時間外手当・残業手当とは?両者の違いや正しい計算方法を解説!
「自社の残業代に関する計算方法って適切なのかな」と感じている人事担当者の方。
残業による長時間労働やサービス残業を従業員にさせるブラック企業が、大きな社会問題となりました。これを受けて労働基準法が改正され、上限規制が設けられるなど、残業に関わる規定が変更になるほどです。
そのため人事担当者は、残業する社員に適切な残業代が支払われるように、時間外手当や残業手当についてしっかりと理解する必要があります。
とはいえ、時間外手当や残業手当の違いはわかりにくいですよね。そこで今回は、残業の定義についての理解を深め、残業手当の計算方法などについて紹介します。
- 残業について基本的な理解ができる。
- その上で、時間外手当と残業手当の違いを理解できる。
- 違法な残業にならないためのポイントが理解できる
目次
残業についての理解を深めよう
まず残業の定義や種類について説明します。
残業とはなに?
そもそも残業とは、決められた労働時間を超えて働くことです。決められた労働時間とは、就業規則で定められた始業時間から就業時間まで(休憩時間は除く)のことで、これを「所定労働時間」といいます。
所定労働時間は会社独自で決められています。しかし、労働基準法で定められた「1日につき8時間以上労働させてはならない(休憩時間は除く)、1週間につき40時間以上労働させてはならない」という「法定労働時間」以内にしなければなりません。
残業の種類は?
残業には「法内残業(法定内残業)」と「法外残業(法定外残業)」の2種類があります。
法内残業(法定内残業)
法内残業(法定内残業)とは就業規則で決められた所定労働時間を越えて、労働基準法で定められた法定労働時間の範囲で行われた残業のことです。法内残業に対しては、通常の所定賃金が支払われます。
法外残業(法定外残業)
法外残業(法定外残業)は、労働基準法で定められた法定労働時間を超えて行われた残業のことです。法外残業に対しては、「会社は法定労働時間を超えて残業をさせた場合、労働者に割増賃金を支払う義務が発生する」と法律で定められています。その割増賃金とは、1時間あたりの賃金を25%割増しした金額です。
さらに大企業では時間外労働が60時間を超える場合には、50%以上の割増しをしなければなりません。現在、中小企業においては60時間以上の割増しは猶予されています。しかし、2023年4月には猶予措置が廃止されて、中小企業でも月に60時間を超える時間外労働については50%の割増しとなる予定です。
法内残業と法外残業の違い
次に法内残業と法外残業の違いについて、例を挙げながら解説します。
例)午前9時から午後5時までの勤務で、休憩時間が1時間ある場合は、会社が定めた所定労働時間は1日7時間です。
このケースで、午後8時まで「残業」を行った場合には、午後5時から午後6時までの1時間は、所定労働時間を超えて、法定労働時間の範囲内で行われた「法内残業(法定内残業)」となります。
午後6時から午後8時までの2時間は、1日8時間の法定労働時間を超えているので「法外残業(法定外残業)」となり、割増賃金を支払わなければなりません。
特殊な残業基準が用いられる労働形態
働き方改革が進められるなかで、みなし残業や変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制、年棒制などの労働形態が増えてきました。このようなケースでは、通常の労働時間制度とは異なる残業時間の計算が必要です。
時間外手当、残業手当とはなに?
残業で働いた時間に対しては残業手当が支給されます。この残業手当と似ている言葉で「時間外手当」があります。
以下表では、時間外手当と残業手当の違いを表していますので参考にしてください。
時間外手当とは?
「時間外手当」とは、労働基準法に定められた法定労働時間を超えて労働したこと(法外残業)に対して、支払われる割増しされた賃金のことです。通常の賃金から25%割増しして計算されます。
残業手当とは?
「残業手当」とは、会社の就業規則などによって決められている所定労働時間を超えて働いた場合、または法定労働時間を超えた場合に対して支払われる賃金のこと。会社によっては、「残業手当・時間外手当・超過勤務手当」など、さまざまな呼び方をされています。
時間外手当と残業手当との違いは?
「時間外手当」は法外残業に対して支払われる割増賃金であるのに対して、「残業手当」は法内残業に対して支払われる所定賃金と、法外残業に対して支払われる割増賃金が含まれる手当です。
雇用体系によって残業手当の発生基準は違うの?
正社員、契約社員、アルバイトなど雇用形態に関わらず、時間外手当(残業手当)の定義やルールは同じです。残業で働いた時間に対しては、同様のルールによって賃金を支払わなければ違法となります。
時間外手当(残業手当)の計算方法
続いて、時間外手当(残業手当)の計算方法を例を出して解説します。
時間外手当(残業手当)基本の計算式
時間外手当における基本の計算式は以下のとおりです。
時間外手当(残業手当)=1時間あたりの賃金×時間外労働の時間数(時間)×1.25
時間外手当(残業手当)の計算例
所定労働時間が午前9時から午後5時までの勤務(休憩時間が1時間)で、1時間あたりの賃金が1,000円の従業員が、午後8時まで「残業」を行った場合
午後5時から午後6時までの法内残業
1,000円(1時間あたりの賃金)×1時間(午後5時から午後6時)=1,000円
午後6時から午後8時までの法外残業
1,000円(1時間あたりの賃金)×2時間(午後6時から午後8時)×1.25=2,500円
したがって支給される時間外手当(残業手当)は
法内残業分の手当1,000円+法外残業分の手当2,500円=3,500円
となります。
休日・深夜の割増賃金にも注意
休日や深夜に労働した場合も割増賃金が支給されます。休日労働とは「法定の休日に勤務させる」ことで、労働基準法によって通常賃金から35%割増しして支給することが定められています。
また、午後10時から午前5時の深夜に労働した場合にも、通常賃金の25%割増しした賃金を支払わなければなりません。
時間外手当と深夜の割増賃金は合わせて計算されます。そのため、午後10時以降の法外残業については、時間外労働分の割増率25%と深夜労働分の割増率25%を合わせた50%が適用されます。
違法な残業をさせないためのポイント
長時間の残業による過労死やサービス残業が大きな社会問題となり、企業には従業員に違法な残業をさせないような取り組みが求められています。
36協定を締結する
労働基準法第36条では、「会社は法定労働時間を超える時間外労働及び休日勤務などを命じる場合、労働組合などと書面による協定を結んで労働基準監督署に届け出ること」が義務付けられています。
この協定を一般的に「36協定」と呼びます。この36協定を結ばずに時間外労働や休日労働をさせた場合には違法の対象です。
時間外労働の上限規則を守る
時間外労働は原則として月45時間、年360時間の上限が決められています。特別の事情がなければ、この上限を超えることはできません。
特別の事情があって労働者と使用者が合意する場合でも、時間外労働は以下の範囲で収める必要があります。
- 年720時間以内
- 時間外労働+休日労働は月100時間未満
- 2~6か月平均80時間以内
そして、原則である月45時間を超えられる範囲は、年6か月までです。これに違反した場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
残業規制の適用が除外される業種も確認
ただし、新技術・新商品などの研究開発業務については、上限規制が適用されません。建設事業や自動車運転の業務、医師については、2024年3月31日まで猶予されます。
また、鹿児島もしくは沖縄県における砂糖製造業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満2~6か月平均80時間以内とする規制が適用されません。業種や職種によっては例外もあるので確認が必要です。
労働基準法に定められた残業の決まりを守るのは企業の責任
従業員に対して違法な労働をさせないために、今回は残業の定義についての理解を深め、残業手当の計算方法などについても紹介いたしました。
残業(時間外労働)に関する上限時間や支給すべき時間外手当は、労働基準法という法律で細かく定められています。
この法律に違反して従業員に労働をさせてしまうと懲役や罰金などが課せられるばかりか、新聞やテレビなどで報道されることもあり、社会的信用を失うことにつながります。
人事担当者は、違法な残業が行われないように残業についてしっかりと理解し、法律に基づくように従業員の残業時間を把握し、正しい給与を支払うことが大切です。