりまとめています。
就業規則の制定、変更フロー
就業規則の制定、変更フローを実務面も踏まえて、次のとおり説明します。
案の作成
就業規則の制定・変更案を作成します。
厚生労働省にて「モデル就業規則」を公開していますので、参考にしてください。
なお、変更の場合は、新旧対照表も作成すると変更点が分かりやすいほか、労働基準監督署への届出もスムーズですので、作成することをお勧めします。
新旧対照表は、下記イメージのとおり、左右に旧規程と新規程を対比させる形で並べ、変更される箇所を下線や赤字で記すなど、変更内容を分かりやすく作成します。
下記リンクの「新旧対照表ドットコム」では、新旧対照表の具体的な作成の仕方を解説しているほか、テンプレートをダウンロードすることができます。加えて、新文書と旧文書の差分を自動的に作成できる無料サービスもありますので、参考にしてみてください。(2020.11.30時点確認)
<新旧対照表のイメージ>
「意見書」の受理と「同意書」の必要性
就業規則の作成・変更手続きは、労働者の過半数で組織する労働組合、または従業員代表者の意見を聴取し、労働基準監督署に提出する際にその意見書を提出する必要があります。
労働基準法では、次のとおり定めています。
・労働基準法 第90条「作成の手続き」抜粋
第九十条 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
○2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
(電子政府の総合窓口「e-Gov」より)
ただし、労働基準法上は「意見を聴く」ことが必要で、協議や同意までは求められていません。
しかしながら、労働条件は労使対等な立場で決定することが原則ですので、一方的に決めるのではなく、聴取した意見は出来る限り尊重することに努めてください。
なお、後述しますが、不利益変更の場合でも労働基準監督署への届出手続き上は意見書で足りますが、別途、従業員からの「個別同意」が原則必要です。
会社の機関決定
就業規則などの規程制定・変更については、実務的に、自社における稟議決裁基準等で、役員会決裁などが必要であることが大半だと思います。会社として機関決定するため、役員会への答申など社内で必要な手続きを踏んでください。
労働基準監督署への提出
前述した労働基準法第90条の定めにより、就業規則を変更または作成した際、所在地を管轄する労働基準監督署長に下記のとおり届け出る必要があります。
届出手続きは、所在地によって相違があることがありますので、管轄の労働基準監督署に問い合わせてください。
【届出書類】
- 就業規則(変更)届
- 意見書
- 新旧対比表(変更の場合は、就業規則の提出はせず新旧対比表のみで可)
- 就業規則(別規程も含む)
【参考:就業規則(変更)届、意見書の記載例】
【コラム】複数事業場があるときに便利な「就業規則 一括届出制度」
同じ会社でも事業場が異なる場合は、それぞれの管轄の労働基準監督署に就業規則を届け出る必要があります。
ただし「就業規則 一括届出制度」を利用すると、例えば本社が管轄の労働基準監督署に届出したうえで、事業場数分の届出書類等を同労働基準監督署内の配送作業室に持参(または郵送)することで一括届出が可能です。
詳細は、下記リーフレットを確認してください。
(厚生労働省 「就業規則一括届出制度」)
規程の周知
就業規則は、労働基準法第106条において「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付すること」と定められており、従業員に周知義務があります。
これは周知しないと効力が生じないことを意味し、周知していないと罰則があるほか、就業規則が無効となる恐れもありますので、必ず周知をしてください。
不利益変更を行う場合
不利益変更を行う場合の検討事項や手続きを説明します。
裁判に発展した場合、就業規則の変更手続き時の対応も裁判に大きく影響する可能性もあることから、不利益変更は慎重に対応することが求められます。
労働契約法の定め
労働契約法では、原則、就業規則の変更により労働者の不利益に変更することはできないとされています。
具体的には、次のとおり定められています。
・労働契約法 第9条「就業規則による労働契約の内容の変更」抜粋
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
ただし、同法第10条では9条におけるただし書で例外が定められていますが、要約すると次のとおりです。
○労働契約法第10条の内容要旨
変更後の就業規則が周知され、かつ次の内容を照らし合わせて合理的なものである場合
①労働者が受ける不利益の程度
②労働条件の変更の必要性
③変更内容の相当性
④労働者側との交渉状況
※その他代替措置
このことから、不利益変更にあたる場合であっても、同法第10条における合理性があれば労働者の合意は必要ではありませんが、この条件はかなり高度なものになります。
就業規則の不利益変更について裁判に発展するときは、この合理性を争われることが多いので、不利益変更にあたる場合は必ず社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
不利益変更のフロー
不利益変更の流れを参考として説明します。
○就業規則の不利益変更フロー例
①不利益変更における就業規則の検討
②不利益変更の合理性検討
③不利益変更に対する代替措置や経過措置の検討
④労使交渉
⑤従業員への説明
⑥個別同意の取得(※)
⑦従業員代表からの意見書受理
⑧就業規則の変更、届出
⑨就業規則の周知
※前述の労働契約法第10条の合理性要件を満たせば、必ずしも個別の同意を得る必要はありませんが、前述のとおり専門家へ相談することをお勧めします。
不利益変更のポイントについて、厚生労働省で次のとおりまとめられていますので、参考にしてください。
留意点
皆さんの会社で働いている従業員のうち、例えばパートタイマーや契約社員、再雇用社員などそれぞれの区分に応じた就業規則は定めてありますか?
もし、定めがない区分の就業規則が存在していなければ、早急に制定すべきです。
なぜなら、定めのない区分の従業員(例えばパートタイマーなど)が既に存在している区分の就業規則(例えば正社員など)が適用されてしまうことがあるからです。
仮に正社員の就業規則に「対象を正社員に限る」という定めがあったとしても、正社員以外の就業規則が存在していない場合は、結果的に正社員の就業規則を適用される可能性があります。
とくに、2021年4月から、中小企業も含めて全面的に同一労働同一賃金が適用されますので、正社員以外の就業規則が定められているか確認をしてください。
就業規則の制定条件や変更ルールの理解を深め、正しく運用しましょう!
就業規則の制定や変更手続き、とくに不利益変更の場合は慎重に対応をする必要があることを説明いたしました。
本記事をきっかけに、就業規則の制定や変更手続きの重要性、裁判に発展した場合でも大きな問題にならないような不利益変更の進め方などの理解を深めてください。