ジョブローテーションのメリット・デメリットは?導入手順・事例や注意点を解説
社員の人材育成の場面において、多くの企業が取り入れている「ジョブローテーション」。
自社にもジョブローテーションを導入すべきかどうか、検討している人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では、ジョブローテーションの意味や目的、企業側と社員側それぞれのジョブローテーションのメリット・デメリットについて解説します。
さらに、ジョブローテーション導入に向いている企業と向いていない企業の違いや、ジョブローテーション導入の成功事例と失敗事例を紹介します。
目次
ジョブローテーションとはなに?
ジョブローテーションとは何なのか、その意味や目的について紹介します。
ジョブローテーションとは?
ジョブローテーションとは、社員の職場や職務を変更することをいいます。社員のスキルアップにより、カバーできる職務範囲の広域化がジョブローテーションの狙いです。
ジョブローテーションの実施状況
労働政策研究・研修機構の調査によると、53.1%の企業がジョブローテーションを導入しており、正社員の人数が多い企業ほど、導入割合は高くなる傾向にあります。
また、1つの部門に所属する期間は「3年」が27.9%と最も多く、次いで「5年」が18.8%でした。このことから、3~5年で人事異動を行う企業が多いといえそうです。
では、実施される側(社員側)の意見も見ておきましょう。キャリア支援会社が20〜30代の転職希望者男女に実施したアンケートでは、約80%の人がジョブローテーション制度を好意的に捉えています。このことから、若年層においてはジョブローテーション制度を受け入れてもらえる可能性が高いことが示唆されている状況です。
ジョブローテーションの目的は?
ジョブローテーションには、主に以下4つの目的があります。
- 社員の能力開発・マルチスキル化
- 適切な人材配置の判断材料
- 社員同士の交流促進
- 管理職の養成
目的をしっかり把握することで、自社に必要かどうか判断しやすくなります。導入を検討している担当者の方は、それぞれチェックしてみてください。
社員の能力開発・マルチスキル化
ジョブローテーションを導入すると、定期的に部署間をまたぐ人事異動を行うので、社員にさまざまな部署や職種を経験してもらう機会を提供できます。社員からすれば、新しいことや苦手なことにチャレンジすることもあるでしょう。1つの部署に長く所属するよりも視野が広がり、社員1人ひとりの能力開発・マルチスキル化が可能になります。
適切な人材配置の判断材料
社員にさまざまな部署や職種を体験してもらうことで、社員の適性が見極められ、適切な人材配置を実現しやすくなります。特に、新入社員は実績がなく、どの部署が合っているのかを判断するのは困難です。ジョブローテーションを実施し、それぞれの部署での経験・実績を評価することで、適切な人事配置が可能になります。
社員同士の交流促進
ジョブローテーションはさまざまな部署の社員との関わりを促すきっかけにもなります。プロジェクトによっては、複数の部署が連携するものもあるものですが、ジョブローテーションを行うことで部署間の連携が取りやすくなり、プロジェクトをスムーズに進行できます。社員同士の交流が促進されると、社内に一体感が生まれるので、生産性の向上も期待できるでしょう。
管理職の養成
管理職の養成を目的に実施される場合もあります。管理職の養成を目的に実施される場合もあります。管理職になれば、他部署と連携・調整しながら仕事を進めなければならないケースも多く、特定の部署だけでなくさまざまな部署の仕事の進め方や実情を理解していなければなりません。ジョブローテーションで社員に複数の部署を順番に経験してもらえば、社内の状況を俯瞰的に見るという管理職に必要な素養を育むことにつながります。
企業・社員におけるジョブローテーションのメリット
ジョブローテーションに関して、企業側及び社員側から見たそれぞれのメリットを紹介します。
企業におけるジョブローテーションのメリット
ジョブローテーションに関して、企業側から見たメリットは、以下の3つです。
- 部署間の関係性の良好化
- 社員配置における適性判断の材料になる
- 管理職の養成後の能力発揮につながる
以下順を追ってご紹介します。
企業のメリット①部署間の関係性の良好化
社員がさまざまな部署とつながりを持つことにより、部署間の関係性の良好化が期待できます。
関係性の良好化により、ストレスの少ない安心した職場環境で業務に当たることが可能となります。関係性が築けていないことでの緊張などによるミスが減り、他部署であってもチームとしての結束が高まることで、連携や進行がスムーズに行くようになり生産性の向上にも繋がります。
企業のメリット②社員配置における適正判断の材料になる
1人の社員がさまざまな部署での経験を積むことで、業務ごとの得意・不得意がわかるようになります。そのため、社員を適材適所でポジションに配置するための良い判断材料となります。
社員個人の能力や個性によってふさわしい業務を与えることで、業務精度や効率、モチベーションの向上に繋がり、より効果的な成果を上げることができるでしょう。
さらに、不得意な仕事は社員がプレッシャーやストレスを感じやすくなり、成果が上がらないことにより業務への不満もたまります。そういったネガティブな状況をさけることにも効果的です。
企業のメリット③管理職の養成後の能力発揮につながる
社員を管理職員として養成したい場合にジョブローテーションを取り入れることが養成後の能力発揮に繋がります。
様々な業務を経験することで特定の業務への理解が深まり、管理職として全体を見回し業務がより回りやすくなるような仕組みづくりをすることができます。
社員におけるジョブローテーションのメリット
ジョブローテーションに関して、社員側から見たメリットは、以下の3つとなります。
- さまざまな経験を積むことで視野が広がる
- マルチなスキルを手に入れられる
- 希望の職場への異動がモチベーションアップに繋がる
以下順を追って紹介します。
社員のメリット①さまざまな経験を積むことで視野が広がる
社員が、今まで自分が行っていた業務だけでなく、全体の業務内容の把握をすることで、全体の流れを汲んで業務遂行できるようになり、広い視野を持って動けるようになります。
社員のメリット②マルチなスキルを手に入れられる
さまざまな部署を経験することで、多種多様な経験を積むことができます。営業、制作、事務、など異なったスキルが必要な部署を経験することで、どの部署の業務にも対応できるマルチプレイヤーになることができます。
社員のメリット③希望の職場への異動がモチベーションアップに繋がる
社員の希望した部署への異動の場合、社員のモチベーションが上がり、仕事へのモチベーションアップにつながり生産性の向上も期待できます。
企業・社員におけるジョブローテーションのデメリット
ジョブローテーションに関して、企業側及び社員側から見たそれぞれのデメリットを紹介します。
企業におけるジョブローテーションのデメリット
ジョブローテーションに関して、企業側から見たデメリットは、以下の3つとなります。
- 教育コストの増加
- スペシャリストの育成が難しい
- 社員異動直後の生産性の低下
以下順を追って紹介します。
企業のデメリット①教育コストの増加
異動してきた社員に対して、その都度教育をしなくてはいけないため、時間的にも人員的にも費やすコストが大きいことが予想されます。
企業のデメリット②スペシャリストの育成が難しい
ジョブローテーションをすることで幅広いスキルの習得につながる反面、1つの業務にかける時間も減り、専門スキルに特化した人材(スペシャリスト)の育成が難しくなります。
企業のデメリット③社員異動直後の生産性の低下
異動直後は社員にとって初めての業務や新しい環境になるため、業務や環境に慣れるまでの間、生産性が低下することが想定されます。
社員におけるジョブローテーションのデメリット
ジョブローテーションに関して、社員側から見たデメリットは、以下の3つとなります。
- 専門性が身につかない可能性がある
- キャリアが中途半端になる可能性がある
- 望まない異動によるモチベーションの低下
以下順を追って紹介します。
社員のデメリット①専門性が身につかない可能性がある
特定の業務の専門性を身につけるために必要な期間業務に当たれない場合、専門性が身につかずローテーションが終了してしまう可能性があります。
結果、専門性を身に付けられないままローテーション後の業務に当たることとなり、社員の優れた能力開発や生産性の向上などの、期待していた効果が得られないことも考えられます。
社員のデメリット②キャリアが中途半端になる可能性
専門性が身につかず社員のキャリアが中途半端となり、結果的に社内で評価されない可能性があるため、社員の不満につながる可能性があります。
中途半端なキャリアは再就職の際にも評価されないため、将来的に転職が考えられる職員にとっては大きなデメリットとなりえます。
社員のデメリット③望まない異動によるモチベーションの低下
社員の希望に関係なく、ジョブローテーション期間中は業務を行わなくてはならないため、望まない部署へ異動した社員は、モチベーション低下の可能性があります。
特に、望まない異動のあった該当社員に関して、前述したような「キャリアが中途半端になって社内に評価されない」などの事態が起きてしまうことで、ジョブローテーション後に大幅なモチベーションの低下も考えられるので注意が必要です。
ジョブローテーションが向いている企業・向かない企業
ジョブローテーション導入に向いている企業と向いていない企業にはどのような違いがあるのでしょうか。それぞれの企業について特徴を紹介します。
ジョブローテーションが向いている企業
ジョブローテーション導入が向いている企業の特徴は以下のとおりです。
- 複数業務が連動している企業
- 社員が幅広い知識を持つことが業務の効率化につながる企業
- 幹部候補社員を育成したい企業
- 新卒採用が多い企業
- 育成に対する時間・人員・費用に余裕のある企業
- 業務内容をマニュアル化できている企業
ジョブローテーションによって、さまざまな部署での経験を積めるため、他部署に渡って業務が連動している企業や、幅広い知識が業務の効率化に繋がる企業、経験豊富な幹部候補社員を育成したい企業、新卒採用の多い企業に向いています。
ただし、ジョブローテーションは異動がある毎に業務内容を教えなければなりません。
そのため、社員の育成に時間・人員・費用をかけることができる企業や、業務内容をマニュアル化できている企業でないと、ジョブローテーションを取り入れることは難しいでしょう。
また、ジョブローテーションによって望んでいない部署に配属された社員のモチベーションが低下し、退職率がアップする可能性も考えられます。
ジョブローテーションが向かない企業
ジョブローテーション導入が向いていない企業の特徴は以下のとおりです。
- 専門性が高く、スキルの習得に時間がかかる職種の企業
- 新卒採用が少なく、中途採用が多い企業
- 人員が限られ教育リソースが少ない中小企業
- 長期プロジェクトに携わっている企業
- 部署ごとに待遇に差がある企業
専門性の高い職種の場合、他部署から異動してきても、技術などの習得に時間がかかるため、ジョブローテーションを取り入れるには向いていません。
また、専門職で採用した中途採用の多い企業も向いていないといえます。
ジョブローテーションを取り入れた場合、社員が異動のたびに業務の説明をしなければならないため、時間や教育コストなどがかかります。そのため、社員育成に力を割けない中小企業にはジョブローテーションは向いていません。
さらに、長期プロジェクトを請け負っている企業の場合、途中で異動があると、業務に大きな支障をきたす可能性もあります。
また、部署ごとに待遇に差がある企業の場合、異動によって待遇の差に不満を持つ社員も現れる可能性があるため、ジョブローテーションは取り入れないほうが良いでしょう。
ジョブローテーションを導入する手順
ジョブローテーションを導入する手順は以下のとおりです。
- 目的の明確化
- 対象社員の選定
- 対象社員への通知
- 実施とフォロー
ポイントを踏まえながら解説するので、効果的なものにするためにも参考にしてみてください。
1.目的の明確化
先述したとおり、ジョブローテーションの主な目的には「社員の能力開発・マルチスキル化」「適切な人材配置の判断材料」「社員同士の交流促進」「管理職の養成」などがあります。複数の目的であっても問題はありませんが、優先順位は付けておくべきです。
目的が定まっていないと、対象社員の選定を誤ったり、サポート体制が不十分だったりする恐れがあります。ジョブローテーションの効果を引き出すには、何のために行うのかを確認しておくことが大切です。
2.対象社員の選定
ジョブローテーションは一部の社員を対象に実施するため、まずは社員の選定が必須です。選定する際は、年齢や職務経歴を考慮し、社内の人事データと照らし合わせながら行いましょう。一般的には、新入社員や幹部候補の社員を対象にするケースが多いようです。
3.対象社員への通知
対象社員にジョブローテーションの実施を通知します。通知する際は、配属先や実施期間だけでなく、ジョブローテーションを行う目的や目標も伝えましょう。会社側にどのような意図があるのかが不透明なままだと、対象者は不安や不信感を抱いてしまう恐れがあります。不安を解消し、モチベーションを上げるためにも、「人員整理が目的でなく幹部候補を養成するため」といった理由を丁寧に説明することが大切です。
4.実施とフォロー
対象社員の了承を得て、配属先の準備が整ったらジョブローテーションを実施します。この時にポイントになるのが対象社員のフォローです。対象社員とは定期的に面談を行い、目標の進捗状況や社員のモチベーションを確認しましょう。ここを放置してしまうと離職につながる恐れもあるため、「新部署に移ることで人間関係の悩みがないか」「異動により業務内容が大きく変わることでトラブルはないか」などをヒアリングするなど、細やかなフォローを心がけなければなりません。
ジョブローテーションの成功事例と失敗事例の特徴
ジョブローテーションの事例について、成功事例と失敗事例を紹介します。
ジョブローテーション成功事例
ジョブローテーションの成功事例として、ヤマト運輸と三井ホームを紹介します。
成功事例①ヤマト運輸
ヤマト運輸は、新入社員を対象にジョブローテーションを実施しています。
新入社員は入社後2年間に、配送物の集配・配送サポート、営業など現場での実務を経験します。
それにより自分の行っている業務の位置づけを理解し、全体の流れを把握することが可能となりました。
成功事例②三井ホーム
三井ホームは、総合職採用の社員を対象に、積極的にジョブローテーションを活用している企業です。
営業担当、社内設計、設計担当、工事担当、本社技術スタッフ、本社事務スタッフなど家づくりに関わるあらゆる業務を社員が経験することで、家づくり全体でのプロフェッショナルの育成を図っています。
ジョブローテーションにより、社員個人のスキルアップだけでなく、部署ごとの連携がスムーズになり、部署間連携が必要な大きなプロジェクトにも役立っています。
ジョブローテーション失敗事例の特徴
ジョブローテーションでは異動先の部署で業務が進めづらい、コミュニケーションが円滑に取れないなどの問題が発生することもあります。
そういった失敗をしてしまう事例の特長としては、異動する社員が、異動先の部署や業務が未経験であるにも関わらず、事前に業務知識・経験・信頼関係の構築などが準備できていない場合は、失敗してしまう事例が多くなります。
そういった失敗をおこさない為にも、異動する社員に対して異動前から業務知識を共有、事前トレーニングの時間を設ける、異動先社員との事前のアイスブレイクを行うなどで失敗のリスクを回避する必要があります。
ジョブローテーションで失敗しないための注意点
ジョブローテーションを実施する際は、以下3つの注意点を覚えておきましょう。
- 目的やミッションを共有する
- 受入体制を整える
- 社員の意見を取り入れる
失敗を防ぐためにも重要なポイントです。それぞれチェックしてみてください。
目的やミッションを共有する
ジョブローテーションを実施する目的や、目標達成のためのミッションは対象社員・現場・人事担当者で共有しておきましょう。共有されていないと何のために実施しているのかが分からず、意味のないものになる恐れがあります。
また、共有しておくことで、現場でもフォロー・教育しやすくなり、対象社員が1人で悩みを抱えることを防げます。
受入体制を整える
ジョブローテーションでは、一般的に数年に1回の頻度で人事異動を行います。対象社員にとっては慣れてきた頃に新しい部署へ配属されることが多く、大きな負担になりやすいものです。スムーズに馴染めるようにするためにも、業務マニュアルを準備したり社員同士がフォローできる環境を整えたりすることが大切です。
社員の意見を取り入れる
社員によっては、「専門性を身につけたい」「違う教育方法を取り入れてほしい」という場合もあります。特に、今は転職が当たり前になりつつあるので、複数の部署で経験を積むよりも、1つの部署で専門性を身につけたほうがよいと考える社員もいるでしょう。そのようななか、社員の意見を聞かずにジョブローテーションを実施すれば、かえってモチベーション低下や離職を招いてしまう恐れがあります。
独善的なものにならないよう、アンケートや人事面談を定期的に行い、社員の意見を取り入れることが大切です。
ジョブローテーションを取り入れて人材を育成しましょう
ジョブローテーションについて、目的やメリット・デメリット、導入に向いている企業と向いていない企業、導入事例などを紹介しました。
重要なことは、ジョブローテーションにおける企業側と社員側のメリット・デメリットを良く理解した上で、対象社員の選定や時間的に余裕のあるジョブローテーションの導入を図ることです。
ジョブローテーションに関して、慎重に自社に合った導入方法を検討し、企業にとって必要な人材育成を図りましょう。
最新の学生・企業の市場動向を知りたい採用担当者の方は、こちらの資料もご覧ください。今後の採用活動に役立てていただけたら幸いです。