【事例つき】はじめての新卒幹部候補採用!実施のポイント4つを解説
将来的に組織の中心となり、その企業の成長と成功を担う幹部候補人材。
幹部候補として適正な人材の獲得とその育成は、企業が経営戦略や事業計画を実現していく上で非常に重要なポイントとなります。
近年では、幹部候補人材を獲得するための方法の1つとして「新卒採用に幹部候補枠を準備する」という新しいやり方も話題になっています。
本記事では、「幹部候補人材の確保」をテーマとし、特に新卒採用における幹部候補採用について直近の事例とともに考察します。
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目次
組織における「幹部候補」とは?【対象範囲に明確な線引きはない】
そもそも幹部候補となる人材とはどういった人材を指すのか?
「幹部候補」とは、企業経営者や事業経営者などの経営幹部候補、上位管理職、職能部門トップといった、企業における重要なポジションに就き、成果を上げることを期待されている人材を指す言葉です。
組織によっては「幹部候補生」「次世代リーダー」と呼ぶこともあります。
そもそも「幹部」とは「組織の中心となる人物(=コアメンバー)」のことを指し、組織によって「幹部にどういった人材が求められるか」が異なるため、具体的なポジションによる線引きはありません。
そのため、役員クラスのトップマネジメント層の候補者を「幹部候補」とする場合もあれば、部長、室長の管理職候補者まで「幹部候補」に含める場合もあり、組織の規模や考え方によって異なります。
幹部候補人材を選出する3つの考え方
幹部は他の従業員の先頭に立ち、あらゆる課題や困難に対して的確な行動ができるリーダー的存在であることが期待されます。
ただし、企業によって「幹部」に求められる資質は千差万別であるため、企業の経営戦略に基づいて幹部候補となる人材を適切に育成していくことが求められます。
企業の将来を担う幹部の育成計画は、その候補となる人材を確保するところから既に始まっていると言っても過言ではありません。
幹部候補人材を確保する方法には、現在大きく分けて下記3つの考え方があります。
- 社内公募制度を幹部候補に活用する
- 中途採用で幹部候補となる人材を募集する
- 新卒採用で「幹部候補採用枠」を設ける
幹部候補の確保と育成を成功させるために、それぞれの考え方のポイントをしっかりと学んでおきましょう。
①社内公募制度を幹部候補に活用する
社内公募制度とは、企業が必要とするポストや職種の条件を社員に公開し、希望者を社内で公募して決定する人事異動の制度です。
この社内公募制度を幹部候補に活用するということは、社外からではなく既存の社員から幹部候補を選出するプロセスになります。
社内公募制度の活用が、なぜ幹部候補を確保するための有効な施策となり得るのでしょうか?
幹部人材は組織全体のバランスや関係性を俯瞰的に捉えて、あらゆる場面の意思決定を行っていくことが求められます。
この組織全体を管理・把握するという点で、既存社員であれば組織内で培ってきた経験や知識を最大限に活かすことが可能となり、幹部に求められる要件を満たしやすいです。
また、幹部候補人材の社内公募制度を周知しておくことによって「自分にも幹部候補となるチャンスがある」「いつかは自分も立候補できるように常に組織全体を意識して日々の業務に取り組もう」といった高い意識を持つ従業員の増加やそれに伴って組織全体の士気を高める効果も期待できます。
以上の考え方により、社内公募制度の活用は、幹部候補を確保するための有効な施策の1つと言えるでしょう。
②中途採用で幹部候補となる人材を募集する
新卒採用の目的の1つに「将来のリーダー・経営幹部候補となる人材の確保」があります。
従来は、自社の幹部候補となるような人材は企業理念の浸透性の強い新卒を育成する方が確実性が高いと言われてきました。
しかし、近年では、幹部候補人材を含めた中堅・管理職レベル(ミドル・シニアクラス)の人材を中途採用で確保することも増えてきています。
主に即戦力の確保が目的とされる中途採用においては、スキルや能力、業界の知見やこれまでの経歴などを重視するのが一般的ですが、幹部候補を募集する場合には、企業文化や組織風土への適合性といった人物像も採用基準に入れなければなりません。
複数の企業で職務経験がある人材は組織に対する価値基準も多様であるため、新しい考え方を自社に取り入れることができる反面、自社の風土や環境に合わず本来の能力を引き出せない可能性もあります。
なので、採用基準には幹部人材としての資質(洞察力、リーダーシップ性、洞察力など)だけでなく、価値観や性格といった入社後の教育で修正が困難な要素も重要視する必要があります。
③新卒採用で「幹部候補採用枠」を設ける
これまでの幹部候補人材は、新卒採用で確保して育成した人材から適正な人材を選出するというのが自然な流れとして捉えられてきました。
極端な言い方をすると、入社した時点で新卒全員が幹部候補になる可能性があったということになります。
しかし、近年では大手企業を中心として「総合職採用」とは別に「幹部候補採用」という新たな選考コースを実施する企業が増えてきています。
以下に、その事例をいくつかご紹介します。
新卒の幹部候補採用事例1. くら寿司
回転ずしチェーンを運営する「くら寿司」が、2019年の5月に「2020年春入社の新卒採用で入社1年目から年収1000万円の幹部候補生を採用する」と発表したことが話題になりました。
応募要件として「26歳以下、TOEIC800点以上の英語力、簿記3級以上」の必須条件を満たす人材とし、同社の社員も募集対象としたところ、国内外の有名大学を中心に募集開始から2週間で170人ほどエントリーを集めることに成功しました。
くら寿司の創業者でもある田中社長によると、幹部候補採用の狙いについては、目先の売り上げや株価に一喜一憂するのではなく、将来への投資を重要視しているとのこと。
また応募要件の「26歳」という線引きは、他社での経験によって自社の企業文化に馴染みにくいラインを想定した結果とのことで、やはり幹部候補人材には「その企業との相性」が重要であることがわかります。
新卒の幹部候補採用事例2. UTグループ
代表取締役の若山社長の「創業3年間で営業・マネジメント・税務など経営に関するあらゆる仕事に携わったこと」が会社と自身の両方の成長に繋がったという経験が「幹部候補採用計画」をスタートさせるきっかけとなったというUTグループ。
「入社4年目で、経営に近いポジションで活躍できる人材を採用・育成していく」という3か年育成計画を基準にした目標を掲げ、2019年春入社から幹部候補1期生の採用を始めました。
「自分たちで100万円を使ってビジネスを企画・実行できる」というユニークなインターンや採用競合の徹底的な分析により、2019年度採用の本選考では6000人のエントリーを集める結果となり、「UTグループ=幹部候補採用」と印象付けるブランディング活動も学生認知に繋げることに成功しています。
新卒の幹部候補採用事例3. 地元密着型のドラッグストア
最後に、地元密着型のドラッグストアが「幹部候補採用」を実施した事例を紹介します。
このドラッグストアには、求める人材から外れているわけではないけども、「これはいい人材が来てくれた!」という場面がなく、自社が欲する人材を集めることができない、という採用課題がありました。
そこで、最初から(もしくは将来的に)組織を動かすようなポジションに就くことができる「幹部候補採用」という新たな入り口を設けたところ、旧帝大クラスの学生からのエントリーも増加し、自社が求める人材を毎年確保することができるようになりました。
もちろん単純に採用コースを分けるだけでなく、自社が定義する幹部候補がどのような人材か、また報酬やポジションを明示することは必須ですが、この事例から「幹部候補採用」は採用活動を成功させる上で、1つの集客手法にもなり得ると言ってもいいかもしれません。
新卒の「幹部候補採用」を実施する際に考えるべきこと
以上のように、新卒で「幹部候補採用」を実施する企業は徐々に増えてきていますが、単なる新卒採用のトレンドとしてイベント的に「幹部候補採用」を実施しても組織戦略として機能することは期待できません。
また、不明瞭な部分が多いと学生側にとっても実感を得にくく、不安を感じさせてしまうことになるでしょう。
そのため、新卒の「幹部候補採用」を実施・検討する際には、まず以下のことを入念に考えて計画を立てましょう。
- 幹部候補採用を実施する目的を明確にする
- 育成の予算や期間、内容を決める(育成計画)
- 採用基準、採用後の待遇などを決める(採用計画)
- 新卒に対するフォローアップ体制を整えておく
①幹部候補採用を実施する目的を明確にする
これまで当メディア人事ZINEでは、幾度となく「現状把握と目的設定の重要性」をお伝えしてきましたが、「幹部候補採用」についてももちろん例外ではありません。
先ほど紹介した3つの事例にも、何らかの採用課題を解消するためであったり、経営ビジョンに基づく将来的な目標・目的が設定されていたと思います。
企業の経営戦略おいて、今後どんな幹部人材が何のために必要となるかを具体的に明示しておく必要があります。
自社の幹部にふさわしい人材はどんな人材なのか、幹部としてのロールモデルは誰か、その候補となるにはどんな資質を有している必要があるかなど、幹部候補としての「求める人物像」を設定によって入社後の育成プログラムも大きく異なるからです。
②育成の予算や期間、内容を決める(育成計画)
企業における「幹部候補」の定義にもよりますが、基本的に新卒から幹部となる人材を短期間で育成することは難しいです。
経営管理や事業戦略に必要な知識は座学だけでは身につかないものもあり、ケース・スタディや実務を通して経験させていく必要があります。
また、企業の重要な意思決定を担う経営企画室やマーケティング部門などをローテーションさせるだけでなく、未経験の職能への異動や海外赴任も幅広い知見と経験を得るのに有効でしょう。
UTグループの事例紹介でもあったように、「入社4年目で経営に近いポジションで活躍できる人材を3年間かけて育成する」といった、教育プログラムを実施する目的やそこで達成すべき目標に沿った、適切な予算と期間を定めることが大事です。
③採用基準、採用後の待遇などを決める(採用計画)
幹部候補の採用計画は、幹部候補人材の育成計画と照らし合わせながら設計していきます。
例えば、次のような内容です。
- 採用基準(必要となるスキルや能力)や選考方法の決定
- 募集メディアの選定や採用スケジュールの作成
- 幹部候補独自の給与体系や待遇
- 採用直後の配属部署やその後のローテーション
- 最適な採用チームの構築
一般的な総合職採用とは違い、幹部候補採用では上記の内容をトップマネジメント層が中心となって入念に計画しておくことが望ましいです。
さらに採用担当者の認識ミスが起こらないように、育成計画と採用計画を経営幹部を含めた幹部候補採用に関わる全ての人事担当者の間でしっかりと共有しておくことが重要となります。
④新卒に対するフォローアップ体制を整えておく
一般的な総合職枠とは別に設けられた幹部候補枠で採用された新卒は、幹部候補という輝かしいキャリアを築いていくスタート地点に立つことになります。
しかしながら、「幹部候補採用」自体が比較的新しいものであることから、「幹部候補」というよくわからないポストに対する不安や、肩書きの重みからくるプレッシャーを感じる人もいるでしょう。
幹部候補でなくても新卒は就労未経験という不安やストレスが少なからずあります。
せっかく幹部候補として自社にふさわしい人材が入社してくれても、こういったストレスによって本来の能力が発揮できないことは、企業にとっても幹部候補本人にとっても喜ばしいことではありません。
採用基準や待遇を準備するだけでなく、入社後のフォローアップ体制も十分に整えておく必要があるでしょう。
まとめ:新卒の「幹部候補採用」の現在とこれから
今回は「幹部候補人材の確保」をテーマに、新卒で幹部候補採用を実施している事例や幹部候補採用の考え方をご紹介しました。
新卒の幹部候補採用は、大手企業を中心に実施を始めているところが見られるようになりましたが、比較的新しい試みであるため、「実際、幹部人材に成長した」といった事例が現れるのはまだもう少し先になりそうです。
ただ、将来の活躍に向けた育成が前提である新卒採用において、総合職と幹部候補で入社後の目的地が異なるにしても、その中で企業が考えるべきこととして、例えば、「どのような知識の習得や経験を積んでもらいたいか」を考えておく事が重要なのではないでしょうか?
幹部候補の採用となると経営幹部陣が中心となって採用の計画を立てていくことは必須ですが、人事担当者としても新卒の将来を担うことに責任を持ち、組織全体に関わる取り組みであることを意識して、採用活動、育成計画へ取り掛かりましょう。
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