休日出勤手当の計算方法は?発生しないケースや深夜勤務の扱いも解説
休日出勤は複数の種類があり、一般的には「割増手当」が支給されることが多いですが、割増手当が支給されない休日出勤もあります。
「振替休日のときは?」「法定外休日に休日出勤したときの割増率は?」「深夜勤務したときの計算方法は?」など、休日出勤の計算をするときに、判断に迷うことがあるのではないでしょうか。
ここでは、休日出勤の定めに関する法律のほか、深夜勤務が複合した場合や割増手当がないケースなどについて詳しく解説し、休日出勤手当を正しく計算できるように説明いたします。(2020/10月執筆時点)
目次
休日出勤とは
休日には、労働基準法で定めている「法定休日」と会社が任意に定める「法定外休日」があります。
法定休日
法定休日とは、最低限与えるべき休日であり、「1週に1回以上」、または「4週に4日以上(いわゆる変形休日制)」を与えることが労働基準法に定められています。
1 使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない。
労働基準法 第35条
2 前項の規定は、4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない。
ただし、厚生労働省の通達において、変形休日制は例外であることを強調し、「1週に1回以上」を徹底することとしています。
変形休日制によって、休日がとれずに労働日が何日も連続するようなことが続くと、従業員に健康被害リスクが生じてしまいますので、原則、「1週に1回以上」の休日とすることが望まれます。
やむを得ず変形休日制を適用する場合は、労使協議のうえで無理のない休日とすることをご検討ください。
法定外休日
法定外休日とは、会社が任意に与える休日であり、法定休日以外の休日です。
労働基準法では、1週間あたりの労働時間の上限が定められているため、法定休日を週に1回与えるだけでは労働時間の上限を超えてしまいます。
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
労働基準法 第32条
<例>
1日あたりの労働時間が8時間の場合、月曜日から金曜日までの5日間で40時間となります。
そのため、土曜日を休日にして労働時間の上限を超えないように、法定外休日を与える必要があるのです。
あなたの会社の法定休日はいつ?
法律上、法定休日を特定することは義務付けられていないため、会社によっては就業規則に定めていないこともあります。
休日の種類によって割増賃金率は違いますので、法定休日を特定していないと労働基準法違反リスクがあります。
たとえば、土日が休日としているが、どちらを法定休日とするかを定めていない場合を考えてみましょう。
法定休日を定めていない場合は、暦週(日曜日から土曜日)の後ろに来る休日を法定休日とすることが行政解釈として示されています。
このケースの場合、暦週の後ろに来る休日は土曜日となります。
法定休日を特定していない場合の注意点(労働基準監督署の立ち入り調査)
法定休日が特定されていないと、法定休日の割増賃金が未払いになる可能性がある等から、労働基準監督署による立ち入り調査で指摘されることも多い事項となっています。
そのため、就業規則に定めていない場合は、次の規定例を参考に検討されることをお勧めいたします。
ただし、ケース3にある変形休日制は前述のとおり例外となりますので、業務の状況を踏まえ、労使協議のうえ健康被害につながることのないよう留意が必要です。
<法定休日の規定例>
ケース1
法定休日は、〇曜日とする。
ケース2
法定休日は、1週間における最後の1日の休日とし、起算日は毎週〇曜日とする。
ケース3(変形休日制)
法定休日は、4週間における最後の4日の休日とし、起算日は毎月〇日とする。
休日出勤の定義
休日出勤とは、前述した法定休日、または法定外休日に勤務することをいいますが、それぞれ割増賃金率が異なっており、労働基準法では次のとおり定めています。
「労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
労働基準法第37条第1項
「延長した労働時間の労働については二割五分とし、これらの規定により労働させた休日の労働については三割五分とする」
政令(平成6年1月4日 政令第5号)
従って、割増賃金率はそれぞれ次のとおりとなります。
- 法定休日出勤にあたる場合は35%以上
- 法定外休日出勤に出勤し、かつ時間外労働にあたる場合は25%以上
詳しくは、下記に割増賃金の種類ごとに割増率が記載されていますので、参考にしてください。
なお、後述しますが、法定休日に出勤させる場合、36協定の締結・届出をしていないと労働基準法違反リスクがあることに留意が必要です。
休日出勤の割増手当を出すときと出さないとき
基本的な考え方
前述したとおり、労働基準法で割増賃金率の最低基準が定められており、休日出勤は基本的に割増賃金を支払うことが必要です。
ただし、休日出勤としての割増手当の支給対象は「法定休日出勤」のみとなり、「法定外休日出勤」は、前述した労働基準法第32条に定める時間外労働の割増手当が対象となります。
そのため、法定外休日出勤の場合は、1週間に40時間超の労働にあたるか否かが、割増賃金の対象の判断となります。
つぎに、ケース別に解説いたしますので、ご確認ください。
割増手当を出すとき
法定休日出勤の場合
割増賃金率は「法定休日出勤にあたる場合は35%以上」ですので、割増手当の支給対象となります。
法定外休日出勤で、時間外労働にあたる場合
割増賃金率は「法定外休日に出勤し、時間外労働にあたる場合は25%以上」ですが、これは、法定外休日出勤をしたときに必ず割増賃金を支給するのではなく、次の条件があります。
・1週間に労働した時間が40時間を超えていた場合
たとえば、法定休日が日曜日、法定外休日が土曜日の場合、月~金の労働時間が40時間で土曜日に8時間労働したときは、時間外労働による割増賃金率25%が適用となります。
割増手当が出ないとき
法定外休日出勤で、時間外労働にあたらない場合
法定外休日出勤に出勤したものの、1週間に労働した時間が40時間を超えない場合は、割増賃金の支給対象にはなりません。
たとえば、法定休日が日曜日、法定外休日が土曜日の場合、月曜日から金曜日の労働時間が30時間で土曜日に8時間労働しても、割増賃金率は0%となります。
・勤怠システムや給与システムの割増率の設定
法定外休日出勤したものの、1週間の労働時間が40時間を超えない場合は、割増手当の対象外であることを説明しました。
ただし、勤怠システムや給与システム設計の都合上、実務上として1週間の労働時間の判定をすることなく、法定外休日に出勤した場合は自動的に時間外労働の割増率(25%以上)を適用しているケースが多くあります。
厳密に時間外労働時間の超過管理をしたい場合は、勤怠システムや給与システムに時間外労働時間の超過制御ができるかを確認してみてください。
もし、困難な場合は、手計算で超過して算出された時間外労働時間に相当する金額を給与で控除することも考えられます。
この対応を検討する場合は、自社の就業規則の定めもご確認ください。
休日の深夜に勤務したとき
深夜勤務の割増賃金については、労働基準法で次のとおり定めています。
使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
労働基準法第37条4項
つまり、午後10時から午前5時までの間に労働した場合に25%以上の割増賃金を支払うということです。
なお、深夜勤務の割増賃金率は、時間外労働や法定休日出勤にあたる場合は、それぞれの割増賃金率を加算する必要があります。
計算方法は、後述いたしますので、ご確認ください。
深夜勤務の場合、法定休日は何時まで?
労働基準法上、休日とは、原則として午前0時から午後12時までの「歴日」を指し、就業規則等で特段の定めがない限り、法定休日の午後12時を超えた労働には、法定休日出勤の割増手当を支払う必要がない(平成6年5月31日基発331号)と通達されています。
従って、法定休日が日曜日の場合、月曜日の午前0時以降の深夜勤務に対しては、休日の割増賃金(35%以上)を支払う必要はないというこです。
ただし、当該勤務時間が時間外労働にあたる場合は、時間外労働の割増賃金(25%以上)の支払いは必要です。
振替休日や代休を取得したとき
・代休を取得したとき
代休は、休日出勤した代わりに、以後の労働日に休みを与えることであり、休日出勤して代休を取得した場合は、前述した法定休日出勤、法定外休日出勤のいずれも割増賃金の手当は支給対象となります。
・振替休日を取得したとき
振替休日は、あらかじめ労働義務がない休日と出勤日を入れ替えることであり、休日出勤した日が労働日となることから割増賃金の支給対象となりません。
・参考 代休と振替休日の定義
「代休」とは、休日労働が行われた場合に、その代償として以後の特定の労働日を休みとするもの
「休日の振り替え」とは、予め休日と定められていた日を労働日とし、そのかわりに他の労働日を休日とすること。
(厚生労働省 よくある問い合わせ「振替休日と代休の違いは何か。」より)
代休や振替休日については、別途、「代休とは?知るべき賃金控除や就業規則、振替休日との違いを解説!」で詳しく解説していますので、ご確認ください。
36協定や就業規則の定め
休日出勤ができる36協定になっている?
労働基準法では次のとおり定めており、原則、時間外労働をさせることは違法です。
使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
労働基準法第32条
ただし、労働基準法第36条の手続きである「時間外・休日労働に関する協定」(36協定)を労使間で締結し、労働基準監督署に届け出ることで、従業員に時間外労働や休日出勤をさせることが可能となります。
割増率は、就業規則に定めが必要?
割増率は「賃金の決定、計算及び支払の方法」に該当するため、労働基準法第89条に定める「絶対的記載事項」にあたることから、必ず就業規則(賃金規程なども含む)に定めが必要です。
就業規則の絶対的記載事項と相対的記載事項
就業規則には「絶対的記載事項」と「相対的記載事項」があり、前者は必ず記載が必要、後者は定める場合に必ず記載が必要です。
次にそれぞれに該当する記載事項を記しますので、就業規則改定の際などにご参考ください。
休日出勤手当の計算方法
基本的な計算方法
休日出勤手当は、次のとおり「割増賃金の基礎となる賃金」に規定の「割増率」を乗じて計算します。
割増賃金の基礎となる賃金 × 1+割増率
なお、割増賃金の基礎となる賃金とは、次のとおりです。
割増賃金の基礎賃金
割増賃金の基礎となるのは、所定労働時間の労働に対して支払われる「1時間あたりの賃金の額」となります。ただし、労働に直接的な関係が薄い次の手当は、労働基準法、省令により除外することができます。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時的に支払われた賃金
- 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
この割増賃金の基礎となる賃金に、前述した割増賃金率を乗じて割増賃金を算出します。割増賃金率は就業規則で定めることか義務付けられていますので、自社の割増賃金率は就業規則を確認してください。
月給制の「割増賃金の基礎賃金」の求め方
月給制の場合、割増賃金の基礎賃金を求めるには、1時間あたりの基礎賃金を求める必要があります。
労働基準法施行規則第19条4によると、月給を月平均所定労働時間数で除するとされています。
<例>
・年間の所定労働日数が246日
・1日の所定労働時間が8時間
・月給が300,000円
□月平均所定労働時間数
246日×8時間÷12カ月=164時間
□割増賃金の基礎賃金(1時間あたりの基礎賃金)
300,000円÷164時間=1,829.268…円≒1,829円
(※)行政解釈(昭63.3.14基発第150号)により、端数処理は「50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げる」とされています。
法定休日の場合
割増賃金の基礎賃金×135%
<具体例>
・法定休日に8時間勤務した場合(割増賃金の基礎賃金が2,000円/1時間)
□2,000円(割増賃金の基礎賃金)×135%(1+法定休日の割増率)×8時間
計算すると21,600円となります。
法定外休日の場合
割増賃金の基礎賃金×125%
<具体例>
・法定外休日に8時間勤務した場合(割増賃金の基礎賃金が2,000円/1時間)
□2,000円(割増賃金の基礎賃金)×125%(1+時間外労働の割増率)×8時間
計算すると20,000円となります。
深夜勤務した場合
深夜勤務手当は、前述したとおり25%以上の割増賃金率となります。
なお、法定休日や時間外労働にあたる場合はぞれぞれの割増率を加算する必要がありますので、具体的には次のとおりとなります。
法定休日の深夜勤務
割増賃金の基礎賃金×160%
(深夜勤務の割増率25%+法定休日の割増率35%)の合計60%が割増率となります)
<具体例>
・法定休日の深夜に2時間勤務した場合(割増賃金の基礎賃金が2,000円/1時間)
□2,000円(割増賃金の基礎賃金)×160%(1+法定休日の深夜割増率)×2時間
計算すると、法定休日の深夜勤務手当(2時間)の金額は6,400円となります。
法定外休日の深夜勤務
割増賃金の基礎賃金×150%
(深夜勤務の割増率25%+時間外労働の割増率25%)の合計50%が割増率となります)
<具体例>
・法定外休日の深夜に2時間勤務した場合(割増賃金の基礎賃金が2,000円/1時間)
□2,000円(割増賃金の基礎賃金)×150%(1+時間外労働の深夜割増率)×2時間
計算すると法定外休日の深夜勤務手当(2時間)の金額は6,000円となります。
※前述の例は、法定休日の割増賃金率を35%、時間外労働(法定外休日)の割増賃金率を25%と、それぞれ定めている場合の例です。
休日出勤について、改めて自社の36協定や就業規則の定めを確認して、実務を振り返ってみましょう
休日出勤の計算は、法定休日と法定外休日、深夜勤務の場合など複雑であり、労働基準法や通達の内容を把握していないと不必要な手当を支払ってしまうこともありえます。
本記事をきっかけに、改めて自社の36協定や就業規則の定めなどを確認して理解を深めていただくとともに、システムの設定や運用を見直す事項がないかなど、実務を振り返ってみましょう。