【労働基準法とは?】わかりやすく簡単に解説!人事が知っておきたい内容
「労働基準法って何を定めているの?」「人事として知っておくべきことは?」など悩んでいる人事担当者もいるのではないでしょうか?
労働基準法は、従業員の採用から配置、退職までのあらゆる場面で適用される、人事にとって理解必須の重要な法律です。
ここでは、労働基準法を簡単にわかりやすく説明するとともに、労働時間に関する内容など人事が知るべきことを説明します。
目次
労働基準法とは
労働基準法は、簡単に言うと労働条件に関する最低基準を定めた法律です。ここでは、労働基準法の概要や目的、位置付けについて説明します。
どのような法律なのか
労働基準法は、労働条件に関する最低基準を定めた法律です。日本国憲法第27条第2項「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」との定めを受け、1947年4月に労働基準法が制定されました。
具体的には、以下のような基準を定めているほか、年次有給休暇や就業規則などについて定めています。
労働基準法の目的
労働基準法は、「人として生活を保障するものであり、労働条件の決定は労働者と使用者が対等の立場で決定すべきである」という考え方を原則として、労働条件の最低基準を定めています。
労働基準法第一条には、次のとおり労働条件の原則を定めていますので、参考にしてください。なお、法律の目的は、基本的に第一条に規定されることが基本となっていますので、知識として覚えておくことをお勧めします。
労働基準法 第一条抜粋(労働条件の原則)
第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
②この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
e-Gov(労働基準法 第1条 労働条件の原則)
労働基準法の位置づけ
民法などの一般法に対し、労働基準法は特別法として位置付けられています。
例えば、民法の原則である「契約自由の原則」では、公序良俗に反するものなどを除き、双方が合意さえすれば自由な内容の契約を結ぶことができます。しかし、労使間で、優越的な地位にある企業が不合理な労働条件を一方的に定めることを防ぐため、特別法である労働基準法で一定の規制をかけています。
このように、民法と労働基準法は、一般法と特別法という関係となっており、労働基準法は民法の原則に優先する関係となっています。
労働基準法のポイント
労働基準法は、正社員、アルバイトなどの名称を問わず、全ての労働者に適用されるルールです。ここでは、労働基準法に定められているポイントを解説します。「労働基準法の基礎知識」参考・引用
労働条件の明示について
労働者を採用するときは、次の労働条件を明示することが必要です。(労働基準法第15条第1項、労働基準法施⾏規則第5条)
・必ず明示しなければならないこと
- 契約期間に関すること
- 期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること
- 就業場所、従事する業務に関すること
- 始業・終業時刻、休憩、休日などに関すること
- 賃⾦の決定⽅法、⽀払時期などに関すること
- 退職に関すること(解雇の事由を含む)
- 昇給に関すること
※1~6は、原則、書面での交付が必要
・定めをした場合に明示しなければならないこと
- 退職手当に関すること
- 賞与などに関すること
- 食費、作業用品などの負担に関すること
- 安全衛生に関すること
- 職業訓練に関すること
- 災害補償などに関すること
- 表彰や制裁に関すること
- 休職に関すること
実務としては、労働条件通知書を交付することが一般的です。新たに労働条件通知書を作成する場合は、(厚生労働省「モデル労働条件通知書」)を参考にしてください。
賃金について
賃金とは、使用者が労働者に支払う労働の対価です。ここでは、賃金支払いの5原則、最低賃金について説明します。
賃金支払いの5原則
賃金は、賃金支払いの5原則により、「通貨で」「直接労働者に」「全額を」「毎月1回以上」「一定の期日を定めて」⽀払わなければなりません。(労働基準法第24条)
【賃金支払いの5原則】
それぞれ原則を押さえておかないと、誤って労働基準法違反を犯す可能性があります。
例えば、給与振込口座を配偶者にしてほしいというような依頼があっても、直接払いの原則に反します。また、財形貯蓄制度などで給与から天引きをするにあたっては、全額払いの原則の下、労使協定がないと認められません。労働基準監督署から指摘を受けることもありますので、確認することをお勧めします。
最低賃金
賃金は、労働者の同意があっても最低賃金額を下回ることはできません。(最低賃金法第4条)
最低賃金は、地域によって発効日に違いがありますが、基本的には毎年8月頃に都道府県別に発表され、10月1日頃に発効となります。(厚生労働省「賃金引上げ、労働生産性向上」)にて公開されていますので、自社の従業員の賃金が最低賃金を下回っていないか、毎年、必ず確認してください。
実務的には、最低賃金が発効される10月にかかる算定期間の給与から適用することが必要ですので、パートタイマーなど有期雇用契約社員の場合は、事前に、これにかかる雇入通知の更新などが必要になります。
労働時間、休日について
労働時間の上限は、原則、1日8時間、1週40時間です。(労働基準法第32条、第40条)また、少なくとも1週間に1日、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。(労働基準法第35条)
この労働時間の上限を超えて、または休日に働かせるには、あらかじめ労使協定(36協定)を結び、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。(労働基準法第36条)
時間外労働の上限規制
36協定で定める時間外労働の上限は、原則、「月45時間・年360時間」になります。
ただし、時期的に多忙などの事情で臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)は、年6か月まで月45時間を超えることができますが、次の範囲に収める必要があります。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
36協定、特別条項などの時間外上限規制の詳細は、働き方改革とは?【わかりやすく】概要と重要ポイント3つを解説にて解説していますので、参考にしてください。
休憩について
1日の労働時間が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩を、勤務時間の途中で与えなければなりません。(労働基準法第34条)
ただし、休憩時間中であっても、例えば電話番や顧客対応を行うなどを会社が指示している場合は労働時間と判定される場合がありますので、注意が必要です。
割増賃金について
時間外労働、休日労働、深夜労働を⾏わせた場合には、割増賃⾦を⽀払わなければなりません(労働基準法第37条)。
また、時間外労働と深夜労働は2割5分以上、休日労働については3割5分以上と割増賃金率の最低基準が定められています。また、時間外労働については、1カ月60時間を超える時間外労働は、5割以上とする必要があります。(中小企業は2023年3月末まで適用が猶予されています)
時間外手当については、時間外手当・残業手当とは?それぞれの違いや正しい計算方法を解説にて詳しく解説していますので、参考にしてください。
年次有給休暇について
雇い入れの日から6か月間継続勤務し、全所定労働日の8割以上出勤した労働者には年次有給休暇が与えることが最低限必要です。
なお、年次有給休暇は、従業員の権利であり、従業員から有給休暇の申請されたら基本的に拒むことはできません。ただし、多忙期などで取得時期をずらす「時季変更権」によって、取得時期の変更は可能とされています。(労働基準法第39条5)
有休消化義務について
年次有給休暇が10日以上付与される労働者については、年5日の年次有給休暇を取得させることが使用者の義務となっています。(労働基準法第39条)
そのため、企業は、対象労働者に対して「労働者自らの請求」「計画的付与」「使用者による時季指定」のいずれかの方法によって、年次有給休暇を取得させる必要があります。
年次有給休暇の消化義務については、働き方改革とは?【わかりやすく】概要と重要ポイント3つを解説にて解説していますので、参考にしてださい。
解雇・退職について
やむを得ず労働者を解雇する場合、30日以上前に予告する、または解雇予告手当を⽀払う必要があります。(労働基準法第20条)
なお、業務上の傷病や産前産後による休業期間及びその後30日間は、原則として解雇できません。(労働基準法第19条)
懲戒処分による解雇の場合、解雇予告除外認定の制度を利用することで、解雇予告手当の支払を免れることができます。
ただし、非常に労力を要するほか、懲戒処分による解雇は合理性及び社会的相当性がなければ有効とならず、解雇無効の訴えなどのリスクがあるように極めてハードルが高いものとなっていますので、慎重な対処が必要です。
就業規則について
常時10人以上の労働者を使用している場合は、就業規則を作成し、労働者代表の意⾒書を添えて、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。
また、就業規則を変更した場合も同様です。(労働基準法第89条、第90条)
就業規則は、職場の⾒やすい場所に掲示するなどの方法により、労働者に周知しなければなりません。周知されていない場合は、効力が無効になりますので、注意が必要です。
就業規則については、就業規則とは?制定ルールや不利益変更対応など具体的な実務を解説!にて詳しく解説していますので、参考にしてください。
人事が知っておくべきこと
労働基準法は、人事にとってあらゆる場面で関係する法律です。ここでは、人事が知るべきポイントの一例を解説します。
年次有給休暇の取得申請は拒める?
年次有給休暇は、従業員から有給休暇の申請がなされたら、基本的に拒むことはできません。
ただし、「時季変更権」によって、多忙期などで年次有給休暇の取得時期を変更することは可能です。年次有給休暇は、従業員の権利であることを念頭においてください。
管理職は残業がつかない?
「管理職は残業がつかない」とはよく言われますが、自社内で管理職であっても労働基準法上の「管理監督者」とは限りません。
この管理監督者とは、労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。「管理監督者」に当てはまるかは、役職名ではなく、職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断されます。
自社の管理職が、いわゆる「名ばかり管理職」の状態になっていないか、確認することをお勧めします。
なお、「管理監督者」であっても、深夜割増賃金、年次有給休暇の特例はないことに留意してください。
ノーワークノーペイの原則
企業は、労働の対価として賃金を支払います。(労働基準法第24条)
ノーワークノーペイの原則は、この定めに基づき、労働をしていない部分については賃金の支払い義務はないという、賃金支払いの基本原則になります。
この原則によると、遅刻や欠勤など労務提供をしていない時間は、この原則により賃金を支給する必要はありません。
実務上、このケースの場合は賃金を支給する必要があるかといった判断が必要なことが多々あります。
例えば、台風などの自然災害の場合、従業員に責任はないため、賃金は支給するということは考えられます。しかしながら、ノーワークノーペイの原則によれば、この場合でも賃金の支払い義務は生じませんが、不可抗力として有給扱いにするといった判断は企業の裁量になります。
このように、人事として労務的な判断を求められることがありますが、判断の拠り所として基本原則である「ノーワークノーペイの原則」を知っておく必要があります。
人事として知っておくべき労働基準法の内容を理解して、人事業務の理解を深めましょう!
労働基準法の目的や位置づけ、概要のほか、人事が知るべきポイントについて解説しました。
あらゆる人事業務において、労働基準法の概念や考え方などに基づいた判断を求められる場面が多々あります。
また、労働基準法は「月60時間を超える時間外労働の割増賃金は5割以上」というような例外が定められていることも多くありますので、労働基準法違反とならないように、実務上、しっかり確認する必要があります。法改正も頻繁に行われますので、法律の動向もしっかり押さえることが求められます。
人事にとって、労働基準法は避けて通ることのできない重要な法律ですので、本記事を参考に、人事として知っておくべき労働基準法のポイントを押さえ、人事業務の理解を深めましょう!