内々定・内定の定義とは?法的な観点でリスクや役割を専門家が解説

内定とは
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夏が終わり秋には多くの学生が企業から内定や内々定をうけます。この記事では、内定や内々定において採用担当者が知っておくべき基礎知識だけでなく、法的観点からの定義やリスクについてKKM法律事務所 代表弁護士 倉重公太朗氏にお話しいただきました。

また、こちらの資料では、内定者フォローや内定辞退の原因を解説しています。内定者が実際に入社するまでの間に「どんなフォローが必要になるのか」や「内定辞退の原因別の具体的なソリューション」を紹介しております。ぜひダウンロードしてご活用ください。

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内定とは?採用担当者が知っておくべき基礎知識

まずは、内定の定義を押さえておきましょう。採用担当者が知っておくべき基礎知識とあわせてご紹介します。

内定の定義

採用活動(就職活動)における内定とは、労働が始まる前の段階でありながら、採用が内々に決まることです。つまり内定は、企業にとっては「卒業後はあなたを当社が雇用する」、学生にとっては「卒業後は貴社で働く」と契約することです。

編集部

内定とは法的にどのような定義がされていますか?

倉重
弁護士

内定とは始期付解約権留保付の「雇用契約の成立」を意味します。新卒採用の場合は、労働の開始月を明記する始期付、かつ「卒業できなかった」など、契約解約の条件を書いた契約解約権留保がついた特殊な労働契約だと最高裁で定義されています。
いつから内定の契約が成立したかは、企業の採用プロセスによって変わります。内定を出すタイミング方法や、選考プロセスがどのように終了するかは、企業により異なっているからです。よって「内定式をしていないから内定ではない」「内定承諾書にサインがないから内定ではない」という一定の定義はありません。状況が成熟した段階にあり、実質的な契約が成立しているかを判断します。考慮する点としては、採用のプロセスが一定終わっているか、企業は学生さんの採用を決めているか、といった状況を見ます。

編集部

内定の役割は何ですか?法的な注意点もあわせて教えてください。

倉重
弁護士

日本の新卒採用の場合、基本的には学生さんのポテンシャルをみて卒業後に入社してくださいという「メンバーシップ型採用」を取り入れている企業が多いです。選考をおこなった時期から入社までに時間があるため、契約がないと「この学生は本当に入社するの?」という状態が続き、翌年の計画が立てられません。契約を取り決めることで、契約を前提とした翌年以降の計画が可能となります。学生にとっても契約があることで、入社の保証がされて安心な状態となります。
いわば、内定とは企業と学生の両者を守るための契約であり、労働契約がされている状態とみなされます。つまり、『内定を取り消す=解雇』と同じ扱いです。契約が成立されているということは、お互いを法律で拘束している状況なので、原則として内定を取り消すことはできないです。

内定と内々定の違い

編集部

内定と同様によく耳にする言葉で「内々定」があります。法的にはどのような定義がされていますか?

倉重
弁護士

内々定は法的に定義されているわけではありません。労働契約に至る直前の段階のことを内々定と言います。法的にみると内々定であれば労働契約は成立していないという判断にはなります。しかし内定と同様、内々定においても企業の採用プロセスによって内々定を出す方法や時期がが変わってくるので、「これをすれば内々定を出している事になる」という明確な線引きはありません。つまり、実態によって判断されるため「内々定を出した」と企業が考えていても、「これはもう内定に値する」と判断されるケースもあるのです。

内々定・内定の取り消しのリスクやルール

前述の通り、正当な理由なく内定を取り消すことはできません。ここでは、企業側が内定を取り消すリスクや取り消しを認められるケースについて解説します。

企業からの正当な理由があって内定の取り消しを行った場合でも、企業は以下のようなリスクを負うことになります。

  • 訴訟リスク
  • 企業イメージやブランド力の低下

企業からの一方的な内定取り消しは損害賠償請求などにつながるリスクがあります。やむを得ず内定を取り消す場合にも、「事前に十分な説明をして理解を得る」「他の就職先を紹介する」など、訴訟リスクを回避する措置を取ることが重要です。

また、近年ではSNSやインターネットを日常的に利用する内定者も多いため、内定取り消しによって自社についての悪い口コミ投稿が拡散されるリスクもあります。このような事態になれば、企業イメージやブランド力の低下につながりかねません。

たとえ正当な理由による内定取り消しでも、内定者に対して丁寧かつ誠意ある対応を心がけることが重要です。

編集部

内定を出した企業や内定を承諾した学生や企業は、原則的には取り消せないことがわかりました。正当な理由から、取り消すことが認められるケースは、どういったケースが考えられますか?

倉重
弁護士

学生側の事情としては卒業ができなかった、逮捕されたなどのケースがあります。企業側は、経営状態が大きく悪化してこのままでは倒産が不可避だといった時に認められるケースがあります。この場合、「内定を出した時点では状況が想定できなかったのか」が論点になるのです。
例えば、2020年の新型コロナウイルスの拡大がその一例です。当時、内定の取り消しが認められるケースがいくつかありました。ただし、そのケースでも新型コロナウイルスの影響を直接的に受ける業種に限ります。「なんとなく景気が悪化した」という場合は認められません。自社に直接どういった影響があるかをみられます。

編集部

内定と内々定において定義に差がありますが、内々定を取り消す場合のリスクを教えてください。

倉重
弁護士

内々定は内定とは違い、労働契約が成立していない段階にあるため、内々定を取り消した場合は「解雇」とみなされません。しかし、内々定は採用する学生さんをほぼ決定している状態ではあるため「期待権」が発生しています。内定と同様に、想定できない景気の悪化などがあったケースを除いての内々定取り消しは、期待権侵害とみなされ損害賠償を命じられた例も過去にあります。
基本的には内々定も内定と同じように、安易に取り消して良いものではありません。また、企業も学生も多くのプロセスを経て内々定に至っています。企業の一方的な都合で取り消すことで、法的な観点だけではなく信頼の大きな低下につながるリスクも考えるべきです。

まとめ

内定は労働が始まる前段階でありながら、法的な拘束力を持つ労働契約の一種です。そのため、採用担当者は正しい知識を知り、適切な方法で内定者への対応をする必要があります。また法的な観点だけでなく、さまざまなリスクを知り、学生と向き合う必要があるでしょう。

さいごに:倉重氏からのコメント

倉重
弁護士

採用というのは、学生と企業の両者が対等な関係でなければなりません。対等な関係だからこそ、誠意を持った対応をするべきだと考えています。その積み重ねが信頼に繋がります。法的に線引きされることだけを考えるのではなく、学生さんへ真摯に向き合う対応ができる企業が、今まさに「人手不足だ」と言われている世の中で求められているのではないでしょうか。

内定や内々定について、採用担当者が知っておくべき基礎知識や法的観点でのリスクについてご紹介しました。

とはいえ、実際に内定者とどう向き合っていくのか迷っている人事の方も多いのではないでしょうか。こちらの資料では、内定者フォローの具体的な手法や辞退防止のためのポイントなど、全般的なフォロー方法を紹介しております。ダウンロードして活用いただき、内定者フォロー施策の企画にご活用ください。

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倉重 公太朗氏

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。 代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice