育児短時間勤務制度とは?条件やフレックス制との併用、導入の注意点
「短時間勤務制度について詳しく知りたい」
「制度の導入で企業が行うべきことがわからない」
「他の制度と併用する方法はあるのか」
短時間勤務制度の取り扱いに戸惑っている人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
「短時間勤務制度」は、仕事と育児の両立を実現する制度です。2009年の育児・介護休業法の改正で、企業への導入が義務付けられました。従業員が安心して制度を利用するためには、人事・労務担当者が正しい知識を得たうえで、適切に運用していかなければいけません。
そこで今回は、短時間勤務制度の概要や、制度の導入にあたって企業が行うべきことなどについて詳しくご紹介します。
給与と残業の扱い、他制度との併用に関しても解説しますので、制度の導入や運用で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
短時間勤務制度とは
短時間勤務制度とは、以下の「全ての条件」に該当する者に対して短時間勤務等の措置を講じる制度です。
- 3歳未満の子を養育している
- 1日の労働時間が6時間以上
- 日雇い労働者ではない
- 短時間勤務制度が導入される前から育児休業をしていない
- 労使協定で適用除外とされていない
ただし、制度の適用対象者でも、労使協定で次のいずれかに該当する場合は対象外にできます。
- 雇用期間が1年未満
- 1週間の労働日数が2日以下
- 業務の内容などによって短時間勤務制度の導入が難しい場合
短時間勤務制度のメリット
経験やスキルを有する人材の離職は、それまでの人材育成にかけた時間やコストが無価値になるだけではなく、新たな人材を採用して育成する時間とコストもかかります。しかし、短時間勤務制度を導入すれば、育児や介護による離職を防げるため、人材の継続的な確保が実現します。
ライフイベントの変化に対応できる短時間勤務制度は、労働者にとっても大きなメリットがあるでしょう。
短時間勤務制度の内容
短時間勤務制度の主な内容は以下です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
対象期間
短時間勤務制度の対象期間は、「原則として子どもが3歳に達するまで」です。なお、「子どもが6歳の誕生日を過ぎた最初の3月31日(小学校就学の始期)まで」の期間延長が企業の努力義務とされています。
給与と賞与
労働時間に応じて給与は減額となります。労働時間と給与が賞与に影響を与える場合は、賞与も減額となります。ただし、労働時間の短縮分を超えた減額は禁止です。
短縮された労働時間分の給与を保障する義務はないため、制度を利用した労働者の給与は必ず減少します。
制度利用後のトラブルを避けるためにも、「給与の扱いを就業規則で明文化する」「制度の利用する労働者に減額の根拠を説明する」などして、給与や賞与減額に関する理解を得るようにしましょう。
保険と年金
健康保険と厚生年金の扱いは変わりません。また、給与が減少すると社会保険料の月額も下がります。
残業時間
所定時間外労働を禁止する規定はないため、残業も可能です。ただし、時間外手当は1日8時間を超えて勤務をした場合に限り支払われます。短時間勤務制度の利用者でも、勤務時間が7時間や8時間の場合は割増の対象にはなりません。
短時間勤務制度と他制度との併用
フレックスタイムや有給休暇などの制度は、短時間勤務制度と併用できるのでしょうか。それぞれの制度について、併用の可否を詳しく見ていきましょう。
フレックスタイム制度との併用は可能
短時間勤務制度とフレックスタイム制度は全く異なる制度です。なかでも、1日の労働時間に大きな違いがあります。
- 短時間勤務制度:1日の労働時間は原則6時間以内
- フレックスタイム制度:1日の労働時間は固定されない
フレックスタイム制度は1日の労働時間の自由度が高く、始業時刻と終業時刻もフレックスタイム制度の規定に沿って本人が決められます。
短時間勤務制度の対象条件にならなかった労働者に対する代替策として、フレックスタイムを導入するのも、ひとつの方法でしょう。
有給休暇の扱い
有給は実際の勤務時間に基づいた金額を支給します。所定労働時間が1日8時間から6時間に減った場合は6時間分の給与を支払えば問題ありません。
付与日数は労働時間が短くなっても従来通りです。所定労働日数を短縮した場合は、新たな所定労働日数に応じて比例付与します。
短時間勤務中の退職
短時間勤務制度の利用者が自己都合で退職する場合は、支払われていた給与に基づいて雇用保険の基本手当が決まります。そのため、離職票にはフルタイム勤務での給与ではなく、実際に支払った給与を記載してください。
倒産や解雇などが原因で退職する場合は、特例によって勤務時間短縮前の給与日額で基本手当の日額を算定します。
TIPS)時間単位の休暇取得も可能
2021年1月1日から施行される「改正育児・介護休業法」では、育児休暇や介護休暇を時間単位で取得できるようになります。
改正前の取得は半日単位で、所定労働時間が1日4時間以下の労働者は対象外でした。しかし、今回の改正で労働時間を問わず希望の時間数での取得が可能です。
短時間勤務制度の導入方法
ここからは、短時間勤務制度導入の流れを詳しく見ていきます。
1.目的の明確化
まずは、現状の課題を把握したうえで、短時間勤務制度を導入する目的を明確にします。導入目的の例としては、以下のようなものが考えられるでしょう。
- 人材を定着させる
- 戦力になる人材の退職を防ぐ
- 働き方に不満を抱いている従業員の声を反映させる
短時間勤務制度は部署単独で導入できるものではありません。そのため、導入目的を明確にして、上層部への提案に説得力を持たせることが大切です。
2.業務内容の把握
勤務時間の短縮で遂行するのが難しくなる業務を洗い出し、業務内容を調整していきます。業務の内容自体は制度導入後も変わらないため、全体的な仕事量の確認をして業務全体に支障が生じないようにしましょう。
3.申請期限の設定
労働者が短時間勤務制度の利用申請をする期限は企業によって異なりますが、制度適用の数週間から1か月前後が一般的です。
申請と手続きのフローも整えておきましょう。手続きが煩雑では制度が浸透しないので、できるだけ負担の少ない方法の検討が求められます。
4.全体周知
短時間勤務制度の導入を社内に周知します。従業員の目に触れる場所への掲示や制度に関するアナウンスを行い、制度の内容と導入理由を丁寧に説明しましょう。
導入の注意点
育児・介護休業法では、制度利用者に対する以下のような取り扱いを「不利益な取り扱い」として禁じています。
- 制度を利用したことによる減給
- 人事考課における不当な評価
- 契約更新をしない(雇い止め)
- 正社員から非正規社員への契約変更強要
また、労働環境でのハラスメント防止措置を講じることも義務付けています。禁止事項への抵触は制度利用者の就業環境を著しく害する恐れがあります。
導入前に制度運用上のガイドラインを定めるなどして禁止事項抵触を避け、正しく運用しましょう。
まとめ
今回は、短時間勤務制度の概要と導入方法、残業や有給の考え方などについてご紹介しました。
短時間勤務制度は、企業側と労働者の双方にメリットがある制度です。給与や残業の扱いもそれほど複雑ではなく、フレックスタイム制との併用もできる柔軟性の高さも持ち合わせています。
導入までのハードルは高くありませんが、制度を浸透させるためには、導入目的の明確にしたうえで、社内への全体周知と制度利用手続きの簡略化を行いましょう。
給与や勤務に対する不満が生じないように、従業員に対する不利益な取り扱いに注意しながら利用しやすい制度にしていくことが大切です。