育休の条件とは?産休との違いや男性の取得をわかりやすく解説!
「育児休業の取得の条件は?」「産前・産後休業との違いは?」「男性が取得をするには?」など育児休業の条件について、従業員から質問を受けることもあると思いますが、人事担当者のみなさんは正確に理解されていますでしょうか?
育児休業は男性も取得できることはよく知られていますが、性別によって取得期間が異なるほか、勤続年数や社員の区分によって取得の可否があるなど条件は複雑です。
この記事では、育児休業の法律や就業規則の定めの下、「育児休業の条件」や混同しやすい「産前・産後休業との違い」「延長の条件や手続き」などを説明いたします。(2020/10月執筆時点)
目次
育児休業の種類
育児休業には、次のとおり、子が生まれる前に女性従業員からの請求により休業させる「産前休業」、必ず休業させる「産後休業」、男女問わず申し出によって休業させる「育児休業」があります。
なお、法律の条文は次項の「法律の定め」で掲載いたしますので、ご確認ください。
産前・産後休業とは?
産前・産後休業は、母性保護の観点から、それぞれ次のように労働基準法で定められています。後述する育児休業と根拠法が違います。
・産前休業
産前休業は、出産予定日が6週間以内(双子以上は14週間以内)の女性従業員から休業の請求かあった場合は、会社はその女性従業員を休ませなければなりません。
産前休業は、出産予定日を基準として6週間前から休める制度となっていますが、この6週間は出産予定日を産前休業に含めてカウントします。
<例>1児の出産で、出産予定日が10月1日の場合
出産予定日を10月1日を基準に、この日を含めて6週間(42日)前の日から産前休業の取得が可能となりますので、具体的には次のとおりとなります。
□産前6週間は、8月21日より
なお、出産予定日より出産日が遅くなった場合は産前休業が延長されることになり、逆に早まった場合は、産前休業が短縮されて産後休業が出産の翌日より適用されます。
・産後休業
産後休業とは、女性従業員の請求があるか否かに拘わらず、産後8週間は休ませなければならないという制度です。
ただし、6週間経過後は、女性従業員が請求し、医師が支障ないと判断した場合は、就労させることは差し支えありません。
<例>1児の出産で、出産日が10月1日の場合
出産日を10月1日を基準に、初日不算入により翌日の10月2日から産後休業開始となり、具体的な期間は次のとおりとなります。
□産後8週間は、11月26日まで
(請求があり、医師が支障ないと判断した場合の産後6週間は11月12日まで)
・出産日は産前休業と産後休業のどちらに含める?
8週間の産後休業は、民法上の「初日不算入の原則」により、出産の翌日からカウントされます。なお、行政解釈としても、出産当日は「産前」に含まれる(昭和25年3月31日基収4057号)とされています。
このことから、出産日は、産前休業に含みます。
育児休業とは?
育児休業は、育児を行う労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるよう支援することなどを目的として、育児介護休業法によって次の内容が定められています。
□1歳に満たない子を養育する労働者は、申し出によって育児休業をすることが可能
育児休業期間は、子が1歳に達するまで(育児介護休業法第5条3項)と規定されています。
ただし、「年齢計算ニ関スル法律」により「子の1歳の誕生日の前日」が1歳到達日となり、この日までが育児休業の期間となります。
<例>出産日が10月1日の場合
前述の定めにより、翌年の9月30日が育児休業の期限になります。
また、後述しますが、保育園に入れないなどの場合、申請によって、最大で子が2歳に達するまで休業の延長が可能となっています。
・補足 ~初日不算入の原則と例外規定の「年齢計算ニ関スル法律」~
民法では期間計算について、前述の「初日不算入の原則」を定めています。ただし、「年齢計算ニ関スル法律」では民法の例外として、初日を算入して計算することが定められています。
これにより、年齢の期間計算は、誕生日の前日に年齢が加算されます。人事担当者のみなさんは、期間計算について、年齢計算は民法上の「例外」であることにご留意ください。
育児休業の条件
次に、育児休業の条件について、法律や就業規則の定め、手続きを説明いたします。
法律上の定め
・産前・産後休業の対象労働者
育児休業の対象となる労働者は、労働基準法に次のとおり定められています。
使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
労働基準法 第65条
使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
つまり、産前休業は「休業を請求した女性従業員」、産後休業は、請求をしたか否かに拘わらず「すべての女性従業員」が対象となります。
なお、産後休業における「出産」とは、妊娠4カ月以上の分娩をいい、「生産」だけでなく、「死産」や「流産」も含まれています。
・育児休業の対象労働者
育児休業の対象となる労働者は、育児介護休業法で次のとおり定められています。
労働者は、その養育する1歳に満たない子について、その事業主に申し出ることにより、育 児休業をすることができる。ただし、期間を定めて雇用される者については、次の各号のいずれにも該当するものに限り、当該申出をすることができる。
一 当該事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者
二 その養育する子が1歳六か月に達する日までに、その労働契約(労働契約が更新される場合にあっては、更新後のもの)が満了することが明らかでない者
育児介護休業法 第5条
つまり、1歳未満の子と同居・養育する従業員は、男女問わず(※)申し出によって休業が可能になるということです。
(※)育児休業は、対象者を「労働者」と定めており性別を指定していませんので、子を養育する労働者であれば男女を問わず対象となります。
ただし、有期契約従業員は、「入社1年以上でないこと」「(休業延長が可能となる、子が1歳6カ月に達する)休業終了後も引き続き雇用される見込みであること」が休業できる条件となります。
・パートタイマーなどの無期契約従業員における注意点
有期契約従業員は前述のとおり条件がありますが、パートタイマーや契約社員といわれる従業員の契約について、期間の定めがある者であるか否かは注意が必要です。
パートタイマーや契約社員などの有期労働契約が5年を超えて更新された場合、これらの有期契約従業員からの申し出により、期間の定めのない契約(無期労働契約)に転換されるという「無期転換ルール」が適用されます。(労働契約法第18条)
このため、パートタイマーや契約社員という名称であっても、無期契約となっていると前述の条件は適用されませんので、社員区分の名称に拘わらず、労働契約の期間の定めを確認するようにしましょう。
・有期契約であっても実質的な無期契約従業員における注意点
形式上、有期契約従業員であっても、更新手続きが交渉などがなく形式的であるなど実質的に無期契約に該当しうる場合は、実態を見て判断される可能性があります。
詳しくは次のサイトで解説されていますので、確認いただくとともに自社の有期従業員の更新状況を確認することをお勧めいたします。
【補足】日雇い労働者の除外
育児介護休業法第2条により、いわゆる日雇労働者は、育児休業の対象労働者から除外されています。
労使協定で除外できる労働者
有期か無期かに拘らず、次の労働者は労使協定によって除外できると定められています。(育児介護休業法第6条、細則8条)
<労使協定で対象外にできる労働者>
- 雇用されてから入社1年未満の者
- 申出の日から1年以内(「子が1歳6カ月」「子が2歳」まで延長する場合は、その申し出から6カ月以内)に雇用期間が終了する労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
対象の子となる範囲
育児休業の対象となる子の範囲は、育児介護休業法に次のとおり定められています。
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 育児休業 労働者が、次章に定めるところにより、その子第817条の2第1項の規定により労働者が当該労働者との間における同項に規定する特別養子縁組の成立について家庭裁判所に請求した者であって、当該労働者が現に監護するもの、児童福祉法第27条第1項第3号の規定により同法第6条の4第2号に規定する養子縁組里親である労働者に委託されている児童及びその他これらに準ずる者として厚生労働省令で定める者に、厚生労働省令で定めるところにより委託されている者を含む。第4号及び第61条第3項を養育するためにする休業をいう。(引用・抜粋)
育児介護休業法 第2条 抜粋
つまり、育児休業の対象となる子の範囲は次のとおりとなります。
□法律上の親子関係がある実子、養子
□特別養子縁組の監護期間中の子、養子縁組里親に委託されている子等
【用語解説】
・特別養子縁組
特別養子縁組は、保護者のない子どもや実親による養育が困難な子どもに温かい家庭を与えるとともに、その子どもの養育に法的安定性を与えることにより、子どもの健全な育成を図る仕組みである。なお、戸籍の記載は実親子とほぼ同様の縁組形式である。
・特別養子縁組の監護期間
特別養子縁組を成立させるには、養親となる者が養子となる者を6箇月以上の期間監護が必要となっており、この試験的な養育期間をいう。(引用・参考)
・養子縁組里親
養子縁組を結ぶことが前提です。養子縁組が成立するまでの間、里親として一緒に生活します。
就業規則の定め
就業規則は、労働基準法89条の定めにより、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」と定める場合は記載が必要な「相対的記載事項」があります。
絶対的記載事項は、「始業・終業の時刻、休日、休暇、賃金、昇給、退職等」定められており、これらは必ず就業規則の記載が必要となります。
育児休業の制度は、この絶対的記載事項のうち、「休暇」「賃金」「始業・就業の時刻」にもあたりますので、就業規則の記載が必要です。
また、前述した「労使協定で除外できる労働者」を労使協定で締結した場合など定める場合は記載が必要となる相対的記載事項として就業規則に定める必要がありますので、自社の定めをご確認ください。
厚生労働省に、育児休業の規定例が示されていますので、ご参考ください。
育児休業の申請手続き
育児休業の申請は、従業員は育児休業開始予定の1カ月前までに書面で会社に申し出し、会社は、この申し出により、育児休業の開始予定日、終了予定日等を従業員に通知する必要があります。
なお、育児休業に関する申請手続きは、会社が受理するものだけではなく、社会保険料の免除申請や育児休業給付など会社が申請する内容もあります。
社会保険料免除は、会社・従業員の双方の社会保険料か免除対象ですが、会社が申請しないと免除されませんので注意が必要です。
次に表にまとめていますので、参考にしてください。
育児休業の延長
次に、育児休業の延長について、法律・就業規則上の定め、手続きについて説明いたします。
法律・就業規則上の育児休業の延長の定め
育児休業期間は子が1歳に達するまでとなりますが、育児介護休業法第5条により、次の要件を満たす場合は、子が1歳6カ月に達するまで(さらに延長する場合は、最大、子が2歳に達するまで)延長が可能となっています。
なお、延長についても就業規則の絶対的記載事項になっていますので、ご確認ください。
<条件>
- 育児休業に係る子が1歳に達する日において、労働者本人又は配偶者が育児休業をしている場合
- 保育所に入所できない等、1歳を超えても休業が特に必要と認められる場合
※さらに延長する場合は、「1歳」を「1歳6カ月」と読み替えてください。
延長の手続き
子が1歳6カ月まで延長をする場合、および子が2歳まで延長をする場合、それぞれ2週間前までに、従業員は会社に申し出る必要があります。
なお、会社は前述の「保育所に入所できない等、1歳を超えても休業が特に必要と認められる場合」について、証明書類を求めることができると定められています。
休業が特に必要とされる具体的な内容は、厚生労働省によって次のとおり記されています。
保育所等への入所を希望しているが、入所できない場合
子の養育を行っている配偶者であって、1歳以降子を養育する予定であったものが死亡、負傷、疾病等により子を養育することが困難になった場合
(厚生労働省「育児介護休業法のあらまし」より)
男性の育児休業
次に、男性の育児休業について、国の制度や助成金について説明いたします。
男性は育児休業をとれるの?
男性は、育児休業を取得することができることは前述したとおりですが、厚生労働省の調査によると、男性の育児休業取得率は2019年で7.48%と過去最高であるものの、引き続き低い水準です。
なお、女性は産前産後休業がある関係から、育児休業は産後休業後となりますが、男性は、子供が生まれた日から育児休業の取得が可能となっています。
男性の育児に関する制度は
育児介護休業法では、両親が協力して育児休業を取得できるように、「パパ休暇」や「パパママ育休プラス」等の特例が定められています。
・パパ休暇
育児休業は、原則1回のところ、子が生まれた後、父親が8週間以内に育児休業を取得した場合、特別な事情がなくても、再度、育児休業が取得できる制度です。
・パパママ育休プラス
両親とも育児休業をするとき、次の要件を満たした場合には、育児休業の対象となる子の年齢が1歳2か月にまで延長される制度です。
【 要件】
- 配偶者が子が1歳に達するまでに育児休業を取得していること
- 本人の育児休業開始予定日が、子の1歳の誕生日以前であること
- 本人の育児休業開始予定日は、配偶者がしている育児休業の初日以降であること
これによって、延長分の給付金も受給できます。
・企業への助成金
厚生労働省では、「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」や「育児休業等支援コース」などの両立を支援するための助成金の制度を提供しています
両立支援促進の観点から、ぜひ参考にしてください。
育児休業の条件を社員に正しく説明できるようにしましょう
育児休暇の制度は内容や申請手続きが複雑ですので、人事担当者のみなさんは、制度を従業員にしっかりと説明できるように、本記事をきっかけに理解を深めていただければと思います。
また、会社の助成金などを踏まえながら、男性の育児休暇促進策を検討するなど、ワークライフバランスの推進に取り組んでいきましょう。