新卒の内定辞退の主な理由と防止する7つの対策・注意点
会社説明会から書類選考、数回の試験・面接というように多くの時間とコストをかけて内定を出した学生が内定を辞退するのは、企業にとって大きな損失であり出来るだけ避けたいものです。
内定辞退が多い場合には、「さらに追加で採用活動を行う」「中途採用者を増やす」といった採用計画の見直しが必要となることもあります。では、内定を通知した学生からの辞退を防ぐためには、どのような点に気をつければよいのでしょうか。本記事では新卒採用の内定辞退の現状や主な理由・タイミングについて解説したうえで、内定辞退を防ぐ対策を紹介します。
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目次
新卒採用活動における内定辞退率とは
人事・採用担当者にとって、内定辞退は頭を悩ませる事柄の1つです。新卒の採用活動を計画通りに進めるためにも、できるだけ内定辞退率は下げたいものです。まずは内定辞退の現状について、詳しく見ていきましょう。
内定辞退と内定辞退率
「内定辞退」とはその名の通り、内定者が入社を辞退することです。複数企業から内定をもらって「他社への入社を決めた場合」や、選考の過程で「自身の希望とのギャップを感じた場合」に内定を辞退するケースが多いです。
「内定辞退率」は、就職内定を取得した学生の人数に対する「内定を辞退した人数の割合」を指し新卒採用において、「内定辞退率」は、「内定を通知した学生」のうち「内定を辞退した人数」の割合を指します。
新卒採用における内定辞退率
リクルート就職みらい研究所「就職プロセス調査(2025年卒)」(2024年7月1日)によると、2025年卒の新卒採用において、2024年6月12日時点での就職内定辞退率は61.4%でした。つまり、調査対象の学生のうち「およそ3人に2人弱」が内定を辞退しているという計算です。
また近年の売り手市場を反映してか、この数字は前々年から増加傾向にあることが見てとれます。
出典:リクルート 就職みらい研究所調べ「就職プロセス調査(2025年卒)」(2024年7月発行)
学生が内定辞退をする背景
リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)」によると、2025年卒の大学生・大学院生を対象とする求人倍率は1.75倍でした。コロナ禍の時期には1.50倍ほどに落ち込みましたが、経済活動の再開もあり3年連続の改善となっています。
このような売り手市場を背景に、優秀な学生には複数の企業から就職の「内定」が出されます。そこのような売り手市場を背景に、自社が獲得したいと考える学生には他の企業からも内定が通知されることが当たり前という状況です。その結果、学生は比較検討したうえで実際に入社する企業を選び、他の企業を辞退するということになります。
出典:リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)」(2024年4月発行)
新卒採用で内定辞退が起こる理由
自社への入社を希望して応募してくれた学生が、内定辞退をするのにはどのような理由が考えられるのでしょうか。ここでは主な理由を6つ紹介します。
他社の方が志望順位が高いため
就職活動を行う学生は、志望する企業から採用されなかった場合のリスクヘッジとして「滑り止め」を考えます。そこで、本命でない企業、つまり志望度が高くない複数の企業へ応募をするわけです。
学生にとって自社の志望順位が高くなければ、他の企業から内定が出た段階で内定辞退の申し出があります。
前掲の「就職プロセス調査(2025年卒)」によると、2024年7月1日時点の調査では対象の学生(大学院生除く)のうち2社以上の企業から内定・内々定を受けた人の割合は64.9%で、1人あたり1.28社の内定辞退が発生しているということでした。
出典:リクルート 就職みらい研究所調べ「就職プロセス調査(2025年卒)」(2024年7月発行)
希望している条件を満たしていないため
学生は、待遇や社風、仕事の内容などさまざまな条件を比較して、多くの企業のなかから応募・入社する企業を選びます。
そこで「希望条件を満たしていない」あるいは「他社と比較して決定力に欠けている」という状況であれば内定辞退につながりやすいでしょう。
人事ZINE編集部(株式会社i-plug)が調査・作成した「どうなる?25卒・26卒新卒採用 市場動向調査レポート(春版)」において、「どのような企業に魅力を感じますか?」という質問に対して、学生からの回答は以下の通りでした。
出典:株式会社i-plug 【2025年卒対象】就職活動状況に関するアンケート(有効回答数:1,031件)
- 社内の雰囲気が良い
- 給与・待遇が良い
- 完全週休二日制
- 成長できる環境がある
- 希望勤務地で働くことができる
こういった学生の声を踏まえて、企業側は訴求方法を調整したり、社内環境を整備したりすることが大切です。
企業に対し当初持っていたイメージと合わなかったため
学生の企業に対する理解度は、会社訪問や面接試験などで深まっていきます。その過程で、「企業のイメージ」が変わっていくこともあります。
思い描いていたイメージとのギャップは「入社意欲低下」の原因となり、内定を出しても辞退される可能性が高まります。
内定から入社までの期間が長かったため
内定から入社までの期間が長い場合、「本当にこの企業でいいのか?」「ほかに自分に合った企業があるのでは?」といった思考に陥るケースがあります。
私自身もそうでしたが、内定者は明確な理由がなくても、上記のようなことで悩んでしまいます。そのため、企業は定期的に内定者とコミュニケーションをとることが重要です。
内定者を不安にさせないためにも「企業で働く自分」「企業での働き方」を共有し、内定辞退を避けるよう対策しなければなりません。
面接官の印象が悪かったため
企業での採用活動において、面接官や人事担当者は会社の顔となります。面接官や人事担当者の印象が悪いと、それが原因で内定辞退につながってしまう場合も多いです。
会社訪問の際にも気をつけておかなければなりません。選考時は丁寧に対応していた場合でも、会社訪問の際に印象が悪いと内定者は不安を感じてしまいます。
また、インターネット上で面接官の悪い評判を見て悪い印象を抱く場合もあります。そのため、インターネット上の評判も定期的にチェックしておきましょう。
内定通知・承諾後の対応が悪いため
内定通知・承諾後のフォローが全くない、もしくは不足している場合、長期間連絡を取らないことで不安を抱き、結果として内定辞退につながる場合もあります。
売り手市場である以上、優秀な学生の獲得をめぐっては、他の企業との競合になります。内定を承諾してもらえたからといって過度に安堵せず、その後も入社まで丁寧にフォローする必要があります。
配属部署にも協力を仰いでコミュニケーションを取ってもらうなど、入社初日までの不安を軽減することに努めましょう。
新卒採用で内定辞退が起きるタイミング
学生が内定辞退を申し出るタイミングは、いつが考えられるのでしょうか。内定辞退が起きるタイミングは以下の図のようになります。
ここでは内定辞退が起きる「タイミング」について、詳しく見ていきましょう。
志望順位の高い企業から内定を取得した時
自社の志望順位が低い場合には、志望順位の高い企業から「内定を取得したタイミング」で辞退の判断をされます。いわゆる「受験の滑り止め」に似たもので、複数の企業へ応募しながら「優先順位」を設定しているために起こる内定辞退です。
入社承諾書や誓約書の締め切り日が迫った時
内定通知を行う際には、入社承諾書や誓約書を一緒に送って提出を求めるのが一般的です。これらの書類には「提出期限」を設けますが、自社が応募学生にとって本命の企業でない場合、この期限が迫ったタイミングで内定を辞退するケースがあります。ギリギリまで悩んだり、他社の結果を待ったりすることで、このタイミングとなることがあります。
入社に対して不安を感じた時
1社から内定を貰っても、「この企業でいいのかな?」と常に不安を感じている学生は多いです。秋以降も採用活動を続けている企業もあるため、不安を感じた学生は、他社への就職活動を再開する可能性が高くなります。
他社への就職活動が上手くいきそうな場合は、内定辞退する学生も多いです。そのため企業は、内定通知を出しても安心せずに、しっかりと学生をフォローしなければなりません。
新卒採用で内定辞退を防ぐための7つの対処法
内定辞退を防いで内定辞退率を下げるには、どのような対策を行うべきなのでしょうか。対策を行うタイミングは以下の図のようになります。
具体的なポイントを7つ挙げながら、対処法を解説していきます。
①学生のニーズを理解する
内定辞退を防ぐためには、内定者が求めるニーズを的確に把握し、それに応じてコミュニケーションの方法や採用・フォロー施策を調整することが重要です。
内定者からの相談や内定辞退の申し出があったら、その理由をヒアリングしてみましょう。他社を選ぶ理由を把握できれば、相手の希望や本音が分かり、自社の条件を改善するヒントになるかもしれません。
②会社側も評価されている意識を徹底する
アンケートの結果からもわかるように、多くの学生は「社内の雰囲気が良い企業」に魅力を感じています。仮に社内の雰囲気が「他社よりも良くない」と感じさせてしまうと、内定辞退につながりかねません。
面接や会社訪問の際には、「会社側も評価されている」という意識を徹底し、社員全員が自然体で歓迎している雰囲気を伝えることが大切です。特に面接はじっくり会話する場で、自社の魅力をアピールする絶好の機会ですので、ポジティブな印象を持ってもらえるよう取り組みましょう。
③社内見学を行う
会社の雰囲気や職場環境、仕事への取り組み方は多くの学生が気にしているポイントですが、社内見学を実施することで自社の具体的なイメージを持ってもらいやすくなります。
社内見学の際に、現場社員は忙しくても挨拶をするよう周知しましょう。挨拶を怠ると、実際の雰囲気より職場環境が悪く見えてしまいます。
そのためには、事前に職場見学があることを共有するほか、職場見学に来た学生への応対ガイダンスを用意するのも手です。
④自社の姿をオープンに伝える
採用活動において、自社の良い面だけでなく、悪い面も含めて情報提供することが重要です。これは「RJP理論」(Realistic Job Previewの頭文字)とも呼ばれており、1つの確立した考え方になっています。
RJPに沿って自社の課題や実情を正直に伝えることで、学生の認識のギャップを減らし、内定辞退を抑える効果が期待できます。
⑤懇親会を設ける
内定者同士や社員との交流の場を設けると、入社までの不安を解消し、内定辞退のリスクを抑えられる可能性があります。
懇親会を通じて内定者同士が親睦を深めると、仲間意識の醸成や安心感につながるでしょう。また先輩社員や経営層とも触れる機会があると、企業文化や職場の雰囲気を理解でき、入社後のイメージを持ちやすくなります。
内定辞退を防ぐには、このような対人イベントを活用して内定者のエンゲージメントを高めることが重要です。
⑥スムーズなコミュニケーションを心がける
スピーディかつ効果的なコミュニケーションを意識することも重要です。
選考が長引いたり、選考結果の通知が遅れたりすると、先に他社に気持ちが傾いてしまう可能性があり、結果として自社の選考の辞退・内定辞退を招くリスクがあります。選考スケジュールや選考結果はなるべく早期に通知しましょう。コミュニケーションが丁寧でスピーディだと相手に企業側の本気度を感じてもらいやすくなります。
選考途中では他社企業の選考状況を確認することも有効です。それに応じて自社の選考スケジュールを調整したり、フォローの方法を変えたりといった対策も検討します。
⑦丁寧な内定者フォローを行う
内定辞退を防ぐには内定者に対してこまめなフォローを行うことも欠かせません。定期的にメールや連絡を取り、内定者の不安をケアできるようサポートしましょう。
特にスカウト型採用サービスを経由した内定者の場合は、「選考の初めは企業を認知していなかった」「当初の志望度が低かった」というケースも多くあります。このような場合は内定後もフォローが欠かせないでしょう。
出典:株式会社i-plugが調査・作成した「どうなる?25卒・26卒新卒採用 市場動向調査レポート(春版)」 P.29
内定辞退の防止に取り組んでいる企業事例
事例1:株式会社ニトリホールディングス
株式会社ニトリホールディングスでは、2019年より内定者フォローの一環として「エンプロイー・ジャーニーマップ」を導入しています。
エンプロイー・ジャーニーマップを作成する目的は、入社後達成したい目標やビジョンに対してどのような業務を通じて関わっていくか、内定者に可視化してもらうことにあります。
この取り組みによって、社員の自立性やキャリア構築を支援する社風を伝えるとともに、内定者の入社への意欲を高めることに成功しています。
事例2:株式会社パソナグループ
株式会社パソナグループでは、全ての内定者に対しe-ラーニングによるプログラミング研修を行っています。e-ラーニングのため、内定者それぞれが好きなタイミングで取り組める点が特徴です。
エンジニア職だけでなく、総合職や営業職にも必要最低限のプログラミングスキルを学んでもらうことで、入社後スムーズに業務が行えることが期待できます。
また、内定承諾後のモチベーション維持にも役立つ取り組みです。
事例3:マルホ株式会社
マルホ株式会社では、内定者専用の情報発信サイトを開設するなど、手厚い内定者フォローを行っています。サイトでは、業務や入社後の生活に関するさまざまな情報が公開されています。
また、内定者の承認欲求を満たすための取り組みとして、内々定の時期に選考結果の個別フィードバックを実施しています。個々の強みや印象を伝えることで入社を迷っている学生の背中を押し、内定辞退の防止につなげています。
内定者フォローの際は逆効果に注意
内定辞退を防止するための対策は、適切に行うことが大切です。無理に「引き止める」のではなく、内定者自身の入社への意欲が増すよう「フォローする」姿勢で取り組みましょう。
過度な連絡や行き過ぎた説得などの「引き止めすぎ」は逆効果です。内定辞退を加速させるだけでなく、内定者に対するハラスメントとなる可能性もあるため、十分注意する必要があります。
まとめ
本記事では新卒採用における内定辞退の実態やその理由、また対処法などについて紹介しました。近年は売り手市場の加速もあり、内定辞退率は60%ほどで、1人の就活生が平均1.28社の内定を辞退しているという状況です。今後も人手不足による売り手市場の状況が続けば、企業側にとっては内定辞退が増え、それまでにかけたコストが埋没してしまいかねません。
特に、大企業よりも知名度の劣る中小・中堅企業は母集団形成や選考に意識が向きやすくなりますが、着実に入社やその後の活躍につなげるには内定者フォローにも計画的に取り組む必要があります。内定辞退は双方の認識のズレやマッチングのミスによって起こることが少なくありません。そこで、マッチングの精度が高いスカウト型の採用を活用するのも選択肢の1つです。
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