内定者が入社後スムーズに業務を遂行できるようにするため、内定者研修の実施を検討されている企業様は多いことと思います。
一方で、何をゴールとし、どのような教育をすべきかが判然とせず、内定者研修の設計立てに苦慮しているというご相談も多く寄せられます。
「内定者の辞退を防ぎ、即戦力として活躍してもらいたい」
「内定者が抱える解消するにはどのようなプログラムが有効か」
このようなお悩みを解決するため、この記事では内定者研修を成功に導くためにおさえるべき4つのポイントをご紹介していきます。
今回人事ZINE編集部は、中小企業での新卒採用人事の経歴を持ち、現在は新卒採用アドバイザーとしてご活躍されている谷間さんに、過去に実施した内定者研修の役割や取り組み方についてお聞きしてきました。
目次
内定者研修をおこなう2つの目的

内定者研修とは、社会人としてのマインド形成や実務に役立つスキル教育など、内定者に対して入社前に行うフォロー研修のことです。
内定者研修の主な目的は大きく分けて2つあります。
目的①内定者の不安を解消する
内定者研修ではまず、内定者の不安を解消することを第一に考えるべきです。
内定者は、入社が決まったことに安堵している一方で、社会人となり組織の一員として働くことに漠然とした不安を抱えています。どのような不安があり、どうすれば解消できるかなどを具体例を持って説明するといいでしょう。
谷間さん:
内定者研修を実施するにあたり、企業側は「内定者1人ひとりが “ちゃんと” 入社してくれるようにする」ことを目標にする必要があります。”ちゃんと” というのは、内定者の立場から見て、”その会社に対して、不安なく能動的に入社の意思を固めてくれた状態” ということです。
入社前の不安を全て取り除き、この会社に入社したいと心から思ってもらえないと、結局入社後に定着せずに企業も内定者本人も不幸になってしまいますから。
企業の「入社してほしい」と内定者の「入社したい」が1本の軸で通るように内定者をフォローする。私は、これが内定者研修を実施する最大のミッションだと考えています。
内定者の不安を取り除くには、内定者が抱えている不安要素を知っておかなければなりません。内定者の不安は、大きく分けると以下の3つに分類されます。
内定者が抱える不安①与えられた仕事をこなせるかどうか
内定者は、与えられた仕事をこなせるかどうか、自分にどのような業務が与えられるのか、そしてその仕事をきちんとこなせるのかという漠然とした不安を抱えています。
このような不安は内定者ならば誰でも感じるものです。そして、入社後は業務を遂行するにあたり壁にぶつかることもあるでしょう。
しかしながら、内定者研修の時点でその不安を必要以上にあおる必要はありません。むしろ、「内定者研修を受けることでその不安が解消される」ことを伝え、困った時に相談できる環境が整った会社であることを主張すべきです。
漠然とした不安を明確にし、具体的な解決策を提案することで、業務に関する内定者の不安は解消できます。
内定者が抱える不安②会社の雰囲気になじめるか
内定者の多くが「人間関係で悩んでしまうのでは?」「職場の雰囲気になじめるかが心配」などの不安を抱えて入社してきます。
人間関係については、実際に働いてみないとわからないことが多いです。「大丈夫」といった根拠のない声がけでは、内定者の不安を根本から解消することは難しいでしょう。
このような不安を持つ内定者には、まず「あなたと一緒に働けることを会社全体が心待ちにしている」ことを伝えてあげてください。会社が歓迎の姿勢を示し、内定者がなじみやすい雰囲気であることを前面にアピールするのがよいでしょう。
内定者が抱える不安③本当にこの会社を選んで良かったのか
内定者の中には、「他の会社を選ぶべきだったのでは?」という不安をもったまま内定者研修に臨む人もいます。この疑問に対する正解は、実際に働く中で内定者自身が見つけていくものです。
このような潜在的な不安は、実際に働いている自分の姿をイメージしてもらうことでクリアにできます。内定者の働きが会社にもたらすメリットを説明し、前向きな気持ちで研修に取り組めるようサポートしてあげてください。
目的②最低限のスキルを身につけてもらう
内定者研修では、文書作成やコミュニケーション、OAスキルの研修をプログラムに組み込むことが多いです。これは、内定者に即戦力として活躍してもらうことが目的で、受け入れる側にとっても大きなプラスとなるはずです。
また、実際の業務で役立つスキル研修は、「仕事についていけるか?」という内定者の不安を解消するために有効で、内定辞退の予防にもつながります。
谷間さん:
プログラムの成功事例の1つに、「研修内容のメール報告」があります。
内定者がどのような研修を受け、何を学んだかをメールで報告する。この単純な作業によって、基礎的な文書スキルが身につきます。
また、「お世話になっております」「ご多忙のところ恐れ入りますが」などといったビジネスシーンで多用されるフレーズを知るきっかけにもなります。
内定者研修の設計に加えたい具体的なプログラム内容については、後ほど詳しく解説していきます。
近年の内定者の一般的な性格・傾向
内定者研修の目的を達成するための参考として、近年の内定者が一般的にどのような性格・傾向をなのかを知っておきましょう。
主な特徴として以下の3つが挙げられます。
- 目立ちたがらず、失敗を恐れる
- 素直で真面目な性格
- 外部に正解を求める
1つは「失敗を恐れる」という点です。それは「目立とうとしない」「チャレンジを恐れる」などの行動に現れます。この傾向が「内定の辞退」につながらないよう注意しましょう。
一方で「素直で真面目」であることから、一度教えれば恐れず行動できるようになるという面もあります。研修を通じて、行動する自信を醸成することが重要です。
さらに、正解を外部に求めるという傾向も挙げられます。幼い頃から情報機器に囲まれて育ってきたため、情報処理能力や検索能力が高く、分からないことを自分で探し出せる人が多い一方、自分の頭で考える前にまず他人やインターネットなどに正解を求めるという点が特徴です。
内定者研修で成果が出ない4つの原因

企業の人事担当者様からは、「内定者研修を実施しても、なかなか内定者の辞退を予防できない」というご相談が多く寄せられます。
内定者研修で思うような成果が得られない場合、以下に当てはまるものがないかを確認してみてください。
原因①内定者や新人の特徴を理解していないから
内定者研修を実施する側は、学生や新人がどのような気持ちで会社に向き合おうとしているか理解しようとする姿勢が必要です。
まだ社会を知らない内定者に対し、「自分たちの頃は」「最近の若い人は」などと話をするのは決して好ましいことではありません。
原因②内定者の不安を解消しきれていないから
内定者は、仕事内容や人間関係、その会社を選んだことに対して漠然とした不安を抱えていることをお伝えしました。
内定者研修でこの不安を解消できなければ、入社までの間に不安は募る一方です。最悪の場合、内定辞退もあり得るでしょう。
原因③会社の魅力を伝えきれていないから
内定者にとって有益な研修を意識しすぎるあまり、自社の魅力をアピールし忘れてはいませんか?
内定者研修は、内定者の不安を解消し、即戦力となれるスキルを身につけてもらうために行うものですが、その目的を達成するには自社の強みについての説明が必要不可欠です。
原因④本番さながらの緊張感が強すぎるから
内定者研修の時点でビジネスマナーやOAスキルが不足しているからといって、入社後に大きな失敗するとは限りません。
シビアな評価は、内定者のモチベーション低下につながります。緊張感を持ってもらうことは大切ですが、ピリピリとしたムードは内定者の不安を募らせるだけです。
谷間さん:
内定者研修では、社会人として厳しく鍛えるよりも、内定者たちが組織の一員としてどうありたいかイメージさせることに重きを置くのが理想です。
また、実務に役立つスキル研修はもちろん大切なのですが、まずは内定者の不安を解消することを優先すべきです。「気持ちが離れているかも」とか「まだ他と迷っているところがあるのでは?」と感じたら、個別に話を聞いて不安を解消してあげるのがいいですね。
会社の特徴や実績など、内定者にとって魅力的な部分をオープンにすることは内定辞退の予防につながります。「この会社で働きたい!」と思ってもらうため、内定者の意欲アップにつながる魅力をたくさん伝えられるといいですよね。
内定者研修を成功させるための4つのポイント
上記の「失敗の原因」を踏まえ、内定者研修を成功させる4つのポイントを解説します。
- 内定者の特性を把握する
- 研修のゴールを明確に設定する
- 現場の声を研修内容に反映させる
- スケジュールを立てる
前提として内定者の「特性」を把握することが重要です。前述の一般的な特性を参考にするだけでなく、個々の内定者をよく分析し、それぞれに合ったケアができる内容を考えましょう。
内定者研修の「目標・ゴール」を具体的にすることも重要です。「不安を解消する」「会社の魅力を伝える」「スキルを身につけてもらう」など、研修のプログラムごとのゴールを決めておくなら、担当者もその点を達成できるように意識できます。
「現場で必要なスキルは何か」など、現場社員の声を参考にすることも重要です。現場のリアルな意見を反映させることで、入社後のギャップを少なくできます。
どのタイミングで、何回の研修を実施するのか「スケジュール」を立てることも成功のポイントです。初回は「不安解消の研修」を実施し、入社が近い時期は「スキル研修」に力を入れるなど、時期とタイミングを工夫することで、研修の効果を高められます。
内定者研修の設計時に導入を検討すべき4つの内容

内定者研修のプログラム設計は、人事担当者様がもっとも悩まれる部分かと思います。
プログラムの内容は、目指すべきゴールから逆算すると設計がしやすいです。ここでは、内定者研修で設計に加えるべき内容について詳しく解説していきます。
内容①社会人としての心得
内定者の多くは、社会人経験のない(少ない)学生です。親や学校に守ってもらう立場から一転、組織の一員として社会に貢献する側の人間になることを理解してもらう必要があります。
自立した社会人としての意識を高めるため、学生から社会人へのマインド転換を促すプログラムを設計しましょう。
内容②ビジネスマナー
挨拶をする、時間を守る、報告・連絡・相談の徹底。これらのビジネスマナーは、社内はもとより社外でも重要視される大切なポイントです。
自分では大丈夫と思っていることも、他者には不足しているように見られることは少なくありません。取引先に不快感を与えないよう、内定者には最低限のビジネスマナーを習得してもらうべきです。
内容③OAスキル
OAスキルは、作業効率をアップさせるために欠かせないスキルです。入社前にある程度のOAスキルが身についていれば、即戦力として活躍できる可能性が広がります。
会社全体の生産性を高めるためにも、実務で役立つOAスキルの教育は、内定者研修に組み込むべきでしょう。
内容④チームワーク
チームワークを学ぶプログラムでは、縦(上司)や横(内定者同士)のつながりを意識してもらいます。
一緒に働く人の素顔がわかると、内定者の間には自然と仲間意識が芽生えるものです。また、先輩の話を聞くことで実務内容をイメージしやすくなります。
谷間さん:
内定者が出た時点で個別面談を随時実施して、できるだけ接点を多く持ち続けるようにするのがおすすめです。
そして、学生さんからの「こういうのがあったら嬉しい」「もっと機会を増やしてほしい」といった意見から各プログラムの優先度を決めます。必要に応じて研修テーマを変えることがあってもいいと思います。
やはり入社の意思が薄くなってくると参加率も低くなる傾向があるので、そういう学生さんには特に密にフォローをかけるようにしていました。
内定者研修の実施方法
内定者研修には、大きく以下があります。
- 内定者たちが実際に集まってワークをする集合研修
- eラーニングや動画講義によるオンライン研修
ここからは、それぞれのメリット・デメリットと実際の研修ではどちらの方法が有効か具体例を挙げて説明していきます。

方法①集合研修
内定者同士が対面し、ともにワークができる集合研修はチームワークを形成するのに有効です。
挨拶や言葉遣いなどのマナー研修は、内定者同士でロープレすると実務をイメージしやすくなります。また、懇親会や親睦会などのイベントも、実際に会ってコミュニケーションを取るのがいいでしょう。
ただし、内定者の多くは学生ですから、学業により研修に参加できない可能性があることは想定しておかなければなりません。
集合研修に参加できない内定者に対しては、「同期に遅れをとっている」と不安にならないよう、個別のフォローが必要です。
方法②オンライン研修
近年は、内定者研修をオンラインで実施する企業が増えています。
オンライン研修は動画で繰り返し講義を復習できるのが大きなメリットです。講師の招待や遠方の内定者にかかるコスト削減にも有効で、集合研修に参加できなかった内定者へのフォロー研修としても活用できるでしょう。
一方で、内定者の潜在的な不安を解消するには少々物足りなさが残ります。個別に面談する機会を作り、悩み相談や意欲向上につなげていきたいところです。
谷間さん:
集合研修は、「この仲間と働きたい!」と思えるような軽めの内容がいいですね。
例えば「どういう社会人になりたいか?」をお互いに話し合ってもらったり、学生さんでも考えられるようなテーマをチームでディスカッションして発表してもらったりなどです。
オンライン研修は、スキル習得はもちろんのこと、内定者の入社に対する意思確認にも有効なんです。参加率が悪くなると、入社への意識が薄くなっていることがわかります。
そのような内定者には密なフォローを心がけ、入社に対する懸念事項を解消していきたいですね。
まとめ|内定者研修は「企業側の入社してほしい」と「内定者の入社したい」を1本軸で繋げるため施策
内定者研修を成功させるには、内定者が安心して入社できるようモチベーションアップのサポートをしなければなりません。
実務に必要なスキル研修はもちろんですが、内定者の不安を知り、悩みを少しでも解消してもらえるようにプログラムを設計する必要があります。
懸念を解消できていないままだと、入社後もずっと不安を引きずってしまい、最悪の場合すぐに退職するということもあり得るでしょう。
「この会社に入社してよかった」と思ってもらえるように、個々の内定者に向き合って内定者研修に取り組んでみてはいかがでしょうか。
