OJTとは?OJTの目的と効果、研修の進め方や具体的な手法をわかりやすく解説
「OJT」とは、多くの企業で採用されている、効率的に社員を育成できる研修方法です。一方で「導入したけど上手く機能していない」というケースも多いのではないでしょうか。
OJTで社員を育成するには、その効果はもちろんのこと、具体的な進め方や施策のポイントについても理解する必要があります。
この記事では、OJTの概要や目的、進め方、メリット・デメリットや効果的に実施するポイントなどを解説します。OJTの効果を引き出し、即戦力の人材を効率的に育成したい担当者の方はぜひ参考にしてください。
OJTとは?
OJTとは、「On the Job Training」の略で、職場で実際の業務を通して研修を行う企業内教育手法のことです。また、現任訓練と呼ばれることもあります。
厚生労働省がまとめた「人材育成の現状と課題」によると、OJTを重視する、またはそれに近いと回答した企業は73.5%となっており、多くの企業で社員の育成にOJTを活用していることがわかりました。
OJTを実施する目的
OJTを実施する主な目的は以下の4つです。
- 即戦力の人材育成
- タレント開発
- 個々の成長や戦略的な人事
- 採用力強化
一番の目的は、社員に職務の遂行能力を早期に身につけてもらうことです。実際の業務に沿って指導やフィードバックを行い、即戦力となる社員を効率的に育成できます。
また、トレーナーとの質の高いコミュニケーションによって職場への順応や不安の解消を促進し、さらには高いモチベーションで働ける環境作りにもつながる方法です。
OJTは個々の社員の特性に合わせて柔軟な進行ができるため、社員のスキルや経験を有効活用するタレントマネジメントにも向いています。社員の資質やスキルに合わせて「活躍できる人材を長期目線で育成する」という人事戦略も可能です。
さらにOJTが自社に定着すれば、迅速なスキルアップが可能な職場環境をアピールでき、採用力アップにもつながります。
OJTの目標設定に関する情報はこちらをご覧ください。
OJTとOFF-JTの違い
「OFF-JT」とは、OJTと合わせて実施される社員研修の手法です。
OJTは実際に業務を行いながら学んでいくアウトプット型の研修ですが、OFF-JTは、テキストやマニュアルなどを使用するインプット型の研修です。
OJTとOFF-JTの違いは、以下表のとおりです。
OJT | OFF-JT |
---|---|
実際の業務を行いながら研修する | 通常の職場や業務から離れて研修する(集合研修/座学研修) |
業務を行う上で必要な知識やスキルを身につける | ビジネスに必要となる知識やスキルを体系的に、より詳しく学ぶ |
トレーナーは上司や先輩など自社の社員 | 外部の講師に依頼する場合もある |
OJTを実施する前に、OFF-JTを実施して必要な知識を事前にインプットするなど、OJTとOFF-JTを組み合わせて研修を行うと、より高い効果が得られます。
OJTに向いている業務と向いていない業務
OJTには向いている業務と、向いていない業務があるので、導入する際には注意が必要です。
OJTに向いている業務は、ある程度業務の内容が決まっていて、イレギュラーな対応が少ないものです。一方、プロジェクトごとに仕事の進め方が変わったり、その場の状況で対応を変えたりしなければならない業務には、あまり向いていません。
OJTの進め方
OJTによる研修は、上司や先輩社員が教育係(トレーナー)となって、実際の業務を通じ、教えられる側(トレーニー)に実践的な知識やスキルが身につくように訓練が行われます。
一般的には、仕事の全体像を理解させることを目的として、
- Show(やってみせる)
- Tell(説明する)
- Do(やらせてみる)
- Check(評価・追加指導する)
の「4段階職業指導法」というステップで実施されます。
ステップ1|Show(やってみせる)
まず、トレーナーが仕事をやって見せて、仕事の全体像を理解してもらいます。言葉の説明のみで終わらせることも多いですが、実際にやって見せることで具体的なイメージを持ってもらうことが大切です。
ステップ2|Tell(説明する)
次に、仕事の意味や背景も含めて具体的な業務の内容を説明しましょう。質問を受けるようにすることで、OJTの効果も上がります。この場合に重要なことは、キーポイントを強調して説明することと、覚えきれないほど一度に教えすぎないことです。
ステップ3|Do(やらせてみる)
そして、トレーニーに実際に業務を行ってもらいます。さらに、説明しながら業務をしてもらうことで、より理解度が深まるはずです。
ステップ4|Check(評価・追加指導する)
最後に、ステップ3「Do(やらせてみる)」で上手くできなかったことや、ステップ2「Tell(説明する)」では、まだ教えていない細かいことなどの説明を加えます。また、トレーニーの評価も行って、その評価にもとづいて次の訓練計画を立てましょう。
OJTを実施するメリット
OJTは、教育する側にとっても、教えられる社員側(トレーニー)にとってもメリットがあります。ここでは3つのメリットについて詳しく解説します。
社員の特性に合わせた教育ができる
通常の全体研修などは決められた内容・スケジュールで進むため、社員個々の特性に合わせた指導には向きません。価値観が多様化する近年においてはなおさらです。
OJTはトレーナーがマンツーマンで指導するため、社員の理解度や進捗、特性などを見ながら進められます。時には丁寧に指導したり、逆に予定より早く進行したりと、指導内容やスピードの調整が可能です。
また、個別指導によりコミュニケーションも活発になり、社員の特性を理解しやすいというメリットもあります。
なお、価値観の多様化に関連して、近年の採用・人事活動では「Z世代」(およそ1996年~2010年に生まれた層)のような比較的新しい価値観を持った層にも響くよう訴求をし、育成していく必要があります。Z世代について詳しく知りたい方は以下ページをご覧ください。
実践的なスキルや知識が早期に身につく
OJTは実際の業務に沿って指導が行われるため、社員は、座学や通常の研修よりも早く、実践的なスキルや知識を身につけられます。
通常の研修では、学んだ内容と実際の業務とズレが生じ、いざ仕事に取り組む際に上手く対応できない可能性があります。OJTではそういったズレが起きにくいため、職場でのストレスも少なくなるでしょう。
研修資料の具体的な作り方はこちらをご覧ください。
教える側のスキルアップにもなる
OJTには、トレーナー自身のスキル向上というメリットもあります。
指導を通して、トレーナーは業務への理解を深め、新たな気付きを得ます。それらが自身の成長の糧となるのです。また、社員の特性を考慮しながらどのような指導が理解しやすいかを考える経験は、マネジメントスキルの向上につながります。さらには、必然的に業務量が増えるため、効率的な時間の使い方を考えるきっかけにもなります。
OJTを実施するデメリットと注意点
OJTを導入すると、上記のように多くのメリットがあります。
ただし、デメリットや課題もあるため、事前に理解しておかなければ、実際にOJTを導入しても期待するような効果が得られない可能性も。
そこで次に、OJTがうまく行かないケースとその解決方法について解説していきます。
OJTがうまく行かない企業では、以下のケースが当てはまります。それぞれの解決法について解説するので、参考にしてください。
1.教える社員のスキルによって、効果にバラツキ
OJTは教える社員によって、教育の効果にバラツキが出ることがあります。そのため、OJTを実施する前には、トレーナーとなる社員の教育を行わなければなりません。
特に、初めてOJTのトレーナーをする社員には、OJTの目的や必要性、効果、進め方などについて、しっかりと理解してもらうことが大切です。
2.体系的な教育が難しい
OJTは業務を通じた研修であるため、知識や能力を幅広く学ぶことはできません。
中長期的視点で社員を育成するためには、OJTとOFF-JTを組み合わせて体系的な教育を行うことが重要です。
3.教える社員の時間的、精神的負荷が大きい
OJTは外部講師を招くことが可能なOFF-JTよりコストが抑えられるといったメリットがある反面、教える社員には負担がかかります。
教える側の社員は、通常の業務を行いながらOJTの時間を作らなければなりません。また、業務を習得するまでの時間は個人差があるため、個人のペースに合わせて進める必要があり、教える側の業務が滞ってしまう可能性も。
教える側の社員がOJTと実務を両立できるように、サポートする体制を整えておきましょう。
OJTを効果的に実施するポイント
OJTのメリットを生かして効果的に実施するには、いくつかのポイントがあります。ここでは4つのポイントについて解説します。
OJTにおける課題と対策法についてはこちらをご覧ください。
OJTの目的と目標を明確にする
OJTを始める前に、「何のためにOJTを行うのか」という目的や、「どのような人材を育てたいのか」という目標を明確にする必要があります。そうしなければ、指導が属人的になってしまい、会社が求めるスキルレベルまで育成するのが難しくなります。
目的や目標に対してトレーナー・社員の双方が同じ認識を持っていれば、前提条件や方向性を共有しながらOJTを進められます。指導を受ける社員も、具体的なゴールに向かって自律的に考えて取り組めるでしょう。
OJTの振り返りを実施する
OJTでは指導内容の振り返りが重要です。
取り組んだ業務についての反省点や次回に生かせること、改善のアイデアなどを、トレーナーと社員で言語化していきます。またトレーナーは適切なフィードバックを行い、新入社員の気付きを促します。
こうして得られた教訓は、OJTの質を高めるだけでなく、他の業務への応用も可能です。
段階的なトレーニング計画を策定する
OJTの効果が出るまでには時間が必要ですので、段階的なトレーニング計画を策定しましょう。
まずスタートからゴールまでの全体像を示します。そして社員とトレーナーの現状を把握したうえで、指導の期間や頻度を業務内容ごとに設定し、業務を十分理解しながら進行できる計画を立てます。
業務ごとの指導内容や評価基準の明確化、計画の妥当性の確認も必要です。
OFF-JTと併用して効果的に運用する
OJTは実践的なスキルを短期間で習得するのに向いている一方、研修中の業務効率が低下する点やトレーナーによって指導の質にバラつきが出やすい点がデメリットです。
そこで、OJTとOFF-JT(職務現場から離れて行う教育訓練)の併用によってデメリットの影響を抑えましょう。例えば、OFF-JTで業務の基礎となる知識を指導し、OJTでより実践的な指導をしていくという方法があります。
【Tips】OJTに活用できる助成金制度
人材育成の大きな課題は、教育に必要となるコストや手間ではないでしょうか。
厚生労働省では労働者のキャリア形成を目的として、職業訓練などを実施する企業に、訓練の経費や訓練期間中における賃金の一部などを助成しています。
助成メニューは7類型があり、そのうち「人材開発支援助成金(特定訓練コース)」は、企業内で行うOJTと、教育訓練機関などでの座学(OFF-JT)を組み合わせた実践的な雇用型訓練に対して助成が行われます。詳しくは、厚生労働省のホームページを参考にしてください。
参考:厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金」
OJTトレーナーに求められる心構えやスキル
OJTトレーナーは、社員の将来を決めるといっても過言ではない重要なポストです。トレーナーに求められるスキルや心構えについて説明します。
新入社員のオンボーディングに関する情報はこちらの記事をご覧ください。
コーチングを意識する
コーチングとは、対話や質問を通して相手に新しい気付きを与え、目標達成に必要な行動や考え方を促すコミュニケーションです。OJTは上司や先輩が指導する形なので必ずしもコーチングと同じではありませんが、トレーナーがコーチングの意識を持つのは非常に有効です。
一方的な指導だけでなく「なぜできなかったのか?」「他にどのような選択肢があったか?」といった質問をするなどして丁寧なコミュニケーションを取り、社員が自ら問題解決に取り組むよう促します。特にOJTを振り返る際に意識すると効果的です。
ストレッチ目標を取り入れる
ストレッチ目標とは、その人がもう少し努力すれば達成できそうな難易度の目標のことです。簡単に達成できる目標では成長が見込めず、一方で高すぎる目標ではモチベーションが続きません。トレーナーが社員のスキルを見極め、適切なストレッチ目標を設定できれば、OJTを通して一層成長できるでしょう。
仕事の楽しみややりがいを共有する
仕事の楽しみややりがいを社員に発見してもらうのも、トレーナーの大切な役割です。
特に新卒採用において多くの社員は、業務に慣れず不安を感じながらトレーニングをしています。OJTの効果が思うように出ず、落ち込むこともあるでしょう。
そのような時は、トレーナーが積極的に仕事の楽しさややりがいを伝えるとともに、長所や成果を褒めることが効果的です。それがトレーニングへのモチベーションにつながり、成長のスピードも早まります。
まとめ
OJTの概要やメリット、具体的な取り組みのポイントについてご説明しました。
企業が社員教育にOJTを導入するメリットはさまざまですが、なかでも注目すべきは、各人の特性に合わせて効果的な育成が行える点です。OJTで社員たちの個性を伸ばし、優秀な戦力を育成しましょう。
そして新卒学生の傾向を今から知っておけば、入社後のOJTの育成効果をより高められます。こちらの資料でZ世代の学生の特徴を分かりやすく解説していますので、ぜひご覧ください。