オワハラとは?該当する行為の事例と防止に向けた対策を解説
昨今、採用活動をめぐる問題としてよく話題になるのが、「オワハラ」(就活終われハラスメント)です。現代ではハラスメント防止への意識が高まりつつありますが、普段の業務だけでなく、選考時や内定者フォロー時にも注意が必要です。
しかし、実際にどのような行為や言動がオワハラに該当するのか、よく分かっていない採用担当者の方も多いでしょう。そこで今回の記事では、オワハラの具体例や、企業側に発生するリスクを解説します。オワハラを防止するためにできる対策や、質の高い面接をするために意識すべきポイントもあわせて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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オワハラとは
オワハラ(就活終われハラスメント)とは、「終わらせる」を意味する「オワラセ」と、「ハラスメント」を組み合わせた造語です。内々定を出した学生に対して圧力をかける行為であり、過剰な例が世間で取り沙汰されることもあります。
詳しくは後述しますが、例えば「他の企業の選考に参加しないでほしい」「すでに当社から内々定をもらっているのだから、他社の選考は辞退してほしい」などの言葉をかけるのが、オワハラとみなされる可能性がある例です。
就職活動は学生にとって重要なイベントであり、本来であれば多くの選択肢から就職先を自由に選ぶ権利があるはずです。上記のような行為は、学生に精神的なプレッシャーを与え、その後のキャリア形成にも悪影響を及ぼすとされています。
オワハラの事例・具体例
内閣府の「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査」では、2022年度で約1割の学生がオワハラを実際に経験したと回答しました。具体的には以下のような事例があります。
- 内定を出す代わりに就活を終わるよう強要する
- 内々定の時点で内定承諾書の提出を求める
- 内定辞退した場合のペナルティを匂わせる
- イベント・研修などで過度に時間を奪う
- 内定辞退を希望する人を過度に引き留める
資料をもとに、以下では、それぞれの内容を詳しく紹介します。
内定を出す代わりに就活を終わるよう強要する
まずは、内定を出す代わりに就活を終わるよう強要するケースです。「他の企業の選考を辞退してほしい」と直接的に言及するだけでなく、「他の選考に参加すると評価が下がるかもしれない」など間接的に就職活動の中止を促す発言も、オワハラとみなされる可能性があります。なかには面接の場で、他社に辞退の電話をするよう要求するケースもあるようです。
「早く内定を出したい」という学生の心理につけこみ、プレッシャーを与えているのが、オワハラに該当する主な根拠です。
内々定の時点で内定承諾書の提出を求める
内々定の時点で内定承諾書の提出を求めるのも、オワハラとみなされる可能性があります。具体的には「内定承諾書を○月○日までに提出してほしい」「早く承諾書を提出しないと内定を他の人に回す」といった発言などです。
学生が他の企業からの内定を待つ機会を奪い、就職活動を早期に終了させるためにプレッシャーを与えているため、オワハラに該当する可能性があります。
内定辞退した場合のペナルティを匂わせる
内定辞退した場合のペナルティを匂わせるのも、オワハラにあたる可能性があります。「内定を辞退すると、損害賠償を請求するかもしれない」「内定辞退する場合に研修費用を返還してほしい」などの発言です。
企業や組織が権力の立場を利用して、内定辞退を考えている人に対して経済不利益を暗に示すのは、ハラスメントとみなされかねない行為です。研修費用などを引き合いに出して無理やり引き留めようとするのは、オワハラの根拠となります。
イベント・研修などで過度に時間を奪う
イベント・研修などで過度に時間を奪うのも、オワハラに該当する可能性があります。具体的には、懇親会などで頻繁に時間を奪ったり、研修やインターンシップを過度に行ったりする行為です。
もちろん適度であれば、研修の実施自体がただちに問題になるわけではありません。ただしあまりにも頻繁にイベント・研修を実施して学生を縛り付けてしまうと、「本来自由であるべき就職活動」を阻害するため、オワハラとみなされる可能性があります。
内定辞退を希望する人を過度に引き留める
費用などのペナルティを匂わせなかったとしても、内定辞退を希望する人に対して引き留めを過度に行うと、オワハラとみなされる場合があります。例えば、内定辞退を希望しているのにもかかわらず、日を改めて何度も話し合いを行うような行為です。
内定辞退の人を過度に引き留める行為は、学生の時間を奪い、就職活動を阻害することにもつながります。期待を込めて一度引き留めを行う程度であれば基本的に問題にはなりませんが、「学生の時間を多く奪っている」のであれば、オワハラの根拠になるかもしれません。
オワハラを行った場合の企業側のリスク
オワハラは学生にとって大きな負担となるうえ、企業側にも以下のようなリスクを招きます。
- 違法行為となり損害賠償につながる可能性がある
- 企業イメージが低下する
- 内定辞退につながる
いずれも企業にとっては重大なリスクであるため、十分に注意しましょう。それぞれのリスクを詳しく解説します。
違法行為となり損害賠償につながる可能性がある
オワハラを行った場合、違法行為となり損害賠償につながる可能性があります。現在の日本では、オワハラ自体を罰するような法律はありません。ただしハラスメントの内容によっては、脅迫罪や強要罪に該当するリスクがあります。
脅迫罪は、刑法222条によって規定されており、2年以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性があります。強要罪は、刑法223条で規定されているもので、刑罰は3年以下の懲役です。
明らかな脅迫・強要に該当しない場合であっても、学生が精神的苦痛を訴えた場合、損害賠償につながる可能性もあります。いずれにせよ企業にとっては重大なリスクなので、オワハラが発生しないよう、組織の管理を徹底しなければなりません。
企業イメージが低下する
前の項目とも関連しますが、オワハラの発生によって、企業イメージが低下するリスクもあります。例えば脅迫罪や強要罪などが報道で取り上げられることがあれば、世間的に「オワハラをする企業」の評価が定着するため、イメージの低下は免れないでしょう。
そして企業として最も注意したいのが、オワハラの事実が口頭やインターネットで広がることです。昨今のSNSは拡散力が高く、話題性のあるものはすぐに世間に知れ渡ってしまいます。この場合、企業のイメージが大幅に低下し、採用活動だけでなく事業にも影響を与えかねないため注意しましょう。
内定辞退につながる
内定辞退を防ごうとすることそのものは悪いことではありませんが、度を過えてオワハラをしてしまった結果、内定辞退につながる可能性もあります。学生の多くは企業に就職して働くことに不安を抱えており、なるべく選択を間違えないように注意する場合がほとんどです。
内定辞退を防ぎたいあまりにオワハラにつながってしまうと、学生が「入社してからも別のハラスメントが発生するのではないか」と不安を抱く可能性があります。自分がオワハラを受けなかったとしても、ニュースやSNSの拡散などでイメージが下がっているのを見て、内定辞退を決める場合もあるでしょう。
オワハラを防止するためにできる対策
オワハラを防止するためにできる対策としては、主に以下の3つがあります。
- オワハラにあたる行為について周知する
- 面接官・採用担当者の対応品質を管理する
- 適切な内定者フォローの体制をつくる
それぞれの対策を詳しく解説します。
オワハラにあたる行為について周知する
まずは、オワハラにあたる行為について周知することです。具体的に、どのような行為や言動がオワハラにあたるのかを定義し、それを採用活動に関わる各担当者に周知します。文書などを作成して共有するのもよいですが、研修を実施して、当事者意識をより高めてもらうのがおすすめです。
オワハラは、採用担当者の独断によってもたらされるケースが多いとされています。結果を出したいばかりにオワハラにつながってしまう可能性もありますし、そもそもオワハラの定義がよく理解できていない場合もあるでしょう。さまざまな状況に備えて、オワハラの定義・基準を明確化しておくのは重要です。
面接官・採用担当者の対応品質を管理する
面接官・採用担当者の対応品質を管理するのも重要です。面接官や採用担当者は、マニュアルに沿って業務を進めるのが一般的ですが、ある程度の裁量が認められているケースもあります。
採用の現場は、面接官・採用担当者と学生という、ある程度閉じられた環境でのやりとりがメインです。そのため、「担当者がどのように対応しているか」を、マネージャー側が詳細に把握するのは難しいでしょう。前述の「内定を出す代わりに就活を終わるよう強要する」のようなケースを想定しつつ、面接官がどのような対応をしているのか、アンケートを実施して確認するのがおすすめです。
マニュアルがない場合は、進め方のルールなどがまとまった面接官マニュアルを導入するのもよいでしょう。面接のコツに関する詳細は、後の「オワハラをせず質の高い面接をするために意識したいポイント」で解説します。
採用担当者がどのような内定者フォローを行っているかを確認するのも重要です。選考と内定者フォローの2つの視点で、対応品質をチェックしましょう。
適切な内定者フォローの体制をつくる
オワハラで無理やり引き留めるのではなく、適切な内定者フォローを行うための体制を整備するのも重要な対策です。売り手市場で学生にとっての選択肢が多様化している昨今、内定者フォローの必要性は大きいといえます。
代表的な内定者フォローの施策は、座談会や内定者懇親会、社内イベントなどです。適切な内定者フォローができれば、オワハラで引き留めなくても、内定者辞退数を減らせます。定期的な面談や研修なども、内定者フォローの一環です。
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オワハラをせず質の高い面接をするために意識したいポイント
オワハラは内定後だけでなく、面接においても注意が必要です。オワハラをせず質の高い面接をするためには、以下のポイントを意識するとよいでしょう。
- 面接官マニュアルを整備する
- 複数の面接官で面接を行う
- 面接官トレーニングを実施する
それぞれのポイントを詳しく解説します。
面接官マニュアルを整備する
まずは、面接官マニュアルを準備することです。面接官マニュアルとは、評価基準や対応品質に一貫性を持たせるために、面接に関するルールをまとめたものです。自社の採用基準や質問項目、NG行動などが記載されています。
面接官マニュアルを整備することで、担当者ごとのバラつきを防止できるため、特に一斉に面接を実施する新卒採用で便利です。対策として先ほど説明した、オワハラの定義も分かりやすい形で共有できます。
面接官マニュアルは、あくまで面接を構造化するために用いられるものであり、マニュアルだけに頼らない意識も重要です。加えて、定期的に振り返りの時間を設けて、マニュアルを更新する必要があります。面接官マニュアルについて詳しくは、以下の記事を参照してください。
複数の面接官で面接を行う
複数の面接官で面接を行うのも重要です。選考は閉じられた環境でのコミュニケーションになりがちで、特に一人の面接官で行ってしまうと、ブラックボックス化して状況が分からなくなります。実際にオワハラが行われていたとしても、すぐに発見するのは難しいでしょう。
複数の面接官で面接を行えば、互いに相手の面接をチェックできるため、オワハラの防止に役立ちます。一次面接から最終面接まで、なるべく複数人の面接官を用意するよう意識しましょう。
複数の面接官で面接をすると、オワハラの防止になるだけでなく、アドバイスをしながらお互いに高め合える環境も整います。結果として対応品質が向上し、学生から良い評価を得られる可能性も期待できるでしょう。
面接官トレーニングを実施する
面接官マニュアルを用意するだけでなく、面接官の惹きつけ力や見極め力を高めるため、面接官トレーニングを実施するのも重要なポイントです。面接官トレーニングでは、ロールプレイングなどを通して、面接の方法を体系的に学べます。
ロールプレイングの他にも、ワークショップやメンターシップ、専門家を呼んでの研修などさまざまな方法があります。それぞれ異なるメリットがあり、規模も多様なので、自社のニーズに合わせて選ぶとよいでしょう。
面接官トレーニングを実施すると、オワハラをしないだけでなく、効果的な面接を実施するためのノウハウが身につきます。面接官トレーニングについて詳しくは、以下の記事を参照してください。
まとめ
オワハラは、脅迫罪や強要罪に該当する可能性があり、損害賠償につながるケースもあります。昨今ではSNSによって情報が拡散されやすく、オワハラの事実が広まってしまうと、企業イメージに大きな傷がついてしまうでしょう。
オワハラを防止するためには、オワハラの定義を明確化しつつそれを周知し、関係者に意識を高めてもらう必要があります。面接官マニュアルや、面接官トレーニングの導入を検討するのもよいでしょう。
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