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新卒一括採用はどう変わる?その行方は。

日本企業の新卒学生採用活動には、100年以上の歴史を持つ「新卒一括採用ルール」があり、多くの企業(経団連加盟の大手企業中心)はこのルールを遵守した採用活動を行ってきました。

しかし、度重なるルール変更の混乱やルール自体の形骸化に業を煮やした経団連会長である中西宏明氏が、2018年9月3日の会見で、「2021年入社の学生に対する採用活動から当ルール(採用選考に関する指針)を廃止する」と述べたことで、「新卒一括採用はなくなる?」といった噂が飛び交うなど新卒採用市場に波紋が広がっています。

本稿では、日本の新卒採用市場で「新卒一括採用」が定着・継続している理由、そのメリット・デメリット、今後予想される展開、海外の新卒採用事情との比較などを解説します。

※本稿は企業・団体のHR(人事)領域に関する調査・研究機関であるHR総研監修のもと作成しております。
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|日本で新卒一括採用が行われてきた理由は?

新卒一括採用とは、日本独自の雇用システムであり、企業が学生に対して、限られた期間内で一斉に選考し、卒業後の4月に一括して採用を行うことです。

新卒一括採用の成り立ちを紐解けば、1893(明治26)年、各省庁が数少ない帝大卒業生を採用するため、優秀な学生を卒業と同時に下級官吏として採用(当時は7月卒業)したことが事実上の新卒一括採用のスタートといわれています。

本章では、新卒一括採用が連綿と継続されているのはなぜか?また、新卒採用の海外と日本との違いを解説します。
 

○新卒一括採用が継続されている理由は、日本独自の「終身雇用」と「年功序列」の慣習・制度と関係。

新卒一括採用は、「終身雇用」と「年功序列」という日本特有の2つの雇用文化と深く関係しています。高度経済成長期の人手不足の中、企業は自社のなかに人材を囲い込み、長期・安定的に均一な労働力を確保するために、しっかり教育し定年まで面倒を見るという、終身雇用・年功序列を前提としたキャリアプランを新卒一括採用した学生に提供する雇用システムを生み出しました。

実務経験・職務スキルもなく採用された学生は、安定した給与と自己の成長を保証してもらうことで、ライフプランが立てやすく、さらに会社への帰属意識を高められる相乗効果が生まれたのです。

このように、日本では「新卒一括採用」「終身雇用」「年功序列」がうまく機能し、企業と労働者との良好な関係が成立したことで、新卒一括採用が現在も継続しているといえます。
 

○新卒採用の海外と日本との違いを理解する

新卒一括採用は、日本独自の雇用文化に起因すると述べましたが、海外の新卒採用事情はどのようなものか、紹介しましょう。

・アメリカ
企業は、ポストが空いたら募集をかける、通年キャリア採用を採っています。新卒での正社員採用は、一部のエリート大学の優秀層を除き、まずありません。新卒でも専門性の高い知識と実務経験があることを求められるため、在学中もしくは卒業後、インターンシップを経験し(受けて)、実務経験を積まないと高学歴でも採用されません。

・ドイツ
学生は卒業後から就職活動を行い、1~2年間の期限付き雇用契約(インターンシップ)で就業し、そこで認められれば正式に採用されます。インターンシップ就業は、大学でインターンシップ職務に必要な(関連した)専攻を修めていることが必須となっています。

・フランス
スタージュというインターンシップ制度が充実しており、ここで職務経験を積んでから就職します。8割近い学生が2回以上のインターンシップを経験し、その期間は平均14カ月といわれます。しかし、インターンシップを経験しても期限付き雇用契約になるのがほとんどといわれます。

・韓国
日本と同様に新卒一括採用が行われています。ただし、日本のように年1回の機会に集中するのではなく、上期・下期で分割して採用する企業もあります。
 

|新卒一括採用のメリットとデメリットを理解する

本章では、新卒一括採用を行うにあたってのメリットとデメリットを、企業側と学生側の視点に分けて解説します。
 

○新卒一括採用の企業側のメリットとデメリット

<メリット>

① 多くの学生に一斉にアプローチできる
競合他社ともほぼ横並びで一斉に採用活動をスタートできるため、綿密な採用戦略と採用活動を行う採用力があれば、中小企業でも活躍が期待できる人材を獲得できます。

② 採用活動に必要なリソースを最小限に抑えられる
採用活動の時期が決まっていることで、人事部や採用担当の負担を抑えられます。

③ 社員の教育・研修コストを低減
新入社員が同時期に入社するため、研修や教育を一括で行い教育・研修コストを抑えることができます。中長期的な教育を行い、将来的に活躍する人材を育てることが可能です。他社の価値観に染まっていない状態で、自社の価値観や文化を植え付けることができます。

④ 採用ノウハウが蓄積しやすい
採用プロセスの推移が明確になり、採用活動の定量的分析・評価ができます。各プロセスの課題抽出・改善策の策定がしやすく、PDCAでノウハウの蓄積、レベルアップが可能です。

<デメリット>

① 転職市場が発展せず、中途採用で活躍が期待できる人材を採用できない
日本では、年功序列や退職金制度の浸透から、転職することがキャリア形成にマイナスの意識が強く、転職市場が海外ほど活性化しない状況がありました。しかし、最近は転職支援サイトの充実、人材紹介やリファラル採用の台頭、また転職すること自体への意識の変化などから転職市場は以前と比べると活性化してきたといえます。

② 学生との出会いの機会が減る
ある特定の時期に集中して選考を行う場合、そのタイミングでの選考に応募できなかった学生とは出会う機会がなくなります。海外留学をしていた学生のほか、教育実習期間と被っている教職との掛け持ち受験の学生、卒業研究や学会発表のために時間が割きづらい理系学生、病気・ケガで療養していた学生、さらには就職活動をする中で遅れて業界や企業に興味を持った学生などです。

③短期間に選考が集中し、一人ひとりに時間が割けない
選考を短期間で実施するためには、エントリーシートを読み込む時間、一人の学生にかけられる面接時間、さらには志望度を上げるためのフォローにかけられる時間などに制約が生まれます。大学レベルや適性検査の結果だけで機械的に振るい落とす選考になりがちで、結果的に優秀な学生を見落とすリスクをはらんでいます。
 

○新卒一括採用の学生側のメリットとデメリット

<メリット>

① 大企業に入社できる可能性が高い
第二新卒や就職浪人の学生は既卒扱いされ、新卒一括採用枠に入らない、いわゆる「新卒カード」といわれるもので、新卒時が大企業に入社できる最大のチャンスとなります。中途採用では、新卒の募集より募集数が少ない傾向があり、また募集時期も不定期になります。そのため、新卒一括採用における一定数の募集は大企業に入社したい応募者にとって入社可能性が高くなります。

② 経験・スキルを問われない(ポテンシャル採用)
入社後の教育・研修で育てるという新卒一括採用(ポテンシャル採用)の性質上、入社時の実務経験やスキルの有無を問われない有利さがあります。

③ 長期的な人生設計が立てやすい
終身雇用、年功序列賃金を前提に、定年までのキャリアプランを描きやすくなります。

<デメリット>

① 仕事とは関係ない部分で判断される?
ポテンシャル採用のメリットの裏返しといえますが、経験・スキルよりも、性格や協調性など組織運営に影響する別の側面が選考基準となる場合が少なくありません。また、同じリクルートスーツで就職活動に臨むため、横並びで画一的、個性を出せないという不満を感じる学生もいます。

② 就職活動の長期化は心身の負担が大きく、学業に影響
3年時のインターンシップから始まる現在の就職活動は、内定獲得まで長ければ2年近くを要し、就職活動期間中の心身の負担が大きくなり、学業にも影響する場合があります。

③ 失敗できないプレッシャーが大きい
新卒一括採用では、既卒、第二新卒は募集対象としない企業が少なくありません。新卒カードを失うと次のチャンスはないというプレッシャーが重くのしかかります。また、新卒時に正社員で就職できなかった場合、その後も正社員での就職が難しくなる傾向があります。

④  新卒一括採用のスケジュールに合わせられないと応募の機会を逃す
例えば海外留学の場合、就職活動に参加できなかったり、卒業時期が4月入社と合わなかったりします。病気やケガで就職活動できないケースも同様です。
 

|いま話題に挙がることが多いように、新卒一括採用は廃止されるのか?

本章では、いま話題に挙がっている新卒一括採用廃止とこれからの採用活動の在り方について解説していきます。
 

○近年の新卒一括採用の問題点とは

そもそも新卒採用に関するルールは、あくまで経団連によって策定された「採用選考に関する指針」です。いわゆる紳士協定で罰則規定はないため、外資系や一部の企業では独自のスケジュールで採用活動が行われてきました。

現在の「採用選考活動開始時期」は、経団連の「採用選考に関する指針」を踏襲しており、3月1日説明会解禁、6月1日選考解禁、10月1日内定解禁で落ち着いています。しかし、人材を確保したい企業は、他社に先を越されまいと選考の時期を早め、新卒一括採用ルールはほとんど形骸化しています。

こうした問題点が背景となり、新卒一括採用廃止という話題が持ち上がってきています。
 

○現時点で新卒一括採用はなくならない

労働人口の減少、グローバル化、IT化が進む現在、新卒一括採用と関連の深い「終身雇用」「年功序列」の雇用文化が崩れ始めているといってもいいでしょう。経済の安定成長が見込めない状況では、終身雇用や年功昇給を維持するのは難しくなっています。

なかには一部のIT ・ベンチャー企業などのように、終身雇用・年功序列を前提として採用しない企業も出現しています。キャリアアップのため数年で転職したり、起業・独立したりするなど、活躍が期待できる人材ほど同じ会社で長期間勤務するケースは減る傾向が見られます。

このような労働環境の変化の下、新卒一括採用廃止の論議も相まって、新卒一括採用と通年採用を天秤にかけている企業も多いでしょう。しかし、新卒一括採用が定着・機能して一定数の新卒を毎年確保できているため、わざわざ変える必要はないとする企業も多く存在します。

また、採用が通年化・常時化した場合、採用活動コストや教育コストが増大し、培った採用手法自体を変えなくてはならないと危惧する企業もあるでしょう。ゆえに、仮に新卒一括採用の廃止といった指針が出たとしても、横並びで一斉に通年採用に切り替わることはないと考えられます。
 

○これからの新卒採用は、ハイブリッド化?

そこで考えられるのが、新卒一括採用と通年採用のハイブリッド化です。例年採用している新卒のボリュームゾーンは新卒一括採用を踏襲し、これまでの新卒一括採用スケジュールに乗ってこなかった留学生や特定技能を持った技術者には通年採用を適用して門戸を開くといった施策です。

ちなみに、通年採用は「新卒・中途にかかわらず、その時の必要性に応じて自由に採用活動を実施すること」であり、必ずしも新卒採用にかぎった言葉ではありません。

新卒一括採用、通年採用またはハイブリッドにするのかは、企業それぞれの自由裁量となります。自社の経営計画、採用方針に鑑み、コスト・人的資源などを考慮して採用戦略を立てていくことが大切です。
 

|まとめ

本稿では、日本の新卒採用市場で「新卒一括採用」が定着・継続している理由、そのメリット・デメリット、今後予想される展開などを解説してきました。日本特有の雇用文化、「終身雇用」「年功序列」に新卒一括採用は強く紐づいていることがお分かりいただけたと思います。

連綿と続いてきた新卒一括採用にはメリットもデメリットも存在します。また、新卒一括採用の廃止論など、時代の変化に呼応した採用の在り方自体の変革も求められています。

「新卒一括採用」を継続するか、「通年採用」にシフトするのか、いいとこ取りでハイブリッド化するのか、すぐに答えの出るテーマではありませんが、企業にとって満足のいく採用、学生にとっても負担のないメリットの多い就職活動になるように、本稿が今後の新卒採用戦略の参考になれば幸いです。

※本稿は企業・団体のHR(人事)領域に関する調査・研究機関であるHR総研監修のもと作成しております。
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2021年2月22日公開