リモートワークにおけるメンバーシップ型からジョブ型への移行ポイント
新型コロナウイルスの流行に伴う、政府の緊急事態宣言を受け、リモートワークに移行した企業が増えています。通常のオフィスでの業務と異なり、顔の見えない環境で業務遂行するにあたり、従来と同じ評価尺度で評価をすることが難しくなってきました。
そこで、人事評価制度を従来のメンバーシップ型からジョブ型へ移行する企業が増加しています。ここでは、移行にあたって、人事実務担当者が押さえておくべきポイントについて解説します。
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目次
リモートワークにおける業績評価
ジョブ型への移行を発表している企業
リモートワークにより、上司が部下の働きぶりについて、従来のように時間で測ることが難しくなってきました。一方、社員側も仕事の役割がクリアではないため、何が自分の仕事なのか、誰がどの仕事をしているのかが見えづらくなり、仕事のパフォーマンスが低下する一因にもなっています。
このような背景から、今までの評価尺度が適用しづらくなり、仕事を成果物や結果で評価しようとする企業が増えています。
日立製作所は、国内で働く16万人を含め世界中の従業員30万人をジョブ型の人事制度へ変更すると発表。資生堂も、来年1月から一般社員3800人をジョブ型の人事制度に移行します。
また、KDDIは、働いた時間ではなく成果や挑戦および能力を評価・称賛し、処遇へ反映することを目的とした、新人事制度を2020年8月から導入し、職務領域を明確化した「ジョブ型」人財マネジメントを導入しています。
そして、大きく話題になったのは、富士通です。国内のグループ会社を含めたオフィススペースを今後3年間で半減させる方針を打ち出しました。単身赴任を廃止し、同時に人事制度もこれまでの年功序列型から、業務内容を明確に定めた「ジョブ型雇用」に全社員を移行すると発表しています。
ジョブ型とは何か
「ジョブ型雇用」とは、仕事に人をつける働き方のことです。事前に勤務地、報酬、職務の内容などの労働条件を細かく定め、その内容を「職務記述書(Job Description)」と呼ぶ文書にまとめ、企業が労働者と合意して雇用契約を締結する雇用の形を意味します。
仕事の範囲が明確に決まっているため、ジョブディスクリプションに書かれている仕事以外は、原則に従えば遵守する必要がありません。仕事に人が割り当てられる契約であり、欧米では広く普及している雇用形態です。社員の年齢や勤続年数は関係なく、その人自身の実力・スキル・成果が重要視されます。
2019年の経団連による「1つの会社でキャリアを積んでいく日本型の雇用を見直すべき」という提言があったことをきっかけに、ジョブ型雇用は注目されるようになりました。
同年5月にも、トヨタ自動車の豊田章男社長から「終身雇用はもはや維持できない」旨の発言があり、合わせて大きく取り上げられました。2019年は日本の伝統的な雇用慣行が見直され、各社の人事施策に大きな影響を与えた年でした。背景には、国際競争力の低下や専門職の人手不足などがあります。
また、少子高齢化に伴う労働人口の確保に向け、多様な人材を登用する動きも活発です。そして、2020年コロナ禍でリモートワークが浸透し、ジョブ型雇用導入の動きに大きく拍車がかかっています。
メンバーシップ型とは何か
「メンバーシップ型雇用」は、人に仕事をつける働き方を意味します。仕事内容や勤務地に限定はなく、候補者の潜在能力や人柄を評価して採用する雇用の形です。
これは、日本企業が長きにわたり実施してきた、新卒一括採用型の雇用システムであり、終身雇用や年功序列などと深く関係しています。
企業の業績が右肩上がりで、人の成長と売上が順調に連動している高度経済成長期において、この雇用システムは重要な機能を果たしていました。
従業員の雇用を保証し、ジョブローテーションをしながら長期的な人材育成を図る代わりに、企業への忠誠心を醸成し、安定的な雇用の確保を実現していたわけです。業績を上げ続けて人が辞めない仕組みとして、欧米企業が真似しようとするほどのシステムでした。
ジョブ型を導入するときの注意点
本当に職務を定義できるか
前述したように、ジョブ型では、全ての職務について定義をする必要があります。具体的には、職務ごとにポジション名、ミッションと役割、必要な能力とスキル、必要な資格と経験、リポートラインなどを定義します。
日立製作所の場合、ジョブディスクリプションは300~400種類ほどになる見込みとなっており、人事側は全社員の業務を定義する相応の覚悟が必要です。加えて、会社内にジョブディスクリプションを書ける人はなかなかいないのが実情です。外部のコンサルタントに依頼する場合は、多額の費用がかかる上に、時間をかけて作成しているうちに組織が変わって仕事に変化が生じ、実態と合わないジョブディスクリプションになってしまったということもあり得ます。
そこで、職種別・階層別にジョブディスクリプションを詳細に作成することから始めるのではなく、まずは「階層ごとの普遍的なジョブディスクリプション」を定めるのがよいでしょう。例えば、部長のジョブディスクリプション、グループリーダーのジョブディスクリプションという切り分け方です。
人材流出のリスク
従業員が自身のスキル重視でキャリア開発するため、優秀な社員ほどキャリアップのために他社へ流出する可能性が高くなります。せっかく、時間とお金をかけて育成したのに辞めてしまう、社内に残るのは市場価値の低い人材のみ、という結果にもなりかねません。
優秀な人材に長く活躍してもらうための施策もセットで考えることになるでしょう。従来のリテンション施策を強化してもよいと思います。また、中途採用の費用は増加することを想定し、全体の予算計画を立てる必要があります。
会社都合による異動や転勤が実施できない
勤務地や職務範囲が定められているため、急ぎの欠員補充や人材育成のニーズが社内で発生しても、異動や転勤を従業員に命じることができません。
従業員の急病や急な退職などで欠員が出た場合は、代替要員を確保できるまで仕事が止まってしまうリスクがあります。この人が異動になるからあの部署から人を持ってきて、というような玉突き人事をしている企業は要注意です。
リモートワークでは「仕事がなくなる人」が出てくる
リモートワークでジョブ型を適用すると、従来なんとなく会社に来ているが仕事をしない人というのがあぶりだされます。極端な例を挙げると、毎日出社して資料を見てハンコを押していた人はやることがなくなるのです。
また、その人たちのために職域開発も必要になり、更に新たなジョブディスクリプションを定義する必要があります。
ジョブ型への転換は事業モデル転換とセット
日立製作所の事例
戦略人事の視点からも、人事制度変更は、事業レベルに視座を上げて取り組む必要があります。日立製作所CHRO(最高人事責任者)中畑英信氏は、Business Insider Japanの取材に対し、下記のコメントをしました。
「人事政策は事業そのものです。かつての電機メーカーから舵を切り、今の日立はグローバルで社会イノベーション事業を行うサービス事業会社。グローバルのマーケットを知っている必要がある。外国人、女性など人材の多様性こそが必要で、日本固有のメンバーシップ型を続けることは無理がありました。
ビジネスの主軸を国内市場から海外市場へとシフトし、現在、日立の売上高の半分は海外が占めています。そして、社員30万人中14万人が海外人材です。日本の伝統的な電機メーカーからビジネスモデル転換を図り、それを発展させるために、ジョブ型導入に至ったとみることができるでしょう。
富士通の事例
富士通の場合は、デジタルトランスフォーメーション(DX)と深く関係があります。DXとは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのも のや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」です。富士通は、リモートワーク化に伴うオフィススペースの削減、オンライン研修の拡充、単身赴任の見直しなど、様々な改革を行っています。
執行役員常務総務・人事本部長平松浩樹氏はITmedia ビジネスオンラインの取材に対して次のようにコメントしました。
「時田社長が就任してからのこの1年間で「ジョブ型」導入をはじめ社内の改革を打ち出してきた。あとはこれを実践して、顧客にも提供できるようにならなければ本当の意味でのDX企業とはいえない。今後1、2年で新しい制度を実行して課題を解決し、会社を変えていきたい」
富士通自体が、デジタルトランスフォーメーションを体現し、顧客にそれを提供する企業であることの決意表明として、ジョブ型導入は覚悟を持った施策だといえるのではないでしょうか。
メンバーシップ型のメリットを忘れずに
ジョブ型への移行は人事戦略である
リモートワークにおける、メンバーシップ型からジョブ型への移行ポイントについて、ジョブ型のメリット、メンバーシップ型のメリットを踏まえまとめました。
世間はジョブ型導入がブームですが、終身雇用を前提としたメンバーシップ型雇用には、長期的な人材育成や雇用の安定による社員のエンゲージメント向上などメリットも多くあります。
ジョブ型導入時は、日立や富士通の例のように、自社の事業戦略に連動させ、人事戦略に落とし込んだ議論を重ねていく必要があります。相応の覚悟を持って、移行を進めるようにして下さい。
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